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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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街を包む癒しの音

 ジークベルトの遺体が発見されたその日の夜。レオンとジルは自宅へと戻り、宮殿へ向かったカルロスの行動と、自分が取るべき行動、そして囚われの身となったであろうフェリクスやカタリナに思いを馳せながら、いつもの心地良い音が溢れる街へと戻ったアルバの街並みを眺めていた。


 一方の宮殿内でも、シン達は翌日にも控えているであろう聞き込みに備え、用意された客室にて事件の起きた場所とは思えぬほど穏やかな時間を過ごしていた。


 窓際で外を眺めながら部屋に用意されていた酒を嗜んでいたミアは、アルバの夜景に相応しい音色を耳にしていた。


 「おい、街から何か聞こえるぞ?」


 式典が始まる少し前から途絶えていた、街に溢れる様々な音楽が再び街に広がり始める。穏やかな変化を見せる街並みに、ミアは少し驚きながらも曇った気分を忘れさせるようなその音を肴にした。


 「式典が行われている間は、街での音楽活動の全てを停止させていたみたいですよ。恐らくその号令が解除されたのでしょう」


 「ふーん・・・。こっちは大変なことになってんのに、街はいつも通りって感じだな」


 「・・・確かに。少し妙な気もしますね」


 「ま、こっちとしても知らねぇ奴らに疑われて腹が立ってたしな。このBGMと酒でチャラにしてやるか」


 余程酒にありつけたことが嬉しかったのか、酔い潰れたマティアス司祭といいミアといい、酔いに身を任せる者達を見て小さく溜め息を漏らすシンとツクヨ。こんな調子で明日の行動に支障が出ないだろうかと心配する中、その明日の予定について考えていたケヴィンから、最初に向かいたい人物のところとして、解放される予定になっているクリスを挙げた。


 「大司教との関係や動機、アリバイなどを見て無実に限りなく近いと判断された彼に、ここを立ち去る前に色々と聞いてみたい事があります。なので、明日一番に彼の元を訪ねてみましょう」


 「けど、まだ疑いが残る俺達がクリスに会えるのか?それに解放もいつになるかわからないんだろ?」


 「だからこそ、明日一番に向かうのです。私達は今日の行動は既に制限されてしまっています。最速で動けても明日の朝になってしまうでしょう。それに彼にとって重要な関わりを持つ人物が、こちらの手の中にあります。向こうからしてもコンタクトを取りたいはずだと、私は考えています」


 「まぁ彼もまだ若いし、家庭の事情も複雑そうだからね。親代わりの司祭に頼りたい気持ちもあるだろうね」


 解放されるとはいえ、頼れる人のいない場所に解き放たれても、先行きの見えぬ状況に不安になるのは必然。そうなればクリスは、マティアス司祭にどうするべきか教えを乞いにくる可能性は十分にある。


 ケヴィンの言う、クリスに切れる手札とはマティアス司祭を餌に、彼の知る情報を聞き出すと言うもの。宮殿内での行動を監視するチーム分けが、ケヴィンやマティアス司祭であったことに感謝しつつ、シンとツクヨも就寝の支度を整えることにした。


 すると、街から聞こえてくる音楽の中に、一際集中して聞き入ってしまう曲が聞こえ始めた。どんなジャンルの曲が好みか、気になる曲に関しての好みは個人で違うため、誰に同意を求める事はなかったが、その場にいた誰もがその曲に耳を傾けていた。


 アルバの街に響くその曲は、次第に他の音をも飲み込んでいき、まるですべての物がその曲に魅了されたかのように、街全体を包み込むようだった。場所は違えど、それを聞いていたのは宮殿の彼らだけではない。


 当然、街に暮らす者達にもその曲は聞こえていた。音に耳を傾けていたレオンやジルも、その曲に耳を傾ける。


 「何だ・・・この曲。凄く興味を惹かれる・・・」


 「曲自体は課題や練習で弾いたこともある曲だけど、どうしてかしら・・・。他に聞こえてくる曲よりも妙に意識を持っていかれる・・・。なんて心地良いのかしら・・・」


 音源で聴いたり教員の演奏では、到底辿り着けない感情。それは演奏の上手い下手などというものではなく、演奏する者の感情が音に乗せられ耳を通して心へと入ってくるような感覚だった。


 音楽に詳しくない者でも、感情だけでその演奏が素晴らしい者であることを心と身体で感じられるほどの音楽だったのだ。


 すっかりその音楽に聞き入ってしまっていたレオンの元に、何者かの声が聞こえてくる。折角の美しい曲に浸っていたところに、水を差すように入ってくるその声のする方を見るレオンは、そこにいた人物に目を疑った。


 「おい・・・おい!レオン!」


 「おっ・・・お前ッ!どうしてここに!?宮殿へ行ったんじゃなかったのか!?」


 すっかり夜となり、真っ暗な街中から彼に声を掛けていたのは、なんと宮殿へ抗議しに行ったはずのカルロスだったのだ。グーゲル教会の帰りに宮殿の前を通りかかった時には、何事もなかったかのような様子だったが、彼は宮殿へは向かわなかったということだろうか。


 「それがよぉ、俺が宮殿に向かったら丁度クリスの奴が中から出てきて・・・。それよりここじゃなんだから、どっか話しやすいところにいかねぇか?」


 未だ街中では、宮殿内で起きた事件のことは耳にしない。ここまで来ると、その情報の方が嘘なのではないかと疑いたくなるほどだったレオンは、とりあえずカルロスの話が気になり、家族にバレぬよう彼を自室へと招いた。


 「それで?一体どう言うことだ。宮殿からクリスが?アイツは中で何してたんだ?」


 「まぁ待て。順を追って説明するからよぉ・・・」


 聞きたいことは山ほどある。自分が正気ではないのか、或いは街がおかしいのか。まるで夢の中を彷徨うかのような感覚に囚われていたレオンは、早くその答えを知りたくてたまらなかったのだ。


 「さっきも言ったが、あの後宮殿に行ったら丁度クリスが警備隊の奴らと出て来たんだ。すぐに声を掛けたらまた警備隊の奴らに邪魔されそうだったから、暫くクリスの後をつけて安全そうな場所まで行ったら声をかけようと思ったんよ」


 クリスの後を追ったカルロスが辿り着いたのは、マティアス司祭の務めているグーゲル教会ではなく、ルーカス司祭の務めるニクラス教会だったのだ。何故クリスがニクラス教会の方へ向かったのかは不明だったが、グーゲル教会よりも人が少ないこっちの方がカルロス的にも都合が良かった。


 あそこでならゆっくりと話せそうだと、クリスが教会へ入るのを見てからカルロスも教会へと入る。するとクリスは、何かを教会の人間に伝えているようだった。


 何とかしてその内容を聞けないかと、身を隠しながら近づいたカルロスは、宮殿内で起きた事件の全貌を耳にする。

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