記された座標の先へ
一行が座標らしき暗号を解読出来ないまま、このまま施設にたどり着けないのではないかという不穏な空気が流れる。
「ぁぁあああッ!!クソッ!どうすんだぁ!?サッパリ分からねぇじゃねぇかよ!場所なんてよぉぉぉッ!?」
「よせよ、ガレウス。大声はこちらの動きを相手に知らせかねないんだからな」
「何言ってやがる!十分騒ぎなんて起きてただろ?こいつに何かされた獣共の騒ぎがよぉ・・・」
もし施設の者達が森で行われている騒動に気がついているのなら、ガレウスの言うようにダマスクの能力によって凶暴化した獣達による襲撃の時点で、外で何かが起こっている事には気がついている筈。
ならばそこから考えられる敵勢力の動きとはどんなものがあるのか。外部の事情を把握できていないのであれば、施設の中から偵察を行うものを外に放ったり、敵襲に備え罠を張り防衛を強化するなど、今後起こり得る出来事に対しての準備を行うだろう。
しかし、現状偵察を行なっている様子はなく、施設から何者かが森へと放たれた気配もない。それだけ攻められることに対し、防衛できる自信があるのか、或いは何が来ても撃退できるような仕掛けを用意しているのか。
今はまだ憶測の範疇を出ないが、動きのないところから見るに、それだけ外で何が起ころうと対処出来るという自信があるに違いない。もしかしたら、ここまで施設の場所について迫れたのも、相手の目論見通りの可能性さえあり得る。
施設の場所の特定という段階で、既に雲行きが怪しくなる一行にとある吉報が届く。
暗号を解読したのはシンだった。正確にはシンがデータをして送った画像を分析しWoFのデータと重ね合わせたことにより、その法則性を見つけた現実世界へ転移したアサシンギルドの一人、白獅の力によるものだった。
「分かったぞ!これはやっぱり座標だった。とある位置からの方角の指定と、歩数のヒントが読み取れた」
白獅からシンに送られてきたデータは、WoFのゲーム内に存在するリナムル周辺の森、今現在シンが居ると思われる場所と、別の場所へと誘導するように記された上空からのフィールドマップだった。
実物として彼の手元に送られ、アイテムとして彼らの世界に存在はしないが、シンの目には周辺のマップ情報と、グリッド線のように縦横に線の引かれたマップだった。
そこには方角と、各マス目が数字とアルファベットによって記されているもので、木の根に記されていた暗号は、まさにそれを元に作られたかのように、分析に疎い者でも察しが付くほど分かりやすいものだった。
シンは暗号の解き方が記されたデータをその目に映しながら、一行は先導する彼の後をついて行く。惑わせるような暗号や順路はなく、真っ直ぐ目的地へ向かう為のナビのように、マップに記された経路を辿って行く。
暫くしてシンが足を止める。だが周囲に建物らしき物も見当たらなければ、それらしき気配も一切感じない。
だが、シンの元に届いた白獅からの解読文とマップはここで途絶えていた。
「おい、どうした?急に足を止めて・・・」
「ここだ・・・」
「あぁ?」
一行はシンの言葉に眉を顰める。誰一人として彼の発した言葉に納得のいく者はいなかった。それもその筈。ある程度頭数のいる中で、種族の違う者達も交えた中、様々な観点から周囲を探しても彼らの探す施設など何処にも無いのだから。
「テメェッ!遊んでる場合じゃねぇんだぞ!?」
「どうする?もう一度さっきの場所に戻るか?」
「戻ってどうなる!?どっちみち解読なんて出来なかったんだ!」
「何か見落としがあるかもしれないだろ?各々の種族で調べていたものを、別の種族の者達でもう一度調べ直してみては?」
「一体どれだけの時間を費やすつもりだ!?そんな事してる間に、敵に包囲されちまうかもしれねぇだろ?」
シンの道案内が招いたのは目的地への到着ではなく、漸く一つの目標に対し種族間の垣根を超えて協力し合おうとしていた彼らを、混乱させるものだった。
白獅から送られてきた暗号の場所は、間違いなく彼らのいる場所で間違いない。だがそれ以上の情報がない事に、シン自身も困惑していた。彼もマップ通りに向かえば施設があるものだと思っていたのだから。
すぐに白獅へ確認を取ろうとすると、とある事に気がついた人物によって、一行の混乱は収まる。
「なぁ、もし座標の位置がここで合ってるんなら、“下“何じゃねぇか?」
「下・・・?」
地面に手をついて、何かを調べるように探っていたのはダラーヒムだった。そして彼の言葉に、一行の頭の中に新たな風が吹くように別の考え方が吹き荒ぶ。
一行が探す施設とは“建っている物“ではなく、“埋まっている物“なのではないか。
要するに地下に建設された“地下施設“だということだ。
考えてもみればオルレラにあった非道な実験を行なっていた施設も、地下に建設されていた地下施設だった。同じ者達によって設けられた施設であるのなら、同じ設け方をしていても何ら不思議はない。
そして地面を探り始めた一行は、予想通り地下へ通じるであろう扉を、地面の中に見つけ出した。
「あったぞ!扉だ!」
しかし、その扉には取っ手がない。代わりに取り付けられていたのは、何かを入力するパネルだった。そこにあったのはキーボードのようにアルファベットや数字が羅列するパネル。彼らは再び足止めを食らってしまう事になる。




