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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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目に見える音

 教会の寮は複数人で一部屋になっているのか、シン達が案内された部屋には二段ベッドが四つも配置されており、久しぶりに全員がゆったりと寝れる仕様になっていた。


 ツバキとアカリは、早い者勝ちと言わんばかりに上のベッドを確保しに向かう。自分の荷物を投げ入れては梯子を登り、勢いよく飛び込んで行く。しかし、流石に本職の宿屋のベッドとは違い、今までのようなふかふかとしたものではなかった為か、鈍い音と共に二人の小さな呻き声が聞こえて来た。


 「何だよッ・・・!?ふかふかのベッドじゃねぇのかぁ!?」


 「かっ身体を打ち付けてしまいましたわ・・・」


 「そりゃぁ二段ベッドじゃふかふかには出来ねぇだろ。ましてや上のベッドじゃ尚更な」


 ミアの言葉を聞いて、ベッドを軋ませながら下を覗く二人。彼女の口ぶりから下の段はふかふかのベッドになっているのかと思っていたようだが、外見上は上と全く同じ様子だった。


 「おっおい、まさかそっちは・・・」


 「残念ながらそっちと変わらないぞ?基本構造は一緒だ。わざわざ下だけ豪華にはしないだろ・・・」


 荷物が置かれるベッドの沈み具合に注目するツバキ。ミアの荷物は錬金術の道具や調合素材でそれなりの総量がある。しかし、それがベッドの上に転がっていてもあまり沈んでいる感じはしない。


 「んだよ・・・今日は背中が痛くなりそうだな」


 「贅沢言わないの!これだけ立派なら寮として十分すぎる程だよ」


 現実世界で寮に入っていた事があるのか、ツクヨは目を瞑りながら感心している様子でゆっくりと頷いていた。


 簡素ではあるが、トイレやシャワー、浴槽と洗面台が一緒になったものも一室内に設けてあり、それぞれシャワーを使いトイレなどでわちゃわちゃしながら夜を過ごし、別の部屋から聞こえてくるものだろうか、心地の良いオルガンの音を子守唄にしながら、一行は深い眠りへとついた。


 翌朝、一行は疲れていたのか余程気持ちよく眠れていたのか、すっかり日の登ったお昼前までぐっすりと眠ってしまっていたようだった。初めに目を覚ましたのは意外にもミアだった。


 警戒するつもりが、シン達との何気ないひと時に気持ちが緩んでしまい、しっかりと熟睡してしまっていた彼女は、やってしまったといった様子で起き上がり、すぐにベッドから出て洗面所へ向かい、顔を洗って目を覚ます。


 「何てこった・・・警戒するつもりが、まさかこんな時間まで・・・」


 彼女の物音で目を覚ましたのか、続けてツクヨが眠そうな顔をしながら水の音が漏れる扉をノックする。


 「う〜ん・・・あれ?誰か起きてる?」


 「アタシだ、もう終わるから少し待ってろ」


 「ミアだったか。うん、分かった。そんなに急がなくても良いよぉ」


 普段の朝と変わらぬ日常で目を覚ました一行は、全員が起きると寮の様子を見ながらクリスを探す。だが流石に出かけてしまっているのだろうか、寮に彼の姿は見当たらなかった。


 仕方なく一行は寮に残る者と、昼食を取る場所を探しに行く者とで分かれ別行動となった。寮に残ったのは、ミアとアカリの女性二人組だった。残りの三人は寮を離れ、近場で昼食を済ませられそうな所を探す。


 宿屋探しとは違い、店は多く立ち並んでいる。様々な場所でカフェテリアがあったりバルコニーなどで多くの人々が食事やお酒を嗜んでいる。


 「ミアを連れてこなくてよかったね・・・」


 「あぁ、間違いねぇ。アイツがいたらすぐ酒に向かってたろうしな」


 「担当分けが逆だったらと思うと、ゾッとする・・・「


 三人とも思うことは同じだったようだ。そして夜の街並みと比べて、聞こえてくる音楽は少しだけ大きくなっており、よりいろんなジャンルと音楽と楽器の音が聞こえてくるようになった。


 「それよりどうする?どこも混んでそうだけど・・・」


 「買って寮に持ってくのもアリだよな!そういう“買い食い“っていうの?俺憧れてんだよなぁ」


 「じゃぁ探し歩いた私達の特権ということで、何処かのお店でその買い食いをしようか!私も見てたらお腹が空いてきた。それにクリスにお礼も言わずにみんなでいなくなるのも良くないしね」


 話し合いの結果、三人はお店で食事を買い、寮へ持ち帰ることに決めた。あちこちから美味そうな匂いが漂ってくるのに誘われ、興味を引かれる度に店の方へ足を運ぶも、どこも凄い行列になっていた。


 そしてもう一つ、昨日は気づかなかった発見が明るいアルバの街中で見つかる。それは昨晩も話し合っていた“見える音“という噂だったのだ。


 まるでシャボン玉のようにうっすらと中に浮くモノが、街の中に見受けられる。


 「なぁなぁ!あれって・・・!」


 「何だろう・・・シャボン玉?」


 「それにしては中々割れないな。特殊な材料でも使ってるのか?」


 一行が目にしていたシャボン玉のように宙に浮く玉を、街行く人が興味あり気に触れる。危険なものには見えないが、それが割れるとどうなるのか目が離せなかった一行は、その行く末を見守る。


 玉が割れると、観光客らしきその者達は楽しそうにはしゃいでいた。その後は同じように他の近くにあった玉に触れては、割れたと同時に驚きと笑顔の表情へと変わった。


 「あれ何じゃねぇか?昨日話してた“目に見える音“っていうの」


 「そう・・・みたいだね。流石に大人がシャボン玉ではしゃぐっていう光景は、あまり見ないよね・・・」


 「害もなさそうだし、俺達も試してみようか?」


 ポロッとこぼした言葉に、ツバキは目を輝かせて食いついた。


 「ホントかぁ!?んじゃぁ俺、やって来る!」


 「え!?ちょっと!シン、本当に大丈夫?」


 「何か秘密があるのなら、踏み込まなければ分かる事も分からないままだ。今回は他の人が試してる所も見れたし、直接危険に直結するようなことは無いんじゃないか?」


 シンの言うように、謎に触れないまま謎を明かすのは非常に難しい事だろう。噂や実体験を聞くのは簡単だが、実際に自分の目と耳など、感覚で触れてみなければ信用できる情報というものは手に入らないものだ。

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