宮殿の守りを担う者
宮殿の正面入り口にて行われている戦闘に加勢すべく編成された部隊に、プラチドとツクヨが加わり戦場へと向かった。未知の相手にアンドレイらの受けた攻撃の様子からも、その戦場が危険であるのは明らか。
ケヴィンは戦地へ加勢しに向かうツクヨに、無線機の機能も搭載されているカメラを一台渡す。これで司令室から事前に相手の情報を彼らに届けるのが目的だった。
元々司令室から正面入り口までの距離は大して離れていないので気休め程度でしかないが、それでも一切情報が無いよりかはマシだろう。それに情報は映像で送信することも可能なので、相手の手の内を事前に確認することもできるので、連携の構成を考えるのには十分な情報源となる。
彼らが戦地へ向かった直後、ケヴィンはオイゲンらと共にモニターでの確認作業へと戻る。特に注目すべきは、やはり正面入り口の戦いだろう。アンドレイらの護衛は、決して簡単に押し負けるほど弱くはない。
一風変わった戦闘方法や、様々な種族と他に類のない異色の実力者集団だと教団側は聞き及んでいたようだ。その謂れの通り、映像で見る彼らの戦いはまるでその映像だけ別のどこかでの戦いを見ているかのようだった。
時は少しだけ遡り、アンドレイらの部屋へ教団の護衛達が訪れていた頃。オイゲンの指示により、アルバの宮殿に宿泊して居た者達のところへ、襲撃者らの攻撃から守るために遣わされた使者達が、アンドレイの部屋を何度もノックするのだが、一向に出てくる気配がない。
返事がない場合の為に、オイゲンは使者達にそれぞれの部屋に入れるマスターキーを渡していた。仕方がなくキーを使い中に入る使者達。しかしそこはすでにもぬけの殻になっていた。
だが荷物などはあり、事前に脱出の機会を伺っていたなどという計画性は見受けられなかった。辺りを探し回るも、部屋のどこにも彼らはおらず、唯一残された形跡は、部屋に入ってすぐに目に入り肌に感じる風だった。
窓が開いており、そこから覗かせる光景には一階の地面にまるでクッションのように生い茂る植物のようなものが不自然に生えているというものだった。間違いなくこれは、アンドレイの護衛であるケイシーの仕業だろう。
彼らは宮殿の襲撃に乗じ、密かに脱出を図っていたようだ。
「アンドレイ様、外に警備隊が・・・」
「うん、誰もいないようだね」
「知っておられたのですか?」
「いやまさか。こんな事態になっているなんて知らなかったよ。これが犯人による仕業なのか、それてもこれが何らかの幻術や妖術の類で、既に私達がその術中にはまに別の空間にでも居るのか・・・」
一行は先ず街の様子を見に行こうと、宮殿の外壁を辿り正面の入り口の方へと周り、宮殿の敷地内から街へと出る道へと向かう。だがそこで彼らは、思わぬ人物に遭遇する。
宮殿の敷地と街を隔てている門へとやって来た一行の前に現れたのは、一人の謎の人物だった。しかしその容姿は他の宮殿へ襲撃を仕掛けている謎の人物らと大きく違い、華奢な見た目に素顔を隠す仮面は、舞踏会などで使われるような全面を覆うような仮面とは違い、目元のみが隠されている。
「アイツ・・・他のと様子が違うッ!」
アンドレイの護衛の一人であるチャドが、その竜人族特有の観察眼と嗅覚で、その人物が異質な雰囲気を漂わせているのを見抜く。もっとも、彼のように特殊な能力がなくとも、その出立から他の謎の人物達とは一線を画す事は明らかだったが。
「まるで門番だね」
ケイシーが機転を利かせ、門以外の場所へ植物の種を飛ばし蔓を塀の上から外へと送り込もうとする。すると蔓は目に見えぬ何かに阻まれ、柄を境に宮殿の敷地内から外に出ることは叶わなかった。
「何あれ?他の場所からじゃ外に出られないって事!?」
「ん〜・・・こうなると、アレを倒したところで脱出できるかどうか怪しいなぁ・・・」
「どういう事です?アンドレイ様」
「そもそも犯人は、私達をこの空間から外に出すつもりは無いらしい。それにこれだけの規模にこれだけの量・・・。並大抵の魔力量では不可能だ。一人の人物でこれを実現させるには無理がある。何かカラクリがあるようだが・・・」
「それじゃぁあの者と戦っても無意味だと?」
「でも、向こうも逃してくれる気はないみたいだけどね・・・」
彼らが話をしている間に、その謎の人物は彼らを囲むように何かを召喚し始める。黒い霧の中から現れたのは、音響を表した電気信号を、物理的な音である空気の振動へと変える装置、要するにスピーカーと呼ばれるものを複数召喚した。
 




