代行修理
「今から修理士を呼ぶなんて無理だよなぁ?」
「時間が時間だしなぁ・・・。それに今から来たところでライブには・・・」
困った様子の従業員達の元に、意外にも積極的に向かっていったツバキ。徐に動き出した彼を追い、ツクヨがまるで保護者のようについていく。
「なぁ、それ見せてくれね・・・見せてくれませんか?」
「ん?あなた方は?」
ツクヨは咄嗟にツバキの肩を抑え歩みを止めると、自分の弟が突然首を突っ込んでしまい申し訳ないと誤りだした。余計な事をとツバキが一瞬睨みつけると、続けてツバキは言葉を繋げる。
「設計図とか説明書とか・・・何かあれば修理できるかも知れません!」
「本当かい!?それは助かる!」
「おい、お客に何をさせるつもりだ?それに他の機材の準備で俺達には時間が・・・」
「それなら制限時間を設けて下さい。直っても直らなくても機材はここに置いておきますから」
「ん〜・・・それなら、俺達が機材を舞台裏に運び終えるまで・・・だな」
「とりあえず今は、後に控える歌手や合唱団の為にステージを空けなきゃならない。それまでの間に何とかできれば・・・」
「分かりました、それで構いません。設計図はどちらに?」
ツバキは慣れない敬語で上手く振る舞っている。何故彼が急に修理を申し出たのかはツクヨには分からなかったが、何か人の為に動こうとするツバキの様子を見てまるで我が子の成長のような感覚がツクヨの中に芽生えた。
従業員は、通路の途中にある倉庫に様々な機材の設計図や説明書を保管している部屋があると二人を案内し、一緒に探す時間はないからと設計図がまとめられている棚を指差し、そこから探してくれと伝える。
そして必要な道具も置いてあると、工具のまとめられている区画を教えると、二人の従業員は自分達の作業へと戻っていった。
「よし!ツクヨ、探すの手伝ってくれ!」
「でも、設計図なんて見ても分からないよ!?」
「とりあえず全体の図を見りゃいいんだよ。それらしいのがあったら教えてくれ!」
そういうと早速ツバキは棚を漁り、次々に設計図に目を通していくと、それを棚に戻す事なくその場に落とし、目的の機材の形を探して部屋を散らかしていく。
時間制限が設けられている為、今は何故修理を申し出たのか聞くよりも先に、ツバキの手伝いをする為それらしい設計図を探して、一緒になって書物を漁る。
実物の見た目と大きさを見ていた為、直ぐに設計図は見つかった。
「あった!これじゃないかな?」
「どれ?」
急いでいるツバキは、奪うようにツクヨの手から設計図を取ると、中身を確認しツクヨに先程従業員から指し示された工具の置かれているところを指差し、適当に幾つか工具箱を機材のあるところへ持ってきてくれと指示する。
倉庫を飛び出したツバキは、機材の置かれているフロアへ向かい、床に座り込みながら自身の工具を使い機材の背面を開け始めた。
「適当に持ってきてくれって・・・どれが必要なんだぁ!?・・・えぇい!持って行けるだけ持っていってやる!どうせ片付けは私達がやらなくてもいいんだから!」
意を結したツクヨは、後のことなど考えず持てるだけの工具箱を抱えて倉庫を出ていく。機材の元へ戻ると、ツバキが既に修理をおこなっているようだった。設計図に軽く目を通しただけで、もう内部の作りを把握してしまったのだろうか。
「もう修理してるの!?」
「こういうのは実際に見比べた方が早いんだよ。正常なところと・・・設計図とは違っているところを・・・あった!ここだ」
ツバキはスティック状のライトを口に加え、手にしている工具で複雑に繋がれたコードを外し、基盤のようなものを取り除くと更に内部は、より複雑化した構造をしているのが素人目にも見て取れる。
「あぁ・・・なるほど、ここが焼き切れてる。・・・ん?でもなんでこんなところが・・・」
原因を突き止めたツバキは、ツクヨの持ってきた工具箱の中から専用の工具を使いながら、手際よく修理をしていく。失われたパーツは別の物を代用し繋ぎ合わせ、機材の起動に支障がないように組み立てていくと、従業員達が何度も往復する前にあっという間に直してみせた。
その一部始終を側で見ていたツクヨには、全く何をしているのか理解できなかった。そこへ別の機材を運んでいた従業員が二三回目くらいの往復を終え、彼らの元へやって来た。
「おいおい!まさかもう直しちまったのか!?」
「これなら順番を変えるだけでライブは出来そうだな!早速上に報告してくる!」
「ありがとう!あなた達のおかげで何とかなりそうだ。ついでと言っては何だが、その辺にある楽器も見てくれないか?俺達じゃどう修理していいのかとか、調整の仕方が分からなくて・・・」
無事、ライブで使われるという機材の修理は完了したものの、いくらツバキでも楽器の修理は出来ない。いや、構造上の修理は機材と同様に設計図や説明書などがあれば直せるかも知れないが、音の調整などは全くの知識も理解もない。
「おっおい、構造的な修理は出来てもチューニングはッ・・・」
「チューニングは俺がやりますよ」
二階に来てから聞いた覚えのない声に一行が振り返ると、そこにはクリスと同じ音楽学校の生徒であるレオンハルトが立っていた。




