探偵の依頼
ツクヨ達がカールから教団についての話を聞いていたように、シンとミアも同じ話をケヴィンから聞き出していた。
「燃料や研究・・・そりゃまた金の掛かりそうな話だな」
「えぇ。いくら最先端の技術が集まるアークシティとはいえ、際限なく資源や金銭を使えるわけではありませんから」
ケヴィンの口ぶりからも想像できるように、つまり教団やアークシティは何らかの方法によってそういった資源や金銭を世界中から集めている事になる。
その為の布教活動や、資源の豊富な土地に研究施設を設置し、現地にてその資源の有用性の研究や新たな燃料としての開発が行われていた事になる。この話を聞いたシンは、あまりピンときていない様子だったが、ツクヨ達と同じようにオルレラを訪れたミアは、その研究所でどんなに非道な事が行われていたのかを思い出すきっかけとなっていた。
「しかしながら、ほとんどの信者の方々はそんな事など知る由もないでしょう」
「ん?どういう事だ?なら何故アンタは知っている?」
シンが思わず聞き返してしまったが、ケヴィンは様々な国や組織、そして民間の者達か依頼を受けて事件や謎を解決する仕事をしている。そんな彼の元には自ら調べずとも様々な情報が集まる。また、調査の為に資料や聞き込みをする中で、そういった話を耳にする機会も普通の人間より遥かに多い事がわかる。
「彼らの主な資金調達の方法というのは、表向きには教団が抱えている騎士団による強大となった魔物の討伐依頼や、救援を要請された際の依頼金、そしてそんな討伐した魔物の素材の売買によるものがほとんどで、信者によるお布施を強制することもなければ地域ごとのノルマも存在しません」
「本当の意味でお布施は“気持ち“になってる訳だな」
「はい。それに小さなものではありますが、お布施をすればその教会の司祭や司教から加護を授かることも出来ます。お布施に応じた正当な加護のようです」
ケヴィンの語る加護とは、ゲームなどでもよくある一時的な能力上昇や、モンスターなどから襲われなくなるエンカウントを避ける効果、一部の呪いや病気を祓うことのできる回復効果など多岐に渡るものが存在する。
直接戦闘に関係がなくとも、この世界の全ての生き物が持つステータスで基礎的な身体能力の向上の効果を持つ加護が、信者達にも与えられていたようだ。
分かり易いものでいうと、腕力の上昇により重たい物を持ち上げられるようになったり、脚力を上昇させ移動を速くしたり。中には運の能力値を上昇させ、ギャンブルを行う者も少なくないようだが、あくまでそれは運の要素が絡む為、確実に当たるなどということはない。
「なるほど。ほとんどの人間にとって入信することに何らデメリットとなることはないのか」
「まぁ、必ずしもそうとは言い切れませんがね・・・」
「と、言うと?」
ケヴィンは周囲を見渡し近くに人がいないのを確認すると、シン達に顔を近づけ小声でその理由を話す。
「先程話たジークベルト大司教の一件がそれです」
教団に入ることで様々なメリットを、代償を少なくして受けることができるが、その代わり教団からの招集に応じなければならなかったりし、祈りを捧げる事による潜在的に生き物が持つ魔力の徴収が行われたりするようだ。
魔力の徴収と言っても、全ての魔力を一気に吸い上げられることもなく、また失われた魔力というものも、日常生活の中で自然と回復していくものなので、普段の生活や個々の肉体に影響が出ることはほとんどない。
それを利用し悪事を働いていたのが、ジークベルトの出世のカラクリという訳だ。その上ジークベルトには裏の組織との繋がりもあると噂されている。それは恐らく、彼自身が大きな功績を上げる事により、幸福でより快適な暮らしのできるアークシティへの進出という目論見があるのだと、ケヴィンは考えていた。
「彼が今行っている“過去の精算“は、その足掛かりに過ぎません。汚れを落としてからでないと、上の者にも認められないでしょうからね」
「教会で話していた“見守る“というのは、そういう事だったのか?」
「えぇ、まぁ・・・そんなところです」
気になるほどの事ではなかったが、シンの質問に対しケヴィンは一瞬だけ目を逸らしたのをミアは静観し見逃さなかった。彼にも何か言えぬ事情があるのだろう。それにその事自体にシン達を騙そうという悪意を感じなかったし興味もなかったミアは、その事について追求することはなかった。
「まぁ何だ、アタシらの欲しい情報はあらかた手に入っちまったな。また“変なの“に目をつけられる前に、大人しく宿に戻るとするか?」
ミアは冗談混じりにそんなことを口にしながら、ケヴィンの出方を伺っていた。それを察した彼は静かに笑みをこぼしながら、ミアの期待する返答を口にする。
「ふふ、貴方も人が悪い。えぇ、勿論ただで大司教の情報や教団の事をあなた方に教えた訳ではありません」
「どの口が言ってんだぁ?」
「でもこれであなた方も“身軽“になったでしょ?そのついでに、今度は私の“依頼“を受けてくれませんか?私と居れば余計な事で疑われることも少なくなりますよ?」
彼の口から漸く本題が語られた。ここまでの会話はシン達を逃げられなくする為のものであり、交渉を半ば強制的に受け入れさせる為の罠だったのだ。そんな甘い話があるかと、シンもミアも疑っていたのは確かだが、一辺に必要な情報を確実に手に入れられるのを見逃す手はなかった。
「それで?アタシらに何させようってんだ?」
「先ずはこれを・・・」
そう言ってケヴィンが差し出したのは、小さなワイヤレス型のイヤホンだった。それを付けるよう促したケヴィンは、装着後に本体を人差し指の腹で軽く二回叩くのを二人に見せ、実践させた。
すると、どこからかの音声と視界の中にモニターが出現し、別の会場の様子が映し出されていた。
「こッこれは!?」
「驚きましたか?映像は網膜に直接作用して見えてるものなので、他の人には見られません。映っている部屋は、大司教のいる別の部屋です。所謂VIPルームって奴ですよ」
「そうじゃない!この機械だ」
「アークシティで売られている一般的なデバイスです。よかったら差し上げますよ?別に高価な物ではないので。まぁ協力していただければ・・・ですがね」
悪そうな笑みを浮かべながら二人を見つめるケヴィン。映し出されている映像は別の機械と連動しているのか、二人はアークシティの未知なる技術力に触れ、驚きを隠せなかった。




