影分身と体内探索
ツクヨが黒い人物を追い詰め始めていた頃、シンはアンナ達の猛攻を受け何とか持ち堪えていると言う状況だった。そんな中、アンナに近づく事さえ出来ない状況を打破するべく、シンはある思惑を決行へと移していた。
投擲武器にも限りが見え、攻撃手段を失いそうになっていたところ、シンは敵側の畳み掛けるような攻撃を受け床へと撃ち落とされてしまう。転がるように柱の陰に潜り込んだシンを追い詰めるように、スピーカーを手にした謎の人物達が回り込もうとする。
すると、素早い動きでシンが柱から飛び出し、今度は広場を走りだしたのだ。アンカーも使わず移動を開始したシンは、音の弾丸を受けながらも次の柱から次の柱へ移動しながらアンナの方へと向かって行く。
しかしアンナに近づけば身体の自由が奪われ痛みに倒れてしまうはず。それでも浮遊するアンナの元へと向かったシンは案の定、身体に走る痛みからか足が絡れて転んでしまう。
それを見過ごす程、謎の人物達も抜けてはいない。シンが立ち上がるよりも前に斜線上に捉えた彼らは、一斉にシンの方へスピーカーを向けると音の弾丸を浴びせた。
逃げる事が出来ず、敵の猛攻をまともに食らってしまったシンは、声も上げずにその場で消滅してしまった。ターゲットの消失を確認した謎の人物達もまた、役目を終えてその場でゆっくりと姿を消した。
宙に浮いていたアンナは周囲を見渡し、他の邪魔者がいなくなった事を確認する。丁度その頃、黒い人物の要請が入り自身の能力の一部を彼へと譲渡していた。
だが、シンは彼女らにやられてなどいなかった。彼はこの間にも自身の身体に埋め込まれた異変を探るべく、とある影のスキルを用いて解決に努めていた。
それは、自身の影を使い自らの体内へ送り込む事で、本来シンの身体を構成しているもの以外のものを探索していたのだ。これは海上レースの時の、ロッシュという海賊との戦闘で学んだ戦いから着想を得たものだった。
あの時は意識の中へ入り込む、ロッシュのパイロットという特異なクラスの仕様を真似たものだったが、今度は体内という明確な形があるもの。意識の中に比べれば探索も容易な事だった。
以前の経験もあり、体内探索はスムーズに進み、直ぐに心臓付近の血管に遺物が入り込んでいるの発見する。
「なッ・・・！？いつの間にこんなものが・・・。そうか、これが奴の音に反応して振動を起こしていたという訳か」
シンが自分自身の体内で見つけたもの。それは宮殿の屋上でミアが新たに協力を得ていた四大精霊の一人、シルフが彼女の体内で見つけたものと同じものだった。
血管はその部分だけ不自然に盛り上がっており、遠くで聞こえる謎の人物達が放つ音の弾丸で生じる影響で小さく震えていた。流れ弾がシンのいる方へ飛んで来ると、血管の盛り上がりは少し大きめな反応を見せる。
これにより音の振動に反応し、連動している事は明確だった。体内で影を作り出し、その血管に入り込んだ異物のある患部に送り込むと、いつものように身体の外の影とゲートを繋げ、異物を取り除く事に成功した。
実際のシンの身体は、撃ち落とされた柱の陰に隠れていて、そこから飛び出して行ったのは、彼が影のスキルで作り出した分身だったのだ。しかし他のクラスが用いる分身のスキルとは違い、影という元は自分自身から成るものから作り出している分身の為、それが倒されれば本体であるシンへも、影で作り出した分身体分の魔力消費が一気に訪れる。
要は、自分の体力を犠牲に作り出す“身代わり”といったものだ。
「くッ・・・！影の分身がやられたか・・・。だがこちらもこれで接近戦へ持ち込めるッ！俺にこんなモノが埋め込まれていたということは、みんなにも・・・？」
シンの側の柱の陰に、体内から気泡を取り出した際に一緒に流れ出てしまった自身の血液が溢れていた。気泡はまだ僅かにその役割を持続しており、周囲の音で僅かに振動していた。
口から溢れる血を拭い、膝を立てて立ち上がったシンは、自身の血液の中で震えている気泡を踏みつけ破ると、シンを倒したと思い込んでいるアンナの元へと走り出した。
そして今の、黒い人物の攻撃に襲われるツクヨを助けるシンへと繋がって行く。
