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ワイナール皇国暦286年、3の月




ロウ達一行はダムド領の関所を抜ける折

馬車を込みで“コロージュン公爵家よりコロージュン辺境伯家への荷を輸送”という(てい)をとる

先ずはこれで馬車を検められる事が回避される

公爵家という最高位貴族家の紋章が入った馬車が同族の辺境伯家という高位貴族家へ行くのだから、そこらの諸侯に手を出せる事も調べる事も出来ないのは当然だ

ただし通行証がケイワズ伯爵発行なのは、輸送に万全を期す為に協力していると言い訳する

だが、ダムド領とキリク領の関守は、触らぬ神に祟りなしとばかりに誰何(すいか)もせずに通したのだから杞憂だった


賊を(へこ)ませ、川を凹ませて5日は過ぎ

ロウ達一行は昼過ぎにウリニに入る

ウリニに入る時は馬車も地面に降ろし普通にしていたので問題はなかったが、街の衛兵がヴァイパーの威容に警戒し

暴れさせないよう誓約書を書かされたりする


「はぁ~、概ね上手く街に入れたね」


「ええ、そうですね。しかし、宿は中級ですが宜しかったのですか?」


「うん、僕は問題無いよ

ただの輸送隊なんだから高級な宿を取るのも変でしょ?

ワラシも問題無いよね?」


「う~?うん!こんなのは初めてだ!」

部屋の中をキョロキョロと見回す

「これはなに?これは?これは?フカフカだ!?」


「それはドレッサー、それは金庫、それはベッドだね」


「ふ~ん?あ、こっちのはなに?」

ガチャとドアを開けるとトイレと浴室があった

「なにこれー?」


「浴室だね、お風呂だよ」


「お風呂?水無いよー?」


「それにお湯を溜めて入るんだよ

それにしてもグレードの割に良い部屋の宿だね?」


「やはりそこは商業の街だからでしょう

商人は大店(おおだな)から個人まで、いわゆる目が肥えた者達が多いからでしょうね

そして、金を持ってるか持ってないかで判別するので種族も問われません

我々は“金は持っているが分をわきまえて中級に宿泊する客”として見られていると思いますよ

でなければ同じクラスの2人部屋を5室は取れなかったでしょう」


「なるほどねぇ、宿の人も目が肥えてるんだね

さて、夕食まで自由行動にしようか

僕はワラシの服を買いに行ってくるよ」


「あ、じゃあ私は洗濯屋へ行ってまいります

旅の汚れ物が溜まってまいりましたので」

「あ、では私も一緒に」


「あ、なるほど洗濯かぁ

旅の間は全然してなかったね」


「いえ、目立つ汚れは野営の時にしてたんですよ

御屋敷で使っていた洗濯石鹸は持ってきていますから

私とミアは、こっそりと手揉みしていました。ウフフ…」


「へえ~、それで汚れは落ちるの?」


「まぁ、そこそこは落ちますよ」


「そこそこね…であればこその洗濯屋かぁ」


「そうですな、商人には綺麗好きが多い、と言うより普段から身綺麗にしている者が多いからウリニには洗濯屋も多いでしょう」


「うんうん、なるほど、それも仕事上は正しいね

じゃあフワック達はどうする?」


「え?どうすると言われましても…」

「全員が居なくなるのは難しいのでは?」


「ん?そんなの気にしなくて良いよ

ハナっから盗まれる様な物は部屋には置いておかないしね」


「しかし、ロウ様の警護は?」


「ふふふ…僕とワラシとコマちゃんが居て何か問題が起こると思う?」


「あ…」「確かに…」「問題があるのは相手だな…」

「じゃあ我々も街を散策でもしてきましょうか」


「うん、羽根を伸ばして遊んできなよ

別に門限なんて無いんだからさ、宿で夕食摂らないなら酒飲んできても良いし、コレでも良いよ」

と、小指を立てる


「はっ!ありがとうございます!」

「「「「ありがとうございます!」」」」

「ロウ様、(こな)れ過ぎ…」

「また6歳らしからない仕草を…」


「リズとミアも洗濯屋に預けたら、買い物でもして楽しんだらいいよ」


「「ありがとうございます」」


「ポロはどうするの?」


「私は皇都への報告もありますから、支店に顔を出してきます」


「うん了解、じゃあ皆んな解散」


「「「「「「「「はい」」」」」」」」





しばらくしてウリニの雑踏の中にロウとワラシ、コマちゃんの姿があった


「ロウ!アレなに?」


「アレは屋台だよ、食べ物を売ってるね」


「食べ物?売ってるってなに?みんなに分けてるのか?」


「分けてるのとは少し違うね、お金を貰って食べ物を人にあげて生活をしているんだよ

まぁ、ワラシは今まで無償でしてたからピンと来ないだろうけどね」


「交換しているのか?」


「そうそう、交換だよ

おじさん、その串って1本いくら?」


「おう、ボウズ、買うのかい?デカイのが1本で銅貨4枚、小さいのが銅貨2枚だ」


「じゃあデカイのを3本ちょうだい」

ジャラっと銅貨12枚を籠に入れる


「おう、毎度ありぃ。焼き立てだから熱いぞ?気を付けて食べな

っと、そっちのワン公には串から外して皿に出してやろう」


「あ、ありがとう!ほら、ワラシも」

「ありがとー!」

「わふ!」(ありがと!)


「おう、そっちの隅でユックリ食べな」




「ハフッハフッ…ロウ!美味しい!」


「ホントだね、ハフッハフッ…これで銅貨4枚は安いね」

屋台のオッサンがニヤリと笑い親指を立てる


食べ終わって串と皿を返すと

「串はその辺に放っといたら拾い屋が来て拾っといてくれるぞ」

と、串をポイ捨てする

すると何処からともなく現れた男がヒョイっと拾って何処かへ行った


『なるほどねぇ、ひょっとしたらこの世界は江戸時代並みの超リサイクル社会かな

まぁ、全ての領地でやってる訳でもないんだろうが流石は商業街ってとこか

でも、西洋風社会で見ると凄い違和感があるな…』


「拾い屋ってな、地面に落ちた物しか拾わねぇんだ

だが、大事な物を落としても拾い屋に拾われたら所有権が拾い屋になるからな。気を付けろよ」


「なるほど…うん、気を付けるよ。ありがとう」

『本当に気を付けなきゃな、拾い屋を取り巻く悲喜交々(ひきこもごも)なドラマが展開してそうだ』




ロウ達は暫く商店街をウロウロして

「やっぱり、さっき覗いた店が品揃えが豊富だったね

少し戻ろうか」

と、20mぐらい引き返し中古衣料品店に入る

「ごめんください、この子に合う服を探してるんですが」


「はいは~い、いらっしゃいませ

あら?可愛らしいお客さん達だね」


「こんにちは、この子のサイズで服あります?」


「5歳ぐらいだね?背丈は100cmぐらいかな?ありますよ」


「いろいろと見繕ってもらえます?」


「はいよ、子供の服は沢山あるからね」


「そうなんですか?」


「そりゃあね、子供は成長が早いからね

1年ぐらいしか着れないんだよ

その代わりに大人の服は中々揃わなくて大変さね

成長が止まったら買い替える必要がないからね」


「ふ~ん」


「ところで、その子は蜥蜴系の亜人かい?」

と、ワラシの両手足を見る

「だったら、この季節は暖かい服をご所望かね?」


「あ、あゝそっか…」

一瞬、亜人差別かと思ったロウが焦る

「ワ、ワラシ、どうかな?寒い?」


「全然!寒くない!」


「へ~、珍しい!寒さに強い蜥蜴系亜人も居るんだね?

そういう種族も居るなら冬に薄手も売れるねぇ

じゃあ傾向はどうするんだい?

男の子にも女の子にも見えるからねぇ」


「僕と同じような動きやすいので良いですよ」


「そうかい?じゃあ、この辺りだね。上下合わせて3着で銀貨1枚でどうだい?」


「いやぁ、銀貨1枚なら、せめて5着にしてくれないと

どうせ季節モノで()けないヤツでしょ?

まだ数ヶ月先に売れるかわからないモノを在庫で抱えるのもねぇ

イヤでしょう?」

ロウがニカッと笑う


「おや?どっかの商家の坊ちゃんなのかい?」


「まぁそんな感じですよ」


「やっぱりねぇ、身形(みなり)でお金の心配はなさそうだとは思ってたけど

貴族じゃあ在庫の事なんて考えもしないだろうしね」


「へへへ…」


「よし、じゃあ5着で銀貨1枚にしとくよ!服はコレとコレ、あと~コレとコレとコレ」


「ん!良いですね、じゃあハイ」

と銀貨を渡す


「はい、ありがとさん」


「あ、あと、そこの布を銅貨5枚で売ってくれませんか?」


「良いけど、なんに使うんだい?」

銅貨を受け取り布をロウに渡す


「ん?こうするんですよ」

と、買った服を畳んで布の中央に置き、四角形の対角線の両端で巻いて残りの両端を捻ってワラシの背に袈裟懸けにし胸元で結ぶ

なぜかワラシが満面の笑顔だ


「ほ~~~面白い方法を知ってるんだねえ、真似させて貰って良いかい?」


「ええ、良いですよ

こんな風に包む為の布を風呂敷って言うんですよ

便利でしょ?へへへ…」


「あゝ便利だね、勉強になったよありがとね」


「いいえ、じゃあ」

と手を振って店を後にする


「~~♪~~♪~~♪~~」


「ワラシ、ゴキゲンだね?」


「うん!コレ!」

と風呂敷を指差して

「カッコイイ!」


「そっか、カッコイイか

これからはワラシも自分の荷物とか増えるだろうから

風呂敷包みを覚えておくと良いよ」


「うん!わかったー!」





暫くウロウロしていると、リズとミアが雑貨屋の前で悩んでいるのが見えた


「やあ、何か買い物してるの?」


「あらロウ様、ワラシの服はありましたか?」

「あら?ワラシの背はなんですか?」

「我の服!ロウがしてくれた!」

「あら?そうなのですね?」

「へえ~、布で包んであるんですね」

「風呂敷ってロウが言った!」

「なるほど、手軽に荷物を持てるのですね」


「まぁ、そんな感じだよ。ところで何を見てたの?」


「あ、ええ、この店は香料を使った物を扱っているみたいですから

石鹸とか匂い袋を買い足しておこうかと思いまして」


「へえ~、やっぱり女子はオシャレさんだね」


「ええ、しかし、これだけの種類の物があると悩んでしまいます」


「ん~、匂い袋は冬だから柑橘系の香料が安いだろうから良いかもね?

まぁ、好みの香りもあるんだろうけどね」


「やはり、季節物が宜しいと思われますか?」


「そりゃあね、季節外れの香りは直ぐに気付かれて目立つんじゃない?

それに、石鹸の香りって結構残るから違う感じにするとチグハグになっちゃわないかな?

個人的にはキツイ香りよりは微かにフワッと香るのが好きかなぁ

僕なんかはまだ子供だから体臭は気にならないぐらいだけどね?」


「なるほど~」「微かに…」


「まぁでも、香りって本当に個人の好みだからね。

さ、ワラシ、コマちゃん行こうか」


「うん!」「わふ!」





また暫く雑踏を進んでいるとガラリと雰囲気が変わり

酒や食べ物、香料の匂いがする区画へ出た


「おや?」

建物の2階から声が降ってきた

「そこな坊ちゃん達、まだ明るいから良いけど

こんな場所に入ってきちゃダメだよ?」

「ココからは大人の世界だからね、成人してからお出でな」

娼婦なのか、人間とエルフの女2人が窓から気怠げに声をかけてきた


「あ、ここから繁華街なんだ?」


「ロウ!酒の匂いがする!飲みたい!」

「おやまぁ、あんたはそんなに小さいのに酒の味を覚えちまったのかい?」

別の女獣人が入口から出てきて呆れる

「うん!酒は美味しい!」

「だからと言って子供に酒を出す店は、ここには無いよ?

それに、こんな場所に子供が入ると拐われて売られっちまうよ」

「そうそう、冬場で仕事が無い冒険者なんかも居るからね

悪い事は言わない、引き返しな?」


「うん、確かにね。僕らになんかあったらキリク伯爵にもバレちゃいそうだ、引き返そう…

あれ?」


遠目に1軒の建物に入っていくフワック達が見えた


「ねえ、あの建物って何?」


「ん?あゝあれかい?アレは…ん~?高級…ん~、お高い店さ」


「あゝなるほど…」

『フワック達は宿の夕食は要らないかな?そんなに早くは済まないだろうし、どうかすると朝帰りだろうしな』

「よし、ワラシ、引き返そうか。お酒は後で出してあげるよ」


「わかったー!…」

少し名残惜しそうに返事をする






「おいおい、フワック、大丈夫か?高そうだぞ?」

「しょうがないだろうよ、高級店じゃなきゃ病気がコエーよ」

「まぁ確かになぁ、性病はシャレになんねーしな」

「御客様、どの娘を選びますか?ウチの娘達はウリニでも選りすぐりが居りますよ」

「え、え~…じゃあ俺はネコ科の娘で」

「あ、俺はそこの人間の娘で」

「俺も人間の娘を」

「俺はエルフの娘で」

「お、俺はウサギの娘で…」

「皆様、お決まりですね?では御1人様銀貨6枚頂きます

これは中での酒などの飲食は含まれませんが宜しいですか?」

「お、おう…」

「くあ~やっぱ良い値段だなぁ」

「うん、だけど美人揃いだしな」

「まったくだ、みんなは飲食するか?」

「あゝせっかくだから夕食も済ますか」

みんながそれぞれ銀貨6枚を渡す

「はい、頂戴致しました。では、ごゆっくりどうぞ」

それぞれが女達に腕を組まれ部屋に消えていった





「…っとお、報告書はこんな感じかな?

ワラシの事も書いたし、妖怪種の事も書いた

あとは何かあったかな?」

「ポロさん楽しそうだね?」

「ん?あゝ楽しいな、ロウ様と行動を共にするとな?本当に退屈しないんだよ」

「へえ~、何がそんなに楽しいんだい?聞いた話じゃあトラブルばっかりだそうじゃないか」

「いや、そのトラブルが楽しいんだよ」

「トラブルが楽しい?意味が分からんな?」

「ん、トラブルをな?ロウ様が面倒臭いって言いながら簡単に解決していくんだ

その過程が面白くてなぁ」

「過程?公爵家の力技なんじゃないのかい?」

「いや、それが公爵家の力は殆ど使ってないな

あれはロウ様御自身の知恵と力だな」

「いやいやいやいや、ロウ様って6歳の子供なんだろ?」

「あゝそうだな、見た目は完全に子供だ

だがウチの頭取が頭を下げて部下にしてもらった相手だぞ?

ただの子供なもんか」

「あー、確かになぁ」





宿に戻ったロウ達が宿1階の食堂に行くとリズとミアも帰ってきた

「ちょうど良かった、みんなで夕食にしようか」


「「はい」」

「フワックさん達を待たなくても?」


「うん、さっき見かけたけど。多分、外で食べてくるんじゃないかな?」


「そうですか、では私たちだけで頂きましょう」


「さて、何を食べようかな?ワラシは何が食べたい?」


「我は酒!」


「いやいや、食べ物だよ」


「食べ物?ロウと一緒でいい!」


「ははは…じゃあ適当に頼もうか、リズとミアもお酒飲むんでしょ?」


「はい」「はい、少し頂きます」

「あ、では私も良いですかね?」

とポロが帰ってきた


「あ、お帰りポロ

じゃあ、とりあえずワインを4本頼もうかな?

料理はそれぞれ適当に、で良いかな?」


「「「はい」」」

「あれ?フワックさん達は?」


「さっき繁華街で見かけたよ、高級そうな店に入っていった」


「「…………」」

「あゝなるほど、この街は良い店があるらしいですからね

若いから朝帰りかもしれませんね」

「「…………」」


「リズ、ミア、羽根を伸ばすのも大事な事だからね

あんまり変な風に考えちゃダメだよ?」


「「はい…」」

「ハハッ…ロウ様は寛容ですなぁ」


「そうかな?溜まって暴走されるよりマシだと思うんだけどな?

そんなんでコロージュン公爵家の名に傷が付くぐらいなら、適度に遊んで発散しといた方が良いじゃない

フワック達は普段がアレでも、装備品とかで結構な過剰戦力だからね

イライラが溜まって暴れられたら堪ったもんじゃないよ」


「はい、お待たせしました~

鶏肉の香草焼きと、これはサラダになります~

そして豚の内臓の煮込みです、取り皿はこちらに置いておきますね~

他の料理はもう少しお待ちください」


「お、来た来た、さあ食べようか」


「「「はい」」」





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