調査報告
一件目二件目の公開されている失踪事件では見られなかった、とある被害者の行動と思われる痕跡に違和感があるのだとケヴィンは語る。
被害者は失踪する数日前に、街の外へ行くと言って出掛けることが増えたのだとか。行き先を訪ねてもちょっとした用事があるなどと羽生らかされ、詳しい事は語られなかったそうだ。
無論、訪ねた方もまさか失踪するなどとは思ってもみなかったようで、深く詮索することもなかったという。そして不可思議なのは、決まってその人物が帰って来るのは夜中だったのだそうだ。
戻った際に尋ねてみても、どこかハッキリとしない様子で何をしていたのか自分でも分からないなどと口にしていた。
また他の事例だと、真夜中の路地裏で突然放心状態のようになりながら、手には携帯電話が握られていたりと、それまでのその人物の生活やその様子からはあまりみられない行動をとっているという報告が挙がっている。
「つまり、失踪する前に何かしらの前兆があると?」
「ですが、今挙げた例は異例のもので他の方々の前兆と思われる行動は、他の人でも日常的に行うようなものばかりで、別段おかしな行動と呼べるようなものではなかったようです」
どうやら特徴的な行動をする者もいれば、普段とは何も変わらず突然行方不明になる者もおり、そこに関連性があるかどうかは不明だと、街の調査報告書には記されていた。
「アンタはこれが失踪の前兆だと思うのか?」
「はい、私は少なからずこれが失踪する人物に訪れる何かしらの前ぶれなのでは・・・と」
テーブルに並べられた資料に目を通しながら、ミアは最も新しい失踪事件についてケヴィンに尋ねる。すると、まるでシン達が犯人なのではと思われるような、ある変化があったのだと語る。
「失踪事件はあなた方が訪れる前から、昼夜問わず起きていました。一番新しいものでは昨日の夜から家を出たっきり戻らないという相談が教会にあったそうです。まだ事件性はないのですが、この件を知っている者からするとまた失踪するのではと考える者も多いそうです」
「昨日?そんな事が起きていたのか・・・。全く気づかなかったが」
「ですが、今日になってからピタリと何も起こらなくなったんです」
「前兆もか?」
「えぇ、正確には大司教がアルバに到着してから。そしてあなた方がルーカス司祭の依頼で妙な動きをし始めた・・・。私からすれば何か繋がりがあるのではないかと思いそうなものだとは感じませんか?」
「誰かがアタシらの行動に合わせて何かを企てているのか・・・」
失踪事件が止まり、大司教の来訪とシン達の怪しい行動。それら全てを知っていれば、必然的にシン達が怪しまれてしまうのも納得がいく。しかし一体誰がそんな事をするのだろうか。
二つの事情が重なったのは偶然なのではという見解もできる。そうなると失踪事件がピタリと止まった理由というのは、大司教の来訪にあるのではないかと考えられる。
「私もそう思います。あなた方の承諾も得られた事ですし、これで私は存分にあなた方を調べることが出来ます。ですがこれは、あくまで疑いを晴らす為ですので、気を悪くしないで下さいね?」
「調子のいい奴だ。それでアンタの気が済むなら、アタシらとしても鬱陶しい目から解放されて清々する」
「まぁそう言わないで下さい。あなた方も大司教の事について調べるのですよね?」
彼なりにルーカスから何かの情報を得て調べたのだろうか。既にシン達の目的については知っている様子。しかし、“あなた方も“とはどういう事なのだろうか。
「あなた方“も“?アンタは大司教と知り合いじゃないのか?」
シンはグーゲル教会に潜入した際に、ケヴィンとジークベルト大司教の会話を聞いていた。会話の内容からすると、ジークベルトの方はケヴィンの事を知っている様子だった。
彼が探偵であること。そしてこのアルバへやって来た目的について尋ねており、その時ケヴィンは教団の者からジークベルトを見守るように言われたと口にしていた。
「勿論、大司教を知らなかった訳じゃありません。向こうも私のことは知っていましたし。ですが直接お目にかかったのは、あの時が初めてなんですよ。見守るというのは口実に過ぎません。私は彼に注意を促したかっただけです」
ケヴィンは一連の失踪事件と大司教の来訪には、何か関係があるのではないかと考えているようだ。そして、もしかしたら今度は大司教が失踪の対象になってしまう可能性を危惧していた。
その為、ジークベルトに貴方は教団の何者かに見張られていますよと注意を促すことで、警戒心を高めさせ自己の防衛を強化するように促したのだ。それに護衛隊がついていれば、何かしらの要因によって引き起こされる奇行
を止めることも出来るに違いないと。
「私が考えた考察の中に、失踪事件は何者かによって引き起こされたものであり、今までのは予行練習だったのではないかというものがあります」
「予行練習?」
ケヴィンいわく、これまで起きた失踪事件はあくまで最終的な証拠隠滅という結果であり、その本当の狙いは被害者達の身に起きていた奇行にこそあるのではないかと睨んでいるようだ。
先程もケヴィンが言っていたように、遠出や放心状態といった目立つ変化もあれば日常的な行動の中に隠された、何らかの実験の跡とも取れる行動にこそ事件を解決する手掛かりが隠されていると確信しているようだった。




