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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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もう一人のバッハ

 紅葉を連れて後退したシンの元へ駆け寄ったアンドレイは、彼の腕から疲れた様子の紅葉を引き取ると、ジルの言っていた話をシンに語りかける。


「シンさん、彼女の話聞きましたよね?」


「あっあぁ、楽譜を奪えって話。アレさえ奪えれば奴は弱体化するのか?」


「どうでしょう・・・。ですが、アレが何らかの力になっているとみていいでしょうね。そこでアサシンのクラスである貴方の出番ですよ。影を使った貴方の能力なら、隙をついて楽譜だけ奪い去るのも可能なのでは?」


 実際アンドレイは彼の戦いをよく観察していた。ジルの話を信じてベルンハルトから楽譜を取り上げるのであれば、シンの影を使った物を移動させる能力というのはこれ以上ない程適任と言えるだろう。


 アンドレイは、シンがベルンハルトと戦う中で音による振動を別の場所に移し替えているところを見逃さなかった。不自然に床が爆発したのは、シンが影を使って衝撃の対象を移したと推測。その能力で他の者がベルンハルト本人の気を散らしている内に、接近するリスクを負わずとも楽譜の奪取が可能なのではないかと語る。


「確かに影を使って楽譜を持ってくることは可能だが、接近せずにできる代物でもないんだ・・・。対象から離れれば離れるほど、スキルの精密性と効果を損なう結果になる」


「それは近接戦闘を行えるくらい近くないと駄目なんですか?」


「いや、そんなに近づく必要はない。だが近くであるに越したことはない」


「それなら大丈夫でしょう。こちらには教団最強の盾がいます。彼のスキルは光属性の性質を持っているようですし、何なら貴方は先程も自身やアカリさん達を守る為に防衛用のスキルもお持ちではありませんでしたか?


 彼が指摘したのは、影の持ち主にその人物が作り出している影を纏わせ、ダメージの一部を肩代わりさせるという防衛術の一つだった。だがここにも一つ問題があった。


 アンドレイのいうように、そのスキルは身を守る為には最適なものだが、属性の性質上オイゲンの光の鎧とは同時に重ねることは出来ないのだ。影を操るシンのスキルは、その性質上闇や影といった性質を持つ。となると、同時に同じ対象にスキルを使えば、より強力な方が優先され、もう一つのスキルは打ち消されてしまうのだ。


「あるにはあるが、あの隊長のスキルとは相性が悪い・・・。それよりも入り口で別の奴と対峙してた貴方に聞きたい」


「ん?入り口で・・・あぁ、アンナ・マグダレーナの事ですか?」


「あぁ、そうだ。あの子達は楽譜がキーだと言っていたが、そのアンナとやらも楽譜を持っていたのか?」


 ベルンハルトが楽譜を使って演奏していたのなら、他の場所で戦っているツクヨやミアが向かったところにも、ベルンハルトと同じく謎の人物達を従える存在がいる。


 楽譜を取り上げることで大きく戦闘が有利に進むのであれば、一刻も早く教えに行かねば彼らのところはシン達のいる司令室よりも、圧倒的に人員が足りていないのだから。




 逃走した謎の人物達を束ねる親玉を追って、ミアとニノンはゾルターンの作り出した足場を使って窓から飛び出し屋上へと向かう。そこにはダメージを負って連れ攫われたブルースとバルトロメオがいた。


 二人を前にその親玉は徐にヴァイオリンをその手の中に召喚すると、突然何の脈略もなく演奏を始めた。


「あぁ?なんだ・・・こいつ・・・急に演奏なんてッ・・・」


 するとその時、ブルースがその親玉の演奏を止めるよう大きな声でバルトロメオに指示を出したのだ。急に豹変したブルースの様子にバルトロメオとニノンがビクッと肩を跳ね上げた。


「演奏を止めろッ!!まともに動けなくなるぞ!?」


「どういう事!?」


「しょうがねぇ!説明は後でしてくれんだろなぁ!?」


 バルトロメオは理由を聞くよりも先に、ブルースの言葉を信じて親玉の演奏を止めようと背後に大きな青白い腕を召喚する。しかしそれは彼の発動したスキル以上の力を、まるで蛇口を勢いよく捻ってしまった時のように、無駄に魔力を放出させていた。


「なッ・・・!?何だ・・・これッ!?」


「ッ・・・!?」


 彼の召喚した大きな青白い腕は、大量の魔力を放出させながら素人目にも分かるほどに無駄な魔力を纏わせていた。彼の様子からも自身でやってるようには思えない。これがブルースの言っていた“まともに動けなくなる“という事なのだろうかとニノンの脳裏に過った。


 その時だった。一発の銃声が空に響き渡ると、どこからか放たれたその弾丸はバルトロメオの召喚した腕を貫通し、彼の制御が効かなくなった魔力を食い尽くすかのように沈静化させ、そのまま演奏する親玉の胸部を貫いていった。


「ォォ・・・オオオ・・・!」


 ダメージを負ったのか、その親玉は演奏の手を止めフラフラとした様子で数歩前へと進むと、バランスを崩した身体で踏みとどまる。そして親玉の顔を覆っていた黒い影が地理のようにボロボロと落ち始める。


 そこから顔を覗かせた人物に、ブルースは心当たりがあった。


「あっ・・・アンタは、アンブロジウス・バッハ・・・!?」


 宮殿内にて、ブルースの部屋を襲撃しブルースとバルトロメオに打撃を与え、ゾルターンを戦闘不能に追い込んだ謎の人物達の親玉は、入り口を襲ったアンナや司令室を襲撃したベルンハルトと同じくバッハの一族である、“アンブロジウス“という者だった。

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