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World of Fantasia  作者: 神代コウ
1506/1694

獣人の刀

 教団の教えは彼の枯れ切った心に染み渡るように吸収され、嘗ての弱き心を持っていた頃のプラチドとは別人の様に変わっていた。それは洗脳などではなく、彼の中にはしっかりと以前までの記憶は残っている。


 受け入れる事でそれを戒めとし、乗り越える力を得たのだ。それは特別な力などではなく、誰もが等しく与えられた人の心の力だという。思い込みや意識の改善は、その人物の在り方を根本から変える事が出来る。


 死から遠ざけられ、心の治療と意思の修復から徐々に行い、自ら命を絶つ意思を失わせると、今度は騎士隊としての訓練で身体を鍛える事になる。身体を鍛える事は、本人の自信にも繋がった。


 死への恐怖心や惨めな自分を知っている彼は、人一倍人の悩みや相談事を受け解決へ導いては信頼を得る、部隊の中でもムードメーカーの様な人物へと成長していった。


 次第に彼は部隊に必要な存在となり、迷える味方の悩みを解決する良きクレリックとなって、大いにオイゲンの助けとなった。


「逃げてばかりの俺が、まさかこんな事をする様になるなんてな・・・。ははっ・・・」


 黒い人物により消される瞬間、彼はそんな事を口走っていた。再び目の前で今度は恩人を失ったツクヨ。だが彼の残した言葉が、ツクヨの心を一つ成長させる。


 彼の言葉を信じ、託された思いを成就させるべく、ツクヨは刀を手に立ち上がる。その手に握られた刀は、それまで見たことのない様な禍々しいオーラを纏っている。


「彼は私に託したんだ・・・。その思いを無碍にする訳にはいかない・・・」


「冷静さを取り戻したか。でもそれは俺にとっても好都合ですよ。ちゃんとした意識を持っているのなら、より苦しまずに送ってあげられるから・・・」


 アカリ達を狙っていた黒い人物だったが、プラチドの消滅をきっかけに再度標的をツクヨへと向ける。どの道黒い人物の思惑を妨げるジルは、喉を潰されてその機能を停止している。


 黒い人物には、アカリが治せるとも思っていないようだ。彼女らを後回しにし、残りの障害であるツクヨを確実に、そして苦しまずに彼のいう現実に送り届ける事に努める。


 睨み合う二人の間には、静寂が訪れる。そしてその瞬間、目にも止まらぬ抜刀術でツクヨはその禍々しい刀を振るう。正確に相手の命を刈り取る一撃を放つツクヨの狙いは、的確に黒い人物の首を狙う。


 それを上体を逸らして紙一重で避けた黒い人物は、軸足を起点に素早く回転して回し蹴りを放つ。ツクヨは刀を返してそれを受け止める。黒い人物の足は斬れる事なくツクヨの刀にその勢いを殺された。


「ん?これはッ・・・!?」


 何かに気がついたら黒い人物が、自分の足に視線を送ると、受け止めていたツクヨの刀がゆっくりと足にめり込んでいたのだ。ダメージらしいダメージはなかったが、これまでに体験したことのなかった事態に、黒い人物は初めて動揺を見せた。


「何だ・・・あの刀。何故俺の身体を・・・?」


 無言のまま次の一撃を叩き込もうと、猛攻を仕掛けるツクヨに黒い人物は何やら不穏な影を察し、刀を受け止める事を止め、回避に努める。その中でツクヨの刀の秘密を探ろうとするもの、見れば見るほどその太刀筋には触れてはならないという事だけが、ひしひしと伝わってくる。


 ツクヨ自身も刀の異様な雰囲気には気がついていたが、それが何の力なのかまでは分かっていなかった。これは布都御魂剣を初めて振るっていた頃の感覚にも似ている。自分の中に眠る何かの力を吸い上げるように、禍々しいオーラを増していく刀。


 それは捉えどころの無い黒い人物の身体に、普通の刀剣とは違った切り傷を与える事が出来るようだ。それに受け止められた際、普段のツクヨでは出せない力が引き出された。


 リナムルで獣人族の鍛治師によって、刃だけの刀が本来の形を取り戻した。その際に取り付けられた柄や鍔などには、獣人族特有の能力が込められていたようで、人の力でも獣人族並みの力が込められるように仕込んでくれていたのだ。

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