UMAの川流れ
ワイナール皇国暦286年、3の月
「なるほどね、川の流れは緩やかだけど幅が広いなぁ
それに、砦挟んで繁華街みたいにみたいになってるから
ちょっとした観光地みたいになってるし…
町中に待ち伏せが居ても気付けない可能性があるな」
街道から外れた林の中から関所を遠望するロウ一行
距離にして1kmは離れているが、見晴らしが良過ぎて関所から街道が、かなり遠方まで丸見えになっている
「これじゃあ、すんなり通過は難しいな…
あれは橋っていうか、砦を川に浮かべてるみたいだ」
『つーか、要塞化したヴェッキオ橋じゃねーか
カッコイイから造りたかった気持ちは分からんでもないが
これ完全に召喚者達の誰かが造ったんだろ
この世界の技術力と発想力じゃ出来ねーよ
絶対に城ヲタが居たな、攻防一体過ぎる
あー、屋根に大砲置いてみてー
前の関所が最後の砦だったら、ここは最前線の後方支援基地ってコンセプトか』
「さて、と…感心してても仕方がないね
ヴァイパーは、あれぐらいの川って渡れる?」
「ブルル…」(モンダイ ナイ)
「よし、じゃあフワック達は通行証を使って普通に関所を通ってきてよ」
「それは構いませんが、ロウ様は如何なさるのですか?」
「うん、僕達は川に沿って北側、上流の方に行って民家が無い場所を渡ってくるよ
川の上流は、流れは少し強めだけど浅いだろうからね
馬車を浮かせる仕様にしてて良かったよ
後は、街道を進むフワック達に追い付けばいいしね
フワック達は急いで関所を渡れば、皇都かケイワズ領からの早馬と勘違いしてくれるんじゃないかな?」
「それは、良い考えですなロウ様
馬車が1番目立つから、それが無かったら待ち伏せも気付けないでしょう。流石です」
リズとミアもニコニコしながら何度も頷く
「アハハッ…これはこれはポロさん、知恵者にお褒めに預かり光栄ですね
さて、じゃあ行動しようか
フワック達は通行証を持った?
あ、あと、待たなくていいからね?
ウーセタ街道を普通に進んでれば間違いなく追い付くから」
「「「「「はっ!」」」」」
フワック達は関所の町へ、ロウ達は林の中を川の上流に向かって行った
「なぁ?結局、俺たちはポンテで何をしてりゃいいんだ?」
「あ、それは俺も知りたかったんだよな?」
「なんでも、領主が依頼してきたってーじゃねぇか」
「そうなのか?」
「あぁ、なんかケイワズ領から来る立派な馬車なんかが来たら足留めして報せろ、とか何とか?」
「“立派な”ってこた、乗り合い馬車じゃ無いんだよな?」
「そりゃそうだろう、新しかったら別だろうが、なんぼなんでも普通の乗り合いを立派とは言わんだろ」
「ん~、臨時リーダーが関所に入ってるから詳しく聞けんしなぁ」
「しかしなぁ、ポンテまで来て見張りしか出来ないんじゃ生殺しでキツイなぁ」
「そりゃ言えてる、こんだけ女と酒の匂いがしてんのに遊べねぇのはツライな」
「お?おい、ありゃなんだ?」
「あ?なんだよ?」
「ん?変わった格好してるヤツラだな?なんだ、あの帽子?は」
「1人、2人…全部で5騎か…」
「関所だから馬を牽いてるが早馬か何かじゃねぇのか?」
「あの武装でか?」
「皇都辺りからの重要書類かなんか運んでんじゃねーの?」
「あぁ、だからあのナリか」
「さしずめ皇都のお偉い騎士様なんだろうよ」
「まぁでも騎馬だけで馬車は居ないから俺たちにゃ、そんなの関係ねーんだろ?」
「だな、関所に行ってるリーダーからも何か言ってくる気配もないしな」
「それよかよぉ、関所が閉まる夜ぐらいは町で遊んでも良いんだよな?」
「良いんじゃねーか?」
ロウ達は2kmほど川の上流に来て、ヴァイパーと馬車を繋ぐ曳き竿を外して綱だけで曳くようにした
それもそうだろう、馬車は水上にあってヴァイパーは水中じゃ少し具合が悪い
下手をすると曳き竿が折れてしまうだろうからだ
「これで大丈夫だとは思います、後はヴァイパーが上手く泳いでくれれば問題無いでしょう」
「うん了解、じゃあヴァイパー行こうか?」
「ヒヒン」
茂みを掻き分け、ザブザブと川へ入っていくヴァイパー
川幅は約300mぐらいはあるだろうか
数十mも行かない内に首まで沈むも、ヴァイパーはどうという事もないと素知らぬ顔して力強く泳ぐ
少々下流に流されはしたが30分ぐらいで渡りきった
渡河中に馭者台から泳ぐヴァイパーを見ていたロウは
たまにヴァイパーが水中に顔を突っ込んで、魚をバリッバリッと食べているのを見て笑う
「アハハッ、ヴァイパーは魚獲りも上手いんだね?」
「ブルルッ…ブルル…」(カミツク サカナ トッテル)
『あぁなるほどね、ひょっとしてアリゲーターガーみたいなヤツが居るのか』
「よし、渡河は問題無かったね
少し迂回してから街道に合流しようか?
ポロ、ルートは分かる?」
「ええ、お任せ下さい」
「じゃあ早目にフワック達を追い掛けよう
寂しがってるかもしれないからね、フフッ…」
「あー、やっぱりだわ…
体の力が抜けると全然反応しなくなっちゃう…」
「カミーユ嬢様、それは魔力が枯渇気味なのでしょう」
「アイリス、やっぱりそうなの?」
「ええ、光の剣を創り出すには体内の魔力量が足りないのでしょうね」
「うーー、もう!せっかく魔力注入には馴れたのに!」
「アハハッ…カミーユは、もっと食事量を増やせば良いんじゃないか?おまえは細いんだよ」
「なに言ってるのよ、ロドニー!太っちゃったらドレスが着れなくなっちゃうじゃない!」
「はあ?ドレスぐらい仕立て直せば良いじゃないか」
「はあ…これだから男子は…」
「ロドニー様?貴族の着る物は直すものではありません、着れなくなれば下げ渡すものなのです
その為に仕立屋は屋敷に来訪した時は古着を引き取っていくのです」
「え?じゃあ僕の服も?」
「勿論で御座います、ですから普段から傷まないように着なければならないのです
その点、ロウ様は御見事でした
物心が付いたら御自分で更衣し、脱いだ着衣はすぐさまクローゼットに掛けていました」
「え?兄様は自分で着替えていたの?」
「はい、左様で御座いますよ
3歳になる少し前から御自分で為されてました」
「ええ…まだ僕はメイドに着せてもらってるのに…」
「私も…」
「気落ちなさる必要は御座いません、ロウ様が特別なのです
普通の貴族は大人でもメイドや侍女に任せますからね」
「う~ん、でも兄様がしてるなら私も自分でします」
「僕も今日からする、兄様は必要だから自分でしてたんでしょ?」
「屋敷に居る内は必要だったかは分かりませんが、今は少人数で野営もしつつ旅してらっしゃいますから必要になっているでしょう」
「あ、いたいた!」
左手人差し指と中指の先を唇に当てて“ピューーー”っと指笛を鳴らす
音に気づいたフワック達が振り返り、馬車を視認したのか停止して大きく手を振った
「ロウ様、今のは指笛ですか?」
「そうだよミア?なんで?」
「いえ、私は出来なくて…」
「そういえば、私も出来ません。獣人には難しいのですかね?」
「…?そうかな?慣れとコツ掴めば獣人とかは関係無いと思うけどな?」
「コツ?ですか?」
「そうだよ、そもそも指笛が何故鳴るか考えた事がある?
仕組みを知れば誰にでも鳴らせると思うよ?」
「仕組み…ですか?」
「そう、指笛の指って何本使ってもいいし、どの指を使ってもいいんだよ
要は、唇と指で細くて音が鳴る空気の道を作ってあげればいいのさ
だから、獣人は上唇が割れてて口笛は吹けないだろうけど指笛だったら大丈夫なはずだよ
コツさえ掴めば指1本でも鳴らせるね」
「「そうなのですか?」」
「うん、練習してみれば?」
「「はい」」
“ひゅー” “ふぃー” “ひー”
『ブハッ、リズもコッソリ練習してやがる、吹けなかったんだな
俺も元々は歯笛が得意なんだけど大きい音が出ないんだよなぁ』
【どっちにしろ私には出来ないね】
『そうだな、コマちゃんには難しいだろうな』
【残念…】
「ま、感覚が分かれば直ぐに音も鳴るよ」
「「「はい!」」」
そうこうしている内にフワック達の元へ到着した
「あの?みんな何してるんですか?」
「ん?指笛の練習」
「あぁ、これですか“ピュイッ!”出来なかったんですか?」
「「「!?!?!?」」」
「フワックさんにも出来る!?」
「ええ、子供の頃から遊びでやってましたから
みんな吹けると思いますよ?なあ?」
「うん、吹けますね」「うんうん、吹ける」「これ出来なかったら友達と合流できないんだよな?」「あぁそうそう、ボッチになっちまう」
「獣人にとっての遠吠えみたいな感じじゃない?
それに、エルフには違うのがあったりとか?」
「なるほど、確かに。獣人の遠吠えなんですねえ」
「そうそう、指笛とかは狩りに使えるからねポロ
まぁそれは置いといて、町を通った感じはどうだったの?フワック」
「やはり人が多くて、誰が待ち伏せかは分かりませんでした
露店で酒飲みながら自分達を見てる集団とかも居ましたが、物珍し気な顔だったから自分達の格好が目立ってたのかもしれません」
「あーなるほど、それはしょうがないね
でも、結構流行ってる町みたいだったから寄れないのはイタイなぁ」
「ロウ様?遊びたかったのですか?」
「いや、僕とは違うよ?リズ
君達がね?息抜きしても良かったかな?ってね」
「うふふ…大丈夫ですよロウ様」
「そうそう、そんなに気を使われなくても」
「だよな、私らは大丈夫です」
「よるなら、もう少し先でも良いですよ」
「ん、大丈夫です」
『嘘だな』
【嘘だね】
「じゃあ、このダムド領を抜けてから町に寄ろうか
この領の領府とか避けたいけど、このまま街道進んでも大丈夫かな?ポロ」
「ええ大丈夫です、このダムド領の領府マリニは街道から南へ行った場所ですから問題無いでしょう
それにダムド領は縦に長い領地なので東の関所までも近いですよ
まぁそれでも、ここからは普通に3日ぐらいは掛かります
この領地は川が多くて、たまに橋が壊れてたりしますからね」
「なるほど、水郷なんだね
よし、じゃあ次の領地を目指して急ごうか
ケイワズ領で時間を無駄にしたからね」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
「ふうぅぅぅぅ……ん!」
「凄い!10cmぐらい出たじゃないかマリー!」
「ロジャーあにさまは?」
「僕は、まだ5cmも出ないよ…でも1番年下なのにマリーは凄いね?魔導士の才能があるのかな?」
「うううん、ロウあにさまにはかなわない…」
「いや、ロウ兄様とは比べられないでしょ
この光剣を作ったのが兄様なんだから…」
「でも、おいつかないと!」
「それは…そうなんだけど追い付ける気がしない…」
「ロジャーあにさま切れるかな?見てて?」
マリーが机から銀製のペーパーナイフを取って光剣の剣先を当てると“チィーン”と切断されたペーパーナイフが机の上に落ちた
「……これヤバくない?マリーは力入れた?」
「…ぜんぜん…」
「兄様が人に向けちゃダメって書いてたもんね…」
「うん…」
「どうだい?バフ騎士団長?」
「これは、面白う御座いますなロマン様」
「そうですね、これを騎兵としたら1回で2マス動かせば良いですね」
「川や山とかの障害物を設定して2回に1回しか動けないとかも良いですね」
「ふむ、これは隊長とかの指揮を執る者達にやらせましょう」
「試しに座学の時にやってみましょうか?」
「あぁ、それは良いなハリー。名前は机上演習だっけ?ピッタリじゃないか」
「これって、ある程度の大きさの板にマス書いてみるのはどうだ?ウィリー」
「うん、紙は高いからな」
「ロマン様、これをロウ様が考えられたのですか?」
「うん、そうみたいだねバフ騎士団長。パウル家の者がロウから聞いたって教えてくれたよ」
「ほお~、先日のトランプと言いロウ様の知恵は凄いですな」
「う~ん、やっぱり俺も行きたかったなぁ」
「あぁ俺もだ、フワック達が羨ましいぜ」
「ふふふ…案外、大変かもしれないよ?」
「何か御座いましたか?」
「いや、まだ確定した情報じゃないけどね
いろいろと旅の邪魔がいるらしいね」
「なんと!?それは我々騎士団が出張らなくても宜しいので?」
「う~ん、まぁロウが上手く解決してるんじゃないかな?
何故か全然不安を感じないんだよね、ハハッ」
「確かにロウ様が困ってる姿の想像がつきませんなぁ、アッハッハッハッハ」
「困ったねぇ…」
「そんなに困りますか?」
「それはそうだよ、旅中だからある程度は覚悟してたけど3日以上風呂無しはね
やっぱ精神がリラックス出来ないし、女子組もツライんじゃないの?」
「ん~?でもでも、お風呂に毎日入る様になったのはコロージュン家に来てからですから、あまり気にはならないですよ?」
「そうですね、私もです」
「え~、そんなもん?じゃあいっかあ…って言わないよ!
僕が嫌なんだよ!」
「でも、どうされますか?」
「作るのですか?」
「う~ん、だから困ってる…
大きな木樽なんて無いし、作るのに時間がかかるだろうし
大甕なんて勿論無いし…それじゃあ五右衛門の釜茹での刑だし」
「五右衛門?」「釜茹での刑?」
「気にしないで!
そういえば、普通の庶民とか町に住んでない人達はどうしてんのかな?」
「私は、幼い頃に拐われたので記憶に無いのですが
水浴びか体を拭く程度では?」
「私の部族でも水浴びでした、でも亜人種族によっては体から汗を掻かないので入浴を全くしない種族も居るそうですよ?」
「ふ~ん…やっぱり温泉とか無いと風呂文化は発展しないのかなぁ」
「「温泉とは何ですか?」」
「え?温泉を知らない?火山とか無いんだっけ?」
「火山?火山はありますよ?」
「そうですね、遥か南方とトラム山脈の縁に火山があると聞いた事があります」
「火山の近くにね、熱い湯が出るんだよ。それが溜まったのが温泉
でも、遠くにしかないのか…
やっぱ、作るかな?
簡単なのは丸太風呂かな?
この世界は開発が進んでないから大木があるだろうし」
「わふ?」(創生すれば?時計みたいに)
「簡単に言いやがる…デカイんだぞ?どこで作業すんのさ」
「あう…」(あう…)
「たまにロウ様は“この世界”とか“世界が違う”とか仰いますよね?」
「うんうん、ロウ様は違う世界を見た事があるのですか?」
「え?…………夢?」
「え~、口振りからして絶対に見た事がありそうなんですけど~」
「そうですね、ロウ様が考えられた物事が今まで見た事も聞いた事も無いのばかりですものね」
「わふ」(知~らない)
『クソッ!なんかねーかな…』
「ロウ様!向こうの川岸に変なのが居ますよ」




