身内の裏切り
ベルヘルムの言葉に一理あると感心してしまっていたシンは、この状況をどう乗り越えるのかとケヴィンの方を見る。すると彼も、思わぬ追求に答えを準備していなかったのか、僅かながらの動揺を見せていた。
「興味・・・ですか。一体どんな事に興味を?」
「いや、どうやって私とジークベルト氏が接触する事を知ったのかと思ってね・・・」
こちらがベルヘルムを疑っていたように、向こうも自分とジークベルトの件を知っている者達を炙り出し、その情報をどこから仕入れてきたのか、出所を探ろうとしているようだった。
言葉に詰まるケヴィンに対し、二人の会話を聞いていたマティウスが助け舟を出した。
「クリスから私のところへ報告がありまして。貴方からの届け物を事前に受け取っておりましたので、それで恐らくそうなのではと私が彼らに話ました」
「・・・なるほど。貴方がそう言うのであれば説得力がある」
マティウスの口にした内容はシン達にとっても初耳だった。だがマティアスとクリスの関係性は既に彼本人から聞いている。ベルヘルムも彼らの関係性を知っているからこそ納得してくれたのだろう。
ここは一旦、マティアスに任せベルヘルムの出方を伺う。獲物に逃げられたかの表情を浮かべるベルヘルムだったが、マティアスの話は彼の知る情報と辻褄が合うようで、それ以上追求されることはなかった。
「彼と行動を共にする事になったのが、君達の運の良さを感じさせる・・・。いいだろう、確かにそれなら私も納得せざるを得ない」
「疑いが晴れたようで何よりです」
「しかし、まだお互い信頼関係は築けていないようだな。さて、今度は君達が集めてきたという情報について聞かせて貰おう。実は大司教が遺体で発見されてから、その現場以外に出ていなくてね」
どうやらベルヘルムは、ジークベルトの遺体が発見されたという報告を受けてから、現場を確認しに行き、その後はずっと部屋にこもっていたようだ。それは彼の部屋に立ち入っている教団の護衛が証明している事から、嘘偽りはないものと窺える。
ジークベルトの死後から宮殿内で集めた情報であれば彼に話してもいいだろうと、ケヴィンはこれまで話を伺ってきた者達の話をベルヘルムに伝えた。
一方、ベルヘルムの部屋の前で待ちぼうけを食らっていたミア達は、外の見張りの護衛らから何か聞き出せるものはないかと、時間を潰すついでに対話を求めていた。
「なぁ〜、俺達いつまで待ってりゃいいんだぁ?もうだいぶ日も暮れてきたぜ?」
「さぁな・・・」
ミアのそっけない返事に唇を尖らせるツバキ。窓から見える景色は、彼の言う通りすっかり日も暮れており、街並みの向こうに僅かにオレンジ色の光を灯す程度の明かりしか差し込んでいなかった。
「アンタらのボス、話し長いのか?」
造船技師の時の経験が活きているのか、大人との会話に慣れているツバキは自然な流れで護衛を務める人物に話を振った。だが、どうやらその男はベルヘルムの護衛ではなかったらしい。
「俺のボスはベルヘルム氏ではない。俺がここにいるのは護衛という建前の“見張り“だよ」
「見張り?あぁ、俺らにとってのケヴィンっていう探偵と、マティアスのおっさんかぁ・・・。アンタらも大変だなぁ」
「このような状況になってしまっては致しかあるまい。どこの誰が犯人か分からぬ以上、一つのチームでの行動は厳禁とさせてもらっている。無論、俺達も同じだがな」
「へぇ〜、教団っていっても仲間を疑う事もあるんだな?」
「当然だ。時には命を預け合い協力することもあるが、裏切りというものはいつ如何なる時に起こるか分からない。今回の件も、あらかじめ計画されていたものかもしれないしな・・・」
教団の護衛であると口にした男からは、興味深い話が聞けそうだった。別のところでも聞いた話だったが、教団の関係者同士であっても互いへの疑いの目は持っているようだ。
「その口振りだと、以前にも教団の内部で同じような事が?」
話を聞いていたツクヨが思わず口を挟む。教団の内部情報を掴むというのは、シン達にとっての目的でもあった。パーティーが終わり、それももう終わりかと思っていたが、思わぬところで更なる追加の情報が掴めそうだと動き出した。




