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千客万来?


ワイナール皇国暦286年、5の月




「アルミン様、コウトーの街門です

貴族らしく身分を明かしてコウトーへ入城し、辺境伯爵様に御会いなさいますか?」


「う~ん、どうしましょう?

ウチの爵位はコロージュン辺境伯爵様より格下ですから

先触れを出しても軽くあしらわれるのではないでしょうか?」


「まさか、そんな⁉︎

アルミン様は子爵家令嬢なのですから、格上の辺境伯爵様と言えど礼儀は尽くされるかと存じます

それが貴族と呼ばれる方々ではないですか」


「う~ん、そうなのかしら?

ただ私は龍王様を一目拝見したいだけだから、大袈裟にはしたくないなぁ」


「しかし、大袈裟にしたくないと(おっしゃ)られても

サルート騎士団、アルミン特別騎士隊30人が護衛で来ていますので

自然、大袈裟になってしまっているのではないでしょうか?

それに、辺境伯爵様に御挨拶しないと、最悪私達は宿無しになるかもしれませんよ?

街宿(まちやど)を探しても、急々で人数分の部屋は確保が難しいでしょう」


「う~ん、宿無しはイヤねぇ」


「ええ、宿無しは私達娘子(じょうし)隊には大変困ります

お風呂など贅沢は申しませんが、せめて着替えが出来ないと…」


「え~、お風呂は必要でしょ~?」


「であれば尚更ですよアルミン様、辺境伯爵様の御力を借りなければなりません」


「しょうがないなぁ~、じゃあ御挨拶しましょうか~

オルガ~?お願いね」


「はい!かしこまりました!」

心なしか騎士隊隊長のオルガがホッとしている、そして馬車から顔を出し声をあげる

「全隊停止!副隊長クレール!コウトーへ先触れを!

副隊長ネリーは隊列を整えろ!」


「「はい!」」









「なんで俺は依頼を受けれないんだよ!」


「ですから何回も言っているように、ジャイさんはパーティーを組んでいないからです」


「だから、仲間で臨時パーティー組むって言ってるじゃないか!」


「臨時ではダメです、日頃からパーティーで活動をしている者しか今回は募集していません」


「なんで臨時はダメなんだよ!パーティーなら良いじゃねーか!俺が獣人だから差別してんのか!」


「信用問題です、獣人かどうかは関係ありません

依頼主からも《亜人でも構わない》と確約いただきました」


「じゃあ良いじゃねーかよ!アヌビスぐらいの旅じゃ、なんも起きねーよ!

日当銀貨3枚は美味しいんだよ!」


「現冒険者組合は【何も起こらないだろう】で対応はしません

必ず【何かが起こるだろう】が前提で対応します

前冒険者組合とは違うのです

では、何かが起こった時は如何(どう)されますか?

臨時でパーティーを組んだ者達が緊急事態に統率が取れた対応が出来るのですか?

護衛を失敗したら、護衛対象の生死に関わるのです

依頼を失敗した時はジャイさんが責任を取れるのですか?

任務失敗で貴方(あなた)が死んだら?

責任は冒険者組合や他の者が肩代わりするのですよ?

ジャイさんに他の冒険者や、その家族の人生を背負えるのですか?」


「な…⁉︎ちょっと大袈裟じゃないのか?」


「少しも大袈裟ではありません

冒険者組合は冒険者達を守らなければなりません

守るという事は、命を守るだけでなく冒険者の信用をも守るのです

冒険者に信用が無ければ依頼が来なくなるのですよ?

ジャイさん1人の問題では無いのです

ですから冒険者組合は、危険が少なそうな依頼達成にも最善を尽くします

前組合長がジャイさんを見殺しにしようとしたような事は、現冒険者組合は絶対にしません」


「………」


「理解出来ましたね?

では、アヌビスへの護衛依頼はニシャライさんのパーティーと、ノエルさんのパーティーにお願いします

特に、ノエルさんのパーティーには女性ならではの気配りも期待します」


「了解ですよ」「はい、頑張ります」


「では、早めに馬と装備を整えて準備していて下さい

荷馬車は必要ですか?」


「そうですね、1台お願いします」


「わかりました、では、組合の荷馬車を手配します

後の必要な諸々は護衛対象と相談してください

食料などは、旅専門の商店が朝早くから開いているから間に合うでしょう」


「「はい」」








「う~むむむ…お袋様は如何(どう)思いますか?」

「私は大丈夫だと思いますよ?」

「キャリーは如何だい?」

「まぁ、少々不安はありますが…ロウ様と、何よりも龍王様方が御一緒なさるのですから大丈夫ではありませんか?」

「少々の不安とは何かな?」

「それは、キャロルが初めての街歩きにはしゃいでしまって、龍王様方に御迷惑をお掛けしないかと言う事ですわ?」

「あー、そっちかぁ…確かにねぇ…」

「儂は一緒に行けないから反対だ!」

「一緒に行けないから、って…親父殿

親父殿と言うより、大人はダメなんですから」

「騎士団も行くではないか!」

「騎士団は万が一に備えての平服での影控えですって、ロウ君が言っていたでしょう?」

「ならば儂も影控えをする!」

「子供みたいな我が儘を言わないでください

親父殿に影控えなんて出来るはず無いじゃないですか

それに、影控えの意味を分かってないでしょう?」

「それぐらい分かっておるわ!」

「いや、信用なりません!

何かがあれば、親父殿は街中でも躊躇(ちゅうちょ)無く強力な魔法をぶっ放すでしょう

今のコウトーは、(いま)(かつ)てないぐらいに活気付いているんです

そんな煮え立つ油の中に、火を放つ様な真似は出来ません

親父殿は諦めて頂きます!」

「ぐぬぬ…」


「では、龍王様方の初めての街歩きにキャロルがついて行く許可を出しても良いかな?」

「私は構いません、せいぜい半日ですからね」

「ええ、私も構いません

ロワールは行きませんし、遊び相手にコマちゃんも居残る様ですし」

「うん、じゃあ影控えの騎士を選抜してくれるかな?スコット」

「はい、かしこまりました」









「ロキシー殿、アヌビスへ帰る為の護衛は手配してきた

明日の朝には冒険者組合に行くといい

どうやらコウトー冒険者組合は、アヌビスの冒険者組合よりも人材が豊富なようだったよ」

「ほう?そんなに腕利きが揃っていたのかね?ゾルダン殿」

「いや、冒険者の事は判らない

しかし、相対した組合職員が亜人ながらも大した者であったよ

流石に規模だけは大きな街の冒険者組合職員であったな」

「ふむふむ、その組合職員をゾルダン殿は取り込もうと考えておられるな?」

「うむ、優秀な人材は将来役に立つであろう?

冒険者という万能な兵力になるようなクセが強い者達を巧く使え

器量も良かったら、これほど使える人材は他に無い

最初から我が宗の幹部に迎えても問題無いぐらいだな」

「ほう、器量良しでもあったのか

それは、何としても引き抜きたいものだね」

「うむ、美貌は力になり得るのでな

人心を掴むのには美貌ほど、うってつけな武器はない」

「クックック…何かしら手を考えているのかね?」

「いや、まだだな、あの受付嬢の住居や家族など調べ上げねばならぬ

金で転んでくれれば簡単なのだが、それも効果的に使わねば意味がないのでな」

「まぁ、大丈夫なのではないか?

所詮(しょせん)、コウトー冒険者組合の管理者はロベルトだ

あの者に、それほどの魅力があるとは思えぬな」

「うむ、まったく同感だ

我等が龍王様に(まさ)る魅力を持った者などおらぬよ」

「ところでゾルダン殿、宿にはいつまで滞在するのかね?」

「ふむ?この高級宿のディグダントも快適なのだがな

コウトーに長滞在するとなれば、一軒家でも借りてマチカネ教の拠点を造らなければならぬな」

「高級住宅街には大きな空き家があるのではないか?」

「うむ、信者に探させようか」










“コンコン”

「アナヴァタプタ、タクシャカ、入っていいかい?」


「?あぁそうか、部屋に入る時には《ノック》をするのだったな?」

「うむ、ロウを入れてくれ」


「「はい」」

御付きメイド達が、ロウ達を招き入れると


「やあ!何してたの?」

「ワフッ?」(楽しんでる?)

「寝てたか?」

ロウ、コマちゃん、ワラシが入ってきた


「うむ、いろいろと練習をしておった」

「このコップで飲み物を飲んだりな」


「あー、確かに練習しないと難しいよね?

毎回、小樽や小甕で飲む訳にもいかないしね?」

言いながらロウ達は、アナヴァタプタとタクシャカが対面に囲む座卓の横に“ストン”と座り込む

「はぁ~、やっぱ床座は良いな

アナヴァタプタとタクシャカも椅子じゃなくて良かったね?

椅子だったらデカイ尻尾が邪魔で座れなかったもんね?」


「うむ、確かにそうだな」

「しかし、部屋に入るのにいちいち足を洗わねばならぬのが邪魔ではあるな?」


「そりゃあ、しょうがないんじゃないの?

僕らみたいに履物を履いてないからね?

座る場所が汚れてるのもイヤでしょ?」


「ふむ、そうなのだがな…」

「それでロウよ、何か用があってきたのだろう?」


「うん、まぁね?新しい事を覚えてもらおうかと思ってさ」


「うむ?」

「新しい事?」


「そう、街歩きするには覚えて損は無い事だよ

まぁ、その為にはメイドさん達には場を外してもらわないとならないんだけどね?

って事だから、呼ぶまで外してくれるかな?」


「「かしこまりました…」」

メイド達が部屋から出ていくも、部屋の側に待機する


「まぁ、御付きだから仕方ない」

ロウが《扉解放禁止》《防音》と描いた魔方陣を扉に付与する


「ふむ、いろいろな魔法があるのだな?」

「うむ、興味深い」


「今の魔方陣は扉を開かない様にして、部屋の中の音が外に漏れない様にした魔法だね

そんな色々な種類がある魔法の1つを覚えてもらおうと思ってね?」

“ブゥン”と魔方陣を出す

「コレだよ、収納魔法

アナヴァタプタとタクシャカは鱗に覆われてるけど、俺から見ると裸なんだよね?

だから、持ち物が手にしか持てないじゃない?

それは不便だから収納魔法

これがあれば、物も(かね)も手に持つ必要が無いから便利だよ」


「ふむ?それは以前、我が僕龍(しもべ)を隠した魔法か?」


「あー⁉︎そうだった!忘れてたなぁ…

要る?出そうか?

あ…この部屋の広さじゃ無理か…」


「……いや、まだ隠しておいても()

まぁ、それはロウへの生贄(いけにえ)にしよう」


「生贄って……まるで俺が邪神みたいに…」


「まぁ、良いではないか

それで?その魔方陣はどうすればいいのだ?」


「その前に、龍王はどうやって魔方陣を創るのかな?」


「ふむ、魔方陣だけならば大した事は無い」

「うむ、容易(たやす)い事よ」

““ブゥン””と円環の魔方陣を描く事なく出す


「んー?読めないけど俺の魔方陣と一緒なのかな?」


「ワフン」(一緒だよ、彼らは文字を持たないから脳内言語が最適化された記号になっただけ)


「は~、そりゃまた便利なこって…

じゃあ、真ん中に漢字で描いたのは発動する?」


「ワッフ」(問題無く発動するよ)


「よっし!じゃあ、今から書くのを真似して真ん中のスペースに2つ描いてくれる?」

と、ロウが魔力で中空に《異空間》と《時間停止》と描く


「ふむ、見た事が無い文字だな」

「うむ、しかし問題無い」

アナヴァタプタとタクシャカが文字を見ただけで、魔方陣の中に文字が浮かび上がる


「ほえ~、便利なもんだねぇ

まぁいいや、次は魔方陣に魔力を適度に流して起動させて?」


「うむ、こうだな」

「こんな感じか」

魔力を流すと、淡い紫に発光する


「うん、成功した?よな?」


「ワフ」(見た感じ、成功だよ)


「アナヴァタプタ、タクシャカ、創った魔方陣に魔力を纏わせて手を入れてみて?」


「「うむ」」

それぞれが魔方陣に手を入れると、手は突き抜ける事なく中空に消える

「おお⁉︎なるほど!」

「これは面白い魔法だな」


「注意しなければならない事が、決して生きているモノを入れない事

不用意に魔方陣を出して、他のモノが手を入れたりしない様にする事…かな?

注意じゃないけど、中は刻が止まってるから入れた時の状態で保存されるよ

他に何かあったかな?たぶん無いよな?」


「なるほど、これは我以外は触れても危ないのだな?」

「我が魔力にしか反応しないという事か」

「「しかし、刻を操るか…」」


「ククッ…ハモったねぇ

そうだね、操る事になるね

その魔方陣に触れるのはコマちゃん以外はダメだろうね?

俺でもどうなるか判らないよ

だから、収納魔法を使う時は魔方陣の大きさを調整して出してね」


「うむ、了承した」

「うむ、小さく出すとしよう」









「旦那様、先触れが参ったようです

街門から伝令が来ました」


「スコット⁉︎またか⁉︎次は誰だい?

先触れを出したという事はアヌビスから戻ってきた訳じゃないだろう?貴族かな?」


「貴族……そうですね、貴族家の方です」


「貴族、家、か…なるほどね?

どこの爵家の一門さんかな?」


「はい、サルート子爵御令嬢です」


「お、サルート子爵か、彼には交易で世話になっているね

であれば無碍には出来ないな

屋敷に到着したら直ぐに通す様に門衛に言っておいてくれ

いやぁ、しかし、サルート子爵と会うのも久しぶりだ」


「あ、いえ、《サルート子爵御令嬢》が、来訪されるようです」


「ん?御嬢さんだけ?

御忍びで子爵も来ているのでは無く?」


「はい、その様には聞いておりません

サルート子爵様が旦那様を騙す意味もありませんから、正確な情報かと思われます」


「…これは…少し面倒かもしれないな

御嬢さんの名は?」


「は、アルミン様と

それに騎士隊が30名、全員が女騎士です」


「……う~ん…娘子隊か…オテンバさんじゃなければ良いが…」


「そればかりは御会いしてみない事には…」


「そうだね、すまない

確かにスコットの言う通りだ

しかし、娘子隊か…

もう、屋敷に向かっていると思うが、大至急騎士団を警護に走らせてくれ

間違いは無いとは思うが、念の為だ」


「はい、かしこまりました

では、行ってまいります」

スコットが即座に出ていった








「おばあさま、おかあさま、アシタはナニを着ていけばいいですか?」

「そうですねぇ、派手過ぎず地味過ぎず、でしょうねぇ」

「色合いが難しいですわね?龍王様方も御一緒ですから少々派手でも、そうは目立たないでしょうが

主役は龍王様方ですから、それよりも目立つのは龍王様方に失礼ですものね」

「貴女達には良い考えが浮かばないかしら?」

キホーテがメイド達を見回す

「良い考えがあれば、遠慮せずに言ってちょうだい?」


「あのぅ…大奥様、奥様…」


「あら?なあに?何でも言って?」


「お耳を宜しいでしょうか?」


「どうしたの?」

キホーテとキャリーがメイドの側近くまで行く



“これは、キャロル様とワラシちゃんの初デートでもあるのではないでしょうか?”


「「……⁉︎」」




「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎キャリーさん大変よ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎御義母様(おかあさま)大変ですわ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」





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