演奏対決
これまでは水属性の魔力が込められた弾丸を使用していた事もあり、氷や軌道を変えるスライダーなど、ウンディーネの力を借りた戦い方が出来たが、今のミアでは二属性を同時に使役する事は出来ない。
風の魔弾にはウンディーネの加護は適応されず、支援も受けられなくなる。要するに、弾に込められた属性と本人の射撃技術だけでアンブロジウスの動きをとれる必要がある。
「風の魔弾・・・先ずは周りのコイツらをッ!」
一息ついた彼女は、風の魔力が込められた弾丸をアンブロジウスではなく、別の遮蔽物へ目掛けて撃ち放つ。銃声を耳にしたアンブロジウスがミアの位置を特定すると、すぐさまヴァイオリンを構えて音の衝撃を運ぶシャボン玉を差し向ける。
弾丸が着弾すると、その場から突風が発生しアンブロジウスが使役するとシャボン玉が一斉に風に乗って吹き飛ばされていく。勿論、シャボン玉は着弾時に割れて中の衝撃を放っていたが、遠くで発生する分には問題ない。
戦場を掌握していたアンブロジウスだったが、新たにシャボン玉を生み出そうとそれらも同じく風に吹き飛ばされ、最早役割を果たさない。それどころか、帰って来たシャボン玉がアンブロジウスの身を隠していた遮蔽物に命中し、爆発のような衝撃を生み出した。
「水は弾の軌道を、風は戦場を。なるほど、要は使い分けか・・・。だがウンディーネは風の支援を受けろと言っていたな。丁度いい、慣れるまで存分に戦場に風を巻き起こしてやるッ!」
ミアの魔弾が巻き起こす風によって炙り出されたアンブロジウスが、物陰から姿を見せる。今度はスナイパーライフルへと持ち替えたミアが、風の魔力を込めた弾丸を直接アンブロジウス目掛けて撃ち放った。
再び銃声で攻撃が来るのを悟ったアンブロジウスは身を翻しミアの銃撃を躱す。しかし彼女の弾丸による追加効果により、新たなチャンスが生まれる。弾丸は先程の魔弾と同様に、着弾時に風を巻き起こし、側に立っていたアンブロジウスの体勢を崩したのだ。
すかさず次の一撃を撃ち込まんと、ミアは引き金に指を掛ける。ここで更なる追い風が彼女の攻撃を後押しする。
ミアがアンブロジウスを抑えている間に、アンドレイが謎の人物達の襲撃を受け消滅し、そして月光写譜を演奏する為に、アンブロジウスと同じヴァイオリンを持って参上したレオンが、遂に演奏を開始したのだ。
「この音色はッ・・・?」
バランスを崩したアンブロジウスにもう一発の魔弾を撃ち込んだ後に、音が奏でられる方に視線を向けるミア。するとそこには、アンブロジウスから取り上げた楽譜を見ながら演奏する音楽学校の生徒と、それを護衛するニノンの姿があった。だがその中に、アンドレイの姿はなかった。
しかし、そもそもミアは向こうでどのようなやり取りが行われていたのかを知らぬ故、その変化には気が付かなかった。それでもプロの音楽家として認識していたアンドレイが演奏していない事が、少し疑問でもあったようだ。
ミアの銃弾はアンブロジウスに命中しダメージを与えていた。ライフルの威力は凄まじく、風の力も相まってアンブロジウスの身体を貫通し、その向こう側の壁に弾丸が命中すると、再び風を巻き起こした。
アンブロジウスはまるで背中を押されたように床へと倒れる。レオンの演奏により魔力を乱されているのか、透過する能力が発動せず実体のように手をついて身体を支えている。
「ォォ・・・オオオ・・・」
「奴が地にひれ伏している!?物質を透過出来ずにいるのか?」
レオンの演奏が聞こえて来た場所から姿を見せたのはニノンだった。彼女の無事を知り、取り敢えず安堵したミアは、アンブロジウスが動けぬ内にとニノンに声を掛ける。
「そっちはどういう状況?それにこの演奏・・・」
「奴の持っていた楽譜を彼に演奏してもらっている。先程まで私達を苦しめていた演奏効果は逆転した。おかげで身体も普段通りに動くよ」
「なるほど。そいつは朗報だ」
ニノンから状況を聞いたミアは、遮蔽物から飛び出し走り出す。武器を再び魔弾を撃ち出すリボルバーへと持ち変える。ミアの接近に気が付いたアンブロジウスは、その場で膝をついたまま彼女の方へ手をかざす。
彼の手からは数本の糸が飛び出す。今にして思えば、これはまるでヴァイオリンの弦のようだった。しかし弱体化の影響もあり、ミアに差し向けられる糸の速度は遅く、目視してから回避するのは容易だった。
糸の放出と同時に、アンブロジウスは周囲にシャボン玉を出現させるものの、これまでのシャボン玉と違い、大きさや密度の違いが生まれ、出現と同時に割れるものすら現れる。
「チッ・・・!まだそんな余裕があるのかよッ」
追い討ちを掛けるように、ミアは走りながら近くの床に一発の魔弾を撃ち込む。すると、そこから発生した風により、アンブロジウスが生み出したシャボン玉が本人の方へと流されていく。
威力もバラバラなシャボン玉は、割れると同時にアンブロジウスの傍で激しい爆発や小さな爆発を幾度となく引き起こす。
「テメェの技で消えな・・・」
アンブロジウスは自ら生み出した衝撃を生むシャボン玉に囲まれながら、爆発の引き起こす土煙に覆われていく。
「なッ!?ばッ爆発!?」
「レオン、君は気にする事なく演奏を続けてくれ」
「はっはい」
音による衝撃や演奏によるバフ効果など、様々な手法でミア達を苦しめてきたアンブロジウスだったが、形勢は圧倒的にミア達の陣営が有利となり、音楽の街に相応しく音楽によってその勝負の行方が決着を迎えようとしていた。
だが土煙に覆われた一帯から、アンブロジウスのものと思われるヴァイオリンの演奏が始まった。
「野朗ッまだ・・・!」
「ミア!今度は私も!」
二人は息を合わせて、演奏の聞こえてくる土煙の中へ向けて攻撃を仕掛ける。先行してミアが一発の銃弾を撃ち込む。煙の中に飲まれた弾丸はその中で何かに命中し風を引き起こす。
晴れた煙の先にアンブロジウスの影を見つけると、今度はニノンがその足に光を纏い、素早い足技で数発の衝撃波を撃ち放つ。かまいたちのような鋭い刃と化したニノンの衝撃波が、煙に投影されるアンブロジウスの影をバラバラに引き裂く。
魔力を帯びた彼女の攻撃は、これまでの傾向を考えると透過する事はできない。これで遂にトドメに至ったかと思われたその時だった。
その場にいた三人の体内に強い衝撃が走る。




