愉快な公爵家
ワイナール皇国暦286年、1の月
皇宮から辞し、コロージュン邸へ帰る馬車内の空気が凄く微妙な事になっている
理由は分からなくもない…
いや、分かる!
分かり過ぎるほどに!
目の前の光景を見れば一目瞭然!
父ロマンは腕を組んで悩んでいる
母クローディアはコマちゃんを膝に抱え無我の境地でモフっている
創世神コマちゃんは母の膝で仰向けになりアヘアヘ言っている
『うんカオス』
「アウアウ…」(極楽じゃ~逝きそうじゃ~)
『逝ってヨシ!』
「ワフッ!?アウ~」(ヒドイ!?あ~逝く~)
『コマちゃんさ、今日明日どうにかなるとは思わんけど
暫くは注意して生活しろよ?』
「ワフッ?」(なんで?)
コマちゃんが母の膝の上で俺に向き直る
『なんで?って、あの残念姫があのまま引っ込む訳ないだろ?
今度は搦め手から来るだろうさ
それだけの権力は持ってるだろうしな』
「グルゥ?」(そこまでするぅ?)
『するさ、自分の親父の言葉にもスットボケんだもんよ
言ったろ?頭がキレるって、どんな手も使ってくるぞ?
あの手の女は執念深いぞ~』
「ワウ…」(マジか…)
コマちゃんがブルッと身慄いした
「あらあら、コマちゃん寒かったのかしら?」
「そうかもしれませんね母上、もっとモフってあげて下さい」
「あら?ウフフ…そうしましょう♪」
「わう~」(あう~)
『なんだこれ?』
「はっ!ロウ!
そう言えばコマちゃんの事を屋敷の皆に何と説明しようか?
さすがに神使様をペット呼ばわりは不味いだろう?
陛下ですら言い澱んでいたよ?」
「そうですね父上
とりあえずは従魔って事で良いのではないでしょうか?
今まで僕が頑張ってきたから神様が御褒美をくれたって体で
自分で言葉にすると笑っちゃいますけどね(笑)
コマちゃんはどう思う?」
コマちゃんが「わん!」と頷く
『まぁ従魔扱いは最初っからの予定通りだしな、ウソにはならないよな』
「しかし、神使様かぁ…
まさか我が家に神使様が来てくれるなんてねぇ
古の英雄譚もかくありきかって感じだね
ロウの体術も凄かったし、なにか急に大人びたね?
私よりも年上みたいな雰囲気だよ
もう、先日言っていたロウの夢が叶うんじゃないかな?」
「……」
『ハイ!祖父と歳が近い6歳児です!
とりあえず無言でいるのが吉だな』
そんなカオスな馬車がコロージュン邸に到着し門内へ
そして、玄関前テラスで馬車を降りると
玄関から家の者達が家族を先頭にワラワラ出てくる
比喩ではなく文字通りワラワラだw
「「「「おかえりなさいませ兄様!」」」」
『く~、可愛い弟妹達だなぁ
記憶が戻ったら尚のこと可愛い♪
前世の俺は末っ子だったからなぁ
それに息子と娘の小さかった頃を思い出すわ~
俺もスマホ持ち込めたら娘の写真を日がな一日眺めるんだがなぁ
あ、嫌な事思い出したぞ…
俺が死んだ時ってスマホどうなったんだ?
スマホ壊れてクラウドに残ってるだけなら見る人間は限られるだろうが
俺はロックしない人だったから
無事なら秘蔵のエロ画像が白日の下へ…
フンドシ女子とか見られちゃうのかーーー!?』
思わず頭を掻き毟った
「ワフ」(身も心も逝っちゃうねwww)
『ぐうっ…その容赦の無さもまた良し…』
「あれ?クローディア母様、その腕に抱えているのは何ですか?」
『お、カミーユがコマちゃんに気付いた』
「この仔はロウの…ん~…ん~?…」
「……従魔……」
『母はモフりに夢中で聞いてなかったんだなw』
「そうね!ロウの従魔のコマちゃんですよ
今日からコロージュン家の家族になりますから御挨拶なさいね」
「わあぁぁぁ、可愛いぃぃ~私はカミーユ、これからヨロシクねコマちゃん♪」
「カミーユ姉様ばっかりズルイ!わたチはマリー、ヨロチクねコマちゃん」
「なんだよ、僕も!ロドニーだよヨロシク!」
「ロジャーだよ!ヨロシクね!」
「ワッフワッフ、ワッフル」(ヨロシクなガキども、存分にモフモフしろよ)
『おい!聞こえてないだろうけど何気にヒドイな?
つか、今ワッフル言うたろ!?』
「お家を案内してあげるよコマちゃん!」
「あら、まだダメよ、私もつい先ほど会ったばかりですもの
まだモフ……可愛がってあげないと」
「えー、ズールーイーズールーイー!クローディア母様ばかりズールーイー」
「そうね~カミーユ、ズルイわよねぇ?
私どもにも新しい家族を紹介してもらい
早く家族として馴染めるようにモフ…可愛がらないとねぇ
独り占めは許されませんわよ?クローディア夫人」
「あら?アルモア夫人とエリー夫人も、モフ…可愛がりたいの?」
「それはそうですわ、可愛い家族が増えたんですもの
私どももモフ…可愛いがる資格はあるでしょう?」
「ズールーイーズールーイーアーターシーもー!」
「わーたーチーもー!」
「僕も!」
「僕も…モフりたい…」
『ロジャーが素直に言い切ったw
なんだこれwますますカオスじゃねーかwww
そうかぁ、ウチって愛玩動物いなかったからなぁ
飢えてたんだろうなぁ
つーか、メイド達の目もギラついてんし
これはコマちゃんの為にも近々家を出にゃならんか?
居心地いいんだけどな…』
「あー、君達、落ち着きなさい
コマちゃんの事は後にして、もう陽も中天だ
先ずはお昼にしないかい?
お腹がペコペコだよ」
「そうですね父上、先ずはお昼にしましょう
僕も昨夜から何も食べてないのでペコペコです」
『まぁ、さっき身体を新調したから腹減ってないけど
このままじゃ収拾付かないしな』
「そうだろうね
さて、そこで問題だ
コマちゃんには何を食べさせれば良いのかな?」
「っ…」
『ヤベッ!おいコマちゃん!何が食べれるんよ?』
「ワンワンワンワン」(何も食べなくても死なないけど何でも食べれるよ)
『そっか、まぁ、考えてみりゃ創生してんだもんな』
「ワッフワッフ」(でも、この世に顕れてから1度も食事した事無いから食事を体験してみたいな)
「父上、コマちゃんは僕達と同じ物を食べさせて下さい
エサではなく食事を、家族ですからね
でも、食事マナーは見て見ぬ振りでお願いします」
「はっはっはっ、そうだね、家族だものね
良し!アイリス メイド長、ロウの隣に1席増やしなさい
それと、食事量は少し多めで頼むよ」
「はい、かしこまりました
では、昼食の準備もありますので暫し居間でお待ち下さい
さぁ皆んな、急ぎますよ」
「「「「「はい」」」」」
俺は着替えを済ませ居間に行くと
絨毯の上で、寄ってたかってコマちゃんがモフられていた
そして俺を見たカミーユが話しかけてきた
「兄様、どこでコマちゃんと知り合ったのですか?」
『ん?みなモフりながら聞き耳を立てているな?』
「ん~?祝福を授かりに行った時に、どこからともなくピューって来たんだよ」
『まぁウソではない、ないったらない』
「祝福されたらコマちゃんみたいな可愛い仔が付いてくるのですか!?」
「ウンそうだね、僕の場合はそうだったよ」
「じゃあ私にも?」
「ハッキリとは言えないけど
これからカミーユが初祝福まで勉強や修練を頑張って
それを神様が見て気に入ってくれたら、君だけの従魔を授けてくれるさ(多分)」
「…頑張る…絶対頑張る!…超頑張る!!」
『おお!?カミーユばかりかロドニー、ロジャー、マリーまで握り拳作って頷いてるw
必死だな若人よ、頑張れ
しっかり頑張ったら俺が従魔を創ってやるよ
だからウソは吐いていない!』
アイリスが食事の支度が整ったと言ってきたから
皆んなでゾロゾロ、食堂へ向かい円卓を囲む
俺の席の隣には、ちゃんと1席増やしてある
料理も並べてあるがコマちゃんには椅子に座ってってのは無理ゲーなんで
料理を半円状に並び替えてテーブルの上に座らせる
どうせ、謂わゆる犬食いするだろうから問題ないだろう
料理人も見た目が犬だからか気を使ったんだろう
メインは骨付き肉でシチューとサラダとパンが置いてある
食堂に居る全員が興味津々でコマちゃんに注目していると
コマちゃんも初めての食事に興味津々みたいで
目がキラッキラ輝いている
「どうぞ、コマちゃん召し上がれ」
「ワフッ!」(シチューからだよね!ね!)
そして、シチューに顔を近づけ匂いを嗅ぐと目を細めてホワァ~っとした顔をする
そして、舌を出しソーッと湯気立つシチューに突っ込むと…
ブワッと毛と尻尾が逆立って、取っ手付き毛玉みたいになった
「ブハッwあははは、熱かったんだろ!」
恨めしげに俺を睨むコマちゃん
『現実は頬が無いから犬が口笛吹くアメちゃんアニメみたいにはフーフー出来ないよな?
ちょっと冷まそうか?』
「ワ……!?」
「兄様、笑うなんてヒドイ!
コマちゃん、私がフーフーしてあげるね」
カミーユが反対側からテーブルをグルリと廻ってきた
コマちゃんがビックリしている
「おや?カミーユは優しいね?」
「いつ神様が見ているか分からないでしょ!」
それを聞いたロドニー、ロジャー、マリーがハッとして
しまった!と言う顔をする
『なるほどなぁカミーユは聡いなぁ
良かったなコマちゃん』
「ワフン!」
コマちゃんがフーフーするカミーユを見て尻尾をブンブン振っている
「はい、コマちゃんどうぞ。もう熱くないよ」
コマちゃんはコクンと頷いてシチューをペロペロ舐めると
「わう~ワン」(…)
『翻訳は要らないな、美味かったのは見りゃ分かるw』
カミーユが甲斐甲斐しくコマちゃんの世話をするのを横目に
「さぁ皆んなも食べましょう、せっかくの料理が冷めますよ?
カミーユもコマちゃんはメイドに任せて食べれば?」
「私は後でも冷めても良いの!ちゃんと最後までお世話します! グヒッ!?」
「姉さまコータイ!」
マリーがカミーユの後ろから襟首を引っ張る
「くっ…ぐるじ…」
『あ、ヤベッ!カミーユがオチる!』
「こらこら、マリー、はしたないよ?手を放しなさい?」
「えーでもー」
襟首掴んだ手を左右に振りながら体重をかけている
『なにっ!?まさかの確信犯か!?
マリー…恐ろしい子……白眼で演劇サスペンスが進みそうだ』
「ワッフ」(それガラスの…)
『おっと、そこまでだ』
「しょうがないなぁ
ほら、ロドニーとロジャーとも交代でしなさい」
マリーをカミーユから引き剥がしながら、ジリジリしていたロドニーとロジャーに手招きする
「「はい!兄様!」」
ロドニーとロジャーがキラキラ目で駆け寄ってきて
カミーユが首を抑え涙目で、マリーがジト目で見てくる
「この昼食だけじゃないんだから、これからは順番に交代でね」
「「「「はーい」」」」
なんとか納得してくれたが、今度はメイド達のジト目を浴びる
「この子達だけじゃ少し心許ないから、世話に馴れたメイド達がフォローしてあげて」
「「「「「はい!かしこまりました!」」」」」
では早速!とばかりにワラワラ寄ってくる
そして、ちょいちょいモフる
『昔取った杵柄か、こういうフォローはお手のもんなんだよな
前に雇ってたバイト君達思い出すなー』
「ワウワウ」(女の子ばっかでタダのバイトじゃない娘も居たけどねーw)
『そんなん知らん…求められるままに求められる事をしただけだ(ドヤ)』
「ワフ~ン、ワン」(キレッキレで仕事が出来る男は若い娘には眩しいからね、口も巧いしw)
『……狙ってはやってない……』
「わん」(だから天然)
「いやぁ、コマちゃんのお陰で食卓が賑やかになって楽しいねぇ
さすがはロウの神…従魔だね
これからの生活が楽しみになったなぁ」
父が心底嬉しそうに言ってきた
「でも、少し騒がしすぎる気もしますが?」
「そんな事はないさロウ
まぁ社交場であれば貴族としては如何なものかと思うけど
ゲストも居ない家族内であれば、何の問題もない
むしろ、大歓迎さ」
「そういうものですか」
「そういうものさ、アッハッハ」
少しドタバタな昼食を終え
俺とコマちゃんは自室へと来ていた
母達や弟妹達はブーブー言っていたが父が
「今日だけじゃなく、今日からなんだよ?
初めて我が家にやってきた日ぐらいはゆっくりとさせてあげなさい」
の一言で渋々ながら引き下がった
まぁカミーユだけは「勉強する!」と自室にダッシュしたがw
大人だなぁ父上、26歳にして人格者かよ
やっぱり、こういう世界は大人になるのが年齢だけじゃなく精神も早いんだなぁ
全員が全員じゃないんだろうけどな?
バカ皇子みたいなのも居たし
自室の扉の外に《入室禁止》と《聞き耳禁止》の札を下げる
「さて、コマちゃん、俺も勉強だ
あゝわざわざ鳴かなくてもいいよ
俺は口に出すけど心話でいこう」
【そうだね、実は私もその方が楽だよ】
「じゃあ先ず、俺が色々と知りたい事を聞くね?」
【はいよ】
「この世界は前世の中世ぐらいなのかね?」
【う~ん、それは少し難しい…
中世と言えば中世かな?って感じかな?
ん~西洋で言えばギリシャ・ローマ時代の中後期
日本で言えば安土桃山時代から江戸時代ぐらいの生活水準かなぁ
文化的には中世よりは高いと思う】
「うん?じゃあ暗黒時代ほど衰退はしてない時代かぁ」
【モンスターや魔法的に見るとアーサー伝説暗黒時代ぐらいかもね?】
「ふ~ん、結局はゴッチャ?」
【そうだね】
「次は、さっきの食事中に思ったんだけど
この世界の植生と動物生は、前世と大幅に違ったりするのかな?」
【実は、そんなに違わないんだよね
前世の動植物や昆虫とほぼ同じのが居るね
ただ、それらが魔素を取り込んで魔獣類や魔虫類や魔魚類や魔植物になって新しい種になったのもいる
また、別に前世で所謂モンスターと言われていた架空の魔法生物が居るね
代表はドラゴンかな?】
「え?この世界って地球の半分くらいの大きさなんだよね?
じゃあ結構な過密状態なのかね?」
【は?なに言ってんの?マジボケかい?
前世の地球で人が過密してる場所以外、どんだけスカスカだったと思ってんの?
海上、砂漠、密林、山脈、人が居ない場所の方が広いんだよ?
君って、たまに本気でバカだよね?】
「ぐっ…」
【まぁ良いや、後は前世で亜人って言われてたファンタジー定番の人種が居るね
エルフ種、妖精種、獣人種、ドワーフ種、魚人種、龍人種、鬼人種、モノアイ種等々かな?
龍人、鬼人、モノアイは魔族に分類されるかな】
「ほへ~、そんなにかぁ
人間種と仲良くしてくれるもんなの?」
【それは前世と一緒で人によるんじゃない?
それに、君はそんなの得意じゃん
世界各地に外国人の友達が何人居たのさ】
「いや、それはお客さんとして来てくれたからさ
俺の店、外国人ウケが良かったし」
【それでも、店閉めた後でも顔本とかで交流してたじゃないか】
「あー、まぁねぇ…なんか、仕事抜きで濃い付き合いしちゃってたなぁ」
【それで良かったんじゃない?
君は(この人が好き)から入って余程じゃないと相手を否定しないから
特に自己主張が激しい国の外国人は気分が良いんだよ】
「そんなもんなのかね?よくわかんねーや
じゃあ次、食材になるのを聞きたい
前世の動植物がいるって事は、前世の食材も手に入るんだよね?」
【うん、地方によっては変わるけど
それは地球世界も一緒だったよね
後、英雄達が持ち込んだ前世の料理レシピがあるから
それに合わせた食材も手に入ると思うよ】
「それは色々と捗るなぁ
久しぶりに厨房に立とうかなぁ」
【良いねぇ、君の創る料理は見てて美味しそうだったんだよね
さすが本職だなって思ってたよ
店の閉店まで、その道30年は伊達じゃなかったね】
「う~ん、まぁね、じゃあ次は……」
あっと言う間に時間が過ぎていった…