制限と制約
結果はシンやミアが想像していた通りのものとなった。ツクヨは不器用なのかどうしてもガジェットを組み立てることが出来ない。他の獣人族や研究員は少しずつでも書類通りにガジェットを組み上げているのにだ。
「あ、あれ?おかしいな・・・。同じようにやってるんだけど」
「ツクヨ・・・アンタどんだけ不器用なんだよ。ここはこうやって・・・」
ツクヨの代わりにツバキが組み立てるとすんなりと出来上がる。一度分解し、同じようにツクヨにやらせてみるも、部品がツバキの時のように上手くはまらないのだ。
それはまるで、出来る者からするとふざけているのではないかと捉えられかねないほどだった。これ以上は不審に思われてしまうと判断したシンは、ツバキにツクヨは不器用なのだと説明し、ツクヨをその場から引き剥がすと、ツバキに出発の準備を整えるよう催促する。
「ったく。だから遅れたのは俺じゃねぇっての・・・」
少年を宥めながら引き下がったシンは、ツクヨにガジェットの組み立ての時の感覚について質問した。すると彼は、頭では分かっていても何らかの力によって部品が噛み合わなかったのだと語る。
何とも不思議な感覚だったようだ。理解はできているし、組み込んだ後の図も頭の中にイメージとして浮かんでいる。ちゃんと部品が隙間を通るように十分な余裕を持たせても、まるで見えない力に拒まれるようにして弾かれてしまうのだと言う。
「やっぱり・・・」
「やっぱり?おいおい、君達も私が不器用だというのかい?」
「そうじゃない。アンタだっておかしいと思ったんだろ?」
「そりゃぁ・・・まぁ・・・そうなんだけどさ・・・」
WoFのユーザーであるシン達が、この世界の住人にはない能力であるメッセージ機能やアイテムを収納して置けるアイテム欄を持つなど、クラスとは別にゲームの仕様と呼ぶべき特殊な要素が初めから身についている。
しかし、全てがそういったユーザーにとってプラスに働くわけではなく、やはり彼らはそのクラスというものに縛られており、あまりにも自分の就いているクラスとかけ離れたものは、技術や知識として身につくことがないようになっていると考えるべきだろう。
今回のツクヨの、ガジェットを組むという行為が彼らにもたらしたのは、そういったクラスの違いによるスキルの習得に、制限があるということだった。
「じゃぁ何かい?私達は頭で分かっていても、物を作ることや魔法を使うことはできないと?」
「そういう事になるな。まぁ魔法に関しちゃぁスクロールっつうアイテムで発動することもできるがな」
「ミアなら、あのガジェットを組み立てられるのかな?」
ふと思った疑問をシンはミアへと投げかける。ミアはメインのクラスであるガンスリンガーの他に、錬金術師のクラスにも就いている。そのクラススキルによって様々な効果を持つ弾丸を作り出し、今までの難局を乗り越えてきた。
錬金術のクラスが入っていれば、彼女が何かを組み立てたり作り出すということは可能なのではないか。それがシンの中に浮かんだ謎だった。
「まぁ出来るだろうな。シンは居なかったが、オルレラって街でアタシはジャンク品を扱うイクセンって人物と研究所のガラクタを漁ってたが、そん時にも組み立てる程度ならアタシにもできた。・・・まぁそれ以前に錬金術のスキルで手を加えちまってるけどな」
「それでもミアには物作りができる。つまりアサシンのクラスである俺には、例え設計図があろうと物を作り出すことは出来ない、ということか・・・」
「それが全て正解かどうかは分からない。だが、機材や道具が揃えば多少のことはできるようになる筈だ。料理や掃除にしたってそうだろ?生活の一部である範囲であれば、どんなクラスであろうが誰にでもできることはある。今回のツバキのガジェットは、アイツの発明でありアイツ独自の発想から成るものだ。それも要因の一つだろう?」
言われてみればその通り。ツバキのガジェットはこの世界にどこにでもあるような物ではない。彼の発想から作り出された生活や作業を手助けする発明品である。なので、特別な物として扱われている可能性は高い。
それこそミアの言う通り、生活の範囲を逸脱した物である事であるのが、ツクヨが組み立てられなかった謎を解明するヒントにもなっているに違いない。
「でもそれを聞くと、ダブルクラスになって二つとも戦闘用のクラスに就くのは勿体なくない?だって出来ることが限られちゃうんだろ?だったら私はミアのように錬金術が使えるクラスがいいな。勿論、妻が残してくれた剣士のクラスをやめるつもりはないけどね。シンはどうなの?君がダブルクラスだって言う話は聞いたことがないけど・・・」
二人の視線がシンに集まる。確かにシンはアサシンのクラスのみで、サブにもう一つのクラスに就いていると言うことはない。これはWoFのゲームでも同じ事だった。
ダブルクラスになれるレベルや熟練度には十分に達している。しかし、アサシンという影ながら味方を支えるという戦闘スタイルに魅了された彼は、もう一つのクラスに何を選ぶかについて長らく考えていた。考えてはいたが決められずにいた。




