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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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それぞれの歩み

 出発までの間、一行はそれぞれ別れてリナムルの復興に協力するため、街中の様々な依頼を受けていた。


 シンは街はずれの広場で、地面に供物のような物や花を集める獣人の少年に声を掛ける。


 「何をしてるの?」


 「これぇ?これは帰らないお友達の為の目印!」


 「帰らない・・・」


 恐らくガレウスやケツァル、或いは彼らと共にいた獣人族の中に彼の親しい者がいたのだろう。少なからず、彼の待つその何者かが帰らない理由に自分達を研究所へ向かわせる為の犠牲となったのだと感じていたシンは、目を合わせることができなかった。


 「僕が生まれた頃には、突然誰かがいなくなっちゃうって事、よくあったんだって。それで鼻の利く種族の僕らが、ちゃんと帰ってこれるように匂いの強い花や木の実を集めて置いておくの。こういうの、僕らしかしないから誰かが置いたんだって直ぐに分かるんだよ!」


 「なるほど、これを考えた人は頭が良いんだな。俺にも何か手伝わせてくれないか?」


 「本当に!?じゃぁさじゃぁさ、街の外にある花を集めてきて欲しいんだ。僕らじゃ危ないから外に行っちゃ駄目なんだ・・・」


 「分かった、任せてくれ。どんな花なのか名前とか特徴は分かるかい?」


 シンは獣人族の少年に、集める花の名前と特徴を教えてもらう。勿論この依頼を請け負ったのは少年の為でもあったが、シンは少しでも可能性があるのだとしたら、ガレウスやケツァル達が戻ってこれるよう願いを残そうとしていたのかもしれない。


 現状のリナムルでは、大人であれ子供であれ勝手に街から出掛けることを禁じていた。それぞれに設けられた関所で、外へ出掛ける人数とそれぞれの名前を報告していかなければならない。


 未だ危険の残るリナムルの森。研究所の獣がまだ何処かに潜んでいるとも限らない。それに通常の野生モンスターも出没している。尚更、戦えない者を外に向かわせる訳にはいかない。


 この一手間は、彼らを守る為のものでもあり、誰がいなくなったのかなどを知る為でも必要な事なのだ。


 外出する者達の内容を纏め上げ、その内容と重要性から関所で小隊を組まされる事になっていた。シンが組まされたのは数人の獣人と冒険者の者達からなる隊で、主に野草や素材となる木々の採取が目的の者達を集めた小隊だった。


 外出を願い出た者達の名前が刻まれた帳簿の中に、シンはツクヨのやミアの名前も見つけた。みんなそれぞれ動き出しているのだと、シンは気持ちを鼓舞される思いだったが万が一そこに、まだ子供のツバキや戦闘能力を持たないアカリらの名前が刻まれぬよう、担当の者にその名を持つ者が現れたら街に止まるよう止めてもらうに頼む。


 「あぁ、それについてはご安心を。種族別に一定の年齢に満たない者や、ある程度の技術や戦闘スキルを持たない者は外出させぬようにと、アズールらから言われていますから。それに、同じことを別の場所で頼んだ人間がいるみたいですよ?」


 「同じ事を・・・?」


 すぐにツクヨとミアの顔が浮かんだシン。考えることは皆同じだったようだ。好奇心旺盛な二人が、研究員の資料を読み漁ってじっとしていられなくなる姿を想像したのだろう。


 安堵したシンは、関所で自分の部隊の者達が揃うまで待つ事にした。




 一方、ツクヨはシン達と別れた後、建て直される街の建造物を眺めていた。最も目に入ってきたのは、木材を軽々と持ち上げて運ぶ獣人達の姿だった。人間やエルフでは到底一人で運べぬような物でも、彼らならいとも容易く持ち運べ、その力で固定する事もできるようだ。


 「はぁ〜・・・すごいな。これならあっという間に家が建つんじゃないか?」


 するとそこへ、宙を舞いながら淡い光を纏う何かが近づきツクヨに話しかけた。


 「これはツクヨ様。ご無沙汰しております」


 「あっえぇっと・・・もしかして以前に何処かで?」


 彼の元へとやって来たのは妖精のエルフ族だった。人間には見分けなどつけようもなく、ツクヨには性別の違いくらいしか分からなかった為、彼女がいつどこで知り合ったエルフなのか思い出せずにいた。


 「私は例の施設から皆様を連れ出す際に、ポータルを作っていたエルフです」


 「なッ!?これは何たる失礼をッ・・・!その節はありがとうございます!」


 「いえいえ、そんな顔を上げてください。助けられたのは私達も一緒ですから」


 恩人と呼ぶべきほどの者の顔を忘れてしまったと、焦り謝罪するツクヨを宥めるエルフ族の女性。彼らはまだ知ることはないが、実際は別の空間として作られた研究所とその周辺の森から脱出するには、彼らのポータル無くしてほぼ不可能な状況だった。


 そこから抜け出すことができたのだから、彼らにとってエルフ達はまさしく命の恩人と言えるだろう。

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