さあ出発だ、今、日が昇る
ワイナール皇国暦286年、2の月
「お頭、さっきの野郎どもは何だったんですかい?
チラッと見たが冒険者っぽい格好でやしたね?」
「ん?あゝ領府からの冒険者だな、儲け話を持ってきやがった
はっきりしねーんだが、近々良いとこの坊ちゃんが皇都から辺境領まで行くんだとよ」
「へぇ、ってこた、ウーセタ街道通っていきやすね」
「あゝ街道沿に何人か見張りを増やしとけ
この時期は往来が少ないから、すぐわかるだろ」
「へっへっ、冬場に良い稼ぎになりやすね
良いとこのガキなら女も連れてんでしょうから愉しみですなぁ」
「クックック…そろそろ新しいのと入れ替えねぇとな」
「冒険者たちへの見返りはするんですかい?」
「いや?ただ、情報の出所がバレたら領兵が攻めてくるとよ塒
を移さなきゃなんねぇな」
「隣の領に拠点を移しますかい?」
「あゝそれも含めて考えるか」
朝から馬車にアンカー装着し
昼食後には自室で、皆から預かったコートとブーツに付与していた
「先にブーツからやるか、やっぱブーツには《除湿》と《防臭》は必須だよな
後は…ん~?《軽快》?《快足》?何が効くんだろ?
こんな時はロンデルの魔法律書だな」
収納から魔法律書を出してペラペラ~っと手繰る
「へぇ!?《快足》で良いんだ?
え?《飛行》が靴には危険?
は~なるほどね、空中姿勢、いわゆるバランスが取れないのか
つーことは、《跳躍》も無理か?
あ、《跳躍》は大丈夫なんだな
ん?ただし《衝撃無効》を付与せにゃならんから靴の面積的に難しい……か……
難しい?……あれ?なぁ、コマちゃん
今まで魔方陣創った後は大きさ変えるのは誰も出来なかったのか?」
【誰も出来なかったみたいだね、でも理由があるんだよ
この世界の一般的な人達は君みたいに魔素吸収と放出が同時には出来ないんだ
寝ている間に魔素を取り込んで体に溜める
起きている間に無意識に放出する
例えるなら植物の光合成みたいなモノかな?
植物って呼吸とは別に、光合成で二酸化炭素吸って酸素を放出するでしょ?
で、無意識に放出する魔力を意識して放出できる様に初祝福で神官に教えてもらうんだよ
まぁそれでも、魔素は体にとって栄養でもあるから
魔力が枯渇するほど放出すると変調をきたしてしまう
普通の人達は、持って生まれたキャパが大きくはないから高度な魔法を使えないし
魔方陣を好きな様に細工出来ないんだね】
「なるほどね、その辺りでも俺はチートなんだな
ん?あれ?じゃあロンデルは何故出来なかったんだ?」
【はあぁぁ…またこれだよ…そのマジボケは何とかならないの?
召喚組は出来たに決まってるじゃないか
その注意書きは魔法律書に書いてある事でしょ?
書物にしたって事は、誰かに見せる乃至、教える為でしょ?
自分だけが必要なら、御丁寧な注意書きはしないし
そもそも、誰もが読める書物にはしないと思わないかい?】
「あ……あはははははは……」
【もう、しっかりしてよね
リズやミア、フワック達から尊敬されて憧れられてるんだよ?
前世のアイドルみたいなもんなんだよ?
彼等の夢を壊しちゃうのかい?】
「俺、6歳なんだけど…過度の期待は背負いきれないんだけどな…」
【アレだけ力見せといて、今更感が凄いんだけど?】
「え……俺って結構やらかしてる?」
【結構じゃなく、充分だね】
「むう……まぁ良いや
ブーツは《跳躍》と《衝撃無効》を付与してっと
衝撃無効でブーツも長持ちしそうだから丁度いいな
次はコートに《防臭》と《常時清潔》と《物理防御》《魔法防御》で
そうそう怪我する事も無くなるだろうし、ムサイ対策もOK
後は温度だな?
《温度自動調節》で良いのか?」
再び魔導律書をペラペラっと
「え?体温に合わせて調節するのか…
う~ん、ファジー」
【コートになら、飛行付与出来るんじゃない?】
「う~ん……やめとくわ
魔力切れで墜落されたら堪らんし…」
【あー、ね】
「旦那様、皇家からの遣いは何だったのですか?
余人を交えずの密談とは穏やかではありませんな?」
「ふむ、コロージュン公爵家の惣領が辺境領まで行くらしくてな
皇家としては、その惣領に対して余り良い感情を持っていないと言う話だったな
そして、辺境領へのウーセタ街道は、我が領府オルチを抜ける様になっておる」
「なるほど、で、旦那様は如何なさりますか?」
「どうもせぬ、と言うより、どうもしたくないな
皇都の政争に巻き込まれるのは真っ平だ
ただ、近隣の他領にも話が行ってるだろうからな
万が一に備え関所の見張りを増やしておかなければならんだろう
我が領内で何事かあって責任だけ取らされるのは避けたいからな
東隣りのダムド男爵が危うい
あの者は爵位が低いせいか野心家だからな」
「かしこまりました
しかし、公爵家の惣領の様な身分の者、領府まで来たら歓待しなければなりますまい?」
「うむ…何歳なのか、どの様な為人なのか全く分からんでな
コロージュン公爵には皇居で会った事があるのだがのう
コロージュン公の若さからして、そんなに大きな子供がいるとは考え難い
しかし、そんな幼い次代を辺境領へ送る意味も解せぬな」
「確か、他の公爵とは違い柔らかい印象の方だとか?
でしたら、甘やかされ、手に負えなくなり、躾の為に送られるとか?
それでしたら些か面倒ですな」
「ふ~む、西の関所から誰かを張り付かせるか…」
「そうですな、どのくらいの人数を随行させて来るのか予想出来ませんが
道案内の騎兵を2人ほど西の関所に配置しておきましょう」
「あゝ頼む、それと、あのジャジャ馬にも話しをしておけ
上手くすれば公爵家に貸しを作れるやもしれぬ
あと直ぐに動かせる金を用意しておけ
足元を見られないぐらいでな」
「はい、かしこまりました
しかし、お姫様では逆に借りを作る羽目になりませぬか?」
「まあ大丈夫だろう、公爵家の坊ちゃんぐらいなら取り込むのではないか?」
「だと宜しいのですが…」
夕食時、ロドニーとカミーユがそわそわしているのを軽く無視して
最後の夕食だからと、たっぷり愉しんだ
夕食後、自室にフワトロオムライス隊とリズ&ミアを呼んで
コートとブーツを渡し、付与した機能を教えて
預かっていた銀貨100枚入りの革袋を渡す
「あの、ロウ様?このお金は?」
「銀貨100枚入ってる、道中での当座の給金だから遠慮しないで貰っておいて」
「多過ぎませんか?」
「そこそこの長旅なんだから先立つ物は必要でしょ?
旅の間は全て野営じゃないんだから
まだ若いんだから大きな街に寄ったら遊びたくもなるでしょ?」
「いやいや、護衛中に遊ぶなんて事は…」
「そうですよ、ロウ様を放っといて遊ぶなんてありえません」
「ええ、日々緊張感を持って職務に当たります」
「それじゃあダメだね
そんなんじゃ、いざという時に役に立たないよ
仕事以外の時は適度に遊ばないとね
男組は繁華街にでも行って酒でも飲んでくれば良いし
女組は買い物でもすれば良い
土地の美味しい物を食べ歩きでも良いんじゃないかな?
あ、あと、何か娯楽は持ってってる?」
「え?いえ、何も…」
「ん?カードとか無いの?」
「カード?何のカードですか?」
「あれ?トランプとか無いのか?じゃあダイスは?」
「ダイス?占術の道具ですね?遊べるのですか?」
「この世界じゃ、そういう扱いなのか…
ふう…まぁ良いや、みんなで馬車の最終チェックをしにいこう
余計な荷物とかが増えてるはずだから
出発直前にバタバタ下ろすぐらいなら、夜の内にやってしまおう
ね?フワック?トロリー?オムル?ライザー?スー?」
「は!?あ?あ、いや…」「こ…断り切れませんでした…」「あれは私たちには無理ですよ…」「マリー様は恐ろしい…」「カミーユ様の圧も凄かった…」
「「「「「申し訳ありません!」」」」」
「ふう…まぁしょうがない
リズとミアはアイリスと協力してロドニー、カミーユ、ロジャー、マリーの部屋から旅支度を没収しといてね
本人達には朝まで気付かれない様に」
「「「はい、かしこまりました」」」
いつの間にかアイリスが現れた
「さあフワック達は僕と馬車の整理だ」
「「「「「はい」」」」」
“チリリッチリリッ チリリッチリリッ”
翌早朝、寝不足で腫れぼったい目を擦りながら
「おはよ~コマちゃん、そのベッド持っていく?」
【う~ん、クッションだけで良いかな?
この揺り籠を置いてくのは偲びないけどね】
「そっか、じゃあまぁ里帰りした時のお楽しみってヤツにしとこうか」
【そうだね、しかし眠そうだねぇ
何時間ぐらい寝れたの?】
「うん?予想外に時間掛かっちゃったね
他の人にも作れるようにって手作りしたのは失敗だったなぁ
カード54枚が、あんなにメンドイとはね…
石でサイコロ3個作るほうのが簡単ってどういう事よ、ハハッ…
でも、4時間近く寝れたからいいんじゃない?」
と、こないだ光剣と一緒に創った懐中時計を見る
「さ、6時だ、7時ぐらいには日の出だから準備しよう」
この懐中時計、地球の時計をイメージして創ったから12時間表示になっている
だから、どうしても地球の60分=1時間じゃなく62.5分=1時間のはずなんだが…
まぁ言ったもん勝ちで、1日24時間だと言い張ることにしよう
一般的な時計が、日時計、水時計、焼香時計の世界だから誤差の範囲内だろう
うん、創生って素敵♪
身仕度を整え、食堂にきたら既に父と母達が席に着いていた
「あれ?お早いですね?」
「ハハッ、今日ぐらいはね
我が子の旅立つ日だ早起きもするさ」
「ええ、そうですわね
この子ったら、気を付けないと別れの言葉も無く旅立ちかねませんからね、ウフフ…」
「ええ…さすがにそれはありませんよ、クローディア母上」
「ウフフ、どうでしょうか?
ロドニーとカミーユも来ていませんし」
「そうですね、ロジャーとマリーも部屋が騒がしかったですから起きてるはずなのに来ませんわね?」
「アルモア母上、エリー母上、御心配には及びませんよ
たぶん、探し物が見つからないのでしょう
間も無く4人共駆け込んできますよ
朝御飯を食べながら待っていましょう」
「「「え?」」」
「そうだね、先に朝御飯を頂こう」
母達がキョトンとし、父がニヤニヤ笑っている
それから10分ぐらい経って、廊下をバタバタ走ってくる音がする
と、食堂の扉がバーンと開かれ
カミーユを先頭に寝間着の4人が駆け込んできた
「ズルイ!隠したんでしょ!」
カミーユが言い放ち、その後ろで3人が頻りに頷く
「藪から棒に何だい?」
「どうしたんですか、朝から慌てて」
「そうですよ、4人とも寝間着ではしたない」
「何を隠したって言うの?」
「え?…何をってその……」
「とっても大事な物ですの!それが無いと、とっても困るんです!」
「僕も困る…」
「……ワイさんが……」
「やめてマリー!そんな人は居ないから!」
『なんて恐ろしい事を口走るんだ、この子は!?』
「きゃふん!?」(伝説のリアル2次元嫁!?)
『ダメだ!あの話はしちゃいけない!』
「さ…さてと…もう行こうかな」
「ロウ、大丈夫かい?声が震えているよ?」
「食事も少ししか食べてないではないですか?」
「ダメ!兄様!」
「まだ準備出来てないです」
「あゝ大丈夫ですよ父上、問題ありませんよ母上
僕は準備万端だよカミーユ?」
少し落ち着いた
「だよね、アイリス?」
「はい、勿論でございます」
アイリスが反対側の扉に目をやると、メイド達が大荷物を抱えて入ってきた
「アイリス、これは?」
「はい、奥様方、こちらはロドニー様、カミーユ様、ロジャー様、マリー様の旅支度でございます
昨晩の内に預かっておりました」
「「なんですって!?」」
4人が項垂れる
「ロドニー、カミーユ、どういうことですか!」
「ロジャーとマリーも!」
「ハハハ、まぁ良いじゃないか
それだけロウと離れ難いのさ、ねぇそうなんだろう?みんな?」
「ゔ……だっで……」
「あ゛に゛さ゛ま゛ぁぁ……」
「ぐぅ……」
「………」
「ふう…しょうがないなぁ
君達には、あるモノを置いていくから
そんなに泣くな
僕が旅立った後に、僕の部屋に行ってみてごらん?
ただし、修練を頑張らないと使えないモノだから
僕が帰省するまでに頑張って使えるようになってね
さ、僕は馬車に行きます」
「うん、見送ろう」
「ロウ様、馬車はフワックさん達が表のテラスへ廻しておりますよ
それに、ハンプティさんも夜明け前から来ております」
「あ、そうなんだ?教えてくれてありがとうアイリス」
玄関から出ると、馬車の、と言うよりヴァイパーの前で呆けてるハンプティと獣人の手代が居た
「どうしたの?ハンプティ?」
「はっ!?あ、おはようございますロウ様、見送りに参りました…が…
これはこれは、立派な曳き馬?魔獣?ですなぁ」
「あゝヴァイパーのことね、僕の従魔のヴァイパーだよ
おはようヴァイパー」
「ヒヒン!」
「従魔!?従魔でしたか!ロウ様の…
いや~素晴らしい!!素晴らしいですな!!!
ますます感服致しました!」
「そんなに⁉︎
でも、ヴァイパーを褒めてくれてありがとう
わざわざ夜明け前からの見送りもね、ありがとう」
「いえいえ、とんでも御座いません
こちらの手代の顔繋ぎもありましたので
では紹介致します、辺境領へ行っている間の連絡員となりますポロでございます」
「ロウ様、狼系獣人のポロです宜しくお見知り置き下さい
数人の仲間との集団行動を得意としております
仲間は既に道中の要所に配置させました
何かありましたら御用命下さい」
と、ポロが片膝を付く
「あ、そんなに畏まらないで、普通で良いよ
うん、心強いね、宜しくお願いしますね」
「ハッ!」
「じゃあ、皆さん、長々と話してもナンだから出発しようと思います
リズ、ミア、フワック達、大丈夫かな?」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
馬車の下に手を入れて魔力を流すと、馬車が浮き上がる
「「う、浮いた!?」」
ハンプティとポロが目を丸くする
『あぁハンプティには教えてなかったな』
「フワック!騎乗!」
「「「「「ハッ!」」」」」
「リズとミアは馭者台で僕の両隣りに」
「「はい」」
「では父上、母上、行って参ります!
ロドニー、カミーユ、ロジャー、マリー、修練と勉強を頑張って!
早く寝間着を着替えなさい、ふふふ…」
「気を付けて行きなさい」
「身体に気を付けて」「御祖父様に宜しく伝えて下さいね」「御祖母様にも」
「兄様ぁ…」「修練頑張ります…」「お手紙を下さい…」「お手紙を沢山書きます…」
「出発!ヴァイパーお願いね」
「ヒヒィィン!」
一際甲高く嗎き、石畳に馬蹄の音が響き
馬車は門から街路へと出ていった
「ではポロ、情報は逐一報告しなさい
どんな些細な情報でも構わない、いいね」
「は、お任せ下さい」
「ハンプティ、私にも情報を廻してくれないかな?
ちゃんと買うよ」
「はい、勿論で御座いますロマン様
しかし、やはり親子なんですなぁ
お金の使い方がわかっていらっしゃる」
「自慢の息子だからね、こんなところでケチってはロウに笑われてしまうよ」
「流石で御座いますなぁ…
では、少々お時間を頂戴出来ますか?
御耳に入れたい事が御座います」
「うん、じゃあ応接室に行こうか」
「はい」
ロウ達一行は、先頭にフワック
その後ろにライザーとスー
馬車の後ろにトロリーとオムルという隊列で東街区の街路を進む
およそ2時間ほどで外壁の大門に到着した
「は~、初めてココまで来たけど、やっぱり広いねぇ」
「そうですね、そしてココからは壁外の街が広がります」
「完全に皇都から出るのは、ここまでと同じくらいの時間がかかりますね」
「本当に広いな!?」
「コロージュン公爵家が馬車である!
大門を罷り通る!」
フワックが大門傍の老衛兵に向かって叫ぶと、槍を持った衛兵達がペコペコ頭を下げるのが見えた




