視界にかけるフィルター
視覚的な効果なのか、それとも実際に影が消失しているのか。それを確かめる為にも、シンは自身のアサシンのクラスが扱う影のスキルを発動する。
しかし確かに魔力は消費を消費する感覚はあるものの、彼の周りや近くの物、クリストフの影などが現れる事はなく、当然それらが動いている様子も感覚もなかった。
「スキルが・・・発動しない!?いや、魔力は使ってる。発動はしているが効果が表れないだけなのか?」
色鮮やかな視界の中で、不可思議な現象に戸惑うシンに考える余雄を与えまいと、クリストフが音の振動が入ったシャボン玉をシンの方へと放つ。だが彼の放ったシャボン玉は、これまでの透明で視認しずらいものとは違い、極彩色をした何とも強烈なインパクトがあるモノへと変貌していたのだ。
「何だあの色は!?例のシャボン玉なのか?」
一見してそれが今までクリストフが扱ってきたシャボン玉と同じであると判断する事は出来なかった。未知のモノに危険を感じたシンは、後退しつつ投擲武器を用いてそれを割ってみた。
外見とは打って変わり、中身はこれまでと変わらなかった。かと言って、決して油断出来るものではない。身体に埋め込まれた、振動に連動する気泡こそ取り除いてはいる。
故に一撃で致命傷になるような事はないだろうが、その振動がこれまでと全く同じだとも限らない。迫るシャボン玉には、近くで触れず割らずを徹底すべきだろう。
幸い、シャボン玉の軌道や移動速度に変化は見られない。
「どうですか?俺の見ている景色は。今聴いてる音楽で少し脚色はされてますが」
「脚色どころのじゃないだろう。目が疲れる・・・」
「ふふ、普段自分が見ているものとは違った景色を見ていると、慣れていない分、目が疲れるんですよ。勿論それも狙いですがね」
濃い色の多い景色は、シンの目に大きな負担を与えていた。妙に目がゴロゴロとする他、視点を動かす際の速度が遅く感じるようになって来ていた。それに少し前に見ていた景色が、視点を動かした際に残像として残ることで、濃い色同士の主張が激しくなりクリストフの姿を見失うこともあった。
「どうすればいい!?このままでは・・・!?」
何とかして視界の問題を解決しなければ、疲労が溜まりいずれ討ち取られてしまう。影の無い景色の中、シンはとある仮説を思いついた。
自分の体内にある影、自分の目では確認出来ない影ならば、クリストフの言う共感覚の影響を受けないのではないか。
試しにシンは、体内の影を使い自身の視界を覆ってみた。すると、彼の視界は黒いサングラスを掛けたようにフィルターが掛かったような光景へと変化した。
「ッ!?」
これならば目の疲労を抑えられる。直ぐにシンは体内の影を目に集め、暗いフィルターを調整しながら、最適な濃度を探り始める。
幾つものシャボン玉を撃ちだし、シンの疲労を狙い仕留める予定だったが、思いの外粘りを見せる彼にクリストフは違和感を覚えた。共感覚による強制的な感覚の共有は、とてもではないが直ぐに慣れるものなどではない。
普段との勝手の違いが、行動や思考に大きな影響を与え心身ともに疲弊していくはず。だがシンは、疲弊し続けるどころかこれまでよりもより効率的にシャボン玉を処理しながら、動きも決して鈍らない。
「何か妙だな、何かしているのか?」
注意深くシンを観察するクリストフ。彼がアルバの街の住人達のように、非戦闘タイプの人間ではないのは分かっている。故に疲労に関して遅延することは予想していた。
クリストフがシンに施した感覚の共有は、目に見える景色のみ。ならば目に何かをしているに違いない。しかしシンの周りや、彼の身体を観察しても影らしきものは見当たらない。
だが唯一、人間の外見にしては妙に暗いと感じる部分を発見する。それはシンの目の中だった。正確には白目の部分が僅かに暗くなっているように見えた。
「影・・・そうか!彼は体内の影をも操れるのか。それを利用して自らの目にフィルターを掛けているとでも・・・?しかしそれ以外に考えられない。なら・・・」
音楽により自身の身体能力や感覚、心情を変化させていたクリストフは、シンが視界に暗いフィルターを掛けているにではないかと推測すると、音楽の曲をガラリと変え、暗い曲調の音楽へと切り替えた。
 




