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冒険者組合


ワイナール皇国暦286年、4の月




東辺境領冒険者組合コウトー支部、早朝


いつものように、のんびり出勤のトゥリーサは組合の建物が見えると“今日も忙しいのかなぁ”と(ひと)()ちる

数日前から組合長が消息不明になり、組合長捜索に半分程の職員が手を割いていて業務が滞ってきている

“また今日も押し押しになっちゃうのかなぁ…冒険者殺し事件は片付いたみたいだけど辺境伯からも何も言ってこないし、どうなってるんだろ?辺境伯の城に行ってから行方不明なのに…”

少し憂鬱な気分になるが組合前まで来ると気分を切り替える


「おはようございまーす……って?え?」


組合の扉を開け中に入ると出勤した職員が掲示板の前で(とど)まって騒めいている

他の職員の陰になって受付が見えないが、何者かが数人居て職員を押し留めているようだ

すると、女の声が響く


「今入ってきた方がいますね?これで職員の方は全員ですか?」


「はい、そうですけど…貴方がたは?」「何故、職員よりも早く組合内に入ってるのですか?」「鍵はどうしたんです?」「業務が始められないんですが、出ていってもらえませんか」「もうすぐ依頼も入って来るんで邪魔なんですがねぇ」


“何で文句ばっかりで進まないんだろ?”トゥリーサが不思議に思っていると


「はいはい、静かに」

パンパンと手を叩く音と共に再び女の声が響く

「本日は業務前に通告を致します。」


「なに?」「通告?」「何の権限で…」「あまりふざけないでもらいたいんだが?」「いい加減にしてよ!」


トゥリーサが爪先立ちになり他の職員の肩越しに覗き見ると、目が醒める様なエルフと獣人の美女メイドがいた

“うわ~凄い美人…獣人で可愛いじゃなくて美女って初めて見たかも…”

しかし、その目は職員達を射竦めるが如く鋭い

美女の背後には5人の人間種の若者が立っている

“すっご~い、こんなに纏まった人数のイケメンって初めて見ちゃった♪なんかシュッとしてアカ抜けてるなぁ~、朝から得した気分♪”

若者達は素知らぬ顔で佇んでいるのだが、どこか纏う雰囲気がピリッとしている

職員達が先に進めないのも当然だ、圧倒感が凄い


「本日より冒険者組合コウトー支部は刷新(さっしん)します!

そして、私達7人が新しい組合長を作るまで代行致します。」


「は?」「え?」「え?なに?」「代行?」「組合長を作る?」「何を訳が分からない事を」「冗談もほどほどにしてくれ!」「我々は忙しいんだ!どいてくれ!」


「何がそんなに忙しいのですか?」


「決まっている!組合長捜索に職員の半分を使っているんだ!暇なはずがないだろう!」

「「「そーだそーだ!」」」


「組合長捜索は必要ありません。

あの者は辺境伯への造反、そして辺境領冒険者組合への背任により更迭。

既に皇都ミャーコンへ護送中です」


「はあぁぁぁ?」「造反⁉︎」「更迭⁉︎」「背任⁉︎」「護送って…」「意味がわからない…」


「したがって現在では貴方がた職員の職責への信用もありません。

よって本日より私達が新しい組合長を作ると共に、受注依頼の精査、冒険者達の技量向上、職員の監査等を行います。

異論がある人は、今すぐ辺境伯の元へ行き真偽を確かめなさい」


「よし!俺は行ってくる!」「あ、じゃあ俺も!」「私も!」「嘘だったらタダじゃ済みませんよ!」


「結構、ではどうぞ」

エルフ達7人が受付カウンターの前から避け、エルフが受付へ平手をかざす


「「「「へっ?」」」」


「ですから、辺境伯へ真偽を確かめなさい。」


受付内の薄暗がりの奥の椅子から男が立ち上がった

「やあ、組合職員の皆んな、おはよう。ロベルトだ

まさか、この場に私を知らない者が居るとは思えないが

改めて、東辺境領コロージュン辺境伯だ」


「あ…」「はっ!」「ははっ!」「はい!」


「それで?真偽を確かめるのかね?

彼等は私の直属ではないが身元を保証し、先ほど言った事も保証しよう

そして、彼等はコロージュン公爵家が次代になればコロージュン辺境伯と同格になる者達だ

まぁ、爵位はないがね?

東辺境領コウトー冒険者組合、組合長代行として不足はないと思うが如何(どう)かな?」


「「「「「「あ…」」」」」」

「「「「「「ありません!」」」」」」


「結構。では私は屋敷へ戻るよ

リズ、ミア、良いかな」


「はい、早朝より御足労ありがとうございました」

エルフ達7人が軽く頭を下げる


「うん、構わない。私達の為でもあるからね

しかし、皆、機嫌が悪いなぁ

こっそりロウ君が旅立ったのがそんなに不満なのかな?」


「いえ…そんな事は…」「不満などはありません…」


“うっわ⁉︎少し赤くなって、はにかんだだけで職員の男連中までヤニ下がった⁉︎美人って凄い…”


「ふふふ…心配しなくても無事に帰ってくるさ

その辺は君達が先刻承知だろう?なぁ?フワック?」


「それはもう、俺た…私達の主人(あるじ)に心配はありません」

皆が頷く


「ククク…案外『土産に龍を捕まえてきました、これで皆んなを鍛えましょう!無料(タダ)だし!』って帰ってくるかもね」


「「「「「「「あゝ、ありそう…」」」」」」」

エルフ達7人が遠い目をしていた








リズ達7人はおもむろに掲示板を眺め、現在書き出されている依頼を1つづつ確認し

「では先ず、私とミアが昼まで職員と受付をします

どういう流れかを把握しなければなりませんからね

フワックさん達は冒険者がくるまで待機しつつ職員の動きを見ていて下さい」

「はい、了解です」


「職員の皆さんに伝えます

新しい組合長は現在の職員から選定する予定です

それは、どんな役割をしているかは関係ありません

見込みがあれば受付をしている人であっても組合長にします

そのつもりで冒険者組合が何の為に運営されているのか考えて職務に励んで下さい」


「「「「「「は、はい…」」」」」」



暫くすると冒険者達や子供達や商家の手代風な者達がゾロゾロ入ってくる

「はよ~っす、何か良い依頼はありまっかいな?」「昨日出した依頼の達成金を持ってきましたよ」「ずいじいらいをうけまーす」「魔獣退治の依頼は出てる?」「特別配達依頼を出したいんだが」「おそうじいらいをうけたいです」「げ⁉︎あの受付嬢は⁉︎」「短距離乗り合いの護衛依頼を出したい」「お?それ良いな、俺が請けるから早く依頼出してくれよ」「短距離だから、あまり高くないぞ?」「構わんよ、天気が良いから散歩がてらだ」「おいおい、えれぇベッピンさんが受付してるぞ?」「あれ?あのベッピンさん達は…」「知ってんのか?」「あゝ以前、中央広場でチンピラ退治した人らだ」「おお!アレが」「ちょっと、お近づきになりたいねぇ」


「あ、そちらの方、特別配達依頼の中身はなんでしょうか?」


「え?魔導具ですが?」


「補償金が必要な品物なのですね?」


「ええ、高価な魔導具なので配達中に壊れたら大変ですから」


「では、品物を確認したいのですが宜しいですか?

通常の状態を可能な限り、私が責任を持って魔法を使い記憶します」


「はあ?ふざけるな!今まではそんな事は言われなかったんだぞ!」


“お?何か面白い事になってんぞ”“あ、あの依頼ってアレじゃねーか?”“あゝチキリのヤツが痛い目にあった依頼だ”“ん?噂をすればチキリも来てんじゃねーか”“ククッ、こっそり覗いてやがる”


「今まではそうかもしれませんが、本日より確認します」


「何を言っている⁉︎たかだか受付嬢が!組合長を呼べ!」


「はい」


「ん?何をしている!さっさと呼ばんか!」


「ですから、はい」


「はあぁぁぁ?意味が分からん!組合長の部屋へ通してもらう!」

顔を真っ赤にして奥へ向かおうした男の肩がガシッと掴まれる

「な⁉︎なんだ⁉︎」


誰方(どなた)さんかは分からないが、職員か冒険者じゃなければ通せないよ」

いつの間にかフワック達5人が取り囲んでいる

「それに、もう組合長と話しているじゃないか」


“組合長と話してるってなんだ?”“いや、分からん”“つか、あいつら何処から現れた?”“あゝ突然現れたな”“ああ⁉︎やっぱりあいつら⁉︎”“なんっつー身のこなしだ”“冒険者か?”“冒険者にしちゃ小ざっぱりしてねーか?”“あゝなんつーか騎士っぽいな”“こんなとこに騎士は来ねーだろ?”


「何を意味が分からない事を!組合長のカルロさんは何処だ!」


「あ~彼、彼は退職したよ」


「は?」“““““は?”””””


「そういう訳です、ですので現在は私達7人が辺境伯より組合長を拝命しております

中身を確認しますが宜しいですね」


「い、いや、待て、いや、待ってくれ、私は依頼人だぞ!いつから冒険者組合は依頼人の不利益になる様な事をするようになったんだ!依頼人は大事なものだろう!」


「?不思議な事を仰いますね?

御存知の通り、ここは冒険者の為の冒険者組合です

ならば大事なのは、危険な依頼を遂行してくれる冒険者であり、雑務依頼を遂行してくれる街の方々です

そして、依頼を見つけ仕事を探すのが私達冒険者組合員の職務

何故、冒険者が居て、冒険者組合が在るのかを御存知無いのですか?

冒険者と組合は、人種関係無く一般の方々が日々を安寧に暮らせる様に助ける為に在るのです

決して高価な魔導具を運ぶだけの様な仕事をする為ではないのですよ」


“パチパチパチパチパチパチパチパチ”

冒険者達が拍手している、約1名は涙を流しながら


「それに、高価な魔導具を確実に正常な状態で運ぶ為に確認する事が不利益になるのですか?

元の状態を知っていれば、万が一にも破損した場合には修理が可能でしょう」


「そ、そんな事は不可能だ!高価な魔導具とは精密なんだ!そこそこ魔法が使えるぐらいでどうともなるものか!」


「それは、私達がワイナール皇国の筆頭魔導家コロージュン公爵家の者でもですか?」


「…………は?…………」


「私達が辺境領の様な田舎にある魔導具ですら扱えないと?」


「………そ、それは………」


「良い物をお見せしましょう」

リズが首元から胸に手を入れて、大事そうに首にチェーンを回した丸い物を押し戴く

「これは私達の主人(あるじ)が創られた懐中時計と言う刻をはかる魔導具です

皇家ですら持っていない無二の物です

金額は付けようがないでしょうが、敢えて付けるならば白金貨数枚でしょう

ミア、フワックさん達もお見せして」


「「「「「「はい」」」」」」

それぞれが懐中時計を見せる


「白金貨数枚………」


短針を動かし“チリリッ チリリッ”と鳴らしながら

「この懐中時計よりも高価で精密であると?」


「は…いえ……」

ジリッジリッと後ずさる、と脱兎の如く入り口に駆け出した

冒険者や子供を突き飛ばして入り口から外へ出た…が

耳元で「逃す訳がないだろう」と聞こえた瞬間に意識が飛んだ


「大丈夫だった?」

突き飛ばされた子供が倒れ込む寸前に()(かか)えたミアが問いかける


「うん、お姉ちゃんありがとう」


「こいつ、どうする?」

ライザーがズルズルと商人を引きずってくると


“いつの間に外に…”“うーむむむ…”“なんて手練れだ…”“あんな動きが人間種に出来るのか…”“7人全員があのレベルなのか?”


「御苦労様、ライザーさん」


「なんてことないっすよ、ポロさん辺りに任せますか?」


「そうですね、同じ商人ならば何か判るかもしれませんし

御屋敷へ運べばロベルト様が頭の中を覗いてくれるかもしれませんね

誰かに運ばせましょう」


「あ、あの!俺に運ばせてもらえないか!辺境伯の城だよな?」


「貴方は?」「誰だい?あんた」


「俺はチキリってモンだ、そいつの依頼で前に酷い目にあったんだ!手伝わせてくれ!」


「んー…しかしなぁ、初めて会った人間に独りで運ばせるのも…」

「そうですねぇ…」


「じゃあ俺も手伝うよ、仇討ちの礼だ、任せろよ」

犬獣人が冒険者を掻き分けて出てきた


「ん?」「おや?」「ふぅ」「あー」「プッ」「あぁ」「フッ」


「え?鼻で笑われてる⁉︎」


「あゝいえいえ、失礼しました

それで、え~っと…」


「ジャイだよ!中堅冒険者のジャイだ!」


「あゝそう、ジャイさん……任せろ、か……それで手伝うとは?チキリさんとはお知り合いなのですか?」


「あゝ知ってる!一緒に酒飲んで慰めた事もあるよ!

なあ!チキリ!」

「お、おう、そうだな。てか、どうした?」

「あいつらの俺の扱いが軽くて悔しいんだよ!」

「お、おう、そうか…そりゃあ…ご愁傷さまだな…」

「くっ…お前までそんな扱いか…」

「いや、あの人らの動き見てたらここにいる全員の扱いを軽く見ても当然だと思うぞ?

逆に、逆立ちしたって敵わない様な、あの人達に“あいつら”って言えるお前がスゲーよ」


「おーそーだそーだ」「なんだよジャイ、知り合いなのか?」「ジャイ、お前は何をしでかしたんだよ」「また調子に乗ってやらかしたんだろ」「ジャイなら有り得るな」


「ちげーって!あいつらはボウド達の仇を取ってくれたんだよ!」


「はっ?」「え⁉︎」「なん…だ…と?」「ボウド…」「キニータ…良い女だったのに…」「サムダは盗賊(thief)のクセして良いヤツだったなぁ…」「ムエルの魔法が弱くてヒヤヒヤしたよなぁ…」「バジーの(shield)は買い換え寸前だったよな」


「「「「「つーか!」」」」」

“バキッ!”“ベチッ!”“ゴチッ!”“ペチッ!”

「「「「「大恩人じゃねーか!バカ!」」」」」


「イテッ!イテーよ!」


「このポンコツが、仲間の仇を討ってくれた人達を“あいつら”呼ばわりしてんじゃねーよ!」

「そーだぞジャイ!え~っと、新組合長?こんなバカですけど気は良いヤツなんで使ってやって下さい」

「「「「「お願いします!」」」」」

冒険者達が一斉に頭を下げた


「そうですか、信用されているのですね

では、お願いしましょう

私達が言った、と言えば御屋敷の門衛も通すでしょう」


「あゝ分かった…“バシン!”ギャン!」

「わかりました、だろうがバカ!」

「分かったわかった、わかりましたよ!何も蹴らなくても…」

「ああん?何か言ったか?チキリ、このバカ頼むぜ?コウトー冒険者の恥を晒さないようにな?」

「ああ、けど、ちょっと不安になってきた…」





リズが“パンパン”と手を叩く

「さて、通常業務に戻りましょう

あ、今日は依頼を受けないと言う方達は希望すれば毎日

こちらのコロージュン騎士隊の面々が戦闘訓練をしてくれます

これからの依頼遂行を楽にする為にも請ける事をお勧めします」


「なに⁉︎ホントか⁉︎請ける!請けるよ!」「俺も!」「あたしも!」「俺もだ!」「パーティー単位でも良いか?」


「勿論、パーティーでも良いぞ。ただし俺たちは独りで相手するがな?」


「なに?」「それだけ強いって事か…」「僕も請けたい」「いやいや、冒険者じゃなきゃダメだろう」「子供には危険だぞ?」


「そんな事は気にするな、子供でも冒険者じゃなくても構わないさ

俺たちの主人(あるじ)はコウトー全体が安寧になる事を願っておられる

それには一般人が強くなるのに否やは無いだろう」


「「そうですね」」












「出番が…出番が無かった…orz」


「ロウ!今から出るか?」


「いや、もう、明日の祭りに備えて寝るよワラシ…」




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