疑いの目
詳しい状況についてはまだわかっていない様子だが、どうやら亡くなったのは昨夜から明け方にかけてだと思われる。早朝、ジークベルトの護衛の者が彼を起しに部屋を訪れるが返事は無かったそうだ。
誰も部屋に入れずロックを掛けていたので、部屋にはジークベルト本人ただ一人だったと思われる。つまり密室だったことになる。最後に部屋を確認したのは護衛隊長であるオイゲンだったという。
翌日の仕事の話をした後、就寝につくと言いどんな要件であれ、翌朝の起床よ時刻まで誰も部屋に入れるなと言い渡されたそうだ。現に彼の部屋の前では、教団の護衛が交代で警備に当たっており、それ以来誰も部屋には入っていないとの事。
そしてジークベルトの起床時刻となった早朝。オイゲン自ら彼の部屋を訪れ扉をノックするも、何度確認してもジークベルトからの返事はなかったと語る。別の護衛の者に確認させるも、彼の部屋は常にカーテンが閉められており、外から様子を見ることはできなかったようだ。
無論、外から彼の部屋へ忍び込もうとする輩など発見されず、そんな形跡もない。仕方がなく、オイゲンは護衛隊長としての権限で自ら判断し、宮殿の受付でマスターキーを借りると、複数の護衛と宮殿の警備の者数名と共に彼の部屋の施錠を解除し、中の様子を確認することにした。
そこで、床に倒れるジークベルトが発見された。
外部に大きな損傷はなく、倒れた時にぶつけたのであろうという痣が僅かにあった程度だった。薬物検査の反応については現在調査中とのこと。すぐにわかる範囲の猛毒に関しては反応は出ていない。
何者かが直接手を下したのなら、護衛の者達が気づかないはずはない。ジークベルトはアルバに来てから何者かに狙われ、遅延性の何かで殺されたのか、或いは護衛の警戒を掻い潜る何らかのスキルによって殺された可能性が高いと思われ、当日宮殿にいた者達の殆どを事件の犯人が分かるまで帰さないようにとの判断が下されたそうだ。
「おいおい・・・マジかよ・・・。俺ら事件が解決するまでここから出られねぇってことかぁ!?」
「何だってそんな面倒事に・・・。ジークベルト・・・大司教の調査といやぁシン、アイツはどうしてんだ?」
ミアの言うアイツとは、当然前日のパーティーで彼を調べていた探偵のケヴィンの事だ。シン本人も、ジークベルトの死亡を聞いた時に彼の顔が真っ先に浮かんだという。
ツクヨと共に宮殿内の状況確認と、犯行現場付近に立ち寄った際にケヴィンが捜査に加わっているのを知ったが、直接彼とコンタクトを取ることはできなかったと言う。
「司祭の依頼とはいえ、色々妙な動きをしていた私達は疑われないでしょうか?」
「どうだろうね・・・。私達は完全に部外者だったんだ。誰かの依頼で送り込まれた刺客と思われても不思議じゃないよね?」
「実際別件ではあるが、ケヴィンは俺達を疑っていたしな・・・」
「そならない為に、アイツの調査に協力してたんだろ?何にアタシらまで宮殿に拘束されんのかよ」
「仕方がないさ。まさか彼だってこんな事が起きるなんて思ってなかったんだろう」
不安そうになるアカリの肩を優しく叩き、安心させようとするツクヨ。
「大丈夫。恐らくこの後色々と事情聴取とかもあるだろうけど、こうなった以上正直に全てを話せば、身の潔白は証明されるさ」
「ルーカス司祭も・・・ここに?」
「あぁ、現場検証の場にいたよ。教団の関係者だからね。立ち会いにも許されたんだろう。事件が起きてしまった以上、彼も私達に依頼していた事について口を割るんじゃないかな?」
ルーカス司祭からの依頼はあくまでジークベルトの近辺調査のみで、危険なら手を引いていいと言われるほど条件の厳しいものではなかった。何なら彼は、シン達が何の情報も掴んでこなかったとしても構わないといった様子だった。
彼やケヴィンの証言があれば、シン達に犯行の動悸がそもそも無いことは明白なはず。犯人の候補として疑われる心配もないと思っていたが、シンはそこでとあることを思い出す。
そもそもシンだけは、二度目に宮殿へ来た際にケヴィンから指示を受け、三階のジークベルトの部屋がある階層にやって来ている。しかも変装し警備の目を欺きながら犯行現場付近へと訪れている。
そして最もシンの心配を跳ね上がらせる要因として、彼はジークベルト直属の護衛隊長であるオイゲンに顔を見られてしまっている事だった。




