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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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取り戻す為の信頼

 シンの足元から伸びた影がツクヨの影へと繋がっている。そして彼の影の周りを見てみると、そこら中の物陰から触手のように影が伸びてツクヨの影と繋がる。


 「う”う“う“ぉぉぉッ・・・!」


 「おいおいッ・・・!地の利はこっちにあるのにこれかよッ!?なんて馬鹿力だッ・・・!!」


 シンの扱う影のスキルは、その場の暗さや影の濃さ、量によって効果や力が異なる。彼らのいる地下の研究所内は、明るい照明はなく物が多くある狭い地形をしており、影を操るシンにとっては打って付けのフィールドだった。


 影の量も濃さも、陽が出ている野外戦とは比べ物にならない程の拘束力を持っている筈だった。しかし、凶暴な力を解き放ったツクヨの前では、フィールド効果の恩恵を受けているとは思えないほど、強引な力技によって引き剥がされそうになっていた。


 「駄目だッ・・・これ以上は保たないッ!!」


 「あ“ア”ア“ァァァッ!!」


 ツクヨはシンの繋いだ影の鎖を、身を乗り出して一つまた一つと引き千切っていき、遂にその拘束から逃れると勢いそのままにシンへ向けて剣を振り下ろす。


 スキルを強制解除させられてしまったシンはバランスを崩し、無防備な状態に陥ってしまう。そこへ差し向けられるのは、シンを仲間と認識していない無慈悲な一撃。


 力強く振り下ろされた剣は、まるで空間を裂いているかのように空を切り、その刀身纏わせた黒炎を靡かせる。すると、シンの身体は突如何かに引っ張られるように後方へと吹き飛ばされる。


 彼を窮地から救ったのは、自身が前もって仕掛けておいたスキルによる物だった。別の場所から自分自身の影を繋ぎ、必要に応じて強制的に身体を移動させ距離を取る、緊急回避ようの設置スキル。


 引っ張られる中、ツクヨの剣は紙一重で避けられても、その刀身に宿った黒炎が身体に燃え移ろうとしているのに気づくと、シンは後退する中で身体を拗らせながら投擲用の槍で僅かに太刀筋の軌道をズラした。


 間一髪のところで回避したシンは、誰にも気づかれぬ内に、再度影のスキルを物陰に隠して忍ばせた。


 「危ねぇ・・・。こりゃぁいつも以上に大げさに避けないと、あっという間に決着が着いちまう」


 アズールにツクヨは自分が抑えると啖呵を切ったものの、一撃もまともに食らってはならないと言う、余裕のない戦いに焦りを見せる中、彼の懐に仕舞い込んでいた小瓶から別の男の声が聞こえてきた。


 「おい、奴が洗脳か何かによって変わっちまったって言うんなら、俺の力が役に立つ筈だぜ?」


 「協力してくれるのかッ!?・・・いや、しかし」


 「いいんだぜ?俺は。お前が死ねば俺もこんな狭い場所に止まってる理由もねぇ。後は自力で抜け出して、勝手に記憶を取り戻してやるからよぉ」


 正直なところ、シンにはツクヨを元に戻す算段はなかった。しかし、ダマスクの言う通り、ツクヨが何らかの洗脳や幻覚を見せられているのだとしたら、意識の中に潜り込むという彼の能力は、これ以上ない程に適任と言えるだろう。


 シンにとっては是が非でも協力を仰ぎたいところだが、ダマスクはこの地下研究所の元研究員。何の保証もなく封印から解き放ち、自由のみにしていいものなのだろうか。


 再び暴れ回るようなことになれば、敵も徒党を組んで襲い掛かって来る。そうなった場合、シンとアズールだけでこの場を乗り切るなど、到底できるような話ではなかった。


 それ故シンは、彼の提案に素直に乗ることが出来なかったのだ。ダマスクの脅し文句の通り、彼ならば自分だけで記憶を取り戻すことも可能かもしれない。当時、研究員だった頃の記憶がない彼でも、失われている記憶があると知った今であれば、元同僚達の記憶を探り、どうしてこのような異様な存在になってしまったのかを見つけることが出来るだろう。


 しかし、そこでシンが疑問に思ったのは、それなら何故彼はそんな協力するような話を持ちかけてきたのかと言うことだった。


 わざわざ敗戦濃厚なシンに肩入れせずとも、自力で目的を果たせるのなら時を待てばその時は必ずやって来る。だがそうしないのは、少なからず彼の中に、組織に対して負の感情があるのではないかと言うこと。


 決して情報を外に漏らさなかった組織が、真実を知って脱出、或いは反旗を翻そうとする者を放っておく筈がない。


 真実を知ってもそこで終わってしまうくらいなら、可能性のあるシン達に協力し、一矢報いてやろうという気でいるのかもしれない。どの道、選べる自由のないシンには選択の余地などない。


 「分かった、アンタを信じる・・・。ツクヨを頼む」


 「・・・・・あぁ、頼まれてやる。アイツに接触する方法はお前に任せるぜ」


 ダマスクは協力の提案を受け入れたシンの言葉に、僅かに戸惑いの様子を見せる。それはツクヨの意識の中へ潜り込むという行為に対する、不安や躊躇いなどではない。


 “信用“というものを久しく向けられた事のなかったダマスクは、誰かに必要とされる、頼られるということに何とも言えぬむず痒い感情を抱いていた。

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