二つの事件の関連性
「今、アルバで起きている失踪事件。ただの偶然か、これも人が忽然と姿を消してしまうという不可思議な現象だと言われています。そしてこの事件も、昔からアルバの街に伝わるものではありません・・・」
シンがケヴィンから聞いた話では、アルバで起きている失踪事件とやらも、シン達がアルバへやって来る少し前から起こり始めた事件だという。
だが、失踪事件の方は被害者の姿が確認出来ていない。何より妙なのは、当人や被害者の身の回りの者達に僅かながらの記憶障害のようなものが起きているというものだった。
簡潔に言うと、被害者とその周りの者達はその不可思議な現象の事についての記憶が曖昧になっていたのだ。事件解決に繋がる手掛かりになりそうなところほど何も覚えておらず、捜査は難航していた。
そして今回のジークベルトが遺体となって発見された事件。といっても、まだ他殺であると断定した訳ではない。十分自殺ということも考えられるが、ジークベルトに自ら命を絶つという動機がそもそも無い。
彼は野心を持って教団内で成り上がろうとしていた。それこそ手段を選ばず、邪魔者を排除するような非道なことも裏ではしていたと噂する者がいるくらいだ。彼がアルバへやって来たのも、そんな根も歯もない噂を信じている嘗ての同期で、同じ教団に属するルーカス司祭を口封じの為、始末しに来たのではないかとケヴィンは疑っていた。
「最近になってアルバに起こり始めた・・・って、言ってたな」
「そうです。シンさん達がこの街を訪れる少し前から、そのような不可思議な事件が起き始めていた。そしてそちらも捜査は難航しており、犯人に繋がる手掛かりは全く掴めていません」
「その事件と今回の事件が繋がってるっていう根拠はなんだ?ただどっちも未解決って理由じゃねぇんだろ?」
ミアがケヴィンに二つの事件が何故繋がっているという考えに行き着いたのかを尋ねる。すると彼は、以前から起きていたアルバの失踪事件は、今回の事件の予行演習だったのかもしれないと語り始めたのだ。
「どうにも私には、二つの事件が関連しているのではないかと思えてならないんです・・・。というのも、お二人には話ていなかったかもしれませんが、その失踪事件の関係者・・・つまり被害者遺族やその友人達にも起きていた不可解な記憶障害。それを調べるため、様々な検査が行われました」
「検査?」
「はい。それこそ今回のように毒による脳への障害や、魔力による一種の催眠や洗脳状態にあったのではないか。いろんな角度から手がかりを探しましたが、今回のように何かおかしな事が見つかることはありませんでした」
ケヴィンの話からすると、そのままでは何も見つからず検査も終わってしまったような言い方だが、わざわざこのような話をしたということは、そこから何か今回の事件に関連する何かが見つかったのかもしれない。
「おいおい、それじゃぁまた話が振り出しに戻っちまうじゃねぇか」
「すみません、少し前置きが長くなってしまいましたね。本題はこれからなんですが・・・。実は検査を受けた方の中に、自律神経の乱れや軽度の動悸を起こしていた方々がいたのです」
たまたま検査をした事件の被害者の周りの人物が、こうも重なってそのような症状を起こしているというのも怪しいが、それ以上にその者達の身体から今回ジークベルトの遺体から検出された毒素と同じものが、微量ながら検出されたのだという。
「同じ毒!?つまりその毒が何か異常を引き起こしていた?」
「あぁ、いえ・・・。ですがその毒素というものは、日常生活の中でも偶然紛れ込んでしまう事があるようなものらしく、それに人体に異常をきたす程の量でもなかったようなのです」
「でも同じ毒ってことは、犯人は同じ人物で手口も似ているって事か」
「そうなりますね。ただ一つ、死者が出ているという違いを除けば・・・ですが」
しかしそれも、失踪した者達が帰らぬという点からも、既に殺されているなどして死亡していれば、今回のジークベルトの死と同じ犯行と言っても過言ではない。
「それなら、その失踪事件とやらが起きる前からアルバにいた奴らの中に犯人がいるんじゃねぇのか?二つの事件が繋がってるんなら、他所から来たアタシらと同じように、他の要人達にも犯行は不可能じゃねぇか?」
「それがそうとも言い切れないようで。私も先程宮殿内で教団の方から聞かされたのですが、様々な方面からいらしている要人達の彼らなんですが、使いの者や本人自らの足で数日前からアルバの視察をしていたようなんです」
「視察?なんだってそんな事を・・・」
「それはアルバが安全な街であるかを確認する為でしょうね。中には遠征を行う方々もいらっしゃいましたから、尚更問題が起きることを避けたかったのでしょう」
しかしアルバは音楽の街として有名であり、各所から著名人や観光客が訪れる街としても大人気な街だった。それにこれまで大きな犯罪や事件が起こったという記録も少なく、いたって平和な街だったと言える。
「んだよ、結局無駄足だったってことか?」
「そうでもないですよ。少なくとも私の中では、あなた方の中に犯人がいる可能性、或いはあなた方が犯行グループである線は無くなったと見ています。これは今後の考察や動きとして、他の方々よりも優位になったという事でもありますからね」
シン達のグループは、他に探偵のケヴィンと教団関係者でアルバの祭司でもあるマティアスという組み合わせだった。その中で疑いの目が無くなり、信頼関係が生まれれば、他のグループのギクシャクした関係と比べれば、大分雰囲気も良くなったと言えるだろう。
それに自分のグループ内の大半が犯人でないと分かれば、後はマティアス司祭の動向を伺っていればいいだけという安心感にも繋がる。




