観察する人達
ワイナール皇国暦286年、5の月
「さてと…何故コウトーで問題行動を起こしたんですか?
え~っと、クレール副隊長?でしたっけ?」
「くっ……どこまで私たちをバカにするのか…
私たちを取り調べるのには子供で充分という意味か!
何故、辺境伯様の関係者が前に居ないんだ!」
「こればかりは私も同感です」「ええ、せめてもの安らぎに、処刑前の御褒美と言う訳ですか」「ええ⁉︎いくら美少年とはいえ幼すぎるでしょう⁉︎」「と言うか、処刑確定なのか?」
「あははは…散々な言われようだなぁ…
処刑は確定してないから心配しなくていいよ
いや?だからこそ不安かな?
でも、聞かれた事に答えなかったら自分達の首を絞める事になります
僕には、それだけの権限があると思ってて下さいね?」
「……幼子に権力を振るわせるとは……」
「まぁ、此処は辺境ですから見掛けで判断すると痛い目に遭いますよ?
あゝ、もう痛い目に遭ってたか…失礼…
まぁいいや、先に少しだけ聴き取りがあったよね?
それによると、貴女方はサルート騎士団所属アルミン特別騎士隊隊員ですよね
そのサルート子爵御令嬢を御護りするべき特別な騎士隊隊員が、何故他領で、それも爵位で言えば格上の辺境伯の領府で問題行動を起こしたんですか?
ましてや、クレールさんは副隊長という要職に就いておられる
一歩間違えれば外交問題になり、その右手では済まず、命で贖う事になったでしょう
その辺りは考えに及びませんでしたか?
貴女が襲おうとしたのは辺境伯御令嬢なのですよ?」
「………仕方がなかった……
まさか、あの様な場に辺境伯家の令嬢がいらっしゃるとは夢にも思わなかった……」
「ふむふむ……ん⁉︎⁉︎《あの様な場》?
オムル?どの様な場所?」
「あー、その…ですね…」
「なに?歯切れ悪いな?どうした?」
「ええ~っと、その場所は昼間でも薄暗い裏路地でして…
え~、ワラシがキャロル様をあちこち御連れする時に立ち寄った場所でしてぇ」
「………まさか?」
「ええ、たぶんロウ様が考えておられる場所かと…」
「なんでまた、あそこ⁉︎え?あちこち行き始めにあそこ?
あっはっはっは!さすがはワラシだね、知ってる場所から周ってんだ
て事は、冒険者組合にも来たのかな?」
「ええ、はい、最初に此処に来た様です」
「だろうね?
しかしまた、曰く付きの場所で襲ったもんだなぁ
もう、そんな出来事が起こりうる場所認定しても良いかもな?
しかし、まぁそうか、あんな場所に普通の子供は行かないよなぁ
だからって襲って良い理由にはならないけどね?」
「亜人種と人間種が一緒に居たら、事件を疑うものだろう?
君は子供だから判らないんだ
なぁ、そこの騎士さん
いや、部屋の隅で話を聞いている、狼獣人を連れている人でもいい
正しい判断をする偉い人を連れて来てくれないか?」
ロウ、オムル、ハンプティ、ポロが顔を見合わせて肩を竦める
「この場にリズとミアが居なくて良かったね?」
「「「同感です、ロウ様」」」
「しかし、サルート子爵領は然程亜人蔑視が強い土地では無かったと思っていましたが
なにぶん、ペレネへは殆んど行った事が無く支店からの連絡だけでしたので情報不足でしたなぁ」
「いや、頭取?私の仲間からも話が来ていませんから当然ですよ」
「しかし、俺には正しい判断をする偉い人がロウ様以外には心当たりが無いんですがね?」
「「「ブハッ!」」」
「まったく同感だよ、オムル君」
「この場に居るのがロウ様だからこそ、全員生きてられるってのが解ってないんだな?」
ハンプティとポロが、やれやれと頭を振る
“ゴンゴン!”
「うわっ⁉︎手荒いノックだな⁉︎え?ノックだよな?
入ってきて良いよ?」
「うむ、邪魔するぞ」
「ふむ、此処であったか」
「「「「失礼いたします」」」」
「「「「失礼します!」」」」
アナヴァタプタ、タクシャカ、御付きメイド達、リズ、ミア、フワック、トロリー、スー、ライザーが入ってきた
「「「「「り、竜人⁉︎」」」」」
「うわ~、急に部屋の密度が上がっちゃったよ…
アナヴァタプタ?タクシャカ?どうした?退屈した?
それに、フワック達はどうしたの?仕事が空いた?」
「うむ、そうだな」
「いや、退屈はしておらぬがな
ロウの元が楽しそうでな」
「はい、休憩に戻ってまいりました」
「楽しい?かなぁ?
まぁいいや、じゃあ見てて良いよ
フワック達も休憩ならユックリ見てなよ
さて…と…人間至上主義なのは、この人だけって事かな?
後ろの無事な人達に聞きたいんだけど?
答えるつもりはある?」
「私たちは、副隊長がどうであろうと特別騎士隊隊員に変わりありません
毎日訓練をし、鍛えてもいますから
そう容易く喋るとは考えないでね?ボウヤ」
「ふ~ん?君達ってさ、今の時点では犯罪者だって理解出来てるのかな?」
「ロウよ?其奴の手はどうしたのだ?
見たところ、ワラシの水で覆ってある様だが喰ったのか?」
「「「「「喰う⁉︎」」」」」
「いや?喰ってないよ?
ワラシが斬り落として、ちょっとした治療をしたみたいだね?
ほら、そこの隅に右手が転がってるでしょ?」
「うむ、ワラシは良い魔力を持っておるな
アレで覆えば痛みはなかろう」
「ふむ、無礼者なのに喰わぬのか?」
「喰わないよ?喰ったら話が聞けなくなるじゃないか?」
「「「「「…ホッ…」」」」」
「??頭さえあれば口ぐらいは利けるではないか?」
「うむ、確かに頭さえ残ればどうとでもなるな」
「え⁉︎頭だけになっても生かせるって言ってんの⁉︎」
「「「「「は…?」」」」」
「うむ、喰った端から我が魔力を流し込めば問題無かろうて、ククク…」
「あ!ひょっとしたら、生きてる方が美味いって言ってたのはその事か!
生かしたまま喰えるから、肉が固くならず柔らかいまま喰えるんだね?」
「クックックッ…うむ、寸刻みで喰えば良い」
「「「「「……ひっ……」」」」」
「その場合は痛みはどうなんだろう?」
「そんな事は知らぬなぁ?
人間種は獲物を狩る時に、獲物が痛がってるかなぞ気にするのか?」
「「「「「…………」」」」」
「うん、気にしないね
この人達も、ワラシ相手に刃物持ち出した時点で考えて無かっただろうしね?
まぁ、立場が逆転しただけだし
元から他人を傷付ける覚悟もあっただろうしね
じゃあ、少しだけ鍛えたぐらいで耐えられるか試そうか
食うなら、死体処理も要らないし行方不明になるだけだし
良い事づくめじゃないか
騎士とは言え所詮は犯罪者だしね」
「うむ、では久方振りに人を喰うか」
タクシャカが“カパー”っと大口を開ける
それを、一部を除いたメンツがニヤニヤして見ている
「「「「「ヒイイィィィ!」」」」」
“コンコン”
「失礼しますロマン様、パウル商会コウトー支店の者達が来ております」
「お⁉︎来たか⁉︎
スコット、直ぐに通してくれ」
「ええ、もう既に応接室に通してあります」
「うん、流石だね
では、私も直ぐに行こう」
即座にロマンが自室を後にする
「あ、アイリスは?」
「はい、見張りの報告から直ぐに動いておりますので
もう南街区で行動しているかと思われます」
「そうか、そちらは報告待ちだね
今晩中に来るか、明日か、それとも数日かかるか…」
「定期的な経過報告は来るはずですから
結果しか分からないという事態にはならないかと思われますよ?」
「そうか?そうだね!
でなければ、こちらの対応も後手に回ってしまうからね
何事も先手を打っておかなければね?
あゝそうだ、街区関門の門衛にも厳戒態勢をとらさなきゃ」
「はい、然様で御座いますね
して、シュルツ様には何時教えられますか?」
「ふむ?もう事が始まっているならば、教えておいても良いだろう
彼の方も迅速な情報収集を望むだろう
何せ、自他共に認める知識欲の塊だからね?」
「はい、では《始まった》とだけ報告致しましょう」
「うん、それでいい
さて“コンコン”入るよ?
やあ、お役目ご苦労さん!パウルの者達だね?」
ソファーに座っていた、パウル商会の2人が“バッ”と立ち上がり頭を下げる
「「はっ!」」
「コロージュン公爵様に御目通り叶い恐縮です!」
「あゝ、気にしないで楽にしてくれ
さぁ、座って」
「「はい、ありがとうございます」」
“ピシッ”と背筋を伸ばしソファーへ座る
「うん、皇都への無事到着おめでとう
それで?搬入は上手くいったのかな?」
「はい、無事に搬入出来ました」
「しかし、余りにもすんなり搬入出来たので少々不安があります」
「いや、それは心配要らないんじゃないのかな?
前例が無いからね?倉庫番ぐらいじゃ予測出来ないだろうし、しないだろう
次は、こうすんなり行かないだろうけどね?
まぁ、次があればの話ではあるがね?フフフ…」
「なるほど、確かにそうで御座いますね」
「おっと、そうだ!忘れてた!」
ロマンがパウル家の者達の前に金貨を1枚づつ置く
「お役目ご苦労代だ、取っておきたまえ」
「「はっ?」」
「いやいや、もう既にロウ様から頂戴しておりますから⁉︎」
「はい、そうです、貰い過ぎても宜しくないです」
「構わない、下手をすれば死んでいたかもしれない役目なんだ
命の冥加金だとでも思って、貰っておきなさい
でなければ、私がロウに叱られてしまう
公爵が息子に怒られるのを見たいかね?」
「はっ⁉︎ははあっ!とんでも御座いません!」
「はっ!有り難く頂戴致します!」
「うんうん、では道中の話しとか辺境の事を教えてもらおうかな?
いいかい?」
「はい!勿論で御座います!」
「では、スコット、お茶……
いや、酒を出してくれるかい?ちょっとしたツマミも頼むよ」
「はい、かしこまりました」
「あ、タクシャカ?ちょっと待って?」
「ふむ?なんだ?喰わせぬのか?」
「「「「「はあぁぁ……」」」」」
5人の女騎士があからさまに安堵する
「いや、そうじゃない
ただの脅しだと思われても癪に触るから、龍威で這いつくばらせてみて?
この部屋限定ぐらいで出来る?」
「「「「…………」」」」
「な、なぜ竜人が龍威など出せるのだ!
脅すのも、その辺りにしたらどうだ!」
「ん?別に実行力がともわない脅しに効果が無い事ぐらい分かってるから、心配しなくていいよ?」
「この部屋?なんだ、そんな事か?なら…」
「我がしようではないか、タクシャカの龍威は至大だからな
それに、勢いあまって滅眼を開かれたらロウ以外は死んでしまうでな」
「そんなマヌケはせぬわ!」
「タクシャカ?せっかくアナヴァタプタが褒めてんのに…
あ⁉︎でも、そうか?思い出した、ゴメン
みんな部屋から出てくれる?
1階に行っててよ、じゃないと龍威に潰されちゃうよ」
「確かにそうですね、私達も動けなくなるぐらいですから…
ハンプティさん、ノイリマナさん、パンデモネさんには厳しいでしょう
気絶ぐらいで済めば良いですが、身体に変調を来たすと大変な事になります」
「え?リズさん達が動けなくなるぐらいですか?」
「ええ、ポロさん、全く動けない訳では無かったのですが
私達7人は普段通りの動きは出来ませんでしたね?」
「あゝ、それじゃあ頭取にはキツイなぁ
頭取、一先ずは階下に降りましょう
さぁ御付きのメイドさん達も」
「「はい」」
「じゃあ、ちょっとだけ下で待っててよ
ついでに、2階にも誰か居たら1階に連れてってくれる?」
「「はい」」
「間に1フロアあれば1階までは影響しないだろ」
ハンプティ達が1階まで降りると“ズウ~ン”と、のしかかってくる様な妙な気配がした
「なるほど、これが……ふむふむ、龍威とは…恐れ入りますね?
自然と頭を下げたくなりますな
しかし、彼の方々は本当に人を喰われるのか…」
「ん~本当に喰うかは判りません…
しかし、リズさん達の様子を見ていましたが喰わない様な気がしています
いや、喰うかもしれませんが殺すつもりは無いのではないかと
しかし、ロウ様の威圧は、もっと凄いですよ?
辺境伯家の殆んどの方々が失神しましたからね
私も流石に全く動けませんでしたよ」
「ほう?何かあったのかね?ポロ?」
「ええ、ロウ様の逆鱗に触れた馬鹿供がコウトーに来ましてね?
それが先日、頭取がすれ違った荷馬車に詰め込まれた奴等です」
「ほうほう⁉︎ロウ様を襲って返り討ちにあったのかね?」
「ええ、最終的には返り討ちにあったんですが
その前に冒険者を5人ほど殺してましてね?
また、その冒険者達がロウ様に良くしてくれた者達だったらしく」
「なるほど、ロウ様は義理堅いからね
さしずめ、受けた恩義を返す前に殺されたから激怒したのかね?」
「ええ、そういう感じではないかと思っています
ロウ様は希少な魔獣を保存しておられますが
その魔獣を発見した時に一緒に居たらしく…
たぶん、その魔獣素材か売却金の一部を冒険者達に渡す腹積もりでおられる様な素振りを見せておいででしたから」
「ほう?希少な魔獣ですか…」
ハンプティの目がギラギラと輝く
「それは、どのようなモノだったのかね?」
「はい、体長は、ざっとですが10mほどの龍に似た生物でした」
「10m⁉︎それをロウ様が単独で討伐したと⁉︎
あ…いや、そうか、彼の方々を従えているのか…当然ですな」
「クックックッ…彼の方々よりも凄い生き物は此の世に居ないでしょうからね
それで、龍に似た生物の事ですが、龍と違って頭にツノが無く、尾の先が剣の様な形状でした
頭は殆んどを口が占め、首は無く
皮膚は、鱗はありませんでしたが堅牢な装甲の様でした
あの皮膚は、切るには相当な苦労をする事になるでしょう
私がロウ様に頼まれ、ざっと見積もった所、全ての部位を換算して白金貨10枚の値打ちとしました
なにしろ、脳以外、全ての部位がありましたからね
血液ですら、です」
「ほう⁉︎希少魔獣の生き血か?量にもよるが、それだけでも白金貨数枚の価値になるな」
「ええ、私もそう見積もりました
そして、ロウ様は中位龍も保存しておられる様です
頭以外の全身だそうです
頭取をお連れする前にポロッと零されました」
「ほほう!中位の龍も⁉︎
なるほどなるほど、素晴らしい!
辺境まで来た甲斐がありましたなぁ♪
ロウ様と出会えたお陰で、ワクワクが止まりませんよ♪
クフフフフフフ…ポロにポロッと零されましたか……」
「え⁉︎」
「え?」
「頭取?凄く浮かれてますね?ま す よ ね?」
「うふぅぅ~ん、あんふぉにあくはい~」
ロウが鼻をつまんで声を上げる
「まはか、ふぉひんへいひんほらふとは…
へんひんてはんひひてふれる?」
「「「「「「「はい」」」」」」」




