旅の事前準備
「何故そう思うんだ?ミア」
「まぁ待て。今はもう少し比べる為の材料が欲しい。まだ確信とまではいってないんでな」
意味深に言葉を濁すミア。彼女は続けて相席となった冒険者の二人に色々な質問をした。
一方、シンとミアが酒場で情報を集めるのを見送ったツクヨ達は、エレジアの街で次の旅の為の準備を整えていた。リナムルの戦闘では不意に襲われる事が多く、手持ちのアイテムを消費する機会が多かった。
その中で一行が感じていたのは、状態異常に対する準備が足りなかったという事だった。咄嗟のことで前もって準備しておく事など不可能に近い事だったが、ある程度の対策はしておくべきだなとつくづく感じていたようだ。
「リナムルであった不意打ちは、今後も警戒しなきゃいけないね」
「警戒っつったってなぁ・・・。あれは事故みたいなもんだっただろ?なら、どうしようってんだぁ?」
「それを皆で考えるのですよ?ツバキさん。初めから答えを求めてはいけません」
「お!アカリちゃん、流石いい事言う!」
「あのなぁ・・・。まぁいいや、準備ってのは確かに必要だな。獣人の兄ちゃんに盛られた薬の効果も解けてきちまって、“気配“が感じ取れなくなってきてやがる・・・」
囚われた際に獣人族のケツァル派の派閥の者達に分け与えられた食べ物に含まれていた、獣人族の特徴を与える薬。その効果によってツクヨ達は、本家の気配感知ほどではないが周囲に近づく者の気配を感じ取れるようになっていた。
だがそれはあくまで薬による効果であって、パッシブスキルなどのように永続的なものではない。時間経過と共にその能力は失われていき、今ではすっかり感じ取れなくなってしまった。
「アズールがくれた巻物があるじゃない?あれがあれば・・・」
「あのなぁ、あれは無限に使えるようなものじゃないんだ。回数はあるだろうが、何度か使えば無くなっちまう。そんな貴重なもんをおいそれと使えねぇよ」
「そういう物なのですね、あの巻物は」
リナムルを出発し森から旅立とうとするシン達を追いかけやって来たアズール。そんな彼が持って来た獣人族の力を授けるというスクロール。そもそもスクロールという物は、WoFでは魔法やスキルを封印し、解除することで本来魔法やそのクラスでなければ使えないようなスキルを、誰でも使えるという消耗品のアイテムだ。
種族の特徴である能力を、他の種族が永続的に使えるようになるスクロールなど存在しない。あくまで一時的にその能力を得られるだけの物に過ぎないのだ。
ツバキの説明により、ツクヨとアカリ達はスクロールという物についての理解を深める。そのような大事な物を、ツバキの言うようにそう簡単に使うことはできない。
状態異常に関する事前準備は、アイテムなどの購入によりできるが、黒いコートの人物らの事もあり、彼らに求められるのはそれ以上の警戒だった。
「消えゆく薬の効果のことを考えていても仕方がない。私達は私達にできる準備をしよう!先ずはアイテムを買い込むところからかな?」
「そうだな、手頃なところでいくとそんなところだろ。ただ俺は雑貨屋や機械なんかがあれば見ておきてぇなぁ」
「あ!それなら私は植物や治療関係の物が置いてある場所に行ってみたいですわ」
「皆行きたいところがバラバラだね。でももう別行動はもう無しね!行きたいところは順番に回って行くから」
リナムルでは様々な事情から個別にそれぞれ行動を取っていた一行。だがそれではオルレラのように誰かが事件や問題に巻き込まれ、危険な目に遭いかねない。
シンとミアとは既に分かれてしまったが、あちらはあちらでパーティを組んでいる状態にある。何より子供であるツバキやアカリを一人にすることはできないという、ツクヨの親心がそうさせていた。
「何だよそれぇ!?じゃぁ俺が一番先でいいよな?」
「貴方は少し協調性を持った方がよろしいのではないですか?何でも自分が最優先はよくないですよ!皆さんの要件をまとめ、効率的に回るのがいいと思います」
「お前もすっかり悪知恵をつけたな・・・。まぁいいか、じゃぁその要件ってのを聞こうじゃねぇか」
三人はそれぞれの場所へ向かう理由と必要性について話し合う。一行の今後の為になる準備として、有用性の高いものを優先し、先ずはツクヨのアイテムの買い物が最優先となった。
アイテムは使う者を問わず誰でも使え、買い足せるものという使いやすさがある。手っ取り早い対策としてこれ以上のものはないだろう。
ツバキやアカリの要件も、それぞれ旅をする一行に大切なことではあったが、そこにはツバキやアカリなど本人が必要不可欠な場合が殆どであり、優先度としては同列であった。
そこでツクヨは彼らに現代の決めごとを決める時に用いる手法である、ジャンケンというものを二人に教え、勝敗をつけさせた。結果としてツクヨの用事の次に決定したのは、アカリの用事だった。
少し不服そうではあったが、勝負の結果であるのなら仕方がないと納得したツバキを連れ、三人はアイテムを買いにショップを探すこととなった。




