従う者達
ワイナール皇国暦286年、5の月
「ハァヒィハァヒィハァヒィ…ロ…ロウ様…お、お久…しぶりで…ハァヒィ…ございます…」
「ハンプティ、落ち着いて、そんなに息切らせて走って来なくても待ってたのに
ほら、そこの屋台で果実水売ってるから買ってくるよ」
ロウが白濁りした果実水を2つ買って、ハンプティに1つ渡すと
ハンプティは一息で飲み干した
「良い飲みっぷりだね」
そして、ロウがもう1つ渡すと今度はゆっくり一口飲む
「おや?コレは?最初は気付きませんでしたが、サッパリして美味しいですな?」
「うん、匂いからして柑橘系っぽかったからね
息切らしてたら甘くないのがクドく無くて良いでしょ?」
「……相変わらず…流石の気配りですなぁ…」
ハンプティが感嘆の声をあげる
「改めまして、お久し振りで御座いますロウ様
益々の御活躍の様で、部下である私も鼻が高うございますよ」
ハンプティが深々と頭を下げると、その背後でポロも頭を下げる
「こんな街中でいい歳した大人達が、子供に畏まらないでよ
周りから変な目で見られるでしょ?」
「グフフフフ…コレは失礼しました
しかし、部下である私は勿論ですが
このポロにも過分な心遣いをして頂いていますので
何でも、辺境伯邸に部屋まで賜わったとか、感謝してもし足りませんよ」
「あゝ、だって一緒に長旅したからね?
到着しました~はい、さようなら~じゃ、流石に可哀想じゃない?
それに、結構役立ってくれたんだよ?」
「クフフフフ…確かに、左様でございますね
ポロは見た目によらず器用で、ソツなくこなしますからな?
しかし、この騒ぎ、あそこに見える竜人が引き起こしているのですかな?
竜人は黄金の三叉でも見掛けましたが、あの様に大きくはありませんでしたなぁ
あの竜人達の威容は御見事ですな」
「ん?黄金の三叉ってアレかな?
キリク領とサルート領とソルビ領の合わさる境界に商隊が集まってる?」
「えぇえぇ、あそこです、ロウ様は何か買い物をされましたか?」
「いや、竜人達に絡まれちゃってね?タハハ…
連れが全員怒って大変だったから素通りしちゃったよ」
「あいつらは酷かったですね?
竜人以外全ての人種を見下してましたよ!」
「ほらね?ポロなんか、まだ怒ってる」
ロウが肩を竦める
「なるほど、あまりよろしくない竜人が居たのですな?
しかし、あそこの竜人は?大丈夫なのですかな?
全体的に体格が良い普通の竜人に比べ、頭1つ分は大きく逞しい様ですが?
辺境の街では暴れたりはしないのでしょうか?
ん?違うな?寧ろ住民達が慕っている風に見える
という事は、コウトーに馴染んでいるのかな?
ん?いや違う?馴染んでいるのならば今更人集りがしているのも変な光景ですな?」
ロウとポロがニヤニヤニヤニヤ笑いながら、アナヴァタプタとタクシャカを考察するハンプティの横顔を見ている
「頭取、ヒントです
あの竜人さん達も自分からロウ様に従っているんですよ
まぁ、当のロウ様は客分扱いとは言われてますけどね?」
「おや?ロウ様が客分扱いですと?
と言う事は、名の有る部族の出なのかね?
それとも、あの竜人達が名うての偉丈夫なのかな?
しかし、それでもロウ様が客分扱いする程に敬意を払う?
竜人が自ずから従っているのに?
ん?ん?何か引っかかりますぞ?」
……⁉︎……
「そ う い え ば、先の月にコウトーにて龍王降臨があったと支店の者が言っていましたね?
その話を聞いた時は龍王降臨を見れなかった事を、とても残念に思ったのですが…
ん?ん?まさかまさか⁉︎
私の予想が正しければ、大きな声で言う事が出来ないのですが⁉︎」
「うん、大きな声でいわないでね?
大袈裟な態度も禁止ね?
今の彼等は、竜人のアナヴァタプタとタクシャカだから」
「……………………………………」
「頭取?大丈夫ですか?」
ポロがハンプティの目の前で手を振る
「ハッ⁉︎一瞬、頭が真っ白になりましたぞ⁉︎」
「あー、やっぱ普通に思考停止するぐらいなんだなぁ」
「いやいや⁉︎いやいやいやいやいやいやいやいや⁉︎
それはするでしょう⁉︎」
「はい、大袈裟禁止!」
「あ…失礼致しました…」
「おお、ポロではないか?来ておったのか」
「ん?その福福しい腹の持ち主は誰か?お主の知り合いかね?」
話し込んでいたロウ、ハンプティ、ポロの元に
いつの間にかアナヴァタプタとタクシャカが近寄ってきていた
そして固まるハンプティ
“ガタン”“ゴソゴソ”“ゴトゴトン”“ヒタヒタ…”“ペタペタ…”“ガチャ…”“ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ”“ガンガンガンガンガン!”
「んお⁉︎なんだ⁉︎誰かが中から開けようとしてるぞ⁉︎」「ありゃ⁉︎誰か閉じ込められちまったか⁉︎」「なんだよ?荷車の中で居眠りでもしたマヌケでもいたのかよ」「おいおい!閉じ込められたのは分かったからガチャガチャすんな!」「おい?誰が鍵持ってんだ?」「早く開けて出してやれよ」「鍵は詰所だろう、早く持ってこいよ」「あゝ、飯も食ってないだろうからな」「まったく、なんだってこんな夜更けまで寝てたんだか」「おーい、持って来たぞ」「おお、ありがとよ」「早く開けてやれ」
“カチャカチャ”
“ギギイイイィィィィィ…”
「ほら、出てこいよ」「え?多くね?」「は?なんだって、こんなに閉じ込められてんだ?」
「いつの間に大人数で入っ…ギャアアァァァァ⁉︎」
「え⁉︎うわ⁉︎腕を食いちぎりやがった⁉︎」
「「「はっ⁉︎」」」
「ヤバイ⁉︎こいつらアンデッドだ⁉︎離れろ‼︎」「槍持ち!突け!早く突け‼︎」「ダメだ!こいつら動きが速い!ギャッ⁉︎」「うわ⁉︎ヤメロ!食うな‼︎ヤメロ!やめ…て…」“ガリッ”「あ…あ……」“ボリボリ…”「痛…い…い…た…」“ガブリ”「喰わな…」
「あ”ー」“ヒタヒタ…”「お”ー」“ヒタヒタヒタヒタ…”
夜の皇都南街区の中へ、アンデッド達が消えて行った
「死にましたか?」
「のこりは何人でしょうね」
「宴が始まり、南街区の終わりですね」
「会話は無理な様子でしたね、門と扉は?」
「開けて置きましたよ、全てを。うふふ…」
「始まりましたね、楽しみです」
「しかし、私はアンデッドを初めて見ましたが…」「ええ、気持ちが悪いものでしたね?」「生者の脳を破壊しようとするんですね…」「あんなに動きが速いとは予想外でした」「元の職業が関係しているのでしょうか?」「死んでいるから生者の様な身体の制約が無いのでは?」「なるほど、確かに有り得ますね?」「声さえ上げなければ気配も薄かったですね」「あれは、普通の人には止めれないでしょう」「首を落としても止まらなそうですね」
「はい、その辺りで無駄話は止しなさい!
皆さんは決して巻き込まれない様に」
「「「「「はい」」」」」
「半数で倉庫内を探って、重要そうな物や珍品稀品を持ち帰って下さい
相手は犯罪組織です、遠慮は要りません」
「「「「「はい」」」」」
「残り半数はアンデッド達を尾行し、詳細を記憶してください」
「「「「「はい」」」」」
「では参りましょう。何があっても手出しは無用です
私達は観察者ですからね」
「「「「「はい」」」」」
「ワラシ!アレはなに?」
「アレは肉だ!うまい!」
「おいしいの?」
「うん!うまい!金と交換するんだ!」
「たべてみたい!」
「うん!いこう!」
ワラシとキャロル、メイドが串焼き肉の屋台に近付く
「おじさん!焼いてるのぜんぶ!」
「は?ボウズ?全部は多いんじゃないか?20本はあるぞ?」
「大丈夫だ!ぜんぶたべる!」
「?あぁ、持ち帰ってって事だな?それなら大丈夫だな
ウチの串焼きはデカイから1本銅貨5枚で全部で銅貨100枚、銀貨で1枚だが持ってるのかね?」
「うん!え~っと」
ワラシが背負った風呂敷を外そうとする
「ワラシちゃん、20本は多いのではないですか?かなり大きい串焼きですよ?」
「?みんな食べないのか?」
「ひょっとしたら影控えの者達もですか?」
「うん!」
「なるほど、分かりました。ありがとうございます」
「??」
メイドが周りを見回して
「皆さん出てきてください」
と声をかけつつ、革袋から銀貨を1枚出す
「私が御預かりしている分から出しましょう」
屋台の籠に銀貨を入れる
「お、確かに、毎度ありぃ!
じゃあ、直ぐに焼き上げるから少し待っててくんな!」
「シリノエス!ありがとー!」
「ありがとう、シリノエス!」
「いいえ、どういたしましてワラシちゃん、キャロル様
でも、お礼は必要ありませんよ?ロウ様から御預かりしていた分ですから」
「?そうなのか?」
「ええ、そうで御座います」
「オヤジさん、慌てなくていいから美味しく頼むよ」
出てきた騎士達が声をかける
「あいよ!任せな!って、こんなに居たのか⁉︎」
「ははは、そういう事だ」
「ほう?ここでリズ達が働いておるのか?」
「中々に大きな建物だな?」
「そう、冒険者組合
僕とアナヴァタプタとタクシャカが出会うきっかけになった者達が、ここで仕事を探して働いているんだよ」
「あゝ、あの者達か」
「ふむ、あの者達を殺しておったら、この楽しみも無かったな」
「ははは…皆んなが命拾いしたね
さぁ、中に入ってみよう
僕も2度めだし、詳しくは知らないんだけどね?」
ロウが扉を開け、アナヴァタプタとタクシャカが続き、御付きのノイリマナとパンデモネが続き
緊張感漂わせたハンプティ、それにポロが続く
「あら♪ロウ様♪」“ガタン!”「ロウ様♪」“ゴトトン!”
リズとミアが椅子を倒しながら立ち上がる
「あ⁉︎龍…」
「リズ!」
ロウが声を上げ、人差し指を口に充てる
「コホン…失礼致しました。
竜人さん達も、ようこそコウトー冒険者組合へ」
「ふむ、リ…ん、少々見させてもらおうかな」
「うむ、初めて見るので珍しいモノばかりだな」
「ははは…そうでしょう、リズさんとミアさんに色々と教えてもらってはどうですか?」
2階からオムルが降りてくる
「それと…“ロウ様、組合に牢はありませんので、密談部屋に先ほどの神官を入れて冒険者を見張りに付けているんですが
新たに捕縛者が5人増えまして…”」
「え?ちょっとちょっとオムル、こっちきて詳しく教えて?
あ、アナヴァタプタとタクシャカはリズ、ミア、頼むね」
「「はい」」
「では、アナヴァタプタさんとタクシャカさん、こちらへどうぞ」
「うむ、リ…あー頼む」
「ふむ、色々と教えてくれ」
「で?オムル?増えたって、どういう事?
他にもいた神官が暴れたの?」
「いえ、その5人は神官ではありません
本人達の話を信じるならば、サルート子爵領騎士団の特別編成隊の様です」
ロウが頭を抱える
「なんだそりゃ?騎士身分が他領で暴れるとか、なに考えてんだ?脳筋かよ
それに、他所の爵位家の騎士隊が暴れたなら外交問題だ、ロベルト叔父さんの出番じゃないか
なんでオムルが深刻な顔してんの?」
「え~っと、暴れようとした相手がキャロル様達で
捕縛したのはキャロル様付きの影控えをしていた騎士団員で」
「ん?ますます、辺境伯扱いな案件じゃないか?
…?あゝ、ワラシがなんかした?」
「ええ、まあ簡単に言うとそうなのですが
その5人組の女騎士隊員…」
「え⁉︎女騎士隊?それが暴れた…
あ、ゴメン、続けて?」
「はい。その女騎士隊員のリーダー格が暴走し
他の4人は制止しようとしていた様なのですが
暴走していた者がナイフを抜いた途端に、ワラシが右手を斬り落としたみたいです
影控えが言うには、完全にワラシの落ち度は無いとの事ですが…」
「うん、そうだね?
刃物を持ち出したんだ、殺されなかっただけでも有難いぐらいの案件だね?
でも、そうか、相手が他領の騎士隊か…問題になるかもしれないと?」
「はい、問題になった場合は、ワラシには荷が勝ち過ぎるのではないかと」
「ははは…確かにそうだね」
「ロウ様、横から失礼しますが
ワラシとは旅の途中で従魔にしたモノですか?」
「うん、そうだよハンプティ?それがどうかした?」
「あぁいえ、従魔であればロウ様の管理責任が問われませんか?
相手が《凶暴な獣に襲われた》と強弁すれば
人では無い方が不利になりませんか?」
「?え~っと?あれ?ポロ?」
「…⁉︎あゝ、頭取はワラシの事は便りでしか知りませんから」
「なるほどね?だから、ハンプティはワラシが四つ足の獣で、牙か爪で騎士の右手を斬り落としたと思った訳か」
「違うので?」
「うん、そうだね、従魔と聞いても見た事が無かったら普通はそう思うよね?
残念ながらワラシには鋭い牙も、凶悪な爪も無いんだよね
だから、その強弁は成り立たないから心配要らないよ」
「では、どうやって右手を斬り落としたので?
ん?《普通は》?では普通ではない?魔法?魔獣が魔法?」
「いやいや、文字通り鋭利?な武器で斬り落としたんじゃない?」
「武器ですと?魔獣の鋭利な武器は牙か爪…?
しかし、牙も爪も無い?ではツノ?
ん?武器を使う?武器を持てる手がある?半人半獣の魔獣?
ん~、降参ですな
獣人やケンタウロスの様な半人半獣の亜人であれば納得なのですが
亜人は従魔にはなりませんからなぁ」
「へぇ~、その説は初めて知ったよ
亜人は従魔にならないんだね?って事は人間も従魔にはならないって事か」
「ええ、内包魔力量が関係しているのかもしれませんな?
その魔獣の魔力を上回る力で屈伏させるのが、従魔にする条件と言われていますからな」
「ふ~ん?でも、僕の従魔には力で屈伏させたのは居ないよ?」
「そうなのですか?
では、ロウ様には元からテイマーの資質があるのかもしれませんな?
テイマーは力では無く、元々が獣に懐かれる性質で従魔にするらしいですからなぁ」
「へぇ~、じゃあ昔から色んなペット飼っ…おっとぉ…
なんでもないなんでもない…」
「「「??」」」
「さて従魔談議はまた今度、今は捕らえた騎士隊と神官を何とかしないとねぇ
どっちも面倒極まりないんだがしょうがない
アナヴァタプタとタクシャカとワラシの為にも頑張りますかね?」




