音の街の事件
それはシン達がアルバへ到着する数日前の事だった。観光客や地元の者達で賑わっているように見えたアルバの街並みだったが、ここでは最近突如として人が居なくなるという失踪事件が起きていたらしい。
「事件といっても、まだ何者かによる犯行だと断定した訳ではありません。ただ、警備隊も魔物や何者かによる犯行だと睨んで調査をしているようです」
突然ケヴィンはアルバで起きている事件のことに関して、シンとミアに説明し始めた。しかし、彼らとその事件と一体何の関係があるのか二人には皆目見当もつかなかった。
「なぁ、何だって急にそんな話を始めたんだ?それとアタシらに、一体何の関係がある?」
「関係ですか・・・。今は直接的な関係はないかもしれません。ですがこの失踪事件、公に公表されているもので二件、そして公表されていないものも含めると全部で六件起きています」
「・・・何故公表されていない事件が?」
「理由は色々あるそうです。今のアルバの街は多くの観光客や音楽に興味のある人達で賑わっていて、お金の回りもいいそうです。そういった波に水を差したくないのと、はっきりしていない事で人々に要らぬ不安を与えたくないといったところでしょうか」
公表されていない裏の事情を知っているというのは、彼が探偵だからという事なのだろうか。それにしても、実際に起きている事件が隠されているというのに、その被害者の身近な者達は何も言ってこないのだろうか。
「それにしたって、隠しておける事柄には限度があるだろ。その失踪したっていう人の家族や友人は何も言わないのか?」
「それに関しては、それらしい理由をつけて口止めしているのでしょう。それでその公表されてない事件なんですが、全てあなた方がこの街に来た二日間の間で起きたものなんです」
「えっ?」
それではまるで、シン達が街に近づいたことによって加速的に事件が急増したかのような言い方だ。だが事件自体はシン達がアルバに着く前から起き始めていたとケヴィンは語った。それなら彼らを疑うのはお門違いではないのだろうか。
「偶然だろ?そもそも最初の事件はアタシらが街に着く前から起きてたって、アンタが言ったんじゃないか」
「そうですね。確かに事件自体はあなた方がやって来る前から起きていた。しかし、内通者が既にアルバにいて、時期を測って犯行に及んでいたとも考えられますよね?」
「アタシらを疑ってんのか?」
「失礼しました。私も少し悪い癖が出てしまったようです」
少しでも疑う余地があると思った者に揺さぶりを掛けてしまうという、職業柄の病気のようなものだったとケヴィンは二人に謝罪した。その上で、彼は何故二人に対してそんな事をしたのか、どこに疑う余地があったのかを語る。
「私も初めは本当に休暇のつもりでアルバへやってきたのです。音楽にでも触れて気分をリフレッシュしようと。ですがこれも職業病なのでしょうか。先程話した公にされていた二件の失踪事件の話を聞いて、気になってしまいまして街の事情に詳しいであろう教会に話を伺いに行きました」
ケヴィンはグーゲル教会のマティアス司祭に、事件に関しての話を聞くとその調査を依頼されたらしい。休暇というものに慣れていなかったのか、ケヴィンは暇を持て余していたようであっさりとこれを承諾。
その際に、事件に関することは街の重要人物に関する情報が記載された書類を受け取ったそうだ。カフェテリアで時間を潰しながら資料に目を通していた時に見かけたのが、シンとミアだったとこの時初めてケヴィンも意識していたことを知った。
これも探偵としての勘だったのだろうか、ケヴィンはシンが資料に視線を向けているのを食器の反射で察すると、何か調べられては都合が悪い事情でもあるのかと、シンに目をつけ始めたのだと言う。
ただこの時は、あくまで可能性の一つに過ぎなかったので尾行や聞き込みといった事まではしなかったらしい。だが、ニクラス教会でルーカス司祭と話す彼らを見かけたり、博物館で妙な行動をとっている彼らを見かける内に興味が湧き、式典に参加することで彼らが何をしようとしているのかを知ろうと、ルーカスの依頼を手助けするような真似をしていたらしい。
そこで見かけたシンのアサシンのスキルを見て、単純に考えるのであれば、このスキルで人を連れ去ることが出来るのではという考えに至ったようだ。彼らの他に、シンと同じスキルを使える協力者がいるのであれば、事件の容疑者として浮上してくると、ケヴィンは本人達を前に隠すことなく真実を語った。
「それで?そこまで調べて、アンタはアタシらがやったと思うのか?」
「それはどうでしょう。まだあなた方の協力者について調べはついていません。接触したルーカス司祭やカール医師についても、あなた方とは顔見知りではなかったようですし・・・」
「それに俺達には動機もない。何でただの旅の一行がふらっと訪れた街の人を攫う必要がある?」
「私としてもあなた方は未知数だ。金品目的や人身売買、スキルの実験体など理由を挙げればいくらでもありそうなものですが、そのような愉快犯にも見えません」
どうやらケヴィンがシン達に直接コンタクトをとってきたのは、今回の事件の犯人である可能性が薄れてきた事によるものだったらしい。確かに犯行手口で言えば、シンの影を通る能力は、誰にも見つからず痕跡も残さないまま被害者を消し去るのに合致している能力だろう。
しかし、彼らの協力者がアルバに居ない以上、彼らがアルバに到着する前の事件に関しては説明がつかないのも事実。
「調べたいんなら、気が済むまで調べてくれても構わない。要らぬ疑いをかけられちゃこっちも迷惑だしな」
「そう言っていただけると、私としても好都合です。それにあなた方が犯人でないのなら、特に貴方の能力は調査のいい手助けになりそうですし・・・」
そう言ってケヴィンはシンの方へ視線を向ける。もしや初めからシンの能力を当てにして接触を図ってきたのではないかと疑うほど、自然な流れでシンとミアはケヴィンの調査に協力させられる事になった。
「さて、協力も仰げたところで、もう一つあなた方に事件についてお話ししたいことが・・・」
「まだ何かあんのかよ?」
「公表されていない情報の中に、少し妙なことがあるんです」
「妙なこと?」
「失踪された人達なんですが、失踪に至るまでの間に理解できない行動や普通の人間ではあり得ない行動をしていたんです」




