未知のスキル
突然の出来事に状況整理が追いつかない一行と、それを知ってか知らずか恥ずかしがりながら立っているヘラルト。それはまるで自分の創作キャラクターを知人に披露するかのような感覚で、そういうものを描いている自分をどう思うのか、そして創作キャラクターへの評価はどうかと、相手の反応に不安と期待で心臓が早鐘を打つ。
「・・・これは・・・?」
そんな彼とは打って変わり、シン達が驚いていたのは作家というクラスでありながら彼が戦闘を行ったということ。正確には彼がというよりは、彼が生み出した生物がモンスターと戦っているということだが、単に彼が話さなかっただけでダブルクラスの保有者だったとでも言うのだろうか。
しかし、仮に彼がダブルクラスであったとしても年齢が若過ぎるという問題が浮上する。プレイヤーキャラクターであれば見た目や年齢は関係ないが、WoFの世界観的にはどのような設定がされているのか、 シン達には知る由もない。
「創作物・・・?これはお前のスキルなのか?」
ミアが言葉を失う二人の代わりにヘラルトに、疑問の根幹となる部分を聞いた。だが彼は、何をそんなに驚くことがあるのかと首を傾げて質問に答える。
「えぇ、そうですけど・・・。その、やっぱり変でしょうか?」
「変・・・ッて、そういう問題じゃ・・・」
シンはツクヨとミアの表情を伺い、何か心当たりはあるかといった意図の視線を送るが、二人とも首を横に振った。そして新たに得られた情報として、彼は作家というクラスが戦えるということに違和感を感じていないということだ。つまりヘラルトにとっては、別段可笑しなことではないという解釈なのである。
「シン、アレを使う時が来たんじゃないかい?」
ツクヨの言葉で忘失していた、あるアイテムの存在を喚び起こした。それはシンが現実世界で白獅から渡されたWoFの世界にあるデータを読み取ることのできる、テュルプ・オーブという黒い球体だった。
自身の意識を集中させ、メニュー欄を視界の中で展開させると、視線を動かしてアイテム欄を開く。そこには確かに白獅から受け取ったテュルプ・オーブの名前があった。まだこちらの世界で使ったことが無かったため、どうなるのかという不安要素もあったが、今まさにその真価を発揮する時と、そのアイテムを使用してみることに。
「ッ・・・!?」
すると、シンの片目の視界が徐々に黒く塗り潰されていく。慌てて顔の前に手を出し、自分の見ている景色を確認しようとしたが、その甲斐むなしく彼の右目の視界は真っ暗になってしまう。だが、直後に視界は元通りについさっきまで見ていた景色が帰ってくると、シンは安心しホッと胸を撫で下ろした。
無論、何も起きなかった訳ではなく、シンが見る右目の視界にはスクリーンのようなものが見えるようになり、接続中や解析中といった文字が浮かび上がる。
《早速何か情報を得たのか?シン》
「これはッ・・・!?」
突然驚き出すシンに一行は何事かと振り向くと、慌てた彼は身体を反転させ視線を遮ると、どうやってその文字に返事をすればいいものかと、右目の前で手をかざして視線をあちこちに移動させてみる。
《落ち着いて言葉を頭の中に思い浮かべるだけでいい。それをこっちが解析する》
シンは言われた通り呼吸を整え、スクリーンに映し出される文字に対し質問を投げかける。
《アンタは何者だ?俺の想像している通りの人物・・・ってことでいいのか?》
まだこのやり取りの相手が何者であるか断定出来ていないシンは、名前を伏せて探りを入れる。何者であれ下手に自分や仲間の情報を開示する訳にはいかないシンには、そうする他ない。
《安心しろ、お前の思っている通りの相手で間違いない。このシステムは俺が創り出したんだから、よく知っているさ。こちらは白獅、何か情報が手に入ったのか?》
《良かった・・・。情報と言っても、そちらが欲しがる情報かどうかは調べてみないと分からないがな。今俺達の前にいる少年、クラスが作家なんだが、自作のキャラクターを生み出して戦闘を行ったんだ。俺達は作家というクラスに戦闘スキルがあるのを知らなかったんだが、そっちデータベースではどうなっている?》
現実世界にいる白獅には、WoFの世界のデータであれば解析することが可能だと言う。ただそれが、シン達のいる世界のデータであるかどうかは分からない。故に解析結果で、作家にそんなスキルはないと出ても、バグによる影響で何かしらの変化が起きている可能性も十分にあり得る。
《分かった、解析してみよう。結果はすぐに出る、少し待っててくれ》
白獅との会話ともメッセージとも少し違うやり取りを終えたシンに、ツクヨがヘラルトのスキルについて何か分かったかを確認する。ミアはシンが言っていたアイテムで何か調べているのを察すると、その間ヘラルトの注意を逸らしてくれていた。
「シン、何か分かったかい?」
「解析に少し時間がかかるみたいだ、もう少し待ってくれ」
解析の結果が出るまでの間、一行はクエストを完了し村に戻ることにした。その道中、彼らは彼らでヘラルトから直接聞き、調べられることは自分達で調べていた。しかし、肝心な情報を得ることは出来ず、ヘラルトはダブルクラスではなかった。
村に到着する頃、白獅から再び連絡が入る。
《待たせたな。こっちで調べてみた結果だが・・・。作家にそんなスキルはないようだ。何か別のクラスで出現させていたんじゃないのか?召喚士だとか、妖術士とか・・・》
《いや・・・それが彼、ダブルクラスではないと言うんだ。別のクラスのスキルという線は消えた。これは・・・》
シンと白獅は、ある同じ結論へと至った。しかしそう考える他無く、それが最も疑問の念を晴らすのには、これ以上ないほどしっくり来る答えだった。
《つまり彼は、バグや異変による何かの影響を受けている可能性が高い・・・。早速掴んだチャンスだ、彼の過去の体験や経歴を出来るだけ調べて欲しい。お前達のプラスになることもあるかもしれないしな》
聖都を出て、まさかこんなすぐに異変と出会うことになろうとは、シン達は勿論、白獅も想定外のことだった。しかし、異変との遭遇は何も悪いことばかりではない。自分達の身に起きていること、知らないことを知れるということは、この世界で生存していく上で大きく繋がることになる。




