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少年たちの日常


ワイナール皇国暦286年、3の月



「おいおいロウよ、一体全体どうなっているのだ?お主の騎士隊は?」

ロシナンテが見遣る先に、教導場にて辺境領騎士団相手に無双するフワック達の姿があった




ロウ達が辺境領へ来て4日が経つ

その間、屋敷内のほぼ全ての使用人と面通しし

ロウが乗ってきた馬車の説明をし

ヴァイパー用の馬房を整え

ロウとポロだけが水田や米について教えてもらい、などしつつ過ごした

そして、今日はフワック達を辺境領騎士団に引き合わせる事になり

騎士団詰所までロベルトとロシナンテが先導し来ていたが、突然ロシナンテがフワック達の実力が見たいと言い出す


「我が騎士団は儂が手塩にかけ育ててきた少数精鋭なのだぞ?

50人がかりが、たったの5人に圧倒されるとは…」


「ふふっ…フワック達の面目躍如と言ったところですね

彼等は旅の道中でかなりの実力を付けたんですが、発揮出来る場が無くて自分達が弱いと思ってましたからね

自分達が一騎当千になってる事に驚いているでしょう」


ロシナンテは自分が丹精込めて鍛錬した騎士団を“本家に劣らぬ”と自慢したかったのだろうが

完全に天狗の鼻をポッキリ折られた格好になってしまった




ロシナンテとロベルトが

「我が騎士団は本家の騎士団よりも少ないが、その分精兵に仕立て上げたよ」

「うむ、しかし、本家の騎士団とは手合わせする機会も無いでな。丁度良い、フワック達の実力も見る為に手合わせさせてみんか?」


「ふむ…良いですね。フワック、君達なら1人で10人だったら装備無しで楽にいけるよ」

ロウが大口を叩くと騎士団がいきり立った


「「「「「ロウ様!?」」」」」

フワック達はロウの突然の大風呂敷(big mouth)に慌てる


「大丈夫、1人で10人の騎士までなら相手を殺さずに済むから遠慮しないでやっちゃえ♪」

ロウがお気楽に言うも、フワック達はおっかなびっくりだった

そして、辺境領騎士団50人が怒髪天を突く勢いでフワック達を取り囲む

だが結果はフワック達の圧勝に終わった

そして、フワック達は自分達の実力に驚愕していた





「ロウよ、どの様な訓練をしたのだ?道中と言う事は限られた日数しかなかったのであろう?」


「別にこれと言った訓練はしていませんよ?僕と組手をして悉くノしてきただけです」


「むむむ…儂もロウと鍛錬するのを楽しみにしていたが気を引き締めなければならんな…」


「……手加減はしますよ……」


「む?手加減だと?ククク…大きく出おったな?

儂も英雄の成り損ねとまで呼ばわれたのだ、そう簡単にはいかぬぞ?」




広い教導場の中央で10mぐらい離れてロシナンテとロウが向き合う


「御祖父様、僕を龍だと思って攻撃してきて下さいね?竜人ではありませんよ?龍です」


「儂は下位龍程度ならば遅れは取らんぞ?」


「それでも凄いとは思いますが、龍王ぐらいに見て下さい。ではどうぞ」


「む?それは言い過ぎではないか?ゆくぞ!」

“身体強化” “魔力強化” “魔力装甲”とバフをかけ

“炎よ、無数の我が矢となり敵を貫け!”

詠唱と同時に魔法杖(staff)を振ると中空に魔方陣が展開し、魔方陣の中心から膨大な数の火の矢がロウに突進する


『うわっ!?リアル坂野サーカスやんけ!?真似してみよ』

ロウは無言で“迎撃 光弾”と書いた30cmぐらいの魔方陣を前面に出す

“ピュンピュン”と断続的な音がし、ロウから1mぐらいまで迫った炎の矢から“パスッパスッ”と次々に撃ち消していく

同時に別の魔方陣を展開し“火焔弾 目標追尾”と書き、魔方陣を上に向け断続的に“パパパパパパ…”と発射させると細長く赤い尾を引きロシナンテに殺到する

ロシナンテは四方八方から自分に殺到する火焔弾を認識すると

「ウオオォォォ!?」

魔法杖を振りかぶり“水よ、我が身を護れ!”と地面に魔方陣を展開しドーム状の青白い水の膜を張った

が、火焔弾が水の膜を次々に蒸発させ穴だらけにしてしまう

「こりゃいかん!」

魔法杖に魔力を込めて“魔硬化”と唱え、発光させ振り回して穴を抜けてきた火焔弾を(はじ)

その様を見ていたロウが右手親指を立て人差し指を突き出し、人差し指の先に魔力を込めると発光しだす

ロシナンテが最後の火焔弾を弾いた瞬間を狙い、魔法杖を狙って“パン”と言うと金色の光弾がロシナンテの魔法杖を弾き飛ばした


『霊gun♪なんつって♪』

「まだ手合わせしますか?」


「うむ……いや、まだまだやれるが、今日はここまでにしておこう。初日からロウを負かしたのではフワック達も(へこ)んでしまうだろうからな。ワッハッハッハッハ…」

魔法杖を拾いつつ、良い汗掻いたとばかりにロシナンテが額の汗を拭う


「そうですね、僕も初日からコテンパンにされるのは真っ平ですよ」

とロウは涼しい顔をする


ロベルトが思いっ切り苦笑いしながら

「親父殿、屋敷へ戻りましょうか?」

「うむ、そうだな!あ、フワック達よ」

「「「「「は!なんでしょうか御隠居様」」」」」

其方(そなた)らは今少し我が騎士団を鍛えてやってくれぬか?」

「は!しかし、出過ぎた真似になりませんか?」

「ふむ、お前達はイヤか?」

辺境領騎士団に問いかける

「「「「「「望むところです!!」」」」」」

「と、言う事だ、頼むぞ」

「「「「「はっ!」」」」」





翌朝

「ワラシ、そろそろ自分で服を着れる様にならなくちゃダメだよ?」

ワラシの服の前合わせをし、布紐で横に結ぶ


「う…わかった…」


「まぁ、ゆっくりと着方を覚えればいいけど、いつまでも僕が着せてあげる事は出来ないからね?」

ズボンを履かせ、前で蝶々結びにする


「ありがとー!」


「い~え、どういたしまして

さ、朝食を食べに行こう」


「うん!」





朝食後の食堂で、座卓を部屋の隅に立て掛け絨毯の上に坐る

「さて御祖父様(おじいさま)御祖母様(おばあさま)、見せたい物があります」


「ん?なにかな?」「あら、なにかしら?」


「それは、コレです」

懐からハンカチで包んだトランプを出す

「これはトランプと言います、一応僕が新しく考えたゲームの道具です」


「ほう?その紙の束がゲームの道具?」「一応?」「ロウ君が考えたのか」「ゲームですか、楽しみですね」


「いくつかの遊び方があるんですが、ルールを覚えながら一通りやってみましょう」




「ワッハッハッハッハ!ババを引かせたぞ!」

「むむむ…そんなに高く出したら引くでしょう!」

「あなた、そんな分かり易い引っ掛けに釣られるなんて…」

「うふふ、ロベルトは単純ねえ」



「おのれ!ロベルト!お主だな♣︎9を持っているのは!」

「さぁどうでしょうかね?お?親父殿はパスですか?」

「うふふ、私はココに…」

「あら?助かるわキャリー」



「コレ!と…コレ!」

「凄いじゃないか!揃ったぞ!」

「次は…コレ!」

「あら、次は外したわね?」

「じゃあ、儂の番だな。あそこに6と、あっちが3であったな…じゃあコレでどうじゃ!……7か……」



一通り遊び終え

「どうでしたか?」


「いやぁ楽しかったよロウ君」

「ええ、本当に楽しかったわ」

「むむむ…面白い物を考え出したものだのう」

「これからは退屈しないで済みそうですわね、あなた」


「そういえばロウ様、パウル商会でトランプを売り出したらしいですよ

まだ知名度は低いですが、ロウ様が教えた遊び方とルールを書いた小冊子とsetで売り出して評判は上々の様ですね

あと数日もすればコウトー支店にも纏まった量が届く予定だそうです」


「へえ?それは良かった。じゃあこれからは僕があくせく作らなくても良いね?

あ、でも、字が読めない人はどうするんだろ?」


「あゝそれはですね、商会店舗内の一角に遊べるコーナーを作って従業員が一緒に遊びながら教える手はずにしたようですよ」


『カードショップの対戦用コーナーみたいなもんか』

「誰が考えたか知らないけど、それはとっても良い方法だよね。

初心者の入り口にもってこいだよ」


「製作者にお褒めに預かり光栄ですな

でも、遊び方とルールは、そう難しいものでもないので直ぐに人も少なくなるのではないでしょうか?」


「ん?だったらトランプ大会?競技会?を定期的に開催すれば良いじゃないか、賞金や景品付きで

店とトランプの宣伝にもなって丁度良いんじゃない?」


ポロが“ポン”と手を打った

「なるほど!?ちょっと失礼します!」

ポロが自室に戻っていった


「ふふっ…早速報告書作りか、リズとミアは?ついでに出しておかなくても良いの?」

側に控えていたリズとミアに声をかける


「そうですね、便乗させてもらいます」

「はい」

とリズとミアも自室に戻っていった


「さて…と、トランプは置いておきますね

みんなで愉しんで下さい、僕はワラシ達の様子を見てきます」

と外へ向かう






屋敷の前庭では、コマちゃん、ワラシ、キャロル、ロワールが遊んでいた

「やあ、寒い中で何して遊んでるの?」


「あ!ロウ!」

「ローにーちゃー!」

「追いかけっこして遊んでるのよ、ロウお兄ちゃん」


「へえ、キャロルとロワールは寒くないのかい?」


「走り回ってるからヘッチャラよ!」

「ロウ!コマちゃん追いかけるか?」


「ん?本気で?」


「本気で!」

「本気って?」


「ふふっ…コマちゃん、本気でやってみる?」


「ワフ!」(受けて立つ!)

「コマちゃん!頑張れ!」


「よ~し、行っくぞ~~~っ!」


“ヒュッ” “シュッ”

コマちゃんとロウが搔き消えた


“パキッ”っと枯れ枝を踏む音が

“タン”っと何処かを蹴る音が

“シュッ”と風を切る音がする

そして稀に“パッ” “パッ”と空中で魔力光が明滅する


「あ!コマちゃん危ない!」「ロウ!もう少し!」

ワラシが目まぐるしく頭を動かし声援を送り

キャロルはオロオロし、ロワールはキョトンとしている



「あ…あなた?視えますか?」

こっそりと屋敷の窓から見ていたキホーテが問いかける

「うむむむむ………視えぬな………かろうじてワラシの顔を見ていれば動いた先が判るぐらいだ…」


ロシナンテとキホーテは、ただただ孫が可愛くてひと時も離れ難く

こっそりと孫たちを見ていただけだったのだが、とんでもない光景を見てしまい動揺している

まぁ厳密にはロウの姿は視えていないのだが…


別の窓からはロベルトとキャリーが見ていた

「あなた…」「神童…か…」




「あなた、本当にロウと引き分けたの?」

「ん?ん~~~まぁ間違いではない……」

「アレを見ていると、とても信じられないのですけど?」

「……………」

「あ、空中に現れたわ!?」

「コマちゃんを抱いているな、ロウの勝ちか?」



10mぐらいの高さでロウがコマちゃんを捕らえ、そのまま墜ちてきた

「危ない!」

両手を頬にあてキャロルが叫ぶも、何事も無くストンと降り立ち


「へっへ~僕の勝ちだね」


「ワッフ…」(負けた…)


「ロウの勝ちだ!」

「ロウお兄ちゃんが勝ったの?」


「へへっ…足にも一瞬で魔力を籠めれる様になったからね」


「ワフゥ…」(空中三角飛びにはやられた…)

「我にも出来るか?」


「ワラシにも出来るんじゃないかな?水が自在に操れるんだし

水球を沢山出して、それに次々に乗って跳べば?」


「そっか!やってみる!」

空中に10cm程度の水球を10個ぐらい浮かべ“ポン”と乗る、そして次の水球へ…を繰り返し5mぐらいの高さまで登る

「できた!」


「ワラシ、わたしもやりたい!のれる?」

「のれる?のれる!」

ワラシが何かしたのか“ポヨンポヨン”していた水球の質感が変わり“ボヨンボヨン”になる

「よーしっ!」

キャロルが跳び乗ると水球の反動であらぬ方向に飛ばされ転ぶ

「イタタタ…むずかしいなぁ、でもワラシがしてくれたから頑張る!」

と再チャレンジ

ロワールは水球の1つにブラブラぶら下がって遊んでいた


『あんれぇ?まさかキャロルってワラシの事が?』

ロウの目付きがオッサンになりニヤける


【まさかかもよ?でも、まだ幼いから分かってなさそう。てか君、オッサンになってるよ】


『ふふふ…コマちゃん、幼女をナメちゃいけない

おしゃまさんな幼女は恐いよ

見た目は幼女でも、中身は女だからね』


【なにその見てきたかの様な物言い】


『前世には愛娘が居たからね、自分でも幼稚園生の頃に実体験してるし』


【あー、私が君を観る前の事かぁ】


『そうなん?知らんけど』

「さあ、そろそろ屋敷の中に戻ろうか?粉雪がチラついてきたよ」


「はーい」「うん!」「あい!」





数日が過ぎ


“コンコン”ロウの部屋の扉がノックされ

「ロウ様、頼まれていた木材を持って来ましたよ」


「あ、ありがとうポロ。丁度良いのがあった?」


「丁度良いかは分かりませんが、頼まれた物に近いぐらいの物は持って来れたと思います」

とポロが厚さ10cmぐらい、直径60cmぐらいの木の輪切りを差し出す

「あとは、コレですね」

と細長い角材を2本


「うん、良いんじゃないかな?盤は四角くなくても良いし…後は表面をどうするか、ちょっと荒れてるな」


「何を作るのですか?テーブルとか?」


「いや、違うよ。新しいゲームをね」


「ほう?それは楽しみですね」


「うん、楽しみにしててよ」


腰から光剣を取り出し、少しだけ刃を出して盤の表面を削る

盤の表面が滑らかになったら小刀を取り出し角材を定規代わりに直線の溝を縦横に付けていき9×9のマス目を作る

再び角材を定規代わりに溝を黒インクでなぞりマス目を見え易くした


「よし、盤はコレで良いかな?次は駒か…大きさも統一でいっか」


五角形は面倒くさかったのか角材を削り、台形にし、厚さアバウト1cmぐらいに切っていき、計40個にする


「よし、後は駒に書くだけだ。ポロも手伝って」


「はい、して、何と書けば?」


「うん、半分の20個には僕が書くから真似してね」


と、こっちの言葉で、王・金将軍・銀将軍・騎士・槍兵・兵士と書き、ハタと手が止まる


「飛車は飛龍で良いとして、角行はどうするかな…………………地龍でいっか」


次は駒裏に取り掛かる、歩・香車・桂馬・銀将の裏に金将軍と書き、飛車の裏に龍王、角行の裏には龍馬と書いた


「よし、完成!小さい文字は疲れるね…」


「ええ、そうですね…では、遊び方を教えてもらえますか?」


「うん、でも、二度手間は面倒だから食堂で皆んなに見せながらね」






「あ、飛龍は敵陣まで直ぐに行けるんですね!?よし!兵は貰いましたぞ!」


「へえ?じゃあ、代わりに飛龍をありがとうポロ」


「なんと!?ちょ!ちょっと待って下さい!」


「ふふっ…待った、は無しだねぇ」


「なるほど、調子に乗って攻めると手痛いしっぺ返しがあるんだね?」

「うむ、しっかりと考えて兵を動かさないと負けるな」

「この騎士の駒?の動かしかたは面白いですね」

「裏返ると金将軍に成るんですね」

「しかし、裏返るまでが大変だ…」

「ポロさん、王を守った方が良いんじゃないか?」


駒の動かし方が書いてある紙と盤面を交互に見て

集まった面々が、あ~だこ~だと考察している



「ねぇワラシ?お水のマホウはなんでもできるの?」

「うん!我は水は上手だ!」

「へ~、スゴイのね!」

「え?我は凄いか?」

「うん!スゴイよ!」

「えへへ~」


暖炉の前でワラシとキャロルが話し込んでいるのを

みんなが生暖かい目で見守っていた




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