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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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証明書の更新

 宮殿へ向かう客達の流れに乗って、一行はアルバに到着して以来誰も訪れていなかった宮殿と呼ばれる建造物の前までやって来る。


 「すっ・・・すげぇ建物だな・・・。何だか緊張してきた・・・」


 「わ・・・私も・・・」

 「ピィ〜・・・」


 入場の手続きをする列に並びながら、ツバキとアカリはその仰々しい建物に圧倒されていた。シン達は聖都にて大きく広々とした城を見ているので、それほど大きな衝撃は受けなかった。


 遠目に見える受付では、何やら側に仮設された小さな衣裳室のようなものに、一人ずつ入っていっている。かといって、出てきた者が別の衣装に着替えている様子もなく、中で何が行われているのか皆目見当もつかない。


 「あれは何をやってるんだ?」


 「何だろう?持ち物検査とか?」


 ツクヨの予想になるほどと納得するシンだったが、持ち物検査にしては何故周りの目を避けるように個室に通されるのだろうか。衣服の下も検査されているのだろうか。


 厳重に検査するのも分かるが、それなら何故教会の時はそうしなかったのだろうと言う疑問が残る。それに、その仮設の個室に入ってからそんなに時間を置かずして出て来ている。


 何か他にも警備の為の検査が行われているのだろう。それでも後ろめたい物を持ち合わせている訳ではない一行は、何も不安や焦りといったものを感じる事もなく順番を待つ。


 宮殿で行われるパーティーがどんなものか話している内に、一行の順番がやってきた。最初に個室へ入る事になったのは、一番前に並んでいたシンだった。


 「カードをお見せ下さい」


 シンはしまっていたカードを取り出し受付の者に渡すと、個室の中へ入るように促される。中が全く見えないカーテンを開けると、中には写真を撮る装置のようなものが置かれていた。


 「そちらにお座り下さい。正面を向いて、どうぞ楽な姿勢でお待ち下さい」


 暫くすると、更に奥に区切られた奥の部屋から声がする。シンの前に部屋に入った人物がカーテンを捲り、彼の前を通り過ぎて外へと出ていった。その手にはグーゲル教会の受付で渡されたカードに、新たな項目が追加されているようだった。


 「次の方どうぞ」


 カーテンの向こう側から男性の声が聞こえると、側に立っていた者がカーテンを捲り中へとシンを誘導する。


 そこには天井に吊り下げられた大きなリング状の装置があり、様々なコードが床に敷かれていた。中央にはお立ち台のようなスペースがあり、機材の画面を見ていた男が、台の上に立って下さいと促す。


 何をされるのか困惑しながらもシンが台の上に立つ。すると、天井に吊り下げられていたリングが降りて来て、シンの身体をまるでスキャニングするように、全身に光を照射する。


 リングが足元まで降りてくると、男は台から降りるように指示する。すぐに済むとだけ伝え、シンは再び部屋の中にある椅子に腰掛けると、間も無くして新たな証明書のカードを渡された。


 そこには顔写真や識別ナンバーなど、最初のカードには記されていなかったより個人を特定する為の情報が記載されていた。


 「以上になります。お疲れ様でした」


 「ありがとうございます」


 「次の方どうぞ」


 一切の余韻もなく、まるで機械のように仕事をこなしていく男。シンの後ろに並んでいたのはミアだった。彼女の邪魔にならぬよう、そそくさと部屋を後にしたシンは、入れ違いで部屋に入ろうとするミアと目が合う。


 咄嗟に新たに更新されたカードを見せ、何も変なことはなかったと安全性をアピールした。彼女は何事もなくカーテンの向こう側へと消えていき、シンはそのまま仮設されたこじんりとした部屋を後にした。


 中から出てきたシンに、今だ列に並んでいたツクヨやアカリは興味津々だった。


 「おいシン!中で何されたんだぁ!?」


 「改造ですか!?それとも薬品投与ですか!?」


 どんな想像をしたらそんな事を思いつくのか。他にも色んな人が何事もなく出てきただろと言いつつ、シンは二人の羨望の眼差しを落胆へと変えるように真実を突きつけた。


 「ただのカードの更新だよ。ほら、さっきよりも情報が多く書き加えられてる」


 「んだよぉ、ちょっと乗っかれよなぁ!?」


 「えっ・・・色々測られるんですか?やだなぁ私・・・」


 プライベートな情報が記載されると思い不安がるアカリ。シンはもう一度カードをよく見てみるが、顔写真こそ載っているものの身長や体重、ウエストなどといった人がコンプレックスを抱きやすい情報は記されていなかった。


 恐らくはそういった情報はデータとしてカードの内部に記されているのだろう。本人確認が必要になれば、カードから記録したデータを抽出し本人であることを証明することができるのだろう。


 「大丈夫だよ。載ってるのは顔写真や、識別番号だけみたいだし、機械を通さないと誰にも見えないよ」


 「そうなんですか?よかったぁ〜・・・」


 「お前は何を心配してんだよ・・・」


 「あら、ツバキさんのようなお子様にはレディの気持ちなんて分かりませんよ!」


 「んだぁ!?このぉ〜!」


 不貞腐れた様子のアカリと、子供と言われたことに腹を立てるツバキがまたいつもの痴話喧嘩を始める。一行の最後に並んでいたツクヨが二人を軽く宥めると、不意に真顔になったツクヨがシンにそのカードの安全性を問う。


 「それ、私達の素性は?」


 彼の言う素性とは、シン達がこの世界の住人ではない事や、WoFというゲームのキャラクターであるなどといった現実的な情報の事だった。シンもすぐに彼の意図を汲み取り、小さく首を横に振った。


 安堵したツクヨは、再びいつもの調子に戻ると個室から後続の者を呼ぶ声が聞こえてくる。二人に気づかれる前に、ツクヨはツバキにお待ちかねの個室へさっさと入るように促した。


 「それじゃぁまた後で」


 「あぁ、すぐそこで待ってるよ」


 そう言い残し、シンは目立ちやすい宮殿の入り口付近で仲間達を待つことにした。

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