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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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掌握からの解放

 「コイツッ・・・!言葉を!?」


 「惑わされるな。ただそれっぽい事を口にしてるだけだ」


 果たしてそうだろうか。それがツクヨが最初に思った事だった。取り押さえられた獣は、“助けてくれ“と言った。この状態で発する言葉には適している。その上でその言葉を選んだとするならば、この獣には意思が宿っているのではないだろうか。


 「いや・・・これは偶然か?彼は言葉を選んで使ってる様に思えるんだけど・・・」


 「それじゃぁ何か?コイツは俺達の様に意思を持っているとでも?」


 研究所で被検体となっていた者やセンチやエンプサーの様な意思を持つ虫やモンスターを目にしていない彼らには理解できないのかもしれない。エンプサーの使役するラミアに至っては、服を着てあたかも当然かのように言葉を話していた。


 獣は戦闘に特化した能力を寄せ集めて作り出された、謂わば戦闘員となる駒に過ぎなかった。故に命令に従いさえすれば、それ以上に緻密な言語を理解する必要はない。


 その為、言葉を喋る獣の個体数は少なくお目にかかる機会もなかった為、彼らの動揺を生んでしまった。


 獣が喋ったことに対し彼らが討論を繰り広げていると、続けて獣は言葉を発していく。


 「ミノガシテ・・・クレ。タノム・・・」


 「・・・・・」


 獣が口を開くと、彼らは唖然とした様子で獣の方を見る。二度目の発言で獣人達もただ偶然に発した言葉ではないことを認めた。


 「こいつぁ驚いた・・・。確かに言葉を理解してやがる・・・」


 「珍しい個体だ。街の離れたところに拘束して、アズール達の意見を聞いてみるのはどうだ?」


 常に物騒な発言ばかりだった獣人達からは、珍しくまともな意見が出たとツクヨは密かに思っていた。彼のいう通り、他の獣とは明らかに違う個体は珍らしい。


 街の安全を第一にしていた防衛状態のリナムルなら、危険な存在になり得るものはすぐに排除するのが定石だったのかもしれない。


 しかし今のリナムルには、アズールの判断で助けた研究所の研究員達がいる。彼らの技術と知識があれば、知り得なかった情報を解き明かすことのできるチャンスかもしれない。


 彼らの意見の一致により、この場で殺すことはなくなったものの、獣は彼らの会話を理解していたようで、街に連れて行かれることを拒んだ。


 「ソレハ・・・ユルシテ モラエナイ ダロウカ・・・」


 「何だ?殺さねぇって話で進んでんだが・・・」


 「シラベ オエタラ ヨウズミ 二 ナル。コノママ ミノガシテ クレタラ アバレル コトハ ナイ ト ヤクソク シヨウ」


 「交渉しようっていうのか?随分と生意気な口を利くじゃねぇか」


 獣にどういった目論見があるのか分からない以上、野放しにするのもリナムルや森にやって来る者達にとっても危険であることは否めない。どちらにせよ、この場で彼らだけで決められることではなかった。


 何をどうしようにも、まずはリナムルの街へ連れ帰ること。それが最優先事項だった。


 「駄目だ、交渉の余地はない。今の状況がわかってるのか?お前の命運は俺達が掌握してるんだ。こうして捕まっちまった以上、お前は俺達に従う意外にねぇんだ。諦めな」


 「・・・・・」


 無抵抗で押さえつけられた獣は、彼らに交渉を断られてから一切言葉を発しなくなってしまった。獣人が言うように、なすがまま運命を受け入れる気になったのか、その表情からは諦めのような哀しみの感情が伺える。


 だが、ツクヨがそんなものを感じていたのも束の間。大人しくなった獣を森で採ってきた蔦を使い縛り上げている途中で、獣のとった突然の行動に一行は衝撃を受けた。


 肉体強化により、通常の状態の獣よりも遥かに凌ぐ力で何重にもした蔦を縛り上げていると、彼らは圧倒的に有利な状況に無意識な油断が生まれた。


 首を垂らしてしまい表情が見えない獣は、突如全力の力で背後から縛り上げる獣人に体当たりをした。


 「ぐッ・・・!」


 尻餅をついた獣人の様子に、ツクヨともう一人の獣人は飛び上がるほど驚き、咄嗟に臨戦体勢に入るが、獣は獣人が腰に携えていたサバイバル用に使われるナイフを引き抜き、口に咥えていた。


 「野郎ッ・・・!!」


 「よせッ!殺すんじゃぁない!!」


 吹き飛ばされた獣人は、まるで格下の相手に挑発されたかのように感情的になり、獣をもう一度地にひれ伏せさせようと腕を伸ばす。


 だがそれよりも早く、獣は加えたナイフをポロリと真下に落とし、落下する中で回転したナイフの刃先が上を向くと、獣は自らの喉にそのナイフを突き刺した。


 「しまったッ!自害する気だぞ!止めさせろぉぉぉッ!」


 「させるかよぉぉぉッ!!」


 しかし、既に喉へと突き刺さったナイフに獣を体重を乗せ、更に深々と突き刺していく。悲痛な雄叫びを上げながら、ナイフを飲み込んでしまいそうな勢いで食い込ませた獣は、チラリとツクヨ達の方へ視線を送ると、ニヤリと口角を上げた。

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