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貴族の腹を探り探られる


ワイナール皇国暦286年、3の月



「なるほどのう、では一筋縄ではいかないか?」

「はい、姫様との会話を見る限りでは、で御座いますが」

「うむ、メリルは如何しておる?」

「は、御自分の半分ほどの子にあしらわれ、お部屋にて…」

「ふむ、泣いておるのかの?

どれ、慰めてやろうか」

と、アイールが席を立とうとするも、ドアがノックされメリルが入ってきた

「御祖父様、ごめんなさい、失敗してしまいました」

「うむ、良い良い、話は聞いたよ、こちらへ来なさい」


メリルを隣に呼び寄せ、頭を撫でながら

「聞いた話では、メリルは少し素直な物言いをしてしまった様だな

まだ社交の場に慣れていないから仕方がないか

それとも、自分より年若い子と侮ってしまったのかな?

どちらにせよ、何らかの手を打てば挽回出来るであろうから

あまり気落ちするでないよ?」

「挽回出来るのでしょうか?」

「ふむ、惣領の為人がいまいち掴めぬでな

今は探らせておるのだが

メリルとの対面での振る舞いと、宿での振る舞いとが一致しないのだよ

どちらかの振る舞いが本性であれば対応は簡単なのだが

どちらも計算づくだと、かなり厄介だな」

「御祖父様でも?」

「うむ…そうだな、儂が勝るのは経験だけやもしれぬ」

「そんなに…」

「さて、メリルの挽回の為にも惣領を招き歓迎の晩餐などしてみるか

その場にて儂が経験でメリルに良い所を見せようかのう

では、早速使者を送れ」

「はっ!」


暫くアイールとメリルが、ロウへの対策などを話し合い

ある程度の対応策が決まったところで

「して、メリルは晩餐でのマナーなどは上達したのかの?」

「はい御祖父様、テーブルマナーやテーブルトーク、ダンスなどは皇居へ行っても恥ずかしくない程度には上達したと自負しますわ」

「おぉ!そうかそうか、では春の定期参内には一緒に連れて行っても良いかもしれぬな?」

「はい、楽しみですわ♪」


その時、部屋へバタバタと向かってくる足音がしドアがノックされると役人の1人が入ってくる

「どうした?」

「今しがた、惣領の亜人の従者がきて救出された村人たちを連れていってしまいました」

「なに?何か理由を言っていたか?」

「いえ、ただ従者が言うには村人たちの子供が惣領に懐いていたということと

せっかく助けた村人たちが放ったらかしじゃ、やり切れないと言っていたとか」

「ふむ、何かの理由がありそうだが

伯爵家が頼りなく見せる嫌がらせか?」







「ただの嫌がらせだね」

ロウがリズ、ミア、ポロに聞かれて答える


「大体ね?僕は怒っているんだよ

賊に襲われ、被害者を救出したのにも関わらず

それを慰労する訳でも無く、亜人がどうのこうのと

もうね?バカかと、アホかと、領主である伯爵家ともあろう者達が世間知らずにも程がある

先ずは自領での賊の跳梁跋扈を詫びるべきだし

自領の領民を救出した事に感謝するべきだよね?

我々貴族が誰のお陰で日々の糧を得ていると思っているのか考えた事もないんだろう」


「ロウ様、表の使者に聞かれますよ?」


「聞かせているんだよリズ

どんな用件を持ってきたか知らないけど

この話を聞いて、その用件を僕らに伝える事が出来るかな?」


クイッとロウがドアに向け顎をしゃくると、ミアが頷きドアを開ける

「あ、出直して参ります」

使者がそそくさと帰って行った


「ほら、どうせ歓迎の晩餐でもするから出席させてやるよ、ぐらいの用件さ」

ロウが肩を竦める


「ハーッハッハッハッ…やはりロウ様は面白い!」

ポロが笑い、リズとミアがニコニコ笑う






使者がロウからの返事も持たずに帰ってきたのを訝しみながらも

ロウが話していた内容を聞いたアイール伯爵が頭を抱える

「全くもって道理だな…そして、使者に聞かせたという事は拒否であろうから城には来ないだろう…

失敗か、甘く見積もり過ぎておったか…

しかし、メリルには何とか挽回の機会を与えないと

生涯、コロージュン公爵家が鬼門になってしまうだろう

難しいのう、儂とメリルが直接出向くしかないか」

「いえ、それは如何なものかと思いますが?

いかな公爵家とはいえ、まだ惣領で御座います

皇国での序列では旦那様と惣領は同格ぐらいか、旦那様が上では?

でしたら、あまり下手に出ても…」

「おや?其方はそういう認識なのか?」

「どういう意味で御座いましょうか?」


「ふむ、皇家と公爵家は同格だぞ?

便宜上公爵4家には爵位が付いているが、元々皇家は5英雄の代表に過ぎぬ

それも神職であったから代表になっただけであって

他の4英雄を従えていた訳でもない

英雄の力で言えば5英雄中、最弱であったらしいでな?

最弱であればこそ、他の4英雄が気を使い皇帝に推したとも伝わっておる

まぁ好かれておったのだろう」

「…っ……まさか……そんな……」

「だから公爵家は皇都という首府をキッチリと分割統治して互いの分を侵さぬようにしておるのだ

決して我等諸侯と同列に並び立つ家ではないぞ?」

「……なんと……」


「であるから、我等諸侯は侯爵まで授爵出来ても公爵にはなれぬ

まぁ、言い伝えられていない諸侯は無いとは思うが

隣の男爵の様な者も居るからな

其方なぞは勘違いしていても仕方がない

それに、まだメリルにも教えてはいない」

「しかし、であれば旦那様自ら動かなければなりませぬな?

メリル様に任せてしまうのは危険過ぎませぬか?」

「だがメリルは次期伯爵になる者だ、何とかしてやりたいのだよ」

「ふう…メイナード様がいらっしゃいましたら…」

「それは言うな!居なくなった者をアテには出来ぬ!」

「はっ!申し訳御座いません!」

「儂はメリルを立派な次代に育てるしかないのだ…」






「さて、1日や2日ぐらいで貴方達の心の傷は癒されないでしょうが僕たちには何も出来る事はありません

ですから少ないですが、さっき彼等が配った

賊から剥ぎ取った装備品を売った金を元手に、新たな生活を営んでください」


「わかってますよ、あんた達が巻き込まれただけなのに良くしてくれてるのは感謝してます」

「ええ、暫くはオルチで生活するでしょうけど」

「ありがとうございます」

「それに子供達にも良くしてくれてねぇ」


『まぁ原因は俺だからなぁ、何ともモヤモヤする展開になっちゃったな…』

「僕は理解してくれれば良いので、感謝の言葉は要りません…」


「まぁでも、良いとこの坊ちゃんってのはシッカリしているんだねぇ」

「ホントにね、そこに居るウチの娘より年下だろうに大したもんだよ」

「なに言ってんのよ、お母ちゃん、あたしだって勉強すればシッカリするわよ」

「へえ?お前が勉強ってかい?」

「そういえば村の子供達は遊んでばっかで本なんて読んでるの見たことないね?」

「「「アッハッハッハッハ」」」


『うん無理してんな、親が子の前で、子が親の前で嬲られたんだから早く忘れたいんだろう

可哀想だけど、ここで変な慰めの言葉なんか言ったら余計に傷が深くなるだけだな

とりあえずは迂闊なフワック達には釘を刺しておこうか』

「あ~フワックた…」

「なぁ、お前さん達は笑ってるけど大丈夫なのかッ…」


“バグッッ!” “ゴロゴロゴロ~” “ガツン!”

「キュウ…」

瞬間的にロウが思いっ切り殴り付けた弾みで、フワックが吹っ飛び、転がり、壁に()つかると気絶した


「ハッ!?加減無しでやってもた!」

みんなが目を丸くして固まっている

「え~っと、鎧とコートで死なないはずだから…」


「「「「アッハッハッハッハ」」」」

「キュウって、アッハッハ…」

「いっぱしの男がキュウって、アッハッハッハッハ」

「クスクスクスクス…」

「子供なのに気を遣わせてすまないねぇ」

「大丈夫だよ、村では温ったかいスープ貰ったりして嬉しかったしね」

「そうそう子供達にもね、立派な馬車に乗せてくれてね」

「うん、充分良くしてくれてるよ」


「そう言ってもらえると、有難いですね」



宿にはゲスト用の食堂もあったが村人たちの格好を見て部屋食にしてもらった

別に他の客や宿に遠慮したわけではなく、村人たちが恥ずかしい思いをしない様にとの配慮だったが

それには殊の外、宿側が喜び金額以上の料理を出してくれた

そして今度は、これに村人たちが喜んで楽しい食卓を囲む事になった


食事が終わり、ロウ達が部屋で寛いでいるとドアがノックされ

「コロージュン様、御客様がおみえです」

と、宿の者が声をかける

「客?」

『あゝ、伯爵本人登場か…またアホくさいし、めんどいなぁ…』

「どなたですか?」


「はい、ケイワズ伯爵様が3名でお越しなさいました」


『やっぱり…しかも、姫さんもか…ここに来ている場合じゃないだろうに…』

「リズ、ドアを。ミア、お茶を。ポロは僕の後ろに控えて。フワック達はドア脇へ」


「「「「「「「「はい」」」」」」」」


皆が所定の位置に付くとリズがドアを開ける

「どうぞ」


「うむ、邪魔をする」「お邪魔しますわ」「お邪魔致します」

フワック達の間を通って入ってきた、ジジイと言うには立派な体躯の伯爵とメリルをソファーに促すと

ケイワズ伯爵とメリルが座り、後ろに侍従が立つ

ロウも1人掛けソファーに座り、後ろにポロが立ち、お茶を出したリズとミアが左右に並ぶ

フワック達はドアの外と内で立ち番をする


「ケイワズ伯爵、ようこそいらっしゃいました

それで、御用件は何でしょうか?」


「いや、此度の我が領内での不始末と、孫の無礼を詫びに参った次第だ

いやはや、申し訳なかった」

と、膝にガシッと手を置き頭を下げる

「御祖父様?伯爵ともあろう方が何故その様に下手に出ているのですか」


『俺の前で聞く事かねぇ?バカ孫が』


「うむ、それはな?メリル、こちらのロウ殿が儂より上の立場だからだな」

「は?何を仰っているのですか?

惣領様は爵位も持っていらっしゃらないではないですか?」


『だから、俺の前で聞くなよ

社交のなんたるかも教えられてないのか?』


「皇家と公爵家は諸侯とは別格なのだよ

例えば、皇家と公爵家は主従ではなく

皇家と諸侯、公爵家と諸侯は主従だな」

「……え?皇家と公爵家は同格という事ですの?」

「そうだな、だから英雄の直系で惣領のロウ殿は皇子と同格だな」

次第にメリルの顔が青褪めるもケイワズ伯爵が畳み込む

「だから、ロウ殿からすれば我等も亜人も変わらないと言う訳だ」


『このジジイ、俺をダシに教育してやがる

さて、ウチの誰が頃合いを見計らえるかな?』


「しかし、昨日、御祖父様は亜人の事とか同意下さったではありませんか!」

「うむ、まさか公爵家の惣領がこの若さで、ここまで切れ者とは思わなんだ

このアイール・ケイワズ、孫可愛さに目が眩んだようだな、ワッハッハッハッハ」


「ケイ…」

「ケイワズ伯爵、ロウ様の前での内々話し、少し無礼ではありませんか?」

ポロが牙を剝きだす


『まさかのポロ!?え?リズは?』

チラッとリズを見るとセリフを被せられ動揺していた

瞬間、ロウと目が合って、右に左に目が泳ぐ


「無礼も…」

メリルが叫ぼうとするもケイワズ伯爵が遮る

「いや、全くその通り、御無礼致した」


「…………」


「おや、ロウ殿、如何された?御立腹ですかな?」


「いや、怒ってはいませんよ

ただ良いように孫教育に使われ、その厚かましさと考え無し加減に呆れているだけです

(したた)かな人は、人間、亜人共に嫌いではないですが

時と場合を考えないと相手を不快にさせるだけですよ?

そして、相手によっては御自分が盤石だと思っている足元をひっくり返される事になる

まぁ祖父と孫の間を繋ぐ方が居なくなり教育が行き届かなかったのは、お気の毒に思いますが

それはそれとして、我々には一切関係が無い事情です」


「な…」

「いや、ごもっともですな

ですが、どうにも孫の事になると」


「はぁ……ですから、話の主導権を握りたいのはわかりますが…

もう、敢えて言いましょうか?

ケイワズ伯爵は僕と対等に話すには役不足です

お孫さんは言うに及ばずですね

貴方達は、今まで貴族と言う立場で上から目線で良かったんでしょう

現に、伯爵は僕が上だと言いながらも下に見ようとしている

これが、皇都でしたらお孫さんの首は、僕が止める間も無く背後に控える2人の侍女に斬り飛ばされていたでしょう」

ロウが指をパチンと鳴らすと、瞬間的にアイールとメリルの首筋にリズのククリと、ミアの鉤爪がギリギリ触れない位置に当てられる

「むっ…」「ひっ…」


「お分かり頂けましたか?貴方達が見下す亜人の実力が。

反応すら出来ないでしょう?

あまりにも貴方達は外の世界を知らな過ぎる」


「む、無法な…」

「おっと、あんたも動くなよ?」

ケイワズ家の侍従が声を出すも、背後からポロが首筋に鋭い爪を当てる


「長年の伯爵としての経験で政治的に聡いつもりだったのでしょうが、僕の父と比べても浅はか過ぎますね

ですから、せっかく捕らえた賊が、もう直ぐ逃亡するだろう事にも気付かずに僕の処へ来てしまう」


「なにっ?」「え!?」

アイールと侍従が呆ける


「貴方は、先ず直々に賊を取り調べて、さっさと死罪にするべきだった

逃亡した後では賊の背後関係も調べられずに、公爵家惣領に不手際を晒しただけの無能な伯爵家との謗りを受けるとは考えなかったのですか?

だから最初に考え無しと呆れていたのですよ?」


「むむむ……とりあえず儂は失礼して城へ戻らせてもらう!」


「ええ、どうぞ」

ロウが両手を広げ肩を竦める

そして、ケイワズ伯爵と侍従は慌てて出ていった


「貴女も帰って結構ですよ?リズ、ミア」


「「はい」」


「えっ?あの…」


「さぁメリル姫様」

「馬車まで参りましょう」

サクッと連れていった


「御見事でしたロウ様、流石は頭取のボスですね

痛快で痛烈でした」


「もう面倒臭くて疲れたよ、もう今晩は来ないだろうけど

また翌朝来るんだろうなぁ、賊を逃がしたってさ」


「「そうですわね」」

リズとミアが戻ってきた


「今晩はもう休むよ、だから皆んな解散

フワック達も、宿でまで不寝番しろとは言わないからユックリ休んでね」


「「「「「「「「はい」」」」」」」」





アイール・ケイワズは急ぎ城に戻ると見廻りの兵に

「捕らえた賊に変わりはないか?」

「は、ここでは異常は感じませんが何か御座いましたか?」

「今日の牢番は何人だ?」

そのまま見廻りの兵を連れ牢へ向かいながら尋ねる

「は、2人のはずですが」

地下へ向かう階段を降りていく

「賊の取り調べは済んだのか?」

「明日、と聞いておりましたが?」

「なに?誰が言っておった?」

「え?誰と言われましても?誰でしたか…」


「して、牢番は何処だ!」

牢番はなく、牢内にも生きてる者はなく

手足を無くした賊が口に布を詰められ死んでいるだけだった


アイールは自分の迂闊さに歯噛みし

侍従は項垂れ頭を振り

兵達は青褪め詰所へ走り出していた





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