期待の結果
目を見て小っ恥ずかしい台詞を恥ずかしげもなく言い放つミアに、聞かされた方が赤面するという事態に陥っていた。それを真正面から受け止めたアカリの顔は、沸騰しそうなほど真っ赤になっていた。
「ぁっ・・・ありがとう・・・ございましゅ・・・」
衣装を着ていないのは残り二人。最後のトリを飾るのは嫌だと先に声を上げたのは、そんな何とも言えない空気を作り出した張本人であるミアだった。
最後になれば期待度や注目度が集まるのは必然。シンもそんな役割を引き受けるなど当然ながら嫌だったことだろう。だがあまりにも自然な流れに、ミアの強行を止めることなど出来なかった。
何なら、初めからこうなるのを計算して、あんな恥ずかしい台詞で場を飲み込んだのではないかと思えるほど、ミアは動揺することなく試着室へと向かっていった。
「あっ・・・。くそ!やられた・・・」
一人だけいつもの格好で取り残されてしまったシンは、一体どんな衣装が用意されているのかも分からぬまま、妙な空気感を感じながらツクヨと同じオーソドックスなスーツにするべきか、ツバキのような長い裾のある燕尾服にしてみようかと思考を巡らせる。
「シンが大トリになっちゃったね、ドンマイ」
「安心しろよ。みんなそんなに期待してねぇって」
「頑張って下さいね!」
仲間達から慰めを受けるシン。周りも分かってくれているようで、勝手に重荷になっていたプレッシャーが少しだけ取り除かれる。それでもシンの衣装選びの悩みは消えない。
不安を取り除くように、ツクヨやツバキに試着室にどんな衣装が並べられていたのかを事細かに聞いていた。
「いやいや、君のことはいいんだよシン!それよりも重要なことがあるだろう!?」
「何でそんなにツクヨが興奮してるんだよ・・・?」
「だってあのミアが衣装を変えるんだよ!?君は気にならないのかい!?どんなものを選ぶのか!」
前にも記したように、彼らはアバターを変えることはなかった。必要性が無いといえばそれまでだが、WoFのゲームとしての世界でも、見た目の衣装が変わるアバターというものは数多くあった。
いつも同じ衣装では味気なく感じることもあるだろう。ましてや女性とあらば、見た目の変化を楽しむというのも、男性以上に重要視するものではないかと二人は勝手に思っていた。
それにも関わらず、ミアがこれまで一切衣装を変えてこなかったのは、そんな暇もないほど様々な事に巻き込まれ、この異変の中でも心の休まることがなかったのかもしれない。
シンとミアは長い付き合いになるが、今ほど時間があるということも無かった。少しくらい束の間の道楽に身を寄せても、バチは当たらないのではないだろうか。
そういった中で、初めて見る別衣装のミアの姿にツクヨはテンションを上げていたのだ。彼に言われて初めて意識したシンも、ミアがどんな衣装を選ぶのかが気になり、自分のことをそっちのけで妄想を膨らませる。
「やっぱりドレスかなぁ〜。アカリのドレスも良かったけど、ミアはきっと落ち着いた色合いの大人っぽいドレスにしてくるんじゃないかなぁ?」
「阿呆か!ミアがそんな肌を出す訳ねぇだろぉ?試着室には男物も女物も、色々置いてあっただろ?どうせお前らの期待するような姿じゃ出てこねぇぞ?」
「あら?私はミアさんも可愛いドレスを着るんじゃないかなって思いますけど?女の子ならみんな、一度はお姫様とか舞踏会っていうのに憧れるものではありません?」
「それ、個人の感想な?みんな同じみたいに言うと、角が立つぞ。・・・まぁそんな意外なミアってのも見てみたい気もするが・・・」
ミアの衣装に勝手に妄想を膨らませる一行。それはさながら最も期待される大トリかのように。かく言う、シンもミアの別衣装には期待していた。彼女がどんなものを選ぶのか。
その衣装には、普段彼女が押さえ込んでいる感情なども反映されているかもしれない。本当はこんなことを考えていて、もっとなりたい自分がいるのではないか。
一行が様々な妄想に耽っていると、それほど時間を置かずして試着室の方から音が聞こえてくる。試着が終わり、いよいよミアが皆の前に現れる。一体彼女がどんな衣装を選んだのか、固唾を飲んでその瞬間を待ち侘びる仲間達。
扉が開いて現れたのは、黒い衣装に身を包んだミアだった。シュッとした足元にウエストがはっきりと分かる腰回り。ビシッと決まった背広を羽織った、男性物と思われるスーツを着たミアがそこにはいた。
「・・・何だよ。さぁ最後はシン、お前だぞ」
「・・・・・」
「・・・だから言っただろ。ミアはそんなキャラじゃねぇって。早く行ってこいよ、シン」
がっかりと言うよりは、やっぱりといった印象だった事だろう。ツバキはミアの事をよく分かっていたようだ。彼の予想は的中し、男性陣が期待していたような肌の露出は全くと言っていいほど無い。
その中でも、アカリだけは嬉しそうにミアに駆け寄り、かっこいいとまるで男性アイドルの追っかけのように、興奮しながら彼女を褒めちぎっていた。




