ヒーラーのいないパーティー
買い物自体は現実世界のそれと何も変わらない。展示されているう商品を店に置かれているカゴに入れ、店員の元へと持って行く。ツバキが適当に状態異常系のアイテムを一通り加賀に入れていく。ツクヨはその商品の簡単な説明を受けながら荷物持ちをしていた。
「こっこんなに買って大丈夫かい?流石に金額が・・・」
「お前、買い物したことねぇのかぁ?この辺の効果のアイテムは手頃に買えるんだよ。だから持ち運べるんだったら持っておいて損はない。俺達の人数を考えると、一人複数持てるからこれくらいが妥当だろ」
次々にカゴの中に放り込んでいくツバキを見て少し不安に感じていたツクヨだったが、彼は意外にもしっかりした考えを持って商品を手にしていたようだった。
「ヒーラー系のクラスがパーティーにいねぇんだ。これくらい考慮しねぇと、不測の事態に対応できねぇぞ?それに金ならあんだろ、レースで得た賞金が」
グラン・ヴァーグから大海原を渡り、大陸間を航海するフォリーキャナルレースに参加した一行は、チームとしての順位では上位入賞することはなかったものの、個人の戦績ではレース初参加となるシンが会場全体の予想を裏切る検討をし、二位となる素晴らしい快挙を成し遂げた。
その時の賞金があるので、一行は暫く金額で悩まされることはないだろう。勿論、現実的な考えを持つシンやミアは散財することなく、贅沢を避けて慎ましくその金を消費していた。
それは変に目立たないようにするという目的もあった。ただでさえある程度顔の知れてしまった彼らが、大盤振る舞いしていればその賞金を狙ってくる輩もいるかも知れない。
何より未知の存在である黒いコートの者達の目につかないとも限らない。
二人の会話を聞いて名乗りを上げたのは、先程まで落ち込んだ表情を浮かべていたアカリだった。何を隠そう、彼女は一行のパーティーに足りないヒーラークラスの役割に取って代わろうとしていたのだから。
「それなら私がその役割を担って見せますわ!何か役に立ちたい一心で、私が見つけた活路ですもの。きっと期待に応えて見せます!」
「あまり気負いするなよ?そんなプレッシャーを掛ける気なんてねぇんだから」
「そうだよアカリ。みんなそれぞれ損得勘定で一緒にいる訳じゃないんだから安心して」
あまりにも気負いしたように決意の言葉を言い放つアカリに、思わずフォローに入る二人。意外な彼らの反応にアカリも困惑したが、彼女も一行の為に自分がヒーラーにならなければという概念は持ち合わせていなさそうだった。
「よし!これだけありゃいけるだろ。ツクヨ!会計頼むわ」
「了解!任せておいて」
「俺達は外で待ってようぜ?アカリ」
「えっえぇ、ですがツクヨさん一人で大丈夫でしょうか?」
「俺達が手伝ったところで、手伝える量は限られてるんだよ。だったら邪魔にならないように表に出てようぜって話」
人はそれなりにいたが会計で時間がかかりそうなことは無さそうだった。外に出た二人は周囲を見渡し、次に向かうアカリの目的である薬や植物を扱っている店を探す。
しかし当初の予定ではそこで薬も仕入れる予定だったが、それはこの店で既に完了してしまった。故に調合や煎じるのに使う植物を扱う店だけでよくなった。
「どうだぁ?それらしい店はあったか?」
「どうでしょう・・・。それらしい看板は見つかりませんわね・・・この街にはないのかしら?」
すると、店さきでキョロキョロする二人の様子を見た街の人が声をかけてくる。見た目は完全に親を見失った姉と弟といった絵面だ。心配されて声をかけられるのも無理もない。
「どうしたんだい?お嬢ちゃん達。お父さんとお母さんと逸れちゃったのかい?」
「お嬢ちゃん達ぃぃぃ!?」
表情を歪めるツバキを見て、慌てて代わりに答えるアカリ。店の中に連れの大人の人が会計を済ませている事と、話しかけられたついでに植物を扱う店はないかと尋ねる。
「植物?ん〜そうだなぁ・・・。美味しい茶葉を売ってる店なら知ってるぜ?それにあそこは薬にもなる薬草を扱ってた気がするな」
「本当ですか!?そのお店はどこに?」
「あそこに見える民家だよ。看板は出てないから馴染みの無い人には分からないんだ。よかったら紹介するけど?」
親切に対応してくれたが、二人は彼の申し出を断った。自分達でなんとかすると話すと、その人物は潔く立ち去っていった。
「まぁ確かに俺らがこんなところに立ってりゃぁ、迷子とかと間違えられちまうか・・・」
「そこまでは気が回らなかったですわね・・・」
間も無くして店のドアが開き、二人が首をそちらの方へ向けると、大きな袋を持ったツクヨが外へと出て来た。
「いやぁ〜お待たせ。量の割には確かに安かったね!」
「それより思ってたほど袋がねぇな?」
ツバキの疑問にドキッとするツクヨ。実はアイテムの幾つかは袋に入りきれなくなり、WoFユーザーに備わるアイテム欄へと収納していたのだ。だがシンにもミアにも、くれぐれもツバキやアカリに気づかれないようにと釘を刺されていたことを思い出し、冷たい汗が額から流れる。
「こっこれはその・・・そう!収納術だと!効率よく物を並べたり重ねたりすることで、余分な空間を・・・」
面倒そうな話を始めたツクヨに、ツバキは目を細めて臭い顔をする。しかし彼もそれ以上深く追求することはなく、次の目的地の事へと話を逸らした。
「ま、いいや。それより次だ。アカリの探してた店を見つけたぜ」
「私達を迷子だと思った親切な方が教えてくれまして・・・」
何とか疑いを逸らしたツクヨは、直ぐにその話題に飛び付きその店へと向かおうと口にする。三人は先ほどの街の者に紹介された、他の店などとは違い看板も出ていない、少し古びた民家へとやってくる。




