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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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生者の魂

「ここも安全ではなくなってきたようね」


 逃げるそぶりもなく、リヒトルは湯気の立つ飲み物の入ったカップを手に、口元でゆっくりと傾けて中身を啜る。


「それよりも、静かに休暇を過ごせない方が問題だな。マイルズ、私達の心配はいらない。出来るだけこの部屋の周りで騒ぎを起こすなと、警備隊に伝えておいてくれ」


「承知しました」


 するとマイルズは、護衛対象である二人を部屋に置き去りにしたまま扉を開け、廊下の方へと姿を消した。騒動の方へと歩みを進めるマイルズの元へ、謎の人物達が襲い掛かる。


 掴み掛かろうとするその腕を素早い身のこなしで掻い潜ると、目にも止まらぬ拳を謎の人物に叩き込む。しかしマイルズの放った拳は、謎の人物の身体をすり抜けてしまった。


「ッ!?」


 すぐに何かがおかしい事に気がついたマイルズは、続けてもう一人の謎の人物の攻撃を身を屈めて躱すと、回し蹴りをその身体に向けて放つ。しかしこれもまた命中する事はなく、身体を擦り抜けていく。


 そこでマイルズは、宮殿を襲撃してきた謎の人物達が物理攻撃が通用しない相手である事を理解する。正体を知ったマイルズは、驚きや慌てるといった様子を見せる訳でもなく、それとは真逆にホッと胸を撫で下ろすような様子を見せ口角を上げて僅かに笑みを浮かべる。


 生存者を見つけるや否や、見境なく襲い掛かる謎の人物達が再びマイルズを襲う。しかし先程二度にわたる攻撃で別の攻撃手段を思いついたマイルズは、自らの拳に鉄製の連なる四つのリングに指を通す。


 これはナックルダスターと呼ばれる打撃を強化する武器として知られており、メリケンサックやカイザーナックルなどという名称で使われる事もある。


 マイルズの装着したナックルダスターには、魔力が込められているようなエフェクトと共に、青白い煙のような冷気を纏っていた。すると再度襲い掛かってきた謎の人物に、先ほどと同じように拳を打ち放つ。


 戦闘の場面としては最初の打ち合いとほぼ変わらなかったが、今度のマイルズの攻撃は謎の人物の身体をすり抜ける事はなかった。命中した拳の部分から謎の人物の身体は僅かに凍り始める。


 しかし、その氷はそれ以上広がる事はなく、まるで凍ったその場からすぐに溶けているかのような反応を示した。それを目にしたマイルズも、意外そうな表情を浮かべて驚いていた。


 攻撃を中断したマイルズは、ナックルダスターを装備した腕とは反対の腕に魔力を纏い攻撃を行う。今度は凍り付く事はなく、他の宮殿内で戦う者達と同じように、謎の人物は一定のダメージを与えると塵となって消えていった。


「・・・妙な事になってきましたね。これはリヒトル様に・・・」


 何かに気がついた様子のマイルズは、情報の通達と主人の命令の優先順位を吟味した結果、先にリヒトルに頼まれた使令を警備隊に伝えた後でも遅くはないだろうと、ブルース一行のいた部屋付近にいる警備隊達の元へと向かった。


 謎の人物らと戦っていた警備隊に合流したマイルズは、リヒトル一行は協力を惜しまないと伝え、なるべくリヒトルとイーリスのいる部屋には近付かないようにと部屋から彼らを遠ざけた。


 謎の人物達との戦闘を終えた一行は別の現場へと向かい、マイルズは部屋へと戻り先程感じた謎の人物達の違和感をリヒトルに伝えに向かう。


「伝えてきました」


「ご苦労、マイルズ。それで?彼らは何て?」


「警備隊や教団の護衛達も、今はそれどころではないと、暫くはこちらには来ないでしょう。それこそ騒ぎでも起きない限りは・・・。それより一つ気になった事が・・・」


「ん?なんだ」


 マイルズが謎の人物と戦った時に感じた違和感。それはただの霊体のモンスターという訳ではないという事だった。意思を持たない霊体ではあるが、その魂は生きている者の魂であると言うのだ。


「どういう事だ?襲撃者が生きている者の魂だと?」


「えぇ。ただの死霊系モンスターの類だとするならば、私の冷気で実体化させられる筈だったのですが、交戦した際奴らは凍り付く事はなく、生者特有の熱量によって広がる事はなかった。恐らく生者の魂を利用しているのでしょう」


「生者の魂・・・。だが宮殿のあちこちで襲撃は起きているのだぞ?それだけの生者の魂、どうやって集めるというのだ?」


 通常、生者から魂を抜き取るなど容易に行える所業ではない。それこそ大掛かりな準備や儀式が必要となる。それも大人数ともなると、誰にも怪しまれずに行うなど不可能に近い。


 するとリヒトルは、自ら不可能だと口にしておきながらそれを実現できる可能性に気付いたようだった。誰にも気づかれず、大掛かりな仕掛けを用意し大量の生者の魂を集める方法。


 それはアルバで執り行われた“式典“だったのだ。

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