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World of Fantasia  作者: 神代コウ
1402/1694

騒動の最中の音楽家夫婦

 ブルースが宮殿で襲撃を受けた直後の事。


 時を同じくして、就寝していたリヒトルとその護衛らは近くの部屋から聞こえてくる騒ぎで目を覚ましていた。


「騒々しいですね、一体何なのかしら・・・?」


「この声からして、恐らくブルース・ワルターのところの護衛、バルトロメオという男が騒いでいるのかと」


「全く騒々しい男だ。奴がいては折角の休暇も台無しだな。して、一体何を騒いでいるのか分かったか?マイルズ」


 扉越しに外から聞こえてくる声や物音に聞き耳を立てていたリヒトル・ワーグナーの護衛の一人であるマイルズ・アーカート。警備隊らに囲まれ大声で騒いでいるバルトロメオの発言から、今度はブルースが犯人の襲撃を受けたということが分かった。


 しかしこれまでと違い、ブルースは遺体で発見されたのではなかった。彼は何と犯人の犯行から生存し、今にも宮殿を脱出しようとしているようだった。そして次の瞬間、大きな物音と共に建物が崩れるような振動と瓦礫の音がリヒトルらの部屋にも伝わってくる。


「何?今の大きな音。まるでこの建物が崩れたような・・・」


 驚いた様子を見せたのは、リヒトルと共に式典へ参加していた彼の妻でもあるイーリス・プラーナーだった。そんな彼女とは対照的に、騒動の中でも一体何が起こっているのかをまるで初めからわかっていたかのように冷静に振る舞うリヒトルが、マイルズからの報告と今の物音などを含めて状況を整理し、大方の予想を語った。


「一連の事件の犯人が、今回のターゲットにブルースを選んだ。だがどういう訳か、犯人の犯行では死ななかったブルース。主人を狙われ腹を立てた護衛が、もうこんな所に居られるかと強硬手段に出た。と、言ったところだろう」


 マイルズは彼の言葉を確認するかのように、扉を開けて廊下の様子を覗き込む。すると、音のした方の廊下の壁が広い範囲で破壊されており、そこからバルトロメオの召喚する大きな腕が見えていた。


「どうやらそのようで。如何いたしましょう?」


「放っておけ。我々には関係のないことだ。しかし、犯人はまだ犯行を続けるつもりなのか・・・。何故ブルースを狙った?」


 リヒトルは先日のアンドレイとの会話を思い出していた。犯人は教団関係者に強い恨みや憎しみを持っている事が、狙われた人物達の役職からも分かる。


 大司教と司祭の二人を殺し、残る教団の主要人物といえば護衛隊の隊長でもあるオイゲンくらいのものだ。ベルヘルムが狙われたのは、ジークベルト大司教との繋がりと思惑を犯人が知っていたからだ。


 そしてその思惑は犯人にとって許されざるものだった。つまり犯人は、事前に二人の取引や関係を知っていた人物ということになる。


 アルバで式典が行われる以前から、恐らくジークベルトとベルヘルムは連絡を取り合い準備を進めてきた筈。となれば、アルバの外からやって来た者達がその動きを知るには、事前にジークベルト大司教とベルヘルムの事を調べてもいない限り不可能。


 その事からリヒトルは、犯人はアルバの出身、或いは前々からアルバに潜入していた人物であると予想していた。


「アナタ、楽しそうね」


「そうか?ふふ、まさか音楽の街で有名なこのアルバで、教団を狙った犯人の計画を目の当たりにする事になろうとはな。大司教の殺害ともなれば大きな事件になり兼ねない。果たして犯人は、世界中を敵に回してでも逃げ切れる算段でもあるのかな?」


 あまり感情を表に出す方ではなかったリヒトルが、珍しく嬉しそうに推理を口にする様子を見て、イーリスもマイルズも意外な彼の姿に少し驚いていたようだった。


 だが、そんな犯人と被害者らの衝突を外から眺めている訳にもいかなかった。廊下の様子を見ていたマイルズが、奇妙な者達の姿を目にする。それらは壁や床を擦り抜け、ブルースの部屋の周りに集まった教団の護衛隊や警備隊らを襲い、次々に彼らの姿を塵へと変えていった。


「ッ!?リヒトル様!複数の何者かが宮殿に侵入して来ている模様です」


 事態の急変を目の当たりにし、主人のリヒトルとその妻イーリスに見たままの事実を報告しようと部屋の方を向いたマイルズは、既にその何者か達が彼らの部屋にも侵入して来ている光景を目の当たりにする。


「リヒトル様!イーリス様!」


 音もなく部屋へ乗り込んできた何者か達は、既に二人へ向かって手を伸ばしていた。入り口にいたマイルズのところからでは間に合わない。このままでは廊下で目にした警備隊らと同じように、リヒトルやイーリスも塵に変えられてしまう。


 護衛でありながらこのような事態を招いてしまったことに、自身の不甲斐なさを感じるマイルズだったが、彼の心配を他所にリヒトルもイーリスも、その光景に似つかわしくないほど落ち着いていた。


「イーリス・・・」


「えぇ、大丈夫よアナタ・・・」


 リヒトルもイーリスも、既にその謎の人物達の接近に気がついていたのだ。迫り来る魔の手に、全く逃げたり避けたりする素振りも見せない二人。今にも謎の人物の手が二人に触れようかとしたところで、突然部屋の中で数回カメラのフラッシュのような閃光が放たれる。


 すると、謎の人物達の腕がリヒトルらに触れる前に塵となって消え始めた。突然のフラッシュに目を閉じたマイルズが瞼を開くと、彼もそのフラッシュが何によって発生したのかを悟り、安堵した様子でリヒトルらに声をかける。


「お二人とも、ご無事でしょうか?」


「問題ないわ。ありがとう、マイルズ」


「私達の事は心配するな。この程度の相手なら何も問題はない。それ以上に、他の強力な者の存在に気をつけてくれ」


「強力な者?何か心当たりがあるので?」


「なに、ただの勘だよ。彼女の能力で撃退できない者が近づいた時は、私や君の出番だと言うことだ」


 どうやら先程彼らの部屋に放たれたフラッシュは、リヒトルの妻イーリスの能力によるものだったようだ。他の音楽家達と比べても、目に付くような特徴のある護衛を連れていないリヒトル一行。


 それに加え主人のリヒトルの他に、その妻であるイーリスという護衛すべき重要人物を二人も抱えるマイルズだったが、その護衛対象でもあるイーリスもまた何かしらの身を守る術を持っていた。

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