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初めて〜の〜シチュ〜


ワイナール皇国暦286年、4の月




「辺境伯様、コウトーの門衛には組合の誰かが防衛のお願いをしに行ってると思いますけど

辺境騎士団とかも出すんですか?」


「そうだね…ふむ…トゥリーサさん、まぁ君たちには知られたみたいだから言うが

その竜人と冒険者諸君の間に割って入った子は、たぶん私の縁者でね

まぁ正直なところ、あまり心配はしていないのだよ」


「え⁉︎でも、リズさん達が到着するのは、早くても半日以上はかかる距離だって言ってましたよ?

小さな子が1人では難しいのではないでしょうか?

あ…いえ…決して辺境伯様の御身内を(おとし)める意味では無くて…ゴニョゴニョ…」


「ハッハッハッハッハッハッ、分かっている、分かっているよ

常識的に考えれば、その考えが正しいね

中堅冒険者達が為す術なく逃げ帰った敵だ、子供に何が出来るものか、とね?」


「は…はぁ…」


「ん~?そうだな、必要が無いとは思うが一応は明日からコウトー周辺に我が騎士団を展開させよう

せっかく組合から知らせてくれたのだ、新生冒険者組合の職員に無駄足を踏ませる訳にもいかないからね?

だが、君たちは何故我々が英雄達の子孫なのかを知ることになるかもしれない

ただし、それは職務上、私達に近しい冒険者組合職員ぐらいしか知らなくていい話だという事を頭に入れておきなさい

君たちの仕事は、情報の適切な管理、というのも大事な職務だよ」


「は、はいっ!」










「う~ん…う~~ん…」


「ロウはどうしたのだ?」

「うむ、何か悩んでいるようだな」


ロウ、コマちゃん、アナヴァタプタ、タクシャカの4人?はコウトーに向け歩いていた

その場に留まっていては要らぬ面倒ごとが再び起こるとも限らない

なので、とりあえずは先へ進む事を優先した

後は野となれ山となれ、と普段ならば思うロウだったが…


“俺、6歳にして扶養家族多過ぎじゃね?

それも人外(じんがい)ばっかとか何の呪いだよ…

しかし、龍王の住処(すみか)かぁ…

とりあえずは御屋敷に住まわせてもらって……

いやいや、それしか無いじゃないか、何を言ってんだ俺は

この世界の賃貸事情とか知らないだろ

それに、街中なんか住まわせたら何が起こるか想像するだに恐ろしい

となると、叔父さん達に何て説明をするかな?

冒険者達が無事に帰っている事には心配無いだろうが、そうなると竜人に襲われたって情報がいってるのも間違い無い

とすれば、アナヴァタプタとタクシャカはコウトーで敵認定されてるのが普通だよな?

じゃあ、コウトー冒険者組合管理者の辺境伯家に情報が行くのも当然

果たして俺が説明しても説得力があるのかどうか…

ん?でもアナヴァタプタとタクシャカの顔を知ってるのは冒険者6人だけか

て事は、その6人だけ誤魔化す?口を封じる?

あー、竜人ってのが問題だから意味ないか…

やっぱり説得かなぁ…

しかし、いつまでも竜人で通せるんかな?

いつか龍王ってバレないか?

その場合は?

パニック待った無し、かなぁ…

じゃあ、最初から龍王として紹介を?

ん~~~~、その時の反応が読めない…

そもそも、龍王1人で皇国がひっくり返るぐらいの存在だよな?

それが、1つ屋根の下に2人もいる

いくら英雄の子孫とはいえ、超が付く化け物が身近に居て普段通りの日常生活を送れるのか?

ん~~~、何かしら働いてもらって役に立ってもらうか?

いやいや、龍王に何が出来るんだよ…

いや?出来ない訳じゃないだろうな?

何でも出来るだろうが、何でも異常な規模でこなしてしまって大騒ぎになるのが目に浮かぶ、か…

う~~~~ん、龍王の適材適所配置なんざ無理ゲー過ぎるだろ…”

ブツブツブツブツ呟きながら歩く


「ふう……ねえ?聞いて良い?」

振り返って龍王達を見る


「何だ?」「うむ」


「君たちって純粋な龍王の力って抑えられるの?」


「む?抑えた事が無いので判らぬな」

「うむ、それほどまでに抑えねばならぬのか?」


「あー、そっか…必要性が無いなら力を抑えた事もないよね?

ゴメン、質問が間違ってた

え~っとね、君たちの力って普通の人にとっては異常でね?

例えばなんだけど、可愛らしい子供を見かけて頭を優しく撫でようとしても“グシャ”って潰してしまうぐらいなんだよね?

だから、君たちの行動はかなり制限される事になってしまって

それが不満の種になってしまえば、いずれ爆発しちゃう

そうなったら全ての人が不幸になってしまうと思わない?」


「む、なるほど、理解出来るな」

「うむ、分かり易い、確かに関わる者達の不幸を望む事はない

だが、その普通の人という者達の力を全く知らぬでな?」


「そうなんだよねぇ…誰かで試す訳にもいかないしねぇ…」

ロウが頭をガシガシ掻く

「この身体が無敵過ぎて俺が試す意味もないんだよなぁ…

しかしなぁ、力加減を覚えてもらわないと日常生活にも支障をきたすんだよね

ほい!ギュッと握って?」

とロウが手の平大の石を拾いタクシャカに放る


「ん?“パシュッ”何だ?」

タクシャカが石を握った瞬間に砕ける事なく砂になった


「ね?握っただけで石が砂になるなんて、普通の人ってのは先ず出来ないんだよね

そして、君たちが何の気なしに普通の人と触れ合ったりしたら

普通の人は、その砂みたいになっちゃうって事」


「なるほどの?普通の人とは脆いのだな」

「ふ~む…難しいものだな…」


「そ!難しいんだよ、だから何か方法を考えよう」


「ふむ?危ないから帰れとは言わぬのだな?」

「うむ、てっきり我等を追い返す方便だと思っておったが?」


「は?そんなに俺は薄情なつもりは無いよ

せっかく初めて人の側近くに暮らすんだ、楽しまなきゃ損だろ?」


「…うむ、うむ、そうだな……楽しむか」

「あぁ…そうだな…そうだな…楽しまなければな」


コマちゃんがニヤニヤしながら見ていた










“ドドドドドドドドドドドドドドドド………”

小街道を脇目も振らず全速で駆ける7騎、たまたま通り掛かった者達は慌てて道端に寄ってやり過ごす


「皆さん!先程のロウ様の魔力を感じましたか!」

「もちろん!間違えるはずも無いわ!」

「ええ!先日のと一緒でしたね!」

「間違い無い!アレはロウ様だ!」

「やっと、ロウ様に会えるぞ!」

「あゝ!楽しみだ!」

「しかし、このまま飛ばして良いのか?馬が潰れるんじゃないか!」


「「「「「「あ⁉︎」」」」」」


「停止!停止します!」

リズが叫ぶと全騎停止する

「危ない所だったわね、馬を潰したら絶対に怒られてたわ」

リズが馬から下りて馬体を撫でると汗をビッショリ掻き、息が荒い


「馬は大丈夫ですか?」

「はい、でもギリギリっぽいですね」

「大事をとって休憩ですね」

「切り替えますかぁ気持ち、馬は大事ですからね」

「にしても焦れったいなぁ」

「しょうがない、怒られるよかマシだよ」

「よく気付いたなぁ、トロリー」

「うん、まぁ、たまたまだがな?」


「あちらに小川がありますね?移動しましょう」


ミアが懐中時計を見ながら

「30分ぐらい休憩すれば大丈夫かしら?」


「そうですね、そのぐらいあれば大丈夫なんじゃないすか?」

「どっちにしろ、まだまだ距離があるから休憩はしっかり取らないと」

「そうだな、だいぶ来たけど後半日はかかるだろうな?」

「うん、馬の目を考えると夜通し駆け通すのは危険だしな」

「夜になったら、足元に気をつけながら並み足で進めるしかないな」










“ドドドドドドドドドドドド……”


「ん?あゝ、ヴァイパーが戻ってきたか

あと2kmぐらいの距離かな?」

ロウが、ふと立ち止まり耳を澄ませる


「ロウよ、先程の(Dragon)(horse)か?」

「あゝ、あの我等に近しき…いや、同等のモノか」


「え?龍馬?なにそれ?」


「何を言っている?先程、我等が食おうとしていた者達を連れ去った者だ」

「うむ、チラとしか見なかったが確かに龍馬であったな」


「龍馬ぁ?アレは俺が魔力を流し込んで従魔になった元混血魔獣だよ?」


「ふむ?ならばロウの魔力で龍馬へと変質したのだろう」

「うむ、普通の魔獣というモノより遥かに強いのではないか?」


「え?まさかそんな事…⁉︎(ピコン)…思い当たる節はある…かも…」


「そうであろう?」

「万物創世の神に近しきロウの魔力を体内に宿しておるのだ、普通の魔獣で在るはずも無かろう?」


「……俺が怪物を産み出してるのか……」





「タアアアアァァァァァァー‼︎」

「ブルルアアアァァァァ‼︎」

ワラシがヴァイパーの背で立ち上がり笛を抜き放ち

ヴァイパーが雄叫びながらツノの先端に魔力を集め発光する

「我の主人(あるじ)から離れろー!」

ワラシがヴァイパーの背から跳び、笛を振りかぶり、空中でアナヴァタプタへと撃ちかかる

「むお⁉︎」“ガイイィィィン‼︎”

アナヴァタプタが腕を交差させ笛を受け止めるも、足が脛まで地面にめり込んだ


「ビヒイイィィィィン‼︎」

ヴァイパーがタクシャカに向けツノから光線を放つ

「うぬ⁉︎」“バッシイイィィィィン‼︎”

タクシャカが滅眼を見開き瞬間的に結界を張り、光線を弾く


「うわっ⁉︎待て!ワラシ!ヴァイパー!ストップ!止まれ!」

普通にヴァイパーとワラシを待っていたロウは事態に出遅れてしまっていた

「アナヴァタプタ!タクシャカ!反撃はダメだ!」


「え?あれー?」「クッ…腕が痺れたわ」「ブヒヒン?」「ギリギリで結界が間に合いおった…」


「まさか、数秒でこんな感じになるとは…

ヴァイパー、ワラシ、この龍王達、アナヴァタプタとタクシャカは仲間になったんだ

もう敵じゃないから大丈夫だよ」


「仲魔?あ!ごめんー!」「ヒヒン」

「なに、気にするな」「うむ、知らなかったのだ、問題無い」


「まぁ、出会いが決して良い出会いじゃなかったからね、しょうがないよ

これからは仲間だから仲良くしていこう

ね?ワラシ、ヴァイパー」


「うん!わかった!仲良くする!」「ヒヒン!」

「うむ、我等からも頼む」「む、仲間か…良いのう」


「ふ~、みんな暴走しなくて良かった…

危うく史上最大の怪獣決戦が始まるところだ…

とりあえず、全員揃ったから野営の準備でもしようか?

もう直ぐ陽も落ちるしね?

ワラシ、2人増えたから、いつものは大きめに創ってよ」


「わかった!」


小街道から少し外れて原っぱへ移動する


「じゃあ先ずは食事にしよう、何にするかな?

ん?あ、アナヴァタプタとタクシャカはモノが食べれるんだよね?

料理はどうしてた?」


「料理?人はそのまま喰ってきたが?」

「うむ、肉が固いか柔らかいかであったな」


「………うん、これからは街住みなんだ生肉以外の味も覚えてもらわなきゃな

冒険者達が狩った魔獣も回収してはあるけど、せっかくの稼ぎを使うのは可哀想だし

前に狩っておいた大猪(big boar)を2頭ぐらい丸焼きするか

どうせ嗜好で喰ってたんなら量は関係無いだろうしな

後は、パンとシチューかな?少しでも文化的な食事を経験させておこう」


ロウが1頭15分ぐらいで大猪を捌き、ぶっとい木に丸々突き刺す

捌いて内臓とか取り出しても1本約100kgぐらいあるソレ2本をアナヴァタプタとタクシャカにそれぞれ持たせる

腹の中と外側に塩と香辛料を擦り込んで待機させ

その間に、石で風除けぐらいの簡単な竈門(かまど)を作り、魔方陣で火を起こし、一定の距離で肉を回しながらジックリ炙らせる


その光景を見ながらロウの脳内では

“チャッチャラッ♪チャララ♪チャッチャラッ♪チャチャチャ♪チャララ♪チャララ♪チャララ♪チャララ♪チャッ♪”

と、狩りゲー肉焼きsoundがリフレインする


「なあ?ロウよ?肉を焼いたからといってどうなるのだ?」

「うむ、確かに匂いは香ばしくなってはおるが、他に何か変わるのか?」


「まぁ、君たちが食べた事無いから何とも言えないんだけど、味付け無しの生肉とは確実に違いがあると思うよ?

だから、楽しみにしてて?

これから街住みにもなるからね、どういったモノが街で食べられてるか知るのも大事な事だよ」


「なるほどな、食べる必要が無いとはいえ我等だけが食べないのも寂しいものだからな」

「ん?その料理とは我等が食べても良いのか?」


「もちろん食べて良いよ、料理した物が美味しいって事を覚えてくれたら尚良いね」


《上手に焼けました〜》との声は聴こえなかったが

1時間ほどで肉が焼き上がると、収納魔法から熱々シチューの大鍋を出し

ロウが器に人数分のシチューを注ぎ、堅焼きパンを6個出す

「たまにはヴァイパーも俺たちと同じ食事をしよう

ヴァイパーとコマちゃんにはパンをシチューに浸して食べさせてあげるよ」


「ヒヒン♪」「わふ♪」


「さぁ、アナヴァタプタとタクシャカは肉を置いて、好きな部位を毟り取って食べてみて?」


「うむ」「では、脚を」

アナヴァタプタとタクシャカが大猪の後ろ脚を1本もぎ取り、デカイ口で“ガブリュ!”と齧り付く

「むお⁉︎」「なんだこれは⁉︎」

口の端から肉汁を滴らせ、目が輝き垂れ下がる

「なるほど!これが文化的な食し方か⁉︎」

「うむむ…ただの肉が焼くだけで、こんなにも芳醇な味わいになるのか…」


「うん、味わう事は出来るんだね?

流石に龍王の味覚は予想の範疇を超えるからね、安心したよ

じゃあ次は、このシチューをスプーンで掬って食べてみて?

あ、パンと交互にね?

そして、堅焼きパンだから、パンをシチューに浸してみて食べてみて?

こんな風にね」

と、コマちゃんとヴァイパーに、シチューに浸したパンを食べさせる


「ワフン♪」「ブルル♪」

コマちゃんとヴァイパーがシッポを振る


「なるほど、このスプーンは食わないのだな?」

「うむ!なるほど!このシチューという食べ物の濃厚な味わいが、あまり味が無いパンとやらでスッキリするな」


次にシチューにパンを浸して食べる


「ほおう?あまり味がなかったパンがネットリと美味くなりおった⁉︎」

「うむうむ、そのまま食べるのとは違った味わいだな」


「うまいー?」


「む?ワラシ?だったか?うむ!美味い!」

「うむ、文化的な食し方とは面白きものだな

ロウについていく事にして正しかったようだ」


「ハハッ、期待に応えられたようで良かったよ

じゃあ後は好きに食べてよ、器まで食べなかったら文句は付けないからさ」


「うむ、存分に愉しませてもらおう」

「我もな」


それから龍王達とヴァイパーが大猪の骨まで食ったり、全員で残った肉の争奪戦をしたりして楽しく食事を済ませ

野営の準備の為にワラシに水ドームを創ってもらう

今回はアナヴァタプタとタクシャカも居るから8m四方ぐらいの大きさに拡大してある


「これからは街住みだから、これとは違うけど屋根がある場所で寝てもらう事になるから少しでも馴れておいてね

まぁ、住処(すみか)に着いたら改めて全て教えるけどね?

こういう風に人は生活してるんだって、感覚として覚えていってよ

そうやってワラシも馴れていったからさ」


「うむ、新しき事を覚えるは愉快だな」

「まったくだ、我等が此の世に(あらわ)れ間も無き頃のようだ」

「「ハッハッハッハッハッハッ」」


「うんうん、知らない事を知るって楽しいよね」







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