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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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矛盾と隠し事

 引き続きVIPルームの盗聴を続けているシン達の元にツクヨがやって来る。暇そうにしていたミアが真っ先に彼の姿を捉えると、手を振って合図を送る。


 「忙しいところごめん」


 「いやぁ?そんなこともないぜ。そっちも暇だったろ?」


 「ははは、まぁいい話を聞けたかなって感じかな。それでちょっとお願いがあるんだけど・・・」


 ツクヨは申し訳なさそうに、一階のパーティー会場で行われている歌唱を聴きに行きたいと話す。当然ながら事情を聞かれたツクヨは、素直にその理由を語る。


 先程、VIPルームから出てきた女性歌手のカタリナと話したこと。そして彼らの護衛から彼女の話を聞き、一階の会場で一般の客層向けに歌を披露するので是非聞きに来て欲しいと誘われた事を。


 「お!そりゃぁいいな。じゃぁアタシがアカリと一緒に行ってくるよ」


 「え?ミアがかい?」


 「だってツバキはどうするんだ?それに女同士の方がずっと側にいれるだろ?トイレとかよ?」


 「あぁ〜・・・なるほど、確かにそうだね」


 「まぁそういう訳だから、あとは任せたぜ?シン」


 急に元気を通り戻したミアは、軽快に席を立ってその場を後にする。残されたシンは、引き続きケヴィンと共にジークベルトの動向を伺うとツクヨに伝え、彼もツバキの元へと戻って行った。


 アカリとツバキの元にはミアが合流しており、ツクヨの帰りを待っていた。彼が到着すると二人は入れ違うように立ち上がり、歌唱を楽しんでくると言い残して一階へと降りて行った。


 「ミアの奴、随分と楽しそうだったな」


 「あっちは暇だったみたい」


 「そっか。まぁあとはここの料理に飽きたとか?」


 「それもあるかもね」


 「なぁ、俺達はどうするよ?特にやる事ものねぇんだろ?このままってのも時間の無駄じゃねぇか?」


 ツバキの言うことも一理ある。待機とは言うものの、実際にジークベルトの動向を伺っているのはシンとケヴィン。何か動きがあるにしろ、状況を把握している二人の方が動きやすく対応しやすいのも事実。


 「そうだね・・・。宮殿の中でも見て回ってみようか?」


 「おうこなくっちゃ!俺もじっとしてんのは性に合わねぇぜ」


 「それじゃぁもう一回シンのところへ行ってこないと」


 いちいち報告しなくてもいいのではとツバキは言う。だが別行動するとなればお互いが何をしているか、どこにいるかなど把握しておかないと、これだけ広い宮殿の中だと合流するのも難しくなってしまう。


 そこでツクヨが思い出したのは、シンとミア、そしてツクヨの三人はWoFのユーザーであるが故のメッセージ機能があるという話だった。以前にもこの機能の事は聞いていたが、ツクヨから使うのは初めてだった。


 視線を固定し、視界の中にメニュー画面を表示させると、そこからメッセージの項目を開きフレンドからシンの名前を選ぶ。


 シンのところへ行くと言いながら、その場で立ち止まり物思いに耽っているかのようなツクヨの後ろ姿をツバキは黙って見ていた。暫くするとツクヨが振り返り歌唱の件を伝えた時に、自由にしてていいと言われた事を思い出したと彼は言い出した。


 「ふ〜ん、そっか・・・」


 ツバキは特に反応する事もなく、その場の料理と皿を片付け出発の準備を整えると、最後に水を一気飲みしてその場を後にした。直接彼らに聞いたことはなかったが、ツバキは以前にもツクヨ達の不自然な行動や思考に違和感を覚えていた。


 何かあるのではと最初に思ったのは、シンが一時的にパーティから離脱し現実世界へ戻った時の事だった。グラン・ヴァーグからの海上レースを終えホープ・コーストの街に到着した後、苦楽を共にした仲間が欠けているにも関わらず、そのまま後で合流するとだけ言い、次の街へと向かった行った。


 初めはそういう距離感のパーティなのだと思っていたが、要所要所では今のように逐一連絡を取り合う様子を見せる。それほど重要なことではないから説明もないのだろうとツバキも彼らを信用し黙っていた。


 オルレラの街でもリナムルでも、彼らのツバキを心配する様子や気持ちには嘘偽りなどは全く感じなかった。ツバキも彼らの大事な仲間の一人であるということが、彼らの行動や発言からも伝わってくる。


 だから、今は説明がなくともいずれ話してくれる時が来るのかもしれないと、ツバキは彼らのそんな矛盾点には敢えて突っ込んだりはしなかった。


 彼がそういった思考に至るのも、ウィリアムや同じ造船技師の仲間達、そして海賊などという男達の世界で育った事もあり、何でもかんでも聞くという行為が無粋であるという文化が身に染みていた事もあるのかもしれない。


 「二階には何があるんだぁ?」


 頭の中を過ぎる様々な思いを振り払うように、いつもの調子でツクヨに話しかけるツバキ。


 「それを確かめるのも、探索の醍醐味じゃない?」


 「それもそうだな!」


 無邪気な笑顔を向けるツバキの表情に、ツクヨは彼がそんな思いを抱いていたなど微塵も感じる事はなく、二人はミアとアカリが降りていった階段へと向かい、宮殿の二階へと降りていく。


 予想もしていなかったツクヨからのメッセージに、シンは驚きながらも彼に了解の返信をした。不意にシンの表情の変化と視線の動きが気になったのか、ケヴィンが心配して声を掛ける。


 「どうかしましたか?」


 「あぁ・・・いや、ちょっと目が疲れただけだよ」


 「このカメラ、初めてって感じでしたもんね。長時間付き合わせてしまって申し訳ない・・・」


 「大丈夫、慣れてるから」


 「?」


 長時間のゲームには慣れている。シンは無意識にそんな返事で返してしまったが、ケヴィンにはシンの発言の意図を推察することなど出来なかった。慣れているのに目が疲れるとはどういう事なのか。そして映像を見続けることに慣れているとはどういう事なのか。


 だが、実際問題ケヴィンも長時間映像を見続けていたことで疲れも溜まっていた。


 「少し休憩も挟みますか」


 「いや、それじゃぁ部屋の様子が・・・」


 「休むと言っても二人同時ではなく交互に・・・ですね。私はまだ大丈夫なのでお先にどうぞ」


 「そうか・・・ありがとう」


 シンは耳に装着したデバイスをタップし、映像を一時遮断した。この間も音声だけは届いており、文字通り目だけを休ませることができる。ツクヨとのメッセージを誤魔化すためとはいえ、目が疲れていたのも事実。シンはそのままグッと目を瞑り、視線をぐるぐると動かして目を慣らし始めた。

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