決死の行動
影の中から姿を現し周囲を確認するシンは、燃え上がる謎の人物達の姿に驚いていた。紅葉の炎を当てにしていたシンには、それが誰の仕業であるか直ぐに分かった。
力の温存を言い聞かせていた筈だが、この様子だと彼らの独断によって、今のシンが安全に影から出られたのだ。自分の意識の甘さがツバキらに危険な行動を取らせてしまった事を思い知ったシンは、これまで以上に認識を改める心構えをした。
だがここでシンの脳裏に過ったのは、攻撃を邪魔されたアンナが今度はツバキらに攻撃を仕掛けるのではないかという事だった。確かに怪我人を抱えている上に、その治療を邪魔されないように守りながら見えない攻撃を防ぐのは容易なことではない。
しかしアンナの攻撃に対して絶大な効果を持つ武器が紅葉にはある。ここはツバキの判断力と紅葉の力を信じて任せる方が得策だと判断したシンは、急ぎ計画の実行へと取り掛かる為、次の影の位置を確認して再び影と影を繋ぐ。
そして案の定、アンナは攻撃を邪魔して来たツバキらの方に狙いを定め、位置を変えた後に見えざる衝撃を閉じ込めたシャボン玉を生み出し、一斉に彼らの方へと放った。
「キィーーー!?」
「どうした?紅葉」
紅葉には迫り来る攻撃が見えていた。アンナは移動しながらシャボン玉を生み出し、こちらへと放っていたのだ。これが何の問題があるのか。単純に攻撃の範囲が広がっている為、紅葉の炎の風の範囲から外れたシャボン玉もあるということ。
要するに一度の羽ばたきではカバーし切れないという事だ。数回に分けて移動しながら角度も調整しなければならず、シンに言われていた力の温存からはかけ離れた行動となる。
シンの計画の為、やたらに行動して危険を呼び込むようなことは避けなければならない。だが、今差し迫る危険を回避しなければアカリの身に危険が及ぶのは間違いない。
アカリの身を案じた紅葉はその場で上昇して、アンナの攻撃に備える。
「おっおい、どうしたってんだよ紅葉!?」
当然、彼らの周りにも少数ながら見えざるシャボン玉が流れて来ていた。これは初めから戦場となっている宮殿入り口の広場に滞留していたシャボン玉が、紅葉の焼き払った風に乗り徐々に流れていたのだろう。
それでも紅葉は今上昇して風を起こすポイントに移動しなければアカリを守れないと思ったのだろう。浮遊するシャボン玉に触れながらも紅葉は、アンナの攻撃が来るのを迎え撃つ位置を目指す。
シャボン玉に触れたことで、割れて中身の衝撃が周囲へと広がり爆発が生じる。紅葉は衝撃を受けバランスを崩しながらも上昇する。
「何やってんだ紅葉!?・・・まさか、やべぇ攻撃が来てんのかぁ!?それであんな無茶をッ・・・」
何を語るでもなく、自らの身を危険に晒しながらも一人迎撃の構えを取ろうとする紅葉の姿に心を打たれたツバキは、残されたガジェットを使い紅葉の後を追って上昇すると、場所を確保するため紅葉を追い抜くと、宙で自身を中心とした弱めの円形の衝撃波を周囲へ放つ。
「キィーー!?」
「悪いな紅葉・・・ちぃっとばかし堪えてくれよな」
当然、衝撃波を生み出せばシャボン玉が割れる。ツバキの周りにあったシャボン玉が一斉に破裂する。それほど多くの爆発は発生しなかったが、幾つもの衝撃がツバキを襲う。
紅葉はツバキの後方にいた為、大きなダメージを負うことはなく、これでアンナの攻撃を迎え撃てる位置を確保することが出来た。それと引き換えにツバキは衝撃を一身に浴び、身につけていたガジェットを駆使してガードを試みるも、ガジェットだけではなく本体にも負傷を負うことになった。
「これで何とかなりそうかよ・・・?」
ボロボロの身体で落ちていくツバキは、紅葉に後のことを任せ笑みを浮かべたまま床へと落ちていった。彼の起こした爆発は、当然計画を進めるシンも気付いていた。
「クソッ・・・!持ち堪えてくれよ、二人とも・・・」
一度だけ彼らの方を見たシンは、自身に戦えるだけの力やスキルがあればと、自らの不甲斐なさに奥歯を噛み締めながらも、次々に影の中継地点を繋いでいく。目的となるポイントの数まであと少し。
そして邪魔なシャボン玉を退けたツバキの意思を継ぎ、紅葉が迫り来るアンナの攻撃に向けて炎の風を巻き起こす。少年の奮闘の甲斐もあり、アンナの差し向けた見えざるシャボン玉は次々に炎を纏い、衝撃を外に漏らす前に排除されていく。
紅葉の見ている範囲で彼らの身に迫る危機は去った。そして確認するようにアカリの姿を視界に収めると、ゆっくり上昇して来た道を戻り滞空する。周囲を見渡し、紅葉の為に身を粉にして尽くした功労者である、ボロボロの状態のツバキを見つけると彼の元へ向かい、その大きく成長した翼で彼を包み込むと、温かで紅い光が彼らを包み込んだ。
「馬鹿・・・能力はシンの計画の為に・・・取っておけって・・・」
「キィ・・・・・」
紅葉の起こした光はツバキの負った傷を癒す炎となり、彼の身体を包み込む。そこに物体を焼き尽くすような熱さはなく、痛みや疲労をみるみる内に癒していった。
「少し前から思ってたんだけどよ・・・。お前・・・一体何者何だ?」
「キィィィ?」
「お前にも分からないか?本当にアカリと同じなんだな」
記憶が無いのは紅葉も同じ。何故自身にこのような能力があるのか、何故アカリと一緒にいたのか。それは本人らにも分からない。




