Binge
ワイナール皇国暦286年、4の月
「いやぁ、祭り準備まで手伝ってもらいすまないね」
「気にしなくて良いですよ、昨日も最初からそのつもりだったんで」
朝食後、ロウ達はオテジンサン敷地の掃除をしている
まだ早いからか村人たちは来ていない
ロウは、箒で掃き掃除を
ワラシは、昨日の魔獣を解体した場所を水で洗い流し
コマちゃんは口を使ってゴミ拾い
ヴァイパーは村内散歩と言いつつ魔獣狩り
ワラシが水を使った魔法が使える事はモローだけには言ってある
「なるほどなるほど、ワラシは水系蜥蜴人だったのだね?
だから、そんなに薄着でも平然としていたのか」
「うん!我は水は使える!」
「うんうん、凄いねぇ。水は全てに於いて大事だからね」
「我は凄いか?」
「うむうむ、凄い事だよ」
「えへへ~」
「コマちゃん、ゴミ拾い大変そうだな?」
「わふぉ?」(まぁね?でも此処は私の別荘みたいなモノだからね?)
「あゝ、そっか、言われてみればそうかも
祠みたいなもんだよな
しかし、口一杯にゴミ咥えてても言ってる事が解るから不思議だよな」
『しかし、一昨日から思ってたけどモローさん始め村人たちって臭くないか?
獣人だからなのかね?風呂にも入ってなさそうだし
つか、ウッスイ家もモロー家も当然だけど風呂がないよな?
って事は水浴びなんだろうけど冬場は寒くてやらないのかな?
ウッスイ家はウサギだから、まぁ分かるけど
モローさんなんて、まんま水牛系なのになぁ』
【どうなんだろうね?さすがに私も日常生活までは視てないと分からないからね?ウサギって普通は砂浴びなんだっけ?】
『うん、前世で飼ってたウサギは飼育本にそう書いてあったね?
臭い消し兼ノミダニ避けだったはず
どっちにしろ防衛本能だよね
でもどうなんだろ?獣人になると手が使えるから変わるんかねぇ』
【確かに、知恵があって手指が使えるのと使えないのじゃ段違いだものね?
たまに私も4足は不便だなって思うよ
でも、この姿になるまでは手足すら無かったから満足はしているけどね?】
『そうなの⁉︎神様って前世のイメージじゃ、こう、なんて~か、白髪で白い髭で古代ローマ人的な白っぽい服着てって感じなんだけど?
日本バージョンなら、なんだっけ?こう、ヤマトタケル的な頭の左右に縦髷結って貫頭衣着て?』
【それ、最初のはギリシャ神話で後のは日本書紀のイメージだよね?
ないない、神に形があるはずないじゃない、ましてや人型なんて
人型の神なんて元は全部人間だよ、所謂神格化ってのだよ
元々の私は物質界に無いんだもの、形は必要ないでしょ?
神格化も死んで体が無くなって物質界から消えてからでしょ?
それに、神は常に在るって言われてるようだけど、人型の神様が四六時中側にいたら姿が視えなくても気持ち悪いんじゃない?】
『ブハッ、確かに言われてみれば…でも、前世の宗教じゃ大概は人間は神様が自分を模して創ったって言ってるよな?』
【それ、中東発祥宗教系に毒されてるよ?
元々の形が無いのに模したもないでしょ?
それに創るなら人間なんて脆弱じゃない、病気しない、環境に左右されない、もっと強い生物を創るよ?ワラシみたいな、ね?
前世世界各地の神話とか思い出してごらんよ?
人間そっくりな形がある人間型神様なんて極々一部だよ、信者が多かったから当たり前に感じてただけだよ】
『なるほどね、声が大きければ正しくなる理論か…』
【長い物には巻かれろ理論でもあるね、フフフ…】
『ふむふむ、納得…しかし、ククッ…“村人たちが臭い”から、壮大な話になったなぁ…ククク…』
【良い退屈しのぎだよね】
「そういえば、モローさん?」
「ん?なんだねロウ君」
「少し離れてるけど、あの目立つ黄色い花って菜の花じゃないです?」
「ん?名前は知らないけれど毎年春先から咲くね、黄色が鮮やかで大きいから、この季節はよく飾っているよ」
「僕は菜の花って言ってるけど、あれも食べれますよ
それに、種をしっかり潰せば油も採れる」
「なんと⁉︎油が⁉︎」
「そう、肉脂と違って冷えても固まらない油がね?」
「ほうほう、種が採れる様になったら試してみよう
基本的に私たちは狩りが苦手だからね?
いや、しかし有難いな」
「いやぁ、有り難がるのは早いかもしれないかも?
ちょっと種を集めたぐらいじゃ大した量にはならないし、しっかり無駄なく油を絞れるかが未知数だし?」
「いやいや、それは違うよロウ君
その、菜の花だったかな?
それから油が採れるという事実を教えてくれた事が、大事で有難いんであって
採れる量は、多かろうが少なかろうが問題無いのだよ?
私らには花の種から油が採れる事すら知らなかったのだからね
知ってしまえば、後は種を増やしたり、無駄なく油を採れる様に私らが考えれば良い事なんだから」
「まぁそれはそうですね」
「それはそうと、昨日は聞きそびれたが何故ウッスイ達から隠れたのかね?」
「あー、僕は基本的に面倒くさがりなんです
何の気兼ねなく、のんびり過ごしたいんです
だから、僕がチッキーを治したって勘違いして恩に着られたり
行き過ぎて、裸で迫られるなんて真っ平ゴメンなんですよ」
「ブァーハッハッハッハッハッハッ!
裸で迫られたのかね⁉︎チッキーに⁉︎それともキネンに⁉︎
アーッハッハッハッハッハッ!」
「いや、まさか⁉︎キネンさんはウッスイさんとヨロシクやってましたよ」
「いやいや、それにしても愉快だ
迫られたのを躱して出てきたのなら、そりゃあ気不味くて顔も合わせ辛いだろうね
いやいや、しかし、恩返しに将来はチッキーを連れて行ってもらおうかと思っていたが、無理そうだねぇ」
「ウッスイさんも同じ事を言ってたけど御免こうむります!」
「おや?獣人の女は嫌いかな?」
「だったら村に2日も滞在しませんよ
僕は、この歳で他人に気を使いながら生活したくないだけです」
「ふ~む…ロウ君は6歳って言っていたが、どうにも年相応には思えないねぇ見た目と違って」
「まぁ、よく言われるから慣れてますが、まだ6歳ですよ!
それよりも、早い村人たちが来ましたよ」
「お、本当だね」
「お~い、おはようさん!」
「おはようテンジン守りさん、ロウ」
「やあやあ、おはようさん」
「おはよう」
「おや?ワラシも手伝ってんだね?おはようワラシ」
「おはよー!」
「わはははは、コマちゃんも手伝ってるじゃないか!おはようコマちゃん」
「わん!」
「来る途中でヴァイパー見たぞ?」
「あ、ヴァイパーは散歩兼見回りだよ」
「昨日からお客さんばっか働かせてんな?俺らもしっかりやろうぜ」
「「「「「おう!」」」」」
全員で掃除を始めたら、あっと言う間に掃除は終わった
次は何するのかな?とロウ達が見ていると
村人たちが倉庫に入り、囃子道具を次々に出してくる
「さぁ笛と鉦を洗って干すか」
「「「「「ほ~い」」」」」
「太鼓と鼓は埃払って皮の張り具合を確かめといてくれ」
「「「「「はいよぉ」」」」」
「拍子木は割れてないか見といてくれ」
「「「「「あいよ」」」」」
「う~ん、鳴り物見ると浮立っぽくなってきたなぁ
でも、やっぱ大太鼓は無いか…
アレを最初に叩くと盛り上がるんだけどな
つか、太鼓が少し低いジャンベやん⁉︎」
「ロウ!あの丸い棒はなんだ?たくさんある!」
「あゝ、アレは横笛だね。吹くと音が鳴るんだよ」
「音が鳴る?」
「そうだよ、吹いてみるかい?借りてこようか?」
「うん!吹いてみたい!」
ロウが洗った竹笛2本借りて、軽く振って水を飛ばし、ワラシに吹き方を教える
「いい?先ずは端の方にある少し大きめの穴を上に向けて下唇を軽く乗せる
次に左手の親指で下の穴に充てる、上の穴3つに人差し指、中指、薬指を充てて小指を立てる
右手は親指で笛を支えて、残りの指で4つの穴に充てる
これが基本的な持ち方
後は~初めてだから音は出ないと思うけど真似して?」
と、軽く息を穴の上に吹くと“ヒョ~”っと鳴る
「慣れて強めに吹いたら高い音が出るよ」
と、強めに吹くと“ピイィィィ~”っと甲高く鳴った
「ロウ!凄い!」
「ワフン」(ホントに簡単に吹いたね?笛吹けたの?)
「うん、久しぶりだったから鳴らせるか心配だったけどね
吹き方を覚えてたのと、竹笛だから洗ったばっかで濡れてて音が出し易かったよ
それこそ、母方実家近くのお天神さん祭りで吹いてたよ
目の前で荒踊り見ながらね?伯父さんが囃子笛方だったし」
「ワフゥ…」(ホントに経験豊富だこと…)
「田舎モンなめんなよ?ヘヘッ…」
「スウウゥゥゥ~“ピイイイィィィィィィー”」
「うわっ⁉︎」「ワフッ⁉︎」
「ワラシ!スゴイ‼︎初めてなのにそんな高い音が出た!」
「えへへ~、ロウのマネした!」
「へぇ~ワラシは器用なんだね?」
ワラシの頭を撫でる
「えへへ~、でもロウ!笛はオモシロイ!楽しい!我も欲しい!」
「へぇ?そうか!ワラシが酒以外で自分から物を欲しがるなんて初めてだね?
うん、わかった!明日にでも創ってあげるよ」
「やった!」
その光景を村人たちが、ほんわかニンマリして見ながら
笛の練習を邪魔をしないように小声で話し出す
“かぁ~なんて可愛らしいんだ”
“ワラシの嬉しそうなこと…”
“いやいや、癒やされるねぇ…”
“いや~微笑ましい光景だねぇ…”
“ワタシゃ、あんな可愛いのは初めて見たね”
“ラクラクと音を鳴らしたねぇ”
“シかしまぁ、本当に簡単に吹いたなぁ…”
“とくにロウが上手いねぇ~”
“ロウちゃんに出来ない事は無いんじゃない?”
“ウン、アタシもそう思うよ”
「じゃあ、もう少しその笛で練習しなよ
指で穴を塞いだり離したりすると音が変わって楽しいよ
先ずは適当に吹いてあげるから、指とか見てマネしてみて」
“ピイィィィーヒャ~…ピィヒャ~リ~ラ~ピ~ヒャ~リ~ラ~ピ~ラ~リ~ラ~ヒャ~リ~ラ~”*繰り返し
真剣にロウを見ていたワラシが真似て吹き出したら
そのままロウと同じメロディーで吹き切った
「ホントに凄いな⁉︎音楽の才能ありまくりやん!
そういえば、河童のイメージ図って相撲してるか宴会して踊ってるかだったな…
って事は…河童であれば元からの才能って事なのかな?
ん~、人口生命体って謎だらけで面白いな」
「えへへ~」
“パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ”
村人たちがワラシに拍手を贈る
「ワラシ!祭りでも吹いてくれや!」「おう、そうだな、俺たちよか上手いぜ」「あたしはワラシの笛の音で踊りたいね」「そりゃあ良いね♪」「俺は少し自信が無くなってきたから練習しとこ」「ちゃんと鉦はワラシに合わせてやるぞ」「太鼓も合わせなきゃな」「太鼓と鼓は急いで皮の様子を見とくぞ」「あぁ、本番で破れちゃ恥掻くからな」「おい、早くやっちまうぞ!日が暮れっちまう!」
いつの間にか村人たちが慌てだした
『まぁなぁ、皆んなも自慢の腕前を披露したいだろうからなぁ
しかし、どうやって上唇が割れてる獣人が横笛吹くんだろ?
それはそれで、凄い技術なんじゃね?』
「ワラシ?皆んなの邪魔にならない様に向こうに行って練習しようか
それと、音が悪くなったら水で洗えばいいからね」
「わかったー!」
~~夕刻、まだ明るいがオテジンサン敷地内周囲に篝火が焚かれる
敷地内には村内の老若男女勢揃いした
もちろんウッスイ一家も来ている
シアにはオテジン守りとロウ達が立つ
「さてさて、もう全員知っているから今更ではあるのだけどね
今年の豊作祈年祭は、種蒔き前に知識の豊作になってしまい少しだけ祭りの意義が微妙になってしまった様だよ」
「「「「「アッハッハッハッハッ…」」」」」
「まったくだな!」「けど、縁起が良いじゃないか!」「違いない!」「豊作間違いなしだろ!」「村が栄えるねぇ」「おぉ!そりゃあ良い!」
やんやの喝采だ
「まぁ、その微妙な祭りにしてくれた張本人で、村の恩人のロウ君とワラシに祭りを始めてもらいますが良いですかな?」
「「「「「もちろん!」」」」
「他に誰がするんだよ!」「まったくだ、オテジン守りさんの喋りも要らないぐらいだ」「アッハッハッハッ、そりゃ良い」「オテジン守りさんは話が長いからな」「これから毎年頼むぜ!」「うおー!そりゃあ良い考えだな!」「来年までの張り合いがあるな!」
『好き勝手に決めんなし!』
「じゃあ始めるよ!
ワラシ、さっき言った通りに始めてね?」
「わかったー!」
ワラシが笛を口に充てる
「鉦と太鼓、鼓、拍子木も用意は良い?」
「「「「「おう、任せな!」」」」」
ロウがチラッとワラシに目配せする
“ピイイイィィィィィィーーーー!”
“トントントントン、カカン!トントントントン…”
“チキチキチンチン、チンチキチンチキ…”
“カツンカツン、ポンポン!ターーーン…”
“カーン!カーン!カチンカチンカチンカチン…”
“ピ~ヒャ~リ~ラ~ピ~ヒャ~リ~ラ~”
「さあ!今年も踊って飲んで踊って喰って楽しんでおくれ!」
そして、老若男女が乱れ騒ぐ《どんちゃん騒ぎ》が始まった
シア前桟敷の中央で人々が踊り
それを囲むように囃子方が座り鳴り物を鳴らす
笛方は、水を張った桶に笛を数本差し込み、音が悪くなれば次々と交換しながら吹き鳴らし
鉦方は、片手に下げた鉦を木の棒で打ち鳴らし
太鼓方は、ジャンベを膝に抱き込み叩く
囃子方の輪の中で、若い男女が踊りアピールし…
ウッスイがアピールなんか考えていないように一心不乱に踊り狂っていた
『アレが喜びの踊りかな?
まぁ確かに半端なく喜びは伝わってくるんだが…
つ~か、ブハッ…ありゃランバダじゃねーかよ
あーあー、腰振っちゃってまぁ…
あーあー、キネンさんが般若になってる
若い娘に腰から擦り寄っちゃなぁ…』
ロウが笛を吹きながらボ~ッと周りを観察している
チラッとシアを見るとチッキーが目をキラキラさせてロウを刺すように見つめていた
ロウが慌てて目を逸らす
『やべぇ…まだロックオンされてる……
まぁ、さすがに年端もいかない子供が病み上がりで夜通しは起きてらんないだろうからな?
明け方なんかに寝てたら逃げるとするかね?
この調子ならワラシもひたすら吹いてるだろうし』
前世でウサギを飼っていた事もあったというのに
ロウは忘れていた
ウサギが短睡眠を繰り返す生き物だという事を
基本的にウサギが夜行性に近い生き物だという事を…




