情報が集まるのは・・・
商人達の馬車が街に入ると、組合への挨拶を済ませた後にそれぞれの目的へと動き出す。その中で護衛を務めていた冒険者達も解散し、シン達も一時的に馬車を降り自由行動となった。
元々乗っていた馬車の主人の計らいにより、アルバ行きの商人の馬車を紹介してもらった一行は、新たな商人の男に挨拶を交わし、彼の準備が整うまでの間街で情報収集をすることにした。
「主人がいい人で良かったね。これでアルバって街には迷わず行けそうだね」
「自分の足で歩く羽目にならなくて良かったぜ。徒歩とか有家ねぇからな」
「あら?私は自分の足で見て歩くのもいいと思いますけど」
「それは歩いたことのない人間が言うことなんだよ。街から街を歩くって大変なことなんだからな?だからいろんな交通手段が用意されてるって訳だ」
ツバキがアカリに旅の何たるかを説明している。アカリの世界を見て回りたいという気持ちも分からなくはないが、フィールドにいる野生のモンスターに襲われる危険性を考慮するならば、ツバキの言う交通手段に頼るのが吉である。
無論、絶対に安全という訳ではないが少なくとも逃げやすくはなる。それに移動手段は馬車だけではない。場所にもよるが、それこそ街から街を繋ぐワープホールや転移装置といった近未来的なものから、列車や飼い慣らした動物や魔物を使った乗馬のようなものもある。
しかし手続きや金銭的な事を考慮すると、このまま商人の馬車に乗せてもらう方が互いにメリットもあり、自動で目的地へと運んでくれるのだからそれに乗らない手はない。
「さて、どこから情報を集めるか・・・」
「おいおい、情報収集といやぁ定番の場所があんだろ?」
ミアは嬉しそうに先陣を切って歩みを進める。どこかで同じような展開を経験したことのあったシンは、彼女の嬉しそうな表情から嫌な予感がしていた。また騒ぎにならなければ良いのだがと、頭を抱えるシン。
「ミア・・・まさか」
「分かってきたじゃないの。まずは酒場だろ?」
「酒場!?ツバキやアカリもいるのにかい?」
「二人は外で待ってりゃいい。情報収集は嫌いだって言ってただろ」
「はぁ〜・・・。それじゃぁそっちはシンとミアに任せるよ。私はツバキとアカリと一緒に色々巡るからさ」
さらっとミアの面倒を任されてしまったシンは、思わずツクヨに反論しようとするも彼女の鋭い視線を感じて言葉を飲み込む。溜息と共に渋々承諾したシンは、ツクヨ達と別れミアと共に街の酒場を目指すことになった。
「なんか誤解してるみたいだけど、酒場は情報を聞き出すにはもってこいの場所なんだよ。それにいろんなところから人がやって来るって言うなら尚更な?」
「酔っ払って口が軽くなるって言いたいんだろ?」
「そうそう、御明察。古典的だがこれが一番手っ取り早い。安心しろって、リナムルで酒は満喫した。そんなに飲まないよ」
「やっぱり飲む気だったんじゃないか」
「その土地の味に触れておかないとな。それに名産や特有の酒があるということは・・・」
酒を飲む為の正当な理由を説明するかのように、ミアの舌は止まることなく回り続けた。しかしそれでミアが喜ぶのであれば、それはそれで構わないともシンは考えていた。
シン自体もそれほど酒が嫌いという訳でもなかったし、何より心を許せる仲間が喜ぶのであれば、それが何より大切なことだと考えていたからだった。自身の欲をあまり前面に出さないシンは、周りの人間の意見を尊重しそれに同調しようとする。
誰かと行動を共にする上でそれは大事なことなのかもしれない。だがいつまでもそれでは、周りの者達は自分達が心を許されてないと思うかもしれない。いずれはシンのそういった消極的な性格も変えていかねばならない。
より仲間との絆を強くする為には・・・。
「おい!あったぜ、酒場の看板!予想通り賑わってるようだな!」
声色からもミアのテンションが上がっているのが分かる。足速に進む彼女に着いていきながら酒場へと入ると、様々な場所から来たであろういろんな格好をした人や種族の者達が入り混じり、宴のように盛り上がっている。
「いらっしゃい!何名様で?」
「二人だ」
「あいよ。悪が相席になっちまう、それでも構わないかい?」
元々ここを訪れている者達に話を伺うつもりだったのだ。初めから誰かと一緒の席ならば手間も省ける。それに既に店で飲んでいるということ、出来上がっている可能性も高い。
「あぁ、それで構わない」
「じゃぁあそこの端っこのテーブル。フードを被った姉ちゃん達の席で待っててくれるかい」
「分かった、ありがとう。行くぞ」
人の多さに当てられてしまうシンに声を掛け、導くように彼を先導しながら人混みを進んでいく。二人が着いた席には、相席となる二人の人らしき者達が他の席と違って少量の食べ物を摘みながら酒を飲んでいる。
「すまない、客が多いようで相席になってしまったようだ。ここ、座っても?」
ミアがフードで顔を隠している二人組に声をかける。
「あぁ、構わないよ。店側からも説明を受けてるし、私達はそれを承諾してる。気にしないで飲みないよ」
「ありがとう」
店の店員らしき人物が言っていた通り、既に席に座っていたのは声色からも女性のようだった。肌を隠すように着込んだ袖から覗かせる彼女らの手は、身に纏う衣装とは違って白く綺麗で、細く繊細な指をしている。
「良かったな、ハーレム席じゃないか」
「ばっ馬鹿言うなよ!目的が違うだろ!?」
「何向きになってんだ、冗談だろ?」
まだ酒も入っていないのにミアのペースに振り回される。初手で動揺してしまっていては先が思いやられる。二人に聞こえないように小声で反論するシンを、面白がるようにニヤけて眺めるミア。
暫く店内の様子を眺めていると、先程の店員と同じ格好をした人物が水の入ったグラスを運んでくる。
「お待ちどうさん!何にするね?」
「オススメの酒を二つ」
ミアは慣れた様子でシンの分の酒も注文する。話を進めてくれるのであれば、ここはミアに任せようと口を慎んで様子を伺うシン。
「摘みはどうする?」
初めての店で当然メニューの分からない二人は、顔を見合わせた後周りのテーブルに並ぶ料理に視線を送る。すると、何か閃いたような表情を浮かべたミアは、相席となった二人の女性に声を掛ける。
「何かオススメはあるかい?」
二人の女性はどうするかと言った様子で顔を向き合わせる。そして片方の女性が自分達の前に並んでいる料理はどうかと進めてきた。そこにあったのは、豆のようなものをふんだんに使ったサラダのようなものがあった。
「なるほど、じゃぁ彼女らと同じものを」
「あいよ!」
注文を受けた店員がテーブルを離れていく。突然話を振ってしまった事を詫びるミアに、二人の女性は首を振って構わないよと返してくれた。これをチャンスと思ったのか、ミアはそのままの流れで二人が常連客なのか、よくこの街に来るのかなどと会話を繰り広げていく。




