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初めての危難


ワイナール皇国暦286年、4の月




「ええ⁉︎なんで⁉︎」


「なんで?って当たり前じゃない

ギリギリで死の淵から生還した一人娘をお父さんとお母さんが手放すはずがないじゃないか

それに、まだそんなにフラフラしてるのに

言っておくけど、ついさっきまで君はギリギリで生きていたんだよ?

いつから動けなくなったか知らないけど、最低でも1ヶ月は栄養摂りながらゆっくりと身体を慣らさないと

また寝たきりになっちゃうよ?」


「ふう…」

チッキーが“ぽすん”と寝台に座る


「ロウちゃんが言ってる事ももっともよ?チッキー」

「あぁ、将来は分からんが今はまだ早いぞ?病みあがりにも程がある」

「でも、お父ちゃんお母ちゃん、命の恩人なのに、もう会えるか分からないんだよ?

そうなったら恩返しも出来ないんだよ?」

「……確かに……」

「でも、ロウちゃんは、またこの村に来るでしょ?」


「ん?お約束は出来ません、僕にも僕の生活がありますから」


「…ほら…」

「「………」」


「まったくもう、そんなのは後にしようよ?

そして、娘さんの生還を喜びましょう

そしてそして、食事にしましょう!

僕たちもお腹空いたし、ねっ?ワラシ、コマちゃん!」


「うん!お腹ぺこぺこだ!」「ワフン!」


「さっきのも少し残ってるし、他にも何か作って下さいよキネンさん

娘さんにも、まだ何か食べさせないと」


「あ、あぁ、そうだね、じゃあ何か作ろうかね」

キネンがパタパタと台所へ向かう

「ほら、チッキー、ロウが作ってくれたシチュー?が残ってるのも食べちまいな?

これのお陰で元気になってきてるんだからな」

「うん…ロウ君ありがとう」


「どういたしまして」


「しかし、ロウは料理が出来るんだな?

良いとこの坊ちゃんじゃないのか?」


「え?良いとこの坊ちゃんかは自分じゃ分からないけど、料理を作るのと食べるのは好きだよ?

て言うか、良いとこの坊ちゃんは料理しないの?」


「そりゃそうだろう?男が料理出来るなんて、裕福じゃない家庭の親が小さい頃から仕込むか、独り暮らしするかぐらいしか聞かないな?

ましてや人間種だ」


「うわっ、最低だな人間種男子」


「ブアッハッハッハッ、ホントだな!最低だな人間種男子」

「クスクスクスクスクスクス…」


「ん、笑えるぐらいまで回復出来たね」


「うん、このシチューを飲むとね?何故だか凄く力が出てくるのよ?

凄いね、ロウ君、こんな命のシチューを作れるなんて」


「え?またまた大袈裟だなぁ、有り合わせの材料を使っただけだよ」


「おぉ、俺も後で命のシチューを頂こう

ほんで、元気になって明日は村一番の喜びの踊りを踊ってやるよ!」


「へぇ~それは楽しみだなぁ」


「アンタ!それで調子に乗って宵闇祭にまで参加したらタダじゃ済まさないよ!」

大盆に料理を載せたキネンが戻ってきた、この部屋で食事をするのだろう


「バババ、バカヤロウ!チッキーの前で何て事言いやがる!

こんな時にそんな事するわきゃねーだろ!」

「どうだかね」

「クスクスクスクス」


「ふふふ…皆んな嬉しそうだなぁ、当然か」


「おっ⁉︎これがロウの命のシチューだな!早速頂こうか!」

「お父ちゃん、美味しいよ」

「おぉ、そうだな、美味そうだ“パクッ”う~ん………美味い!

あぁ…温ったかいのがユックリと喉から流れて行ってジワ~っと身体がポカポカしてきやがる…」

「おやまぁ、本当だねぇ…胸からお腹へってジワ~っと温ったかくなるねぇ~」


「「んっ⁉︎」」

「えっ⁉︎」「はひゃ⁉︎」


「えっ?どうしたの?お父ちゃんお母ちゃん?」


「あ、いや、ウヒッ⁉︎」「い、いやだ、あ⁉︎あぁん⁉︎」

ウッスイとキネンが顔を赤らめ股間を抑えてモジモジしだす


「ち、ちょっとスマネェ、ロウ!チッキーの面倒を見ててくれ!」

「ご、ゴメンねロウちゃん!スグに!スグに済ませて戻ってくるから!」

ウッスイとキネンが手を取り合って部屋からダッシュで出ていった


チッキーがその様を呆気にとられて見ていると

「健常な人には効き過ぎるみたいだな…」

微かなロウの呟きが聞こえた









「頭取!前方から早馬が2騎来ます!街道脇に避けてもよろしいでしょうか?」

見晴らしが良いウーセタ大街道を走っていると馬車内に馭者が叫んできた


「そうだな、公用ならば避けないと要らぬトラブルになる

私達が乗っている大型馬車(coach)もそうだが、後ろの大型荷馬車(wagon)も避けさせなさい」


「はい!」


暫くすると早馬2騎が馬車脇を“ダカダッダカダッ”と駆け抜ける

しかし、駆け抜けざまに2騎士がジッと馬車を見ていたのと目が合う

早馬が20mぐらい後方へ駆けて行ったところで騎士同士が顔を見合わせ頷きあい「どうどう」と声が聞こえた

騎士が馬首を巡らせ、馬車の方に戻ってくる


そして馬車の横まで来ると徐ろに

「突然馬上から失礼するが、馬車にパウル商会と書いてあるが定期便かね?」


「ええ、パウル商会の馬車で間違いありませんが

定期便ではなく辺境領へ向かう特別便です」

馭者が返事をする


「おおそうか!ひょっとすると、そちらの馬車に乗っておられるのはパウル商会代表のハンプティ殿だろうか?」


「おや?よくお判りになりましたな?」


「頭取!迂闊に認めるのは危険です!」

同乗の護衛が声をあげる


「いや、いや、この騎士殿達からはコロージュン家の匂いがしますねぇ」


「おお、流石はロウ様の部下だな

いかにも我等はコロージュン辺境伯家騎士団の者だ

ハンプティ殿の特徴はロウ様から聞き及んでいたのだよ

いや…違うな…」

何故か騎士が苦笑する

「魔法で見せられた、と言うのが正解か」

「我等はコロージュン本家とパウル商会への早馬なのだよ

ちょうど良いとは思うが、今ここで見るかね?ハンプティ殿」

騎士の1人が胸元から封書を取り出す


「パウル商会へと仰いましたが、商会へではなく私宛てなのですか?

それに魔法で私を見られたと?」


「そうだ、ロウ様からハンプティ殿にしか渡してはダメだと承っている」

「ふふふ…ロウ様は凄いぞ?ハンプティ殿

ロウ様の騎士隊に聞いたのだがな?

なんと言うか、辺境領へ来られてから伸び伸びと力を開放しておられる様だ」


「それはそれは…」

ハンプティが感極まった様に頭を振る

「素晴らしい!流石は私が見初(みそ)めた御方です!」


「それで?どうするね?封書を見るのだろう?」


「それは勿論です!私がロウ様からの指示を無視するなど有り得ません!

では、早速失礼して…

む?あゝ、お前達は馬車を降りてこちらを見ない様に

あ、騎士殿達も向こうを向いて頂けますかな?」


「「はっ!」」「もっともだ、了承した」


ハンプティが、たっぷり時間をかけ封書を読む

そして、何度も何度も読み返し…頭を抱える

「ひょっとしたら私は辺境領へ行くのを早まったのか?

しかし、今更皇都に戻るのも早計に過ぎる…

騎士殿、少しよろしいでしょうか?」


「なんだね?」


「この封書に対する返事を持ち帰る様にとの指示は受けていますか?」


「その様な指示は受けていないな」


「では、封書を届けたら直ぐに帰られるので?」


「いや、封書を届けたら暫くコロージュン本家に滞在する事になる」


「それは何故なのでしょう?」


「それは、ロマン様が帰還指示をされるまで

皇都で起こる物事を記録し、辺境伯とロウ様へ御報告申し上げる為だな」


「なるほど、なるほど、では私は自分の欲求さえ抑えれば辺境領へ向かうのは問題無いようですね

どうもどうも騎士殿、御苦労様でございました

コレは些少ですが、ロウ様よりと思いお納めください」

騎士達に金貨を1枚づつ渡す


「む、我々は辺境領を発つ時にもロウ様から手間賃を頂戴しているのだが…」


「当然です、あのロウ様が金の使い方を間違える訳がありませんから貰っていて普通ですな

しかし、ロウ様は皇都内での買い物や飲食等をされた事がありませんから

適切な金額を渡されたかに若干の不安があります

そして、私はロウ様に恥をかかせない為に居るのですよ」


「なるほど、では有難く受け取ろう

ハンプティ殿、これから辺境領までの道中、気を付けて行かれよ」

金貨を握りしめた拳を胸に充てる


「ええ、勿論でございます。

騎士殿達にも、また後日お会いしましょう」









「アタシ、まだ初花(はつはな)は来てないけどお父ちゃんとお母ちゃんがナニしに行ったか分かるんだ

ロウ君には分かる?」


「え?えぇ…せ…いや、こ…いやいや、ちょっと分からない、かも?」


「クスクスクスクス…ウソつき。ロウ君はさ、何歳なの?」


「え、僕?6歳だよ、だからオトナが何してるかなんて分からないよ

チッキーは何故分かったのさ」


「またウソ、アタシは病気が無かったら去年ぐらいに初花が来てるはずなんだよね

だから、村の人達が見舞いに来てくれた時に教えてくれたんだ

オトナが何をしているのか、何故子供が出来るのか

そして、どんなに気持ち良いか

アタシってモテてたんだよ?

初花が来たら俺が俺がって男の人達がたくさんいたの」


『まったく…なんて世界だ…少女に予約制かよ…』


「なんかね?男の子って精通が来るとお股がモヤモヤするんだって

ロウ君は無いの?」


「う、うん、まだ精通してないから…まだ何年も先だと思う…」


「アタシが教えてあげようか?」


「いやいや!断るよ!それにチッキーだって初花来てないんでしょ!経験無いでしょ!教えるほど知識が無いでしょ!訳知り顔のお姉さんぶっても騙されないからね!」

床に座っていたロウがジリッジリッと寝台から後ずさる

チッキーがニンマリ笑い寝台から降りようとする


『チクショウ!地龍活性化の馬鹿野郎!効果覿面(こうかてきめん)が過ぎるだろう!!生還通り越して発情まで行ってんじゃねーか!前世からHは好きだけど見境無くはねーよ!』

「ワラシ!また水でチッキーを抑えて!」


「ロウ?チッキー暴れてないぞ?」


「なに⁉︎確信犯か⁉︎天然か⁉︎育て方を間違ったか⁉︎」


「「えへへ~」」


「なん…だと…チッキーとワラシがシンクロスマイルだと…

やめて!寝間着(ネマキ)を脱ぐな!」

『ん?』

ロウがバッとドアを見る

「ウッスイさん!キネンさん!何を覗いてるんですか!娘さんを止めて!」


「ありゃ?見つかっちまったな」

「チッキー!頑張りな!」

ウッスイとキネンが心なしかツヤツヤしている


「⁉︎⁉︎味方がいなーい⁉︎⁉︎」


「ゴメンねロウちゃん、あたしら見るのも好きなんだよ」


「(も好き)って性癖バラすな!大事な愛娘でしょう⁉︎」


「なに言ってんだロウ、だからこそだ

無事に生還した大事な愛する一人娘だからこそ、初めては命の恩人じゃなきゃな」

「そうよ、愛娘に種を()いとくれ」


「農民だけにってか⁉︎やかましいわ!

それに俺はまだ蒔ける種が無いんだぞ!」


【プププ…見ず知らずの他人の前で素が出てる、必死だなぁ】


「当たり前だ!コマちゃん!貞操の危機なんて生まれて初めてだ!直接的に迫られたら力づくでも出来やしねー!」


「ロウ?何を言ってんだ?」

「ロウちゃん、誰と話してるんだい?」


【君って、この世界に来てから倫理観が強くなってない?】


「倫理観が薄い世界だからだよ!つか、俺は他人の倫理観で生きるのは前世から嫌いだよ!

つーか!あーーー⁉︎全部脱いじゃってるー⁉︎」

『獣人でも子供だと毛が無いんだな?って違う⁉︎現実逃避してる場合じゃない!』

「ウッスイさん!ダメだって!病みあがりに激しい事をさせちゃ!またチッキーを寝た切りにしたいの⁉︎もう助けないよ!」


「うっ…それを言われるとな…」

「あぁそうだね…もう、あの悲しさは味わいたくないね…」

「「チッキー?ごめんよ?」」

「今は諦めておくれ?」

「あゝ、今日の今日じゃさすがにな?」

「でも、機会が…」

「なぁに!心配すんな!チッキーに初花が来て身体の準備が出来たら、俺がロウを何処に居ようと探し出してやる

必ずだ!草の根分けても見つけ出してやるよ

ウサギ獣人ナメんなよ」

「うん、お父ちゃん!アタシ待つよ!絶対にロウ君を引っ捕まえてね!」

「あゝ、任せろ!」

「あたしもお父ちゃんを手伝うから心配しなさんな!」

「お母ちゃんありがとう!」


「クソッ…チッキーを人質みたいに使っちまった…俺は犯罪者か…絶対逃げ切ってやる…つーか、良い話しっぽく(しめ)やがった…なんて家族だ!」






翌朝、何の不安もなくなったロウは心労からか泥のように眠り

何かの騒がしさで目が覚める


ドンドンドンドン

「お~い!ウッスイ!」

ダンダンダンダン

「まだ寝てんのか!起きろ!」


ロウが窓から外を見るとウッスイの家の玄関前には人集(ひとだか)りがしている


「なんだなんだ騒がしいなぁ、人ん家の前で騒いでんじゃねーよ」

ウッスイが玄関を開ける

「なんだよ村の衆、俺は昨夜は遅かったんだよ!

祭りの準備はまだだろうがよ」


「お前、何言ってんだ!ソレを見ろ!」

村人が指差した場所に黒々とした物がこんもりと盛り上がっている


「ああん?そんな所に何か置いた覚えは無いぞ俺は」


「そりゃそうだろうよ、よっく見ろウッスイ!」


「あ?何だってんだ?って、ウワッ⁉︎何だよコレ⁉︎」

そこには山盛りになった魔獣の死骸死骸死骸死骸死骸…

「な、な、何かの呪いか⁉︎……ん?」

ウッスイが山盛り死骸の反対側を見ると、ヴァイパーが横になって寝ていた

そして、ヴァイパーが食い散らかしたのだろう数匹の死骸が散らばっていた

「あ、ロウの魔獣じゃねえか、こいつが狩ってきたのか?」


「そうみたいだね?ヴァイパーおはよう、大漁だね」


「ブルルルル…」

ヴァイパーが首を持ち上げロウを見る


「昨日、村の範囲で魔獣を狩っといてって頼んでたからね」


「村の範囲で…」「こんなに居たのか…」「春だからか?」「それにしちゃ例年よか多いだろ?」「今年は変な年だな?」「ちょっと子供達に気を付けさせよう」「だな、いつものようにしてたら餌にされちまう」


「で、ロウ?この魔獣の死骸はどうすんだい?」


「ん?祭りの料理にでも使えば?」


「お?良いのか?」「そりゃ助かるな」「じゃあ誰か荷車持ってこいよ」「あゝ、ウッスイの荷車だけじゃ載せきれねえな」「5台くらいは要るな」「みんなでシアまで運ぼうや」「だな」「あ、ロウ、ヴァイパーも連れてって良いか?」


「ん?良いけど、何するの?」


「あゝ、魔獣狩ってくれた礼に手入れしてやるよ」


「ホントに⁉︎そりゃ良いや!ヴァイパー行ってきなよ!」


「ヒヒン!」

ゆっくり立ち上がった



「お父ちゃん?凄い騒ぎね?どうしたの?」

玄関からチッキーが顔を出した


「「「「「「「チッキーちゃん⁉︎⁉︎」」」」」」」

「え?なんで⁉︎」「治ったのか⁉︎」「今日明日ともしれないんじゃなかったのか⁉︎」「何があったんだよウッスイ!」


「へっへっへっ…ロウが治してくれたんだ」

ウッスイがチッキーの頭を抱える


「そうか⁉︎」「ロウがか⁉︎」「でかしたぞロウ⁉︎」「もう今年の祭りはロウが主役で良いぞ!」「そうだな!賛成だ!」「ロウの従魔もこんなに狩りしてくれたしな!」「あゝ、今年は盛り上がるぞ!」「違うよ馬鹿野郎、盛り上げるんだよ!」「ワッハッハッハッハ、今年の宵闇はロウの争奪戦だな!」「ちげーねぇ!」「良いモノ見れそうだな!」



「ちょお⁉︎だから僕は精通してないんだってー!」

『なんでこんな恥ずかしいセリフ叫んでんだ俺ーー!』







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