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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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もう一つのルート

 ミアのショットガンを利用し攻撃するも、中の弾丸はシルフの得意な風属性の魔弾が込められていた事で、その軌道は彼女の思うがままに操ることが出来たおかげで難を乗り切る二人。


「それよりどうなんだシルフ?そろそろニノンらの身体に埋め込まれた気泡を取り除けるくらいには成長したか?」


「そうね、多少風属性の熟練度は上がったみたいだけど・・・。一度試してみる?」


「頼む!」


 するとシルフはミアの元を離れ、ニノンらのいるところへと向かう。その間彼女は一人でアンブロジウスを止めることになる。だがこれは窮地ではなく、更に風属性の熟練度を高める為の時間。


 先程のように無茶な攻めは避け、着実にスキルを発動できる距離から撃ち込む安全策で戦っていれば、今のミアならジリ貧にはなろうとも打ち負ける事はないだろう。


「・・・こっちの子の方が深刻ね。私はどっちでも良いんだけど、あの子が望むのは・・・」


 ニノンとレオンの様子を確認して、より早急な対処が必要な方の身体へ入り込むシルフ。ミアの元を離れたことにより、強力な魔力は発揮出来ない。だが人の体内で小さな気泡である音響玉を探し取り除くくらいなら、大した力は必要ない。


「さて、アタシの時はそれ程時間掛からなかったけど、どれだけ持ち堪えればいい?」


 アンブロジウスはミアを標的に捉え、演奏の開始と共に謎の人物達を召喚して攻撃を仕掛ける。その中で時折、例に音響玉への信号を送るような動作を見せるが、体内からそれを取り除いたミアには通用しない。


「と、一応あの攻撃は阻止させてもらおうか!」


 なるべくニノンらの方に矛先が向かわぬよう反対側に移動しながら避難するミア。その間の攻撃にも、シルフへの魔力提供をより潤滑にする為、風の魔弾を精製しながら細かくアンブロジウスの攻撃を妨害するように撃ち込んでいく。


 戦況の変化はあったものの、シルフの音響玉の排除が成功すれば屋上でのアンブロジウス戦にも漸く終わりが見えて来る事だろう。


 しかしそれは彼女ら側が勝手に思い描くものであり、この状況はアンブロジウス側、つまり犯人にとっては予定通りの展開に過ぎなかった。


 ミアがアンブロジウスの動きを制限させる攻撃を仕掛ける中、突如として彼の周辺に彼のものとは異なる何者かの気配と、視認できるくらいの靄がアンブロジウスの頭部のすぐ側に現れ始める。


「何だ、ありゃぁ・・・?」


 肉眼でも見えているものの、ミアに現在の戦法を変更するつもりはない。それに靄が現れたとはいえ、今のところ何もアンブロジウスに変化が無いことから、下手に触れて刺激しないように心掛けていた。


 どうやらその靄は、アンブロジウスと連絡をとっているようだった。その声はミア達には聞き取れないものであり、返答するアンブロジウスの声も一行が気がつく事はなかった。


「苦戦しているようですね。しかし、ここまでよくぞ耐えて下さいました。私の方も準備が整いました。これよりは思う存分“皆さん”のお力が発揮できますよ・・・」


 何者かの声を聞いたアンブロジウスはその目に赤黒い光を宿らせ、まるで今までの演奏が手を抜いていたのかと思えるほど、これまで以上に一行へ与える付与効果を増大させた。




 一方、時間は少し遡り宮殿の屋上へオイゲンら一行が到着するよりも前、司令室を後にしたシン達は、宮殿入り口でアンナを抑えてくれているツクヨらの元に、彼女の歌声と対になるジルを届ける為護衛していた。


 道中には依然として謎の人物らが徘徊しており、彼らのいく手を阻んでくる。


「んだよッ!邪魔くせぇなぁ。こんな時にまで・・・!」


「でも、ツバキや紅葉まで戦えるのは正直頼りになる。俺一人だったらこうもスムーズには行かなかったかもしれない」


「キェーーー!」

「ふふ、紅葉も嬉しそう。何だ一緒に戦えるのを喜んでいるみたい」


 殆どがアルバの街とは関係のない者達で構成されたこちらの一行は、屋上へ向かったオイゲンらに比べても重い雰囲気はなかった。それは自身に課せられた期待と責務に緊張するジルの心を僅かながらに和らげていた。


「皆さんは何だか不思議ですね」


「ん?どうして?」


 年齢の近いアカリが、戦闘を行えない者同士で彼女の話し相手になっていた。しかしアカリもまたこのメンバーには必要不可欠なヒーラー枠として成長しており、後方支援という面で言えばシン達一行の中では誰よりも皆の役に立っている。


「みんな何処かで死の恐怖に怯えていたけど、貴方達は何だか別の世界に生きてる人みたい・・・」


「そうですか?他の方々はどうか分かりませんが、少なくとも私はそうかもしれません」


「え・・・?」


 アカリは自身に記憶がない事をジルに話した。まるで生まれたてのようにこの世界の知識を失い、目覚めた時にその場にいたのがシン達だった。どこへ行くのも新鮮で、ジルの言うように別の世界にでも来たのかのように全てが彼女の知識を潤す情報として全身に染み渡って来る。


 その影響なのか、リナムルで植物学や薬の知識を身につける時も、アカリの成長度は目を見張るものがあった。普通なら書物や実物を見ただけで、すぐに即戦力として前線で戦うもの達をサポートするレベルに達するのは難しい。


 だが彼女は習いたての技術を用いて獣人達を救ってきた。その知識や経験が人間相手でも活きてきているのかもしれない。シン達のように現実世界からやって来ている者達の事はアカリにも分からなかったが、少なくともツバキとアカリはこの世界においての死に恐怖を抱いているのは確かだろう。


 しかしそれ以上に、ツバキには海以外の世界を知らない、アカリは全ての記憶がない事から、自身に持ち合わせていない知識や景色に対する好奇心が優っているのかも知れないと、アカリはジルに話した。


「そう・・・だったの。御免なさい、何も知らないで失礼な事を」


「ううん、気にしないで。何を忘れてしまったのか、私の周りにはどんな人達がいたのか。そもそも私には、私の事を心配してくれる人がいたのかな・・・?」


 彼女の抱える恐怖は死だけではないのかも知れない。そんなアカリの漏らした心の声に、何と返したら良いのか分からなくなるジル。するとそんな気まずい時間を忘れさせるようにツバキの声が響く。


「なぁ、シン!入り口まであとどれくらいだよ!?」


「もうすぐな筈だが・・・!」


 通路を曲がった先に開けた場所があるのが見える。漸く目的地だと気持ちを引き締めて向かう一行。そして彼らが到着した時、その目に映ったのは音を扱う敵との戦闘を行っているとは思えない程不穏な静けさの中にある、静止画のような光景だった。

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