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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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技術の品

 今まで最先端と言われていたアークシティの技術力。しかしシン達はあまりイメージが湧いてこなかった。それと言うのも、彼らの暮らしていた現実の世界が既にそれなりに未来的な技術力を見てきていたからだ。


 それに加え、広大で自然豊かな土地や中世のような建造物、そして技術とは無縁かのように思える小さな村々などの光景が多いWoFの世界において、なかなかその両極端なものが合致した光景が想像つかなかったのだ。


 だが、彼らの現実の世界にも無いような技術力の結晶が、今二人の手の中にある。それもそんな未来の代物が安価で誰でも手に入れられるという事に、更なる驚きがあった。


 これだけの物が誰でも購入できると言うことは、より高価な物や技術力の最先端にある物はどんな事ができるのだろう。そんな想像を膨らませられる物だった。


 「話を戻しますが、今お二人に見ていただいているのは大司教のいるVIPルームの映像です。先程マティアス司祭に連れられ挨拶回りに行った際に、隙を見てカメラを仕込んできました」


 「カメラを・・・?よくバレなかったな」


 「職業柄、いろんな道具が必要でしてね・・・」


 そう言って見せてくれたのは、先程のイヤホンよりも更に小さな球体状の物だった。ケヴィンがそれを軽く指で小突くと、その球体は変形を始め小型の蜘蛛のような形状へと変わった。


 彼の手の中で動き回った後、その蜘蛛は掌の上から飛び出しテーブルへと下りた。すると、周囲を見渡すようにくるくる回りながら、身を隠せるような場所を見つけると食器の下へと入り込み見えなくなった。


 一連の動きを見ていたシンとミアが、体勢を低くしその隙間を覗き込むと、そこには先程の蜘蛛の姿がなかった。


 「あっあれ?」


 「どこに行った?」


 そんな二人の新鮮な反応に、気分が良くなったのかケヴィンは嬉しそうに解説を始めた。


 「どこにも行ってませんよ。そこにいるんです、姿を消してね」


 「姿を消すぅ?」


 「生き物の中には、保護色というもので身を隠す生き物がいるのはご存知ですか?それと容量は同じです。実際にその体表を変色させている訳ではなく、光の反射を利用して人目につきにくくしているのです」


 様々な角度から覗き込むと、確かにその場所に僅かにだが違和感のある空間を確認することが出来た。そしてケヴィンが手元で何かの操作をすると、シンとミアの視界に映り込んでいた部屋の映像は、彼らの覗き込む顔の映像へと切り替わる。


 「ぅわっ!」


 「なるほど、今のにカメラが搭載されていたという訳か」


 「その通り。面白いでしょ?これで部屋の映像を映していた訳です。式典やパーティーの前に会場のチェックはされていたようですが、まさかその最中に堂々と仕掛けられるとは思っていなかったでしょうからね」


 どうやらケヴィンは、護衛の者達以上に会場のチェックやその警備体制について詳しく調べていたようだ。その上でカメラを仕掛けるタイミングを、そのパーティーの真っ只中に選ぶという大胆な作戦にでた。


 結果的に、誰にも気づかれず疑いの念すら抱かせずに、見事カメラの設置に成功している。流石に来客を招いている中で会場を調べたり、電子機器を機能停止にする電波などは使えない。


 一見、危険な作戦のようだが逆にその堂々とした行いこそが盲点をつく、実に理にかなった手段だったようだ。


 「さて、それでは今度は部屋の音声を聞いてみましょう」


 再びケヴィンが手元で操作を行うと、耳に装着したイヤホンからカメラの仕掛けられた部屋の音が聞こえ始める。様々な人物の会話と食器の音、そして位置によっては足音や衣装を擦る音まで聞こえてくる。


 「凄いな。これがあれば大司教の会話も筒抜けだな」


 これだけ精巧な機械があれば、自ら危険を犯すことなく情報を集めることが可能だろう。しかし、それなら尚更ケヴィンが二人の協力を仰いだのが疑問だ。彼は何故これほどの物を持ちながら、情報を渡してまで二人を引き止めたのか。


 その答えは二人が尋ねるまでもなく、彼の口から語られる事となる。


 「それが・・・ですね。見てもらった通り、映像は部屋の端から撮ったもので、これでは大司教の音声だけを抽出するのは難しいんです。そこでシンさんの能力で、先程見せたカメラを大司教の衣装の中に忍ばせて欲しいのです」


 「能力?アンタ、シンの能力を知っているのか?」


 この時のミアは知らなかったことだが、ケヴィンはグーゲル教会にてジークベルト大司教と対話をするところを、内部に忍び込み盗み聞いていたシンの存在に気付いていた。


 その一件をミアに説明すると、ケヴィンはシンの能力の条件について推理し始めた。彼が考えるシンの能力というものは、限られたエリア内の空間を物体を通り越して移動できる能力であり、それには本人がその場所を訪れるか、何かしらの方法でその場所や構造を目にしている必要があるのではないかと語った。


 概ね彼の推理は当たっていた。だが流石に影の中を移動しているとまでは分からなかったようだが。それでもシンのその能力の条件を満たす為、ケヴィンの仕掛けたカメラは役に立った。


 「どうです?やって頂けますか?」


 シン自身、彼の申し出を断る理由はなかった。作戦が成功すれば、ジークベルト大司教本人の口から教団に関する更に詳しい情報を手に入れることができる。また、彼が手を結んでいた裏の組織に関しても何かわかるかもしれない。


 ただ、実際に訪れていない場所への移動は、影の能力に制限が掛かってしまう事も確かだった。カメラ越しの映像があるとはいえ、自身の影を使えぬ以上その精度と移動できる物質の質量、そして移動できる距離にも制限が掛かってしまう。


 「出来なくはないが、遠隔での操作になるからここからでは無理だ。もう少しその部屋に近づかないと・・・」


 「分かりました。どの辺りまで近づく必要があるのか教えていただけますか?」


 シンは彼に、カメラ付きのデバイスを送り込む為に必要な距離を説明した。ケヴィンは荷物の中から宮殿の見取り図を取り出すと、彼らのいる階層のページを開き、シンにポイントを指し示させた。


 「なるほど・・・分かりました。私が何とか貴方をこの場所まで連れて行きます。カメラを仕掛けるまでの間、私とミアさんで護衛の目を逸らさせましょう」


 どこか近くに部屋でもあれば都合がよかったのだが、シンがVIPルームへ物を送り込むのにギリギリの距離となると、長い廊下の間で能力を使うことになる。


 そして難しいことに、その廊下にはシンの能力の範囲内にVIPルームと作戦実行のポイントを収めようとすると、間には何も無いのだ。当然部屋の前には護衛が数名配置されている。


 長い廊下に立ち尽くしていては、その護衛や巡回している護衛に怪しまれてしまう。そうならない為の人避けとして、ケヴィンとミアは一芝居うたなければならないという運びとなった。

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