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World of Fantasia  作者: 神代コウ
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負傷を抱えて

 片腕だけ肉体強化された獣人は、その爪をまるで刃物のように鋭く変化させ魔獣の背中から生える三本目の腕を切り裂く。アズールを握り潰さんとしていた腕は彼の切り込みにより握力を失ったのか、掴んでいたアズールを手放し再び魔獣の背中にぶら下がるただの付属品へと戻った。


 三本目の腕にも神経が通っているのか、魔獣は負傷した獣人にによって切り落とすまでには至らなかったものの、その本来の働きが出来なくなるほどパックリと大木のような腕を切り裂き、皮一枚で繋がっている状態にされたことで、魔獣は悲痛な声を上げながら後退りしていく。


 しかし、自身の身体能力以上の高度まで飛び上がった獣人は、負傷していたことも加えアズールを救うことに夢中で、落下に対応しきれず着地に失敗する。足は本来の可動域を飛び越え、通常なら曲がり得ない方向へと折れ曲がっていた。


 「アっ・・・アズールッ・・・!」


 彼は自身の身体の状態や痛みよりも、命を捧げて救おうとしたアズールがb無事かどうかを確認する。使い物にならなくなってしまった足を引き摺りながら、膝をつき掴まれていた頭を抱えるアズールの元へと近づいていく。


 腕を切り裂かれた衝撃で、突き刺さっていたアズールの腕も魔獣の身体から解放されていたようだ。真っ赤に染まったアズールの腕からは魔獣の血が滴る。


 「くっ・・・あっ危なかった・・・。すまない、助かったぞ」


 「無事で・・・よかったぜ・・・」


 安心した獣人はその場にうつ伏せの状態で倒れ込む。アズールと合流する前から負傷していた腕に加え、先程の落下により両方の足の機能が失われ、更に肉体強化の反動による疲労や負荷で彼の身体はボロボロだった。


 それでもまだ息はしている。傷だらけの身体を小さく揺らして呼吸している。だがこのままでは長くは保たないだろう。すぐに手当をしてやらねば死んでしまう。


 アズールは重たい身体に鞭を打ち立ち上がる。しかし、未だ頭を掴まれているかのような痛みと感覚が残っている。魔獣の肉体の中で掴まれていた腕には、魔獣の血がべったりとついている他に、何者かの手の痕のようなものが幾つか見受けられる。これは一体何なのだろう。


 魔獣から受けたダメージを確認している間も無く、獣人に切り付けられた魔獣はさっきの一撃が効いたのか、その巨体をふらふらと揺らしながら体勢を整え、起き上がったアズールの方を向いている。


 お互いの負傷は大きい。だが、体力的に見れば身体の大きい魔獣の方が一枚上手か、ダメージは負っているもののそれほど深刻な様子には見えない。一方のアズールは、頭に残る締め付けられるような感覚と、肉体に締め付けられていた腕の麻痺が抜けない。


 不幸中の幸いと言えるのは、魔獣に突き刺した腕が彼の利き腕の方ではなかったということくらいだろうか。それでも大きく戦力を落としてしまったことには変わりない。


 いくら獣人の力を特別に扱えるアズールとはいえ、この戦力さを乗り気っるだろうとか。直接触れて手合わせをした彼にだからこそ分かることだが、この魔獣にはまだ底しれない何かが秘められている。そんな感覚がアズールの戦意を一歩後ろへと後退させる。


 「休ませる気はねぇってことか・・・。こりゃぁ数人掛かりでも苦戦する筈だ」


 睨み合うアズールと魔獣は、互いの手の内を一つ曝け出し一対一の状況で第二ラウンドへと突入する。


 一方、道中の獣を仕留めつつ先へ向かったアズールの後を追うシン達もまた、それまでには感じることの出来なかった異様な気配に気付き、それがアズールの向かった方から現れたことを確認する。


 「おい、今のって・・・」


 「あぁ、初めは獣の気配だったものが急に別格のものに変わった・・・。これは一体・・・?」


 「マズイ!アズールの向かった方からだ。何かあったに違いない、すぐに向かわなければッ・・・!」


 シン達とは違い、より鮮明に気配を感じ取ることのできるケツァルのは、事の重大性が分かっていたのかもしれない。だが、それでも慎重に進んできたこれまでの行いを無視して突っ走ろうとする彼を、二人は冷静になるように促して引き止める。


 彼らはアズールほどの肉体的な戦力は持っていないものの、持てる道具と知恵を活かし、獣に肉体強化の隙を与える間も無く仕留めて来ていた。そして、タイミングさえ誤らなければアズールのいるところまで一気に行けるところまで来ていた。


 「少し迂回すれば、、気付かれずに先へ進めそうだぞ?どうするケツァル」


 「どうするも何も、すぐにでもアズールの元へ行かなければッ・・・。すまない、冷静さをかいてしまっていた・・・。彼なら大丈夫だろう。安全に迂回しながらアズールの元へ向かうぞ」


 それまで感じていた獣の気配とは比べ物にならない気配に動揺していたケツァルだったが、行動を共にする者達がいたおかげで判断を誤らずに済んだ。三人はアズールの気配を辿りながら、道中にいる別の獣の気配を迂回して先へと進む。


 彼らが獣の気配を避けて進んでいると、アズールの気配の側に獣人族のものと思われる気配を見つける。すると突然、その獣人族のものと思われる気配が強くなったかと思えば、すぐに通常の気配より小さくなってしまった。


 気配を感じ取れるシンとケツァルがその変化に対し、自分の勘違いではないことを確かめるように互いの顔を見る。突然足を止める二人に疑問を感じるダラーヒムだったが、二人が感じた変化が勘違いではないこと確信し、彼らはその足を早める。

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