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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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礼拝堂の問答

「お前達はッ・・・何故ここに!?」


「ベルンハルト・バッハ、アンナ・マグダレーナの姿も見えますね。彼らがここに居るということは・・・。それに何でしょう・・・あのシルエットの様に黒い人物は・・・?」


「そんな事言ってる場合かぁ!?ベルンハルトとアンナって、それぞれ司令室と入り口で戦ってたんじゃないのか!?」


 カルロスの言う通り、彼らは司令室を飛び出して以降のそれぞれの戦場の様子を知らない。だが、この礼拝堂の状況を見るに、司令室と宮殿入り口の戦いはそれぞれ敗北してしまったであろう事が伺える。


 それとも霊体である彼らは、別の個体だとでも言うのだろうか。


「そういえば“彼らも”まだ居たんでしたね。すっかり忘れていました」


「・・・・・」


 一番最初に口を開いたのは、シルエットの様に真っ黒な人物だった。どうやら黒い人物はオイゲンらの事を知っているらしい。だが彼らにとっては、その衝撃的な容姿をした人物を目にしていたのなら、決して忘れる事は出来ないだろう。


 オイゲンらに黒い人物の記憶がなく、向こうが一方的に知っていると言うことは、何処かで彼らを見ていたか、或いは誰かと記憶や五感などを共有でもしているのだろうか。


「まだアンブロジウスさんがやって来るまで時間が掛かりそうです。ベルンハルトさん、アンナさん・・・。もう少しだけこの”世界“を楽しむとしましょうか。長年に渡り溜まった鬱憤を、彼らにぶつけてから正史を引き継いだ世界に向かうのもいいでしょう」


 黒い人物の誘いに、パイプオルガンを弾いていたベルンハルトはその手を止めて立ち上がり、オイゲンらの方を振り返る。演奏が止まり娯楽を失ったアンナも、ベルンハルトと同様に席を立って黒い人物に横に移動した。


 物騒な言葉から彼らは、屋上にいるアンブロジウスが到着するまでの暇つぶし、何か大きな恨みを晴らす吐口としてオイゲンらと戦うつもりらしい。


「どうやらやる気みたいですね・・・。こっちはオイゲン氏しかいませんが・・・どうします?真っ向勝負は、とてもではありませんがオススメしませんが」


「かといって、彼らが我々を逃がしてくれるだろうか・・・」


「どう見ても騎士隊長さんだけでは厳しそうだが・・・?それとも教団の騎士隊長様ともなれば、まだ隠している力が?」


 期待を込めたカルロスの言葉に、オイゲンは残念そうに首を横に振った。司令室で宮殿入り口の戦闘を見ていたオイゲンは、アンナやベルンハルトの戦闘方法をある程度知っている。


 一対一であればまだ可能性も見出せるだろうが、他の戦場の苦戦している様子を見ると、一人でケヴィンらを守りながら戦うのは極めて厳しいようだ。


「なるほど・・・。では時間稼ぎでもしましょうか。その間に何か情報が明るみに出たり、作戦が思いつくかもしれませんよ?」


「情報を得たところで、果たして意味があるのか?」


 絶体絶命の中で彼らの情報を引き出したところで何の意味があるのか。何を知ったところで死んでしまっては、元も子もないのは言うまでもない。だがそれが分からないケヴィンでもない。


 彼は宮殿内で集めた情報から、彼らバッハの家系の霊体達やそれを使役していると思われる犯人は、自分達を殺そうとしているのではないのではと考えていたようだ。


「どうにも引っ掛かるんですよ・・・。我々を殺すつもりなら、宮殿内に血痕が残っていないのも疑問ですし、リヒトル夫妻とその護衛が大人しくしているのも疑問でした。加えてブルース氏の特異な体質・・・。そこから来る彼しか知らない情報など、どうやら彼らによる消滅は死に直結していないのではないでしょうか?」


「どう言う事だ・・・?」


 推理を始めたケヴィンの言葉に、黒い人物が面白い反応を見せた。どうやらケヴィンの言う通り、彼らはオイゲンらを殺すつもりはないのだと言う。それどころか、”生きていてもらわなければ困る“とまで言い出したのだ。


「生きていてもらわなければ困る・・・?一体どう言う事だ?」


「えと・・・取り敢えず死なないって事で、いい感じっスか・・・?」


 オイゲンの問いに、待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに語る黒い人物。彼が言うにはオイゲンらは”生き証人“なのだと言う。そして真実を世界に広める鳩だとも言っていた。これは特にアルバの街の外からやって来た者達のことらしい。


「鳩・・・つまり我々は、アルバ出身の方々とは違い、何かを外に広める役目があると?」


「流石は名探偵と名高いオーギュスト・ケヴィンさん。理解が早くて助かります。今まで消えていった方々も、その”殆ど“は死んだと言う訳ではありません」


「殆ど・・・」


 言葉の節々に散りばめられた情報をケヴィンは聞き逃さなかった。黒い人物もそれ程意識していた訳ではなかったが、ポツリとケヴィンが溢した言葉に彼の鋭さを悟ったようだった。


「そうです。殆どです。俺の目的の妨げになる方々は、残念ながら新しい世界に連れていく事は出来ません」


「犯人を追う我々は、邪魔者ではない・・・と?」


「大した問題ではない・・・と言うのが正確なところでしょうか。そしてそれも、今となっては揺るがないモノとなって来た・・・。今更あなた方が足掻いたところで、変えようのない事実です」


 彼の言う変えようのない事実とは、ベルンハルトとアンナがこの場にいるという事と関係しているのだろうか。となると、やはり司令室と入り口に居る仲間達は、彼らによって消滅させられたと考えを固めるケヴィンだった。

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