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辺境の街、鳴動す

ワイナール皇国暦286年 、4の月




その日、東の辺境領の領府コウトーが微振動した

そして、コウトーの全住民は言い知れぬ恐怖とプレッシャーを受ける

「な!?」「おい!なんだよこれ!」「うわ~ん、怖いよー」「キャア!?なんなの!?」「龍でも来たのか!?」「風もなく窓が揺れたぞ!?」「うわぁぁぁぁ…」


コウトー周辺の動物達は我先にと街から離れていった




遠く離れた山脈では

「………っ」「何があった?」「分からぬ、だがこの圧力は…」「方向は南か?いや南東?」「我が様子を見てくるか?」「いや、我ら龍王が人里に行く訳にもいかぬだろう」「うむ、我らが僕龍(しもべ)を飛ばすのが良いだろう」「一刻も早く確認せねばな…」




発生源の辺境伯邸は上へ下への大騒ぎ………には、ならなかった

と言うより、大騒ぎをする余裕が無かった


「だ…大丈夫ですか!?キャロル…ロワール……」

キャロルとロワールが失神している


「あ…あなた……」

「気を…気をしっかり持てキホーテ!グウゥゥ…」

今にも気絶しそうなキホーテをロシナンテが抱きしめる


「クアッ!あ、足が動かん!」「な、何があった…ロウ様は…」「分からん、わからんがロウ様の所に…」「早く、早く動け!足!」「うああぁぁぁ!」

フワック達は体が硬直している


「な…な……なんだ…このプレッシャーは…」

ポロが執務室の椅子から立ち上がる事が出来ない


「「「「「「………………」」」」」」

屋敷内の使用人達は全員その場で気絶している




「グ…ウウゥゥゥ…ろ…ロ…ウく…ん……」

ロベルトが大量の汗を掻きテーブルに手を付き必死に体を支える


「ろ……ロウ……さ…ま…」

「……あ…………ろ…」

リズとミアが立って居られず跪坐(ひざまず)


「…………」

組合長はテーブルに突っ伏し気絶していた



「ワンワン!」(何があった!?)

「ロウ!どうしたんだ!?」

コマちゃんとワラシが応接室へ飛び込んできた

そして、緋緋色金の魔力を迸らせ、魔力の暴風の中で静かに座るロウを見た


「あゝコマちゃん、ワラシ、怒りが収まらないんだ

まさかねぇ、僕たちと知り合ったばかりに殺されるなんて

名前も知らない冒険者達だったけど不憫でね…失敗したなぁ」


「ワフワフ」(でも、そろそろ落ち着かないと誰か死ぬよ)

「ロウ!怒っているのか?」


「そうだねワラシ、迂闊だった自分にね…」


「じゃあどうする?」


「先ずは犯人を捜そうか?それからだね」

“はぁ~ふぅ~すぅ~はぁ~”

軽く深呼吸する

するとジワジワと魔力の奔流が収まりプレッシャーが消えていった


「ろ…ロウ君…君は……」


「ロベルト叔父さん、たぶん、この組合長(ボンクラ)は何か知っていると思いますから捕らえて聞き出して下さい。僕たちは犯人を捜し出します

リズとミアはフワック達とポロを僕の部屋に」


「「は…はい!」」

リズとミアがヨタヨタしつつも慌てて応接室を出ていった






「さっきのは何だったんだ?」

「龍でも近くに来たのかもな?」

「しくじったな、さっきので獣人を仕留め損なった…」

「だから、それもこれもお前が無駄に冒険者を殺すからだろうが!」

「そうだ、依頼も果たしてないのに別口を殺すとか頭おかしいのか?」

「なんだと?なんか文句あんのか?」

「あるに決まってんだろうが、俺はお前みたいな殺し好きじゃねぇんだよカス!仕事ぐらい普通にこなせや」

「あゝ取り敢えず、ふん(じば)って本筋済ませてから殺しゃあよかったんだアホが」

「ほ~う、言ってくれるな?テメーらも殺してやろうか?」

「はっ!闇討ちしか出来ねぇカスがか?笑わせんな、まだ昼間だぜ?」

「……テメー……」

「お前らうるせえぞ、殺しちまったのはしょうがないが本筋がやり難くなったのは確かだ。これ以上の依頼外の行動して邪魔するんなら上から消されると思っておけよ?あゝ人として消されるだけだ、アンデッドとしては良いように使われるだろうがな?ククク…」

「チッ!わかったよ…」

「舌打ちしてる余裕があんのか?お前は自分の立場がわかってんのか?依頼遂行は絶対の掟なんだぞ?遂行出来なかったバカがどうなったかイヤってぐらい見てきただろうが」

「わかった!わかったよ、すまなかった…今度から気をつける!」

「今度があるといいな?」

「……」

「足引っ張ってんじゃねーよゴミクズが」

「…………」








ロベルトがカルロを縛り、考え込みながら自室に戻るとキホーテがキャロルを、キャリーがロワールを抱いていた

そして、ロシナンテがキャロルとロワールの容態を診ている

「あ、あなた!何があったのですか!?」

「ん?キャロルとロワールは?大丈夫なのか?」

「あゝ気を失っただけだ、大丈夫だろう。何があった?」

「ロベルト、何だったのですか?」

「あー、龍の逆鱗に触れたバカどもがコウトーの街に現れたと言いますか…」

「龍の逆鱗だと!?」

「ええ、親父殿、コロージュン公爵家の昇龍ですね

先日の親父殿との立会いで“龍王のつもりで”と言っていましたが何の比喩でもありませんでした…」

「…………」

「では、先程のプレッシャーはロウが発したと言うのですかロベルト?」

「えぇそうですよ、お袋様

しかし、キャロルとロワールは少しでも魔法耐性があって良かった

でなければ、アレは子供達には危なかったかもしれません

コロージュン家の血に感謝ですね」

「何故、ロウはそのような事になったのだ?」

「先日、ロウ君達が街に出た時に知り合った冒険者が殺されたんですよ

それが、どうにもロウ君と知り合ったせいのようです」

「まぁ…何ということ…」

「それは、先日尋ねてきたと言う冒険者か?」

「えぇ親父殿、せっかくロウ君が知らない振りをしたというのに、ですね。結果がアレですよ」

「……して、ロウは?」

「犯人捜しをするそうです、フワック達とポロを自室に呼んでいましたから作戦を練るのでしょう」

「街が危うくは無いか?」

「判りません。こういう場合のロウ君がどの様な行動をするのか知るには辺境に来てからの日が浅過ぎます

それに、ロウ君の行動を止めるのならば親父殿がどうぞ

私にはとてもとても…あのプレッシャーを直ぐ隣で受けましたからね」

「止めれる者は居ないと言う事か…」

「えぇ私には、龍王ですらロウ君を止めれるか疑問に思いますよ…」

「我らで犯人を捜すのは?」

「ん~、それも何とも言いようがありませんね

ただ、ロウ君の考察ではカルロが何かを知っているかもしれないと

ですから、縛り上げて応接室に転がしてあります」

「カルロ?…組合長か?」

「えぇ、そうですね。まぁ冒険者組合の要職ですから皇家の手が及んでいても不思議ではないでしょう」

「なるほどな…よし、儂が取り調べてくれようかの

キャロルとロワールを虐めた原因だからな、目にモノ見せてくれようか」

「そうですね…」

ロシナンテとロベルトから怒りの魔力が迸った









「ポロ、パウルの支店には調査に長けた人は何人ぐらい居る?」


「は、5人程だと思われます」


「じゃあ、その5人を直ぐに屋敷へ呼んで?

出来れば冒険者が居住する区画を知っている者も」


「は!あ、街中は私が把握していますからご安心ください。では、行ってきます」

ポロが直ぐに出ていく


「リズ、ミア、フワック達は完全装備にしてきて、テンガロンハットは抜きで。再集合は30分後」


「「「「「「「はい!」」」」」」」





30分後にフワック達とリズ、ミアが部屋にくる


「ポロはもう少し掛かるかもしれないから、先に君たちに付与しておこう。全員回れ右!」


「「「「「「「はい!」」」」」」」


全員の背中に認識阻害魔法を付与していく


「少し強めにしたけどどうかな?」


「凄い…みんな霞んで見える…」「目の前に居るのに…」「これは分かって無かったら全く見えないかも…」「凄い、透明になったみたい…」




少ししたらポロ達がやってきた

「あれ?フワックさん達は?もう行動に出ましたか?」

「ここに居るよポロさん」

「え!?ウワッ!?」

「「「「「は?」」」」」


「認識阻害魔法を付与したんだ、ポロ達にも付与するから背中向けて」


「あ、は、はい!」


ポロ達6人にも魔法付与する


「で、だ、先ずは僕がワラシとコマちゃんと街を歩く」


「「「「「はい」」」」」


「敵には魔力耐性が強い者がいるかもしれないから、少し離れて僕に付いてきて」


「「「「「はい」」」」」


「怪しいのが居たら合図を送るから尾行すること

現段階では敵が何人いるか判らないから絶対に手を出してはいけない」


「「「「「はい」」」」」


「敵の人数が大体判明したら一網打尽にする、パウルの者達は戦闘に絶対に参加しないように念を押しておくよ」


「え?しかし…」


“ギッ”とロウが睨み

「逆らうな、黙っていろ」

ゆらりとロウから魔力が陽炎の様に立ち昇る


「ヒッ…も、申し訳ありません!」


「では行動を開始する」


「「「「「はっ!」」」」








街中では再び異変が起こっていた

「あ?ああぁぁぁぁ!?」「なんだ?どうした!?」「空だ!」「空を見ろ!」「え?あ……龍だ……」「龍だ!?龍が来ている!?」「建物の中に入れ!」「逃げろ!」「4匹もいるぞ!?」「やっぱりさっきのは龍の仕業だったんだー!?」「もう終わりだ…」「街が滅ぶぞ…」



4体の巨大な龍がコウトーの上空を何かを探す様に睥睨(へいげい)しながら旋回する



「チッ、なんで龍が…」

「やっぱり、さっきのは龍のせいだったのか?」

「さてな?だいぶ刻は経っているがな?」

「中位龍が4匹も飛んできたんだ有りうるな」

「やりづれえな…ひとまず街から出るか?」

「街を出るなら攻撃してきてからが良いんじゃねーか?」

「あぁそうだな、俺たちなら紛れて逃げる方が容易いな」

「まてよ?龍が来たんなら屋敷から出てくるんじゃないか?」

「それも、有りうるな…」

「ちょっと、屋敷の様子を見に行くか?仕事を終わらせられるかもしれねぇ」

「あゝそうだな、そうしよう」

「全員でバラけて屋敷出入り口周囲を探るか」

「そうだな、行こう。ヘマすんなよ」


刺客達は殺した冒険者達の家を静かに出ていった






地下へ行く途中のロシナンテとロベルトが窓から空を見上げている

「親父殿、どう思いますか?」

「どう思う、とは?」

「何故、今、龍が街に現れたのか、です」

「先程のロウの魔力に反応したと見るのが自然であろうな」

「アレが降りて来た場合、我ら辺境伯家は命を賭して撃退しなければなりませんが」

「あの中位龍1匹で何とか、2匹で死して何とか、3匹で儂らが死ぬだけで龍は無事、4匹は初めから諦める、だな

但し、それは始祖での話だ」

「ふう……嵐は過ぎ去るのを待つしか出来ませんか…」






ロウは玄関先で龍を見ていた

「へぇ?アレが中位の龍か…まんま西洋ドラゴンって感じだな。しかし、この忙しい時に何しに来たのかねぇ…コマちゃん、退治した方が良いかな?」


「ク~ン」(たぶん様子見だろうから放っといたら?)

「コマちゃん!やっつけないのか?」

「ワフ」(直ぐに居なくなるよワラシ)

「そっか!わかったー!」


「ん?あれ?早速、魔力探査(search)に引っかかったぞ?

龍が来てんのに逃げずに屋敷周りにいるって事はビンゴなんじゃないか?」


ロウが塀の外を彷徨(うろつ)く8つの気配を感じとる


「この世界の人は危機意識が発達してるから、嵐の日に川を見に行く様な無駄な野次馬行為はしないよな?

あ、ひょっとして…龍が来たから屋敷から出ると思ったのか?

それならそれで手っ取り早いんだが、全員とは限らないのが問題だな。泳がすか…」


「ロウ!捕まえるか?」


「いや、まだだよ。ん~~、みんな?」


「「「「「はい」」」」」


「今現在、屋敷の門が見える範囲に8人の怪しいヤツらがいる

君たちが位置を判明し次第、フワック達とパウル家の者で2人1組になって監視、リズとミアとポロは1人で。

まぁいきなり襲ってはこないと思うから僕達は街中へ向かう、敵が増えたらフワック達とパウル家の者は別れて対応

でも襲ってきたらしょうがないから捕獲

その際は手荒でも構わないが絶対に殺さない様に、そのぐらいで死に逃げされたら困る

ざっくり、こんな作戦でいこう」


「「「「「はっ!」」」」」





「お?龍が去っていくな?」

「やっとか…何もしなかったな?何しに来たんだ?」

「龍の行動なんざ解るもんか」

「ハハッ!ちげえねぇ……ん?アレは?」

「どうした?」

「あ、いや、予想通りに出てきたんじゃねぇか?ほら、門の横、通用口を見てみろ」

「ククッ…こりゃあ上手いこと行きそうだな、他のヤツらにも報せろよ」

「あゝそうだな」

懐からナイフを取り出して陽に(かざ)すと、光を反射してキラッキラッと瞬く

すると同じ様に、あっちこっちから光が瞬く



それに気付いたロウが

「あいつらバカなのか?俺が皆んなに居所を教えるまでもないじゃないか

どうやって報せるか悩んでたっつーのになぁ…

まぁ所詮は通り魔的な事をする(やから)か、頭は良くないと見ていいな

ん?って事は全員で来てるかも?」

ロウが“フルフル”と頭を振る

「いやいや、そういう簡単な考えが彼らを殺したんだ

同じ轍を踏んだら何の為の2周目だよ

もっと考えろ俺!」

ブツブツ呟きながら街中方面へ向かう


龍出現のせいか通りは閑散としている

住民は龍が去った事にも気付かずに息を潜めているのだろう

だが、路地の方からこちらに1人で向かってくる気配を感知する

ロウが警戒していると、向こうもロウ達に気付いたのか息を潜めて路地から少し顔を出しロウ達を確認する


「なんだ、子供じゃないか?こんな時に外に出ちゃダメだぞ?」

ピットブルっぽい犬獣人が路地から出てきた


「お兄さんこそ何してんの?」


「あ?俺か?俺は仕事中だから別に良いんだよ」


「仕事って?」


「?気になんのか?妙な子供達だな?俺は悪いヤツらを捜してんだ。簡単に人を殺すような悪いヤツらが彷徨(うろつ)いてんだから、サッサと家に帰んな?危ないぞ?つーか、今日は妙な気配はするわ、龍が出るわで変な日なんだから家ん中で遊んでな」


「ふ~ん、お兄さんは冒険者?」


「“ふ~ん”っておい…なんか危機感が無い子だな?あゝ俺は冒険者だがそれがどうした?」


「お兄さんが捜してるのって冒険者殺し?」


「っつ!?グルル…ボウズが何故それを知っている?」

犬獣人が剣に手をかけ警戒して唸る


「そいつら、直ぐに見付かると思うけどな?

匂いがしない?」


「なにっ!?」

スッと目を細め“クンクン”と鼻を鳴らす

「ボウズ…直ぐにココを離れるんだ…」


「大丈夫だよ、僕達が釣ってるんだから」


「はぁ?何を訳が分からない事を…」


「お兄さんと目的が一緒って事さ、そしてヤツらの目標が僕って事だね

あの冒険者のお兄さん達は、とばっちりで殺されちゃったんだよ…」

抑えてはいるが、ロウの肚中では再び怒りが沸々と湧き上がってきていた






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