いざ宴の場へ
暫くすると、会場の奥の扉が開き見知った顔がこちらを覗くように見渡している。ジルがシンの伝言をルーカス司祭に伝えてくれたのだろう。
すぐに一行は彼の元へと向かう。そこで彼らは今後の動きについて司祭から説明を受ける事になる。やはり彼も、このような事態になるのを想定していたのだろう。
「ここまでは問題なく入れたようですね」
「あぁ。でもこれからどうする?そっちの会場には一般の俺達じゃぁ普通には入れないみたいなんだが・・・」
「それについてはご心配なさらず。私があなた方をあちらの会場へ招待します。常に私と行動を共にする事になってしまいますが、その点はご了承ください」
招待したした人物と行動を共にするのは、その招待した人物が責任を持つという意味もあるようだ。つまり、シン達が変な行動を取らぬよう見張る役割と、その責任を負うリスクをルーカスが背負うという事になる。
「だがそれでは、俺達はどうやって情報を集める?離れられないのなら、ジークベルト大司教に近づくのも・・・」
「そうですね・・・。招待客を連れた人物をジークベルトの元へ連れて行くのは難しい・・・。彼も警戒してこの街にやって来たくらいですからね。それに私自身も警戒されているようで、直接話すのも難しい状況です」
頼りのルーカスがそれでは、彼の依頼をこなすのは難しい。教団に関する情報くらいなら他の者達からも聞き出せるかも知れない。しかし、ジークベルトを詮索していると本人に知られれば、その時点でルーカスの依頼は果たせなくなる。
「要するに、そこでアタシらの情報収集能力が試されるって事だろ?その為の試験だったんだろ?アレは」
ミアの言うアレとは、二クラス教会でルーカスから出された、大司教の護衛隊隊長の名前を調べてくるというもの。それはルーカスの所謂、依頼を任せられるかどうかを測る技能試験のようなものだった。
基本的に盗み聞くか、どこかへ潜入し誰にも気づかれる事なく書物から情報を得る方法しかなかった。それを成し遂げたということは、ルーカスは彼らの能力を認めた事になる。
「えぇ、その通りです。私にできるのはあくまで会場に連れて行く事だけ。私自身が彼に警戒されている以上、私は彼に近づくことすら出来ない。そこであなた達の出番という訳です」
「ルーカスさん、先に断っておきますが、あくまで危険と感じたら身を引いていいという約束でしたよね?」
ツクヨがルーカスに、再度依頼の条件の話を出す。
「はい、それで構いません。無理だと思ったら下がってください。少しでも怪しまれたらその時点であなた方への依頼は終了という事になります。私もそれについては異論はありません。それに・・・」
「それに?」
ルーカスは周囲を気にした様子で辺りを見渡すと、シン達もう一つ重大な情報を持って来ていた。それは彼の依頼をより難航させる要因ともなるものだった。
「どうやら彼は、この場にかの有名な探偵も連れて来ているようなのです」
「探偵だって?何だってそんな奴を・・・」
「自分を探ろうとする者や、その命を狙う者から身を守るためではないでしょうか・・・。これについては予想外でした。正直、ジークベルトと護衛隊の警戒を掻い潜るだけでも厳しいというのに、彼の監視の目まであるとなると・・・」
しかし、その探偵とやらがどのような事が出来るというのだろう。この世界の探偵がどのように調査を行うのかは分からないが、スキルを用いた潜入や揺動を行えばどうにでもなるのではと思ったツクヨが、ルーカスにその探偵の実力について尋ねる。
「その探偵ってどのくらい警戒するべき対象なんですか?正直スキルを用いればあまり関係ないようにも感じますが・・・あっ!」
「お気づきですか?そうです、彼は探知能力に長けているんですよ。つまりスキルの使用に敏感で、あのような場でそんなことをすれば、すぐに彼に勘づかれてしまうでしょう」
彼らに託された依頼に暗雲が立ち込める。まさかここまで厄介な事になるとは思ってもいなかった一行は、思わず言葉を失う。
「重ねてお伝えしますが、怪しまれたらその時点で身を引いてください。私もあなた方の身の安全を保証できなくなってしまいますし、勿論私自身も危険に晒されるかもしれませんので」
「まぁアタシらにとっては、それのおかげで気軽に挑めるってもんだ。アタシらはいつでもいいぜ、案内できる頃合いになったら呼んでくれ」
「分かりました。ではもう暫くお待ち下さい」
そういうとルーカスはシン達のいる一般向けの会場を後にし、廊下の奥へと消えていった。残された一行は、向こうの会場に着いたらどのように情報収集を行うのかについて考えていた。
「でも実際どうするんだい?そんなに警戒が強いんじゃ、シンのスキルもその探偵とやらに・・・」
シンはそこで、仲間達にも言っていなかったある重要なことを伝える決心をする。決して隠していた訳ではない。だが、まさかそれがこのような形で彼らの前に立ち塞がるとは思っていなかったのだ。
「実はみんなに一つ、言ってなかったことがあるんだ・・・」
「言ってなかったこと?」
「まさかまたとんでもないことを言うんじゃねぇだろうなぁ?」
完全にツバキの発言がフリになってしまった。言い出しづらいことであるのは間違いないが、それによって彼らの情報収集にどのおような支障をきたすのかは想像できない。
「実はその探偵に、すでに目をつけられてるかも知れないんだ・・・」
「はぁ!?
一行が驚くのも無理もない。そもそもミア達は、その探偵の存在自体を今さっきルーカスの話で初めて知ったのだ。そして何故シンがその探偵に目をつけられているかも知れないかと思うのか尋ねると、ルーカスの依頼に協力していた動きをとっていたのが窺えたからだとシンは語った。
だが、どうにも腑に落ちない様子のミアは、その探偵の行動について考察し始める。
「だが何だってそいつは、わざわざ手助けするような真似をしたんだ?」
「俺もそれは思ったぜ!怪しい奴がいたんなら、そもそも式典やパーティーには近づけさせないようにする筈だろ?」
「確かに妙ですよね・・・。それを大司教様は知っているのでしょうか?」
アカリの疑問については全くと言っていいほど分からない。探偵が何を考えグーゲル教会に現れたのか。ジークベルトとの会話によると、彼は教団の依頼で大司教を見守るように言われたと述べていたが、そもそもそれが本当のことなのかさえ怪しい。
ジークベルト本人の警戒に加え、護衛隊と探偵による警戒もある中でスキルの使用を半ば封じられてしまった一行は、どのようにして情報を集めるのか悩んでいると、思いのほか早くルーカスが彼らの元へ戻って来てしまった。
会場へ招待する準備が整ったのだろう。一行はついにルーカスから依頼された目的を果たすべく、教団と近隣諸国から集まる要人達の宴の場へと導かれる。




