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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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心配事

 屋上に到着する前に抱えていたオイゲンの不安は、ニノンの現在の姿を見て要らぬ心配であった事を再確認した。この調子ならアンドレイとレオンを屋上組に任せても大丈夫だろうと判断したオイゲンは、二人をニノンに預ける。


「いいか?先ずは奴から楽譜を取り上げるんだ。それまで彼らを守る事も忘れるな」


「司令室の時は、私のカメラやモニターがあったおかげで盗み見る事も出来ましたが、ここではそうもいきません」


「ケヴィンの言う通りだ。難易度は高くなるが・・・」


 オイゲンがまるで子供に、初めて一人で何かをやらせる時のように、注意事項を一つ一つ確認しているとうんざりとした様子で、他にやる事があるのだろと突っぱねられる。


「もう分かってるって!私はアンタの子供かッ!?それよりも、アンタにはまだやる事があるんでしょう?ここは良いから早く行ってあげて」


「あ・・・あぁ、すまない。そうだな、お前なら何も心配要らなかったな。俺も少し冷静さを失っていたようだ・・・」


 オイゲンとて一人の人間に過ぎない。教団の護衛隊隊長という大きな責務と期待を背負い、それらしく周りには振る舞っていたが、司令室で消え行く同胞達や守るべき人々の光景を目の当たりにし、自分でも気付かぬ間に精神的なダメージを受けていたようだ。


 それがニノンに対する心配として表れていたようだ。身近な者を失いたくないという心の底にある彼の本音が、本人の知らぬ間に漏れ出していたという訳だ。


「我々の事はご心配なさらず。与えられた役割は、しっかりやり遂げますよ」


「すまない・・・。レオン君もよろしく頼んだ」


「はい、頑張ります・・・」


 オイゲンに重要な役割を与えられたレオンの姿は、まるで演奏前のように普段とは違った落ち着きを見せた。だがそれは、彼の視線を受けたカルロスには違う風に見えていた。


 実際レオンは、屋上へと向かう途中で話していた件を上手くやれよといったメッセージを、その視線に乗せてカルロスへと送っていた。毅然とした態度も、こっちはこっちでしっかりやり遂げるからと、彼なりに発破を掛けたのだ。


ニノンに別れを告げ、オイゲンとケヴィン、そしてカルロスはそのまま来た道を戻り、下の階層を目指す。


「さて・・・楽譜を取り上げる算段ですが、実際のところどうなんです?」


 彼らが去った後、心配を掛けまいとしたアンドレイなりの気遣いだったのか、その場では追求しなかったものの実際に戦っていたニノンに、現実的な作戦について尋ねる。しかし彼の質問に答える彼女の表情は曇っていた。


「オイゲン達の前ではあぁ言ったが、実際のところは難しい・・・と、思う」


「思う?随分と曖昧というか・・・」


 楽譜を見て戦場で演奏しなければならないという重要な役割を与えられたレオンは、自分の身を預けるニノンの曖昧な返答に心配そうな表情を浮かべながらその真意を問う。


「貴方達がここに来た時、ミアの銃弾がそっちへ飛んでいったでしょ?あれは勿論、彼女の意思ではない・・・」


「敵によって操作された・・・と?」


 アンドレイの見解に彼女は頷いた。どうやら彼女の話では、戦闘が始まった直後はそんな事は一度もなく、寧ろ遠くから一方的に狙えるミアの攻撃は

アンブロジウスとの戦闘においてかなりの有効打となっていた。


 しかし変化が訪れたのは、ブルースらが大穴を開けて一階へと向かった後、オイゲンらのいう霊体である彼らを強化するという月光写譜を取り出してからだった。


 それまでの演奏とは違ったものを演奏し始めるアンブロジウス。それと同時に周囲にはアルバの街にも空気のように自然と漂っていたシャボン玉が現れ始め、戦闘に関与し始めたのだとニノンは語る。


「それがアレよ。見てて・・・」


 先程の話が事実であり、戦闘にどんな変化をもたらしたのかを彼らに見せつけるように、ニノンは屋上の中央付近を見ているように指示する。するとニノンは近くにあった瓦礫の破片を拾い上げると、少し遠くの位置へと投げる。


 その直後、一発の銃声が鳴り響く。しかし着弾の音はニノンらのいるところからはかけ離れた位置から聞こえて来た。


「ビックリした・・・。今のがそのミアさんという方の?」


 戦闘という場面から程遠い世界に生きていた一般人には、今の一瞬の出来事だけでは何が起きたのか分からなかったらしい。その証拠にレオンにはニノンが何を見せたかったのかが分かっていない様子だった。


 彼とは対照的に、今の銃弾が辿った軌道が見えていたのか、アンドレイにはそれだけで彼女の言いたい事が伝わっていた。


「軌道が・・・あり得ない方向に変わっていた」


「そう、アンブロジウスが楽譜を取り出してからというものの、ミアの銃弾は奴の妨害を受けるようになったの。その原因は、あの音を運ぶシャボン玉なの」


「!?」


あんなものがどうやって銃弾の軌道を変えるのか。それが彼らの率直な感想だった事だろう。魔力を介したものであれば、音の振動という衝撃により、霧を晴らすかのように弾き飛ばす事も出来るだろうが、実物である銃弾となれば多少軌道をずらす事はできても、全く別の角度へと捻じ曲げる事など出来るのだろうか。


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